このD.I.C.E.サミットを主催するのは,6年前ポール・プロヴェンザノ(Paul Provenzano)氏によって設立された,"The
Academy of Interactive Arts & Sciences"(AIAS)というNPO法人。"オスカー賞"で有名な映画協会"The
Academy of Motion Pictures Arts & Sciences"(AMPAS)を下敷きにしているようで,AIASのアカデミー会員となれるのは,実際に現場でゲームを開発している人達のみ。しかも正式メンバーとなるには,ほかのメンバーから推薦されなければならないという閉鎖性(というかソサエティという仲間意識)である。ここが,毎年3月に開催される"Game
Developers Conference"を主催者する,経営者やプレスなどゲーム業界全般を対象にした"International Game
Developers Associations"(IGDA)と大きく異なる部分であろう。
そのため,D.I.C.E.サミットへの参加者は約150人と小規模なのだが,そのメンツがとにかく凄い。エレベーターでブルース・シェリー(Bruce
Shelly:代表作「Age of Mythology」)氏と同乗したかと思えば,会場前では「Grand Theft Auto」の一団とエド・フリーズ(Ed
Fries:マイクロソフト)氏が談笑しており,トイレに入るとクリス・ブレゼンスキー(Chris Breszenski:代表作「Unreal Tournament
2003」)氏が並んでいる。レストランには鈴木裕(セガ)氏が座っており,通路ではブラッド・マッケイド(Brad McQuaid:代表作「EverQuest」)氏とラフ・コスター(Raph
Coster:代表作「Star Wars Galaxies」)氏が談笑。マーク・サーニー(Mark Cerny:代表作「クラッシュ・バンデクー」)氏がコーヒーを飲んでいる横の受付に,宮本茂(任天堂)氏が入ってくる……。そんな,会社やプラットフォームの垣根を越えた,業界のリーダー達の集まりなのである。
さて,初日に行われた講義は,以下のような内容となっている。
■「Emerging from the Stone Age」
(石器時代からの脱出)
by David Jones(DMA Designs)
DMA Designs社を設立し,「レミングス」や「Grand Theft Auto」の開発に携わったデイビッド・ジョーンズ氏による講演。
現在のゲームデザイナーやプログラマーが,いかに20年来のゲーム制作手法に固執しているかを説明し,そこから脱出して新しいゲームの開発形態を生み出すべきだと提唱した。
■「Designing RPGs for the Mass Market」
(マスマーケットへ向けたRPGのデザイン法)
by Chris Taylor(Gas Powered Games)
マイクロソフトから発売された「Dungeon Siege」開発の舞台裏を説明しながら,プロジェクトリーダーとして何を選択し,何を切り捨てたのかを詳しく解説。
実は自身の作品も"マスマーケット"を対象にしていなかったというオチが付くのだが,難度が高ければメインストリームが付いて来ず,簡単過ぎてもコア層に見放されてしまうという開発現場の苦悩を,独特のコミカルタッチで語った。
■「Weapons of Mass Distruction − America's
Army」
(大量破壊兵器 − America's Army)
by Michael Zyda(MOVES Institute)
2002年7月に約8億円を投じて国防省が制作した,あの「America's Army」の開発の経緯について,制作の中心になったマイケル・ザイダ博士が講演した。
税金でゲームを作るという発想は驚きだが,実はアメリカ陸軍では毎年約250億円もの予算でテレビ広告などを行いながら,その成果は約12万人(つまり,一人あたり2千万円)に留まっていること,しかもその20%が訓練段階で除隊していくことを説明し,その訓練内容をゲームで体験してもらうのが制作意図だったと明らかにした。
■「No, You're Wrong」
(いや,君達は間違っている)
by Seamus Blackley
Xboxの仕掛け人で,今はCapitol
Entertainment Groupを率いるシェーマス・ブラックリー氏の講演内容は,「なぜ既存のビジネス体系が崩壊しているのか」という,古巣のマイクロソフトを含めた販売会社に向けた提言だ。
とくに,アメリカの販売会社の発言力の高さを批判しながら,「開発者達は消費者に向けてゲームを作っているということを忘れてはいけない」と力説した。ちなみに,彼の元ボスでマイクロソフトのゲーム部門を統括するエド・フリーズ氏も公聴していた。
■「An Audience with the Masters 」
(マスター達との公聴)
by 鈴木裕/宮本茂
セガの鈴木裕氏と任天堂の宮本茂氏が膝を交え,会場から事前に集めた質問に答えていくという,日本でも滅多にないような公聴会。
宮本氏は,アメリカでのこのような業界団体のイベントにかなりの頻度で登場しているが,それも彼が"どれだけ欧米で神格化されているか"ということを物語っている。実際アメリカのデザイナー達も,ここぞとばかりに聞き入っていた。
鈴木氏と宮本氏は,デザイナーとして考慮すべきことを,自社の開発風景や自身の体験を交えながら説明した。
■「Lessons of Going Online」
(オンラインゲームの開発で学んだこと)
by Raph Koster (SOE),Brad McQuiad (Sigil Games Online),Rick Vogel (SOE),Will
Wright (Maxis)
オンラインゲームの明日を担う「Star Wars Galaxies」「EverQuest」「The Sims Online」などの開発リーダー4人がパネリストとなり,オンラインゲームの開発で考慮すべき点やジャンルの未来について,熱い対談が繰り広げられた。
全員の意見が一致していたのが,オンラインゲームはまだまだ"ニッチ(隙間)の市場"であるということと,アカウント保有者との付き合い方の難しさ。オンラインゲームは技術的にも運営手段的にも開発途上のようで,この手の会合では必ず出てくるトピックである。
第6回インタラクティブ・アチーブメント賞 その勝者は!?
D.I.C.E.サミットは今年で2回めに過ぎないが,実はAIASは創設から7年めを数える。そして6回めを迎える「インタラクティブ・アチーブメント賞」は,AIASメンバーがその1年の優秀作品を選出する,ゲーム業界のアカデミー賞ともいえる栄誉ある賞である。昨年(2002年)にD.I.C.E.サミットが始まったのを機に,この賞の授賞式もラスベガスで華々しく行われるようになった。
何が凄いかって,この授賞式にはハリウッドから有名な女優やコメディアン,アスリート達が参加し,さらには売り出し中のバンドの演奏まであることだ。
今回だと進行役には「Tonight's Show」のデイブ・フォーリーが選ばれ,「オースティン・パワーズ」のニーナ・カクゾロウスキーや「X-MEN2」のケリー・フーらの女優,「モトリー・クルー」のヴィンス・ニール,「モトクロス」のマイク・メッツガーらがプレゼンターとして登場した。当然テレビカメラも入っており,サミットのオフィシャルスポンサーであるG4社がケーブルテレビ用の撮影を行っていた。
2002年の「ゲームの殿堂」(Hall of Fame)に選ばれたのはセガの鈴木裕氏で,常に最新技術とゲームとして一級のデザインを融合させてきた功績が評価された。鈴木氏は「この学会名でもある"Arts
& Sciences"こそが私の目指してきたことなので,この殿堂入りは最高の栄誉です」と話し,会場からスタンディング・オベーションを受けていた。
ちなみに彼は,宮本茂氏,坂口博信氏,ウィル・ライト氏に並ぶ,4人めの殿堂入りとなる。
PCゲーム関係の受賞作は以下の通りだ。また,括弧内は惜しくも受賞を逃したノミネート作品である。
・Action/Adventure Game of the Year
「Grand Theft Auto 3」
by RockStar Games & RockStar North
(「Star Wars Jedi Knight 2」/「Syberia/The Thing」)
・First Person Action Game of the Year
「Medal of Honor:Allied Assault」
by Electronic Arts & 2015
(「No One Lives Forever 2」/「America's Army」)
・Role Playing Game of the Year
「Neverwinter Nights」
by Infogrames/BioWare
(「Dungeon Siege」/「The Elder Scroll 3:Morrowind」/「Arx Fatalis」/「Freedom Force」)
・Sports Game of the Year
「Madden NFL 2003」
by Electronic Arts & EA Tiburon
(「Tiger Woods PGA Tour 2003」/「Links 2003」/「High Heat Major League Baseball 2003」/「
NBA Live 2003」)
・Simulation Game of the Year
「The Sim Unleashed」
by Electronic Arts & Maxis
(「MechWarrior 4:Mercenaries」/「Combat Flight Simulator 3」/「The Aurora Neverwinter
Toolset」)
・Strategy Game of the Year
「WarcraftIII:Reign of Chaos」
by Blizzard Entertainment
(「Age of Mythology」/「Medieval:Total War」)
・Online Gameplay of the Year
「Battlefield 1942」
by Electronic Arts & Digital Illusions
(「Twisted Metal:Black Online」(PS2)/「Command & Conquer:Ranegade」)
・Massive Multiplayer/Persistent World Game of the Year
「The Sim Online」
by Electronic Arts & Maxis
(「Asheron's Call 2:Fallen Kings」/「Disney's ToonTown Online」/「Dark Age of Camelot:The
Shorouded Isles」/「Anarchy Online:The Notum Wars」)
・Innovation in Computer Gaming
「Battlefield 1942」
by Electronic Arts & Digital Illusions
(「Dungeon Siege」/「Grand Theft Auto 3」/「Medal of Honor:Allied Assault」/「Neverwinter
Nights」/「WarcraftIII:Reign of Chaos」)
・Computer Game of the Year
「Battlefield 1942」
by Electronic Arts & Digital Illusions
(「Age of Mythology」/「Medal of Honor:Allied Assault」/「Neverwinter Nights」/「WarcraftIII:Reign
of Chaos」)
今年1年の快進撃を示すかのように,全体的にElectronic
Arts社の作品の受賞が目立った。
また,授賞式のトリにはプロスケーターのトニー・ホークと,奇妙な演奏家集団ブルーマン・グループによって2002年の最高作品が発表されたが,本命とされていたNINTENDO
GAMECUBEの「Animal Crossing」(動物の森)や「Metroid Prime」を押しのけて,PCゲームの「Battlefield 1942」が受賞した。
スウェーデンを本拠地とするDigital Illusions社から3人の開発者達が参加していたが,この受賞には声も出ないほどの感激ようだった。
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