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Access Accepted第591回:Googleのクラウドゲーミング参入はゲーム業界に変革をもたらすか
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印刷2018/10/29 12:00

業界動向

Access Accepted第591回:Googleのクラウドゲーミング参入はゲーム業界に変革をもたらすか

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 GoogleがUbisoft Entertainmentと提携して,「アサシン クリード オデッセイ」を使ったクラウドゲーミングの実験「Project Stream」を行っている。筆者もテストに参加しているのだが,今のところ大きなラグが発生することもなく,旧式のノートPCでも快適にプレイできている。新世代コンシューマ機の足音も聞こえてくるが,クラウドゲーミングはそれにも影響を及ぼすほどの進化を遂げつつあるようだ。


「Project Stream」に見るクラウドゲーミングの進化


 Googleが,「ストリーミング技術の限界を推し進める」(Pushing the limits of streaming technology)というタイトルのエントリーを公式ブログに掲載したのは,2018年10月1日のことだった(関連記事)。内容は,GoogleがUbisoft Entertainmentと提携し,数日後に発売される予定の「アサシン クリード オデッセイ」を使った「Project Stream」の実験を,アメリカ国内を対象に行うというものだった。テストに参加した人は,「アサシン クリード オデッセイ」を3か月間,無料でプレイできるという。

Googleがテスト中の「Project Stream」は,以前から名前が知られていた「Project Yeti」という技術の延長線上にあるようだ
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 発表と同時に応募した筆者の場合,1週間ほどで当選通知が届いたのだが,しばらくは忙しくてプレイできず,先週末にようやくアクセスした。そのため,現時点ではそれほど長くプレイしていないのだが「Project Stream」に対する筆者のインプレッションは非常に良好だ。

 Project Streamはストリーミングの新技術で,これによりクラウドゲーミングを可能にする。クラウドゲーミングについては,2011年11月21日に掲載した本連載の第325回「クラウドゲーミング時代の到来」でも詳しく紹介しているので,参照してほしい。それほど歴史は古くなく,2006年頃にIT業界で使われ始めた「クラウドコンピューティング」という概念をゲームに持ち込んだものといえる。

 プレイヤーがキーボードやコントローラを操作すると,それがサーバーに送られて実際の処理が行われ,結果がプレイヤーの画面にストリーミング配信される。これがクラウドゲーミングだ。データ圧縮技術や通信速度,サーバーの処理速度などの向上によって実現されたもので,1秒間に数百回のデータを高速でやりとりすることで,プレイヤーはそのゲームをインストールすることなく,専用アプリやブラウザでプレイできる。
 現在,「Project Stream」では,Google Chromeで1080p解像度の「アサシン クリード オデッセイ」を楽しむことが可能だ。

ブラウザの専用ページにアクセスするたびに,ダウンロード速度がチェックされる。家庭内Wi‐Fiを使うと「接続が良くありません」と表示されることもあるが,PCのスペックでダメ出しされることはない
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 PC版「アサシン クリード オデッセイ」のグラフィックスチップは,最低環境でもRadeon R9 285またはGeForce GTX 660となっている。だが「Project Stream」の場合,ゲームをプレイするPCのハードウェアは不問で,1080p以上のディスプレイと25Mbps以上のインターネット環境があれば良い。

 筆者のネット環境を実測したところ260Mbpsだったので,この点では問題ない。グラフィックスは,送られてきた圧縮データを復元する際の影響と思われる「にじみ」のようなものが,とくに地表や植物の描写で顕著だ。HDRやアンチエイリアスなどのグラフィックス処理はすべてサーバー側で行われるので,どんなPCを持っていようと,画面の見た目の違いはないだろう。
 もちろんPCだけでなく,ChromeがインストールしてあればMacやLinuxでもプレイできるし,入力はキーボードとXbox Oneコントローラ,そしてDUALSHOCK 4に対応している。

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圧縮されたデータをリアルタイムで解凍するためか,グラフィックスに「にじみ」のようなものが感じられるが,サーバー側のグラフィックスオプションは,すべて最高になっているはずだ。クライアント側では,明度調整のみが可能だった
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 試しに筆者の妻がときどき使っている,IntelのHD4400を搭載した古いノートPCを持ちだして,「Project Stream」にアクセスしてみた。本来なら「アサシン クリード オデッセイ」のような最新ゲームをプレイすることなどできないスペックにもかかわらず,ちゃんと遊べるばかりか,PCが発熱してファンがけたたましく作動するといったことも起きない。家庭内Wi‐Fiを使うと通信速度が20Mbpsほどに低下してしまうことがあり,例の「にじみ」がひどくなったりラグが発生したりはするのだが,なんともシュールな体験であった。


次世代コンシューマ機市場は,クラウドゲーミングが主流になる?


 2009年頃に「次世代のゲーム」として本格的に始動したクラウドゲーミング。アメリカでは「OnLive」「Gaikai」といったサービスが誕生したものの,結果として利用者数はあまり伸びなかった。
 そのうち,「第8世代コンシューマ機」とも呼ばれるPlayStation 4やXbox One,そしてNintendo Switchなどが次々に市場に投入されはじめ,豪華なグラフィックスと高い性能に業界やゲーマーの関心が移り,クラウドゲーミングへの注目は薄れていった。

 しかし,プラットフォームホルダーは依然としてクラウドゲーミングに注目しているようだ。とくに,早い段階から関心を寄せていたSony Interactive Entertainmentは2012年7月にGaikaiを買収し,またPlayStation Networkのクラウドサービス「PlayStation Now」を2015年に立ち上げた。さらに,2015年4月にOnLiveを買収したSIEは,クラウドゲーミング市場の最大手になっている(関連記事)。
 ブラウザベースのGaikaiと,ハードウェアベースのOnLive,どちらのIPも手にしているだけに,その技術が第9世代のコンシューマ機に活用される未来も十分に考えられる。

割と新しめなタイトルが650本以上用意されている「PlayStation Now」は,Sony Interactive EntertainmentのPlayStation戦略において,今後さらに重要な意味を持っていきそうだ
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 現在,「PlayStation Now」には650以上の(日本では300ほど)のタイトルが存在し,週または月額制が採用されている。1か月2500円を支払えば,「どのタイトルをどれだけプレイしてもいい」と,利用者には非常にメリットの高いシステムで,さらに専用アプリをダウンロードすれば,これらのタイトルをPCでプレイすることもできるというから嬉しい。

 クラウドゲーミングに対しては,Microsoftも意欲的な動きを見せている。「Azure Cloud Server」というサーバー技術をすでに保有するMicrosoftは2017年,勤続20年のベテラン社員のカリーム・チョードリー(Kareem Choudhry)氏をリーダーにした「Gaming Cloud」部門を設立した。
 2018年にリリースされた「Sea of Thieves」の物理表現などがクラウドサーバーで処理されていることはよく知られているが,「Gaming Cloud」は,こうしたクラウド技術のサードパーティへのさらなる普及を目的にしているだけではなく,10月初めには,Xboxタイトルをスマートデバイスでもプレイできるという「Project xCloud」の実験開始をアナウンスしている。

 北米メディアの「The Verge」が2017年11月7日に掲載した記事によれば,MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラ(Satya Nadella)氏が,「3年後には,Xbox向けのメジャータイトルはストリーミングでサービスされている。ハードウェアはまだ重要かもしれないが,どこからでもゲームにアクセスできるというビジョンを持っている」と述べている。

以前からUniversal Windows Platformという戦略(関連記事)を推進してきたMicrosoftだが,Xbox Liveを核にしたPCとのサービス統合は著しく,「Xbox Game Pass」のPCへの提供も視野に入っている
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 クラウドゲーミングではないものの,Microsoftは「Xbox Game Pass」という,1か月9.99ドルで100タイトル以上を自由にプレイできるサービスを展開しており,最近の投資家向けカンファレンスでナデラ氏は,このサービスを今後,PCでも展開すると話している。多くの部分でXboxとPCを接近させているMicrosoftだが,プラットフォームを超えたサービスはクラウドゲーミングを見すえたもので,PlayStation Nowと軌を一にしていると思われる。

Googleが持つデータセンターの1つ。グラフィックスや物理演算の処理をスーパーコンピュータ並のサーバーで行うことが普通になれば,現在では考えられないほどリアルなゲームが作られるかもしれない
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 ナデラ氏の語った「3年後」は2020年だが,新型XboxやPlayStationの話題でゲーム市場が大騒ぎしていてもおかしくない頃ではある。クラウドゲーミングの「月額課金でよりどりみどり」というビジネスモデルは,現在のPCゲームのメインストリームである「Steam」などとはまったく異なるもので,パワーバランスを大きく変動させる可能性がある。
 ここに「Project Stream」を擁するGoogleがどのように絡んでくるのか,今のところは不明だが,高画質のゲームがブラウザでプレイできることは,モバイルゲーム市場にも変革をもたらすかもしれない。次世代コンシューマ機市場が“完全に”クラウドゲーミングに移行することは考えにくいが,その影響を大きく受けることは間違いないだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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