業界動向
Access Accepted第498回:「Call of Duty: Infinite Warfare」のトレイラー炎上に見る,ゲーマーの求めるもの
Activisionが制作発表を行った「Call of Duty: Infinite Warfare」が,これまでなかったようなレベルで欧米ゲーマーの不評を買っている。現在までにシリーズ累計で2億本近くのセールスを記録したといわれるモンスターブランドなのに,いったい何が起こっているのだろうか? 今週は,そんな「Call of Duty」シリーズの歴史を簡単に振り返りつつ,その裏にある炎上の理由を考えてみたい。
大人気シリーズ最新作のトレイラーが炎上
ゴールデンウィーク真っ最中の2016年5月2日,北米のパブリッシャであるActivisionが,「Call of Duty」シリーズの最新作「Call of Duty: Infinite Warfare」の制作を発表した(関連記事)。3チーム体制で毎年新作をリリースする「Call of Duty」シリーズだが,同作の制作を担当するのは,シリーズ第1作を作ったInfinity Wardだ。ただし,5月2日の発表ではトレイラーとわずかな情報が公開されたのみで,詳細は6月に開催されるE3 2016に持ち越されることになっている。
とはいえ,ActivisionはE3会場にブースを設置する予定がないので,ネットで情報が公開されたり,Sony Interactive Entertainmentなどのプラットフォームホルダーのブースで展示が行われたりすることが見込まれている。欧米でのリリースは,11月4日になる。
「Call of Duty」シリーズ公式サイト
ここまでは従来どおりだが,今回,そのトレイラーが公開されるや否や,新作に対する欧米ゲーマーの批判が噴出してしまった。5月10日に掲載した記事でお伝えしたように,トレイラーはYouTubeが自動的にリストアップする「Most Disliked YouTube Videos」(最も不評だったビデオ)のトップ100にランクインし,本稿執筆時点では,ジャスティン・ビーバーさんの「ベイビー」にはさすがに及ばないものの,それに次ぐ2位の座は射程圏内に入っている。
ActivisionのCEOであるエリック・ハーシュバーグ(Eric Hirshberg)氏の「炎上するのもゲーマー達の注目度が高いから」という楽観的な見方も間違いではないだろうし,この騒ぎを面白がって“Dislike”をクリックする人も少なくないはずだが,それでも200万に達しようかという「低い評価」を軽視するわけにはいかないだろう。
また,「Call of Duty」のゲームエンジンとしてid Softwareの「id Tech 3」が採用されているが,臨場感の高い戦場を再現するため,独自のアニメーションシステムなどが追加実装されている。
話はちょっとそれるが,3Dグラフィックスが本格的にゲームに使用され始めてから10年もたたない2000年代初頭,ミリタリーゲームに映画「プライベート・ライアン」(1998年)が与えた影響は非常に大きい。当時のゲームシーンを知っている古参ゲーマーなら,「猫も杓子も」という形容がピッタリくるほど多くのアクションゲームが,映画のようなノルマンディ上陸の場面や,ラメールの戦いを描こうとしていたことを記憶しているはずだ。
「Call of Duty」も例外ではなく,映画にインスパイアされたらしき場面が数多く出てくるし,2005年にリリースされた続編「Call of Duty 2」にはノルマンディ上陸のミッションが登場する。そうした部分が当時のプレイヤーにアピールしたことは間違いないだろう。
そんなInfinity Wardは,「Call of Duty」発売の年にActivisionに買収されている。パブリッシャの意向で続編の「Call of Duty 2」はPC版だけでなくコンシューマ版も発売されたが,市場の反応が非常に良かったため,Treyarchが2006年に制作した「Call of Duty 3」は,PlayStation 3版とXbox 360版のみがリリースされることになった。当然,PCゲーマーの強い反発を買ったが,この段階でシリーズはコンシューマ機市場に大きく舵を切り,それが成功の1つの要因になった。
Call of Dutyシリーズは,戦争ではなくSFモノ?
「Call of Duty」シリーズが,初めて未来に足を踏み入れたのは,Infinity Wardが2007年に制作した「Call of Duty 4: Modern Warfare」でのことだ。「Call of Duty: Infinite Warfare」にリマスター版が同梱される予定の同作は,ロシアの過激な国家主義者が西側に対して戦いを仕掛けた2011年という“近未来”が背景になっている。
マルチプレイに「キルストリーク」という,現在でも人気のシステムが導入されるなど,シリーズの人気を決定づけた作品だ。
2008年にTreyarchが作った「Call of Duty: World at War」では第二次世界大戦に戻ったものの,2009年の「Call of Duty: Modern Warfare 2」や,「Call of Duty: Black Ops II」以降のBlack Opsシリーズ,そして「Call of Duty: Ghosts」「Call of Duty: Advanced Warfare」など,メインストリームに限って言えば,第二次世界大戦よりも未来の戦いをテーマにした作品のほうが多いのが事実だ。
ちなみに,「Call of Duty: Modern Warfare 2」に使われたのは「IW Engine 4.0」というゲームエンジンだった。“IW Engine”という名称は同作で初めて登場しており,「Call of Duty: Infinite Warfare」に使用されているのは最新の「IW Engine 7.0」になるが,元をたどれば「id Tech 3」だ。改良を重ねた結果,ジョン・カーマック氏(John Carmack)氏の書いたオリジナルコードはほとんど残っていないかもしれないが,「Call of Duty」シリーズは現在まで一貫してid Softwareの正式ライセンスを受けたタイトルなのだ。
「Call of Duty」シリーズは,世界累計で1億9000万本のセールスを記録したという。その中でも最大のヒットとなったのが,2012年の「Call of Duty: Black Ops II」の2900万本で,ゲーマーの評価が最も高いとされる「Call of Duty 4: Modern Warfare」の倍近い数字を叩き出した。2015年にリリースされた「Call of Duty: Black Ops III」も2300万本のヒットとなっており,Activisionにとって安定した利益をもたらす優良ブランドに成長した。
Xbox 360の全盛期には,4800万アカウントを誇るXbox Liveのユーザーの約半数が「Call of Duty」シリーズのオンライン対戦に日常的にアクセスしており,そのシェアは圧倒的だった。トーナメントの種目としても定着しており,プレイヤーの数が膨大であるため,いつアクセスしても自分のレベルに合った対戦相手を見つけられるという安定性も,1つの魅力になっている。
その一方,「テーマを現代や第二次世界大戦に戻してほしい」という声も「Call of Duty: Black Ops II」あたりで聞こえてはいたが,上記のように同作はシリーズ最大のヒットとなり,パブリッシャもデベロッパも自分達の方向性に自信を深めたはずだ。
なお,上記のザンペラ氏は2010年に仲間と共にInfinity Wardを離れ,Respawn Entertainmentを立ち上げている。同社が最初に制作した「Titanfall」はやはりSFがテーマになっており,「Call of Duty」を開発したオリジナルメンバーがSFタイトルを作りたかったというのは、おそらく間違いないだろう。
いったい,何がゲーマーの不評を買ったのか?
「Call of Duty」シリーズのルーツがSFにあるのなら,どうして「Call of Duty: Infinite Warfare」のトレイラーは炎上してしまったのだろうか。
発表に際してTwichで配信されたライブストリーミングには次々とネガティブなコメントが並び,YouTubeでは早くも5月4日には「不評」が「好評」を上回り,さらに5日にはTwitterで#RIPCODのハッシュタグがトレンド入りしている。RIPとは「Rest in Peace」(安らかに眠れ)の略で,シリーズの終わりを告げる作品になるという意味合いを持つ。
さらに6日には,Electronic Artsが「バトルフィールド 1」の制作をアナウンスする。同作のテーマは,大方の予想をいい意味で裏切る「第一次世界大戦」であり,ゲーマーの話題を大きく集めることになった。古い白黒映像や写真でしか知らない100年前の戦争が,最新の「Frostbite」 エンジンで再現されると聞いて,興味を持たないFPSファンはいないだろう。
以上の経緯を見る限り,今回の出来事は,背景を過去に戻してほしいという一部のファンが求めていた要望がまたしても聞き入れられず,その反発がYouTubeのムービーへの低評価という形で現れ,それがネットで拡散し,さらに「バトルフィールド1」の存在が拍車をかけたという,ある意味,ありがちな流れであるようだ。確かにマンネリ感はあるが,上記のように「Call of Duty」シリーズは初期の数作を除いて,だいたい近未来かSF的世界を背景にしており,最新作に描かれる宇宙空間の戦いに,歓迎の声をあげるファンも実際にはいる。
トレイラーに対する200万にも及ぶ「不評」が,「Call of Duty」の大多数のファンの気持ちなのか,あるいはノイジーマイノリティ(声の大きい少数派)の主張であるのか。それは,「Call of Duty: Infinite Warfare」がリリースされたときに明らかになるはずだ。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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