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Access Accepted第489回:2016年のリリースを取りやめた,「アサシン クリード」という大きなフランチャイズ
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「アサシン クリード」シリーズの最新作が,2016年にはリリースされないことがUbisoft Entertainmentから発表された。メディアなどからは,バグの問題やストーリーのマンネリ化などが理由として指摘されているが,今回の決定の背後に販売本数の不振があり,長く続くシリーズが疲弊していたことは間違いない。今週は,そんな「アサシン クリード」の歴史を振り返りつつ,再起を期すUbisoft Entertainmentが立ち向かう問題点などを,シリーズのファンとして考えたい。
シリーズの疲労感が見えていた「アサシン クリード」
2016年2月12日に掲載した記事でお伝えしたように,Ubisoft Entertainmentは,これまで毎年発売されてきた「アサシン クリード」の新作を,2016年にはリリースしないと発表した。多くのファンが残念に思う一方,「仕方がない」と受けとめているゲーマーも少なくないという。
「アサシン クリード」シリーズは,第3回十字軍の時代から1000年にわたって続く,アサシン教団とテンプル騎士団による秘宝を巡る暗闘を描く三人称視点のアクションゲームだ。
2007年,彗星のように第1作が登場してヒット作となり,以来,最新作や拡張パック,外伝が毎年リリースされる,Ubisoftの看板シリーズになった。
歴史上の人物や現在も残る史跡が数多く登場するなど,“歴史を遊び場にする”というコンセプトがゲーマーに称賛され,現在までにシリーズ総計で7300万本以上のセールスを記録したという。パッケージ以外にも,Ubisoftのオンライン配信システム「UPlay」を使ったデジタルダウンロードが行われているので,実際のセールスはさらに大きいだろう。
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「アサシン クリード」シリーズの最新作をリリースしない理由としてUbisoftは,「開発プロセスを見直し,より品質の高いフランチャイズにするため」としている。2015年に発売された「アサシン クリード シンジケート」の販売実績が低調であったことを挙げるメディアも多く,この決断はおそらく,“顔面破壊”などのバグ問題(関連記事)が批判された前々作,「アサシン クリード ユニティ」(2014年)の延長線上にあるはずだ。アナウンスでも「ユニティのリリース以降,ファンのフィードバックから多くのことを学んだ」と述べられている。
実際,「アサシン クリード ユニティ」のセールスは1000万本に達しておらず,「アサシン クリード シンジケート」ではそれをさらに下回った。北米のリサーチ会社,NPD Groupが発表する「年間販売トップ10タイトル」からは,この2年間遠ざかっており,PlayStation 4/Xbox One時代への移行はうまくいっていない。
アサシン クリードの隆盛を振り返る
2007年のシリーズ第1作「アサシン クリード」は,パルクール(フリーランニング)をベースにした,流れるようなキャラクターのモーションや,無数のNPCをかき分けて進んでいくAI処理,そしてグラフィックスの見事さでスマッシュヒットになった。Ubisoftとしては,2008年にリリースされた「Prince of Persia」で使う予定だったゲームシステムの“概念実証”と言えるテスト作品として開発を進めたという話もあるが,斬新な時代背景や設定,オープンワールド,ステルス要素などがうまくマッチし,メディアの事前評価とは裏腹に,発売から半年後には約800万本という大ヒットを記録している。
2年後の2009年に発売された「アサシン クリード II」は,続編に対するファンの期待を裏切ることのない作品としてヒットし,これ以降,続編が毎年リリースされるようになる。「アサシン クリード ブラザーフッド」と「アサシン クリード リベレーションズ」は,同じアセットを使い回し,完全新作である「アサシン クリード III」までのつなぎ的な側面もあったが,これら「ルネサンス三部作」のセールスは非常に大きく,この段階でフランチャイズとしての地位を確立したといえる。
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「ルネッサンス三部作」に続く「アサシン クリード III」以降の3作品で,シリーズは絶頂期を迎える。新たなゲームエンジン「AnvilNext」のデビュー作となった「アサシン クリード III」では,Ubisoft史上最大規模のプロモーションが行われ,その結果,シリーズ最多の予約本数を記録。発売の4か月後には,1200万本のセールスを記録したことが発表されている。
また,「アサシン クリード IV: ブラックフラッグ」は,多弁な主人公や海戦という目新しいゲームシステムで高い評価を受け,発売後6か月で1100万本を売り上げるヒット作になった。
その一方,「アサシン クリードIII」はバグも多く,この頃から“毎年のリリース”に対する批判も聞こえるようになっていた。同作は,開発本部となるUbisoft Montrealのスタッフ約500人を中心に,マルチプレイモードを受け持つUbisoft Annecyや,海戦モードを重点的に開発したUbisoft Singaporeなど,何百人もの開発者達が24時間体制で作業に従事するという体制が組まれていたが,ゲームの規模が大きくなったことから,バグフィックスが十分ではなかったようだ。
しかし,これほどのスタッフをもってしても,毎年「アサシン クリード」の新作をリリースするのは難事業であり,開発現場が常に極限状態にあることはよく知られている。新作のたびに加えられる新要素も多く,それを考えると,開発者達が受けるプレッシャーも計り知れない。
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バグの問題だけでなく,“真の主人公”とも呼べるデスモンドの「現代編」が,「アサシンクリードIII」で完結してしまっているため,プレイヤーの物語に対する興味が,それ以降の作品では薄れてしまったこともあるだろう。また,「アサシン クリード III」に続く「アサシン クリード IV: ブラックフラッグ」では,背景となる時代が過去に遡っており,そのことがプレイヤーに混乱を与え,アサシン教団とテンプル騎士団の対立という話の焦点がブレる結果にもつながった。
Ubisoftは“リスクテイカー”だからこそ期待できる
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欧米の大手ゲームメーカーの中でも,Ubisoftほど挑戦的なパブリッシャは少ない。「Child of Light」(2014年)や「Valiant Hearts: The Great War」(2015年)など,小粒ながらもメッセージ性やアート性の高い作品を,社内インディーズとでも呼べるような体制で制作したし,また,「アサシン クリード」シリーズの「AnvilNext」を始め,「Watch_Dog」の「Disrupt」や「ファークライ4」の「Dunia Engine 2」,そして「ディビジョン」の「Snowdrop Engine」など,ゲームごとに最適なエンジンをわざわざ開発するなど,不経済とも思える体制を貫くことでタイトルの独自性を重視している。
「アサシン クリード」の新作が2017年,もしくはそれ以降にリリースされるのかは分からないが,UbisoftのCEOであるイヴ・ギルモ(Yves Guillemot)氏は,海外メディアGamesIndustry.bizのインタビューに答えて「(次回作の発売後の)目標は,これまでのようにシリーズ化していくことですが,新作を毎年リリースすることではありません」という方針を述べている。
たとえ毎年ではなくとも,例えばRockstar Gamesの「グランド・セフト・オート」シリーズのように長く続くゲームは少なくないし,「アサシン クリード」のプレイスタイルを考えると,ゲームの自由度をさらに高くして,1年以上も楽しめるようにしたほうが,ゲームにマッチしているようにも思える。
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Ubisoftは,それほどのヒットとは言えなかった「ファークライ」シリーズを根気よく続け,「ファークライ 4」で高い評価を得るまでに育てた。リリース間近の「ファークライ プライマル」にも,これまで以上の大きな注目が集まっている。こうした例があるだけに,Ubisoftが「アサシン クリード」で下した決断は,残念ではあるものの悲観するべきものではないはずだ。復活した「アサシン クリード」がどのような作品になるのか,それは,我々ゲーマーにとっての新たな楽しみとなるだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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