お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2015/03/23 12:00

業界動向

Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの

 「ディスクワールド」シリーズで知られるイギリスの著名な小説家,テリー・プラチェット氏が2015年3月12日に亡くなった。プラチェット氏は,ファンタジー小説の作家であると同時に,コンピューターやテクノロジーに造詣が深く,かなりのゲーマーでもあったという。しかも,同氏の一人娘は,「トゥームレイダー」など,我々のよく知るゲームの脚本家として活躍しており,「ゲーム好きの物書き」という血は,しっかり受け継がれている様子だ。今回は,そんなプラチェット親子について改めて紹介したい


人気小説シリーズの作家は相当なゲーマーだった


 「ディスクワールド」シリーズは,イギリス生まれのファンタジー小説として「指輪物語」や「ハリー・ポッター」などと並び称される作品だ。このシリーズをライフワークとした小説家,テリー・プラチェット(Terry Pratchett)氏が,イギリス時間の2015年3月12日に66歳で他界した。プラチェット氏は,2007年に自分がアルツハイマーであることを明らかにし,その後は,講演や執筆作業を続けながら病魔と戦ってきた。自宅のベッドで,家族や友人らに看取られての最期だったという。

 「ディスクワールド」シリーズは,1983年に刊行された「The Colour of Magic」に始まるファンタジー小説で,コミカルな描写の多い青少年向けの作品として大人気になり,プラチェット氏が2014年7月に書き終えた「The Shepherd's Crown」(欧米では2015年9月刊行予定)まで,全41巻が発表されている。
 他の作品と合わせて,プラチェット氏の本は37言語に翻訳され,現在では8500万部という売り上げを記録しているとのことだ。日本でも1991年,角川文庫から「The Colour of Magic」が「ディスクワールド騒動記」というタイトルでリリースされているので,日本で同氏の名前や作品を知る人も少なくないだろう。

1948年生まれで,66歳でこの世を去ったサー・テリー・プラチェット氏。ファンタジー世界をコミカルに描いた小説「ディスクワールド」シリーズで知られる同氏は,「DOOM」や「Thief」「Half-Life 2」などのコアプレイヤー向けタイトルの大ファンでもあった
画像集 No.002のサムネイル画像 / Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの

 欧米を代表するファンタジー作家として人々に愛されてきたプラチェット氏は,実は相当なゲーマーでもあり,昔から「ウィングコマンダー」「プリンス・オブ・ペルシャ」など,さまざまなジャンルのゲームを楽しんでいた。旧ソ連生まれの「テトリス」が旧西側諸国に上陸した際「テトリスは,人間に感染するコンピュータウイルスだ」と,ジョークを交えて高く評価し,その人気に火をつけることに一役買った。
 また,SFテーマのFPSの熱狂的なプレイヤーでもあり,「ハーフライフ2」が大のお気に入りだったという。1990年代に「DOOM」をプレイしたときには,「デーモンを退治するのにショットガンが有効だなんて,これまで誰が考えただろうか」という賞賛のメッセージを本人名義でフォーラムに書き込み,話題になった。

 そんなプラチェット氏だけに,「ディスクワールド」も早くからゲーム化されている。1986年に「The Colour of Magic」がCommodore 64など当時のパソコン向けテキストアドベンチャーとして発売されたのち,1995年にはポイント&クリック型の2Dアドベンチャー「Discworld」がPC向けに,そして翌1996年には同じくPC向けに「Discworld II: Missing Presumed...!?」が発売されており,大ヒットこそしなかったもの,メディアやプレイヤーの評価を受けた。

1995年にPsygnosis(現Sony Computer Entertainment Studio Liverpool)からリリースされた「Discworld」。巨大な亀の甲羅の上の世界を描いたボックスアートは,筆者の記憶にも残っている。ゲーム開発者の中にもプラチェット氏の作品に影響を受けた人は多く,「Elite: Dangerous」のFrontier Developmentは,なくなったプラチェット氏に敬意を表する意味で,ゲームの宇宙ステーションの名前を「Pratchett's Disc」に変更するパッチをリリースした
画像集 No.003のサムネイル画像 / Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの

 1990年代後半というのは,ちょうどCD‐ROMが普及し始めた頃であり,PC版「Discworld」はCD‐ROM1枚,またはフロッピーディスク15枚組という2種類のパッケージ販売が行われた。CD‐ROM版はその大容量を活かし,会話シーンが声優によるボイスオーバーになっており,「ディスクワールド」の世界を十分に体験できるゲームだった。
 「Discworld」と「Discworld II: Missing Presumed...!?」の2作は,PlayStationやSega Saturnにも移植されており,さらに1999年には「Discworld Noir」という,フィルム・ノワール風の2Dアドベンチャーもリリースされている。


プラチェット氏の一人娘は,「トゥームレイダー」の脚本家


「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」や「トゥームレイダー」のシナリオが代表作となるリアナ・プラチェット氏。父の死により,大いなる知的財産の管理や運用を任されることになった
画像集 No.004のサムネイル画像 / Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの
 こうしたプラチェット氏のゲーム好きの血は,意外なところで現在のゲーム業界につながっている。ゲームシナリオのライターとして活躍するリアナ・プラチェット(Rhianna Pratchett)氏は,テリー・プラチェット氏の一人娘であり,2013年にリリースされた「トゥームレイダー」や,2015年の発売が予定されている「Rise of Tomb Raider」などの作品でリードライターとして深く関わっているのだ。

 リアナ・プラチェット氏は,ゲーム好きの父の影響もあり,思い出せる限りでは,6歳の頃から「Sinclair ZX81」のようなパソコンでゲームを楽しみながら育ったという。大学ではジャーナリズムを専攻し,卒業後の1998年頃からイギリスのゲーム誌「PC Zone」の編集や記事の執筆に関わり,その後フリーランスになった。数年後,Ninja Theoryのアクションアドベンチャー「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」の脚本を書くチャンスをつかみ,その結果,BAFTABritish Academy of Film and Television Arts)のゲーム脚本部門にノミネートされた。さらに翌年,彼女が脚本を書いたCodemastersの「Overlord」が,全英脚本家協会が選ぶゲーム賞に輝いたことで,ゲーム脚本家として一躍,注目されることになったのだ。

 リアナ・プラチェット氏はその後,「ミラーズエッジ」「Viking: Battle for Asgard」「プリンス・オブ・ペルシャ」「Risen」,そして「バイオショック インフィニット」といった作品の脚本チームに参加するかたわら,コミックスやテレビドラマの脚本なども手がけるようになった。ただし,「女性の視点から描いたストーリー」という点で,やはり「トゥームレイダー」のストーリーの評価が高く,彼女の代表作となっている。

現在,リアナ氏が執筆中なのが,Xbox 360およびXbox One向けのシリーズ最新作「Rise of Tomb Raider」。シベリアを舞台に,より狡猾なサバイバーとして成長していく主人公ララ・クロフトの魅力は,女性脚本家だからこそ巧みに描き出せるのかもしれない
画像集 No.005のサムネイル画像 / Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの

 リアナ・プラチェット氏は2007年,「Heavenly Sword 〜ヘブンリーソード〜」のリリースに際して,北米メディアJoystiq(現Engadget Gaming)のインタビューに答え,「近くに同じ職業の人がいるのは,祝福すべきであると同時に,呪いでもあると思います。会話の中で,“何について書いているのか”といったことは出てきますが,執筆について深く話し合うことはありません」と,父親について語っている。もちろん親子である以上,人生をとおして何らかの影響はあったのは間違いなく,同氏は続けて「子供の頃に読んだ本や見た映画の選択,一緒に遊んだゲームの嗜好などを通して,父の影響はあるでしょう。物事の見方とかユーモアなども似ているかも知れません。親子ですから」と語っている。

 また父親の死後,イギリスのThe Telegraph(電子版)が行ったインタビューに対しては,「父は裏山の小川で水車の作り方を教えてくれたり,草木の名前を教えてくれたりする,ドルイドか,人間サイズのホビットのような存在でした」と回想し,ゲームの執筆業に携わるかたわら,父の遺した「ディスクワールド」を始めとする知的財産の管理人としての役割を果たす決意を語っている。

 最近,「お父さんがいなくなって寂しい」という心境をTwitterで素直に告白するようになったリアナ・プラチェット氏だが,それは多くのファンが共有する思いだろう。リアナ・プラチェット氏のゲーム業界での活躍を願うと共に,一人娘を通してゲーム業界にも足跡を残したテリー・プラチェット氏の冥福を祈りたい。


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:05月03日〜05月04日