
業界動向
Access Accepted第450回:乖離するメディアとゲーマーの評価
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メディアのレビューやファンの評価を集め,「メタスコア」として分かりやすく表示してくれるサービス「メタクリティック」。だが最近,メディアとファンの評価の間に差が開くケースが見られるようになってきた。そんな中,ヨーロッパの大手ゲームメディア「Eurogamer」が,点数制のレビューシステムを見直すことを発表するなど,「ゲームの評価」についての意識変化も見られる。今回は,そんな動きを,欧米ゲーマーの間で何かと話題になる「Day-One DLC」とからめてお伝えしたい。
メディアとファンの評価が乖離した「Evolve」
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ところが,同じ「メタクリティック」のファン評価になると,PC版,PlayStation 4版,Xbox One版のいずれも,10点満点中4点台から5点台に留まっており,さらに英語版Amazonのユーザーレビューでも星5個のうち2.5個,さらにSteamのレビューでも5分の2が推薦しないなど,メディアと比較してファンの評価はかなり厳しい。
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「Evolve」は「Left 4 Dead」シリーズや,「タイタンフォール」と同様,オンライン専用のアクションゲームであり,シングルプレイキャンペーンが存在しないため,ボリューム不足を感じるゲーマーが少なくなく,それが評価の理由であるようだ。
しかし,それ以上に欧米ゲーマーの不満を集めているのが,「Day‐One DLC」と呼ばれる,リリースと同時に配信される有料コンテンツの多さだ。PC版の場合,ソフト単体で59.99ドルなのに対して,Day‐One DLCの総額は60.89ドル。しかも,これらのDLCは24.99ドルで別売りされるシーズンパスではカバーされない。このことが,ファンの評価に大きく影響しているようなのだ。
Day-One DLCの不評とメーカーの都合
「Evolve」のDay-One DLCは,リストを見れば分かるように,すべて「スキンパック」と呼ばれる,キャラクターや武器の見てくれを変更する種類のもので,いわゆる“Pay-to-Win”(勝つために支払う)とゲーマーに揶揄される「持つ者と持たぬ者の格差を生み出す課金アイテム」ではない。パブリッシャの意図としては,「Evolveを愛する人達に買ってもらえればいい」程度のものだと思われる。
しかし,多くの欧米ゲーマーはDay‐One DLCを,「製品と同時に開発が進められていたコンテンツをパッケージに含ませずバラ売りにするとは,けしからん」と考えるわけで,これにも一理あるように思う。
建前だけでも「ゲーム開発中はDLCのことは考えない」という立場を明確にするか,1か月ほどの間隔を置いて配信すれば,無用の批判はかわせるような気がするのだが,メーカーにはメーカーの都合があるようだ。
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最近ではグラフィックス関連のアセットを外注するメーカーも増えてきたが,多数のアーティストを抱える大手開発会社にとって,Day-One DLCは非常に合理的だ。つまり,ゲームの開発初期には,多数のコンセプトアートやキャラクターの設定などが必要になるため,アーティストが大活躍するが,開発が進んでブラッシュアップやクオリティコントロールの段階になる頃には,ほとんどのアーティストが必要な作業を終わらせて手持ちぶさたになる。そのため,作業が終わり次第,DLCを担当するチームに加えて,アーティストの空き時間を最小限にとどめるわけだ。とくにスキンパックのようなものであれば,ほとんどアーティストだけで作業を進めることも可能だ。
こうしたDay-One DLCへの不満や疑心は,欧米ゲーマーの間では根強い。例えば2012年にElectronic Artsからリリースされた「Mass Effect 3」では,Day-One DLCとして「From Ashes」という2つのミッションをまとめたDLCが9.99ドルで販売されたが,のちにこれが開発段階で本編から切り取られた形で制作されたことが明らかになり,批判材料の1つになってしまった。
また,「Risen 2: Dark Waters」ではすでにディスク内にあるプログラムやデータを有償でアンロックする「On-Disc DLC」と呼ばれるコンテンツがあり,こうしたやり方の是非について,多くゲーマーの議論の的になるという事例もあった。
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もはや点数によるレビューは古い?
さて,もう一度メディアレビューの話に戻すが,「Evolve」の評価が話題になる中,ヨーロッパ最大級のゲームメディア「Eurogamer」が,これまで採用していた点数によるゲームの評価を見直すと発表した。
ゲームに点数を付けない欧米のゲームメディアは少なくないが,メタクリティックにピックアップされることで露出が増えるため,例えばそれまでのABC評価から,100点満点式の評価に切り替えたところも多い。Eurogamerは,サイトの創設時から15年間,10点満点の点数評価を貫いており,それらが10倍に換算されることでメタクリティックに使われてきた。
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こうした従来の採点システムからの決別は,欧米では「Kotaku」「Engadget Gaming」(旧Joystiq)に続いて3社目で,この先,点数ではない評価をするゲームメディアが増える可能性もある。
Eurogamerは点数システムの廃止についてコメントしており,それによると,オンラインが一般化したことでアップデートや修正を繰り返すゲームが増え,そのため,ローンチ当初の一時的な評価によってゲーム販売を左右させることもある従来のシステムがもはや時代にそぐわなくなったことを理由に挙げている。
日頃,海外サイトをフォローしている読者なら感じていることかもしれないが,例えば,作り込まれているがグラフィックスに問題のあるインディーズゲームと,対戦モードは面白いがストーリーがつまらない超大作を,同じ「点数」という物差しで表現するのは,そもそも無理がある。
「Evolve」の場合,Day-One DLCというビジネスモデルがファンの厳しい評価を集めることになってしまったが,「4対1の非対称型マルチプレイ」という,プレイすれば必ず分かる新鮮さ,面白さとはあまり関係ない部分であるだけに,筆者自身は複雑な思いをしている。ゲーム購入前にメタスコアをチェックする人も多いと思うが,単純に点数だけを見るのではなく,どうしてそういう評価になったのか,テキストもよく読んで判断する必要があるのは,言うまでもないことだろう。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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