業界動向
Access Accepted第437回:ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語 2
さまざまなハンデキャップにより,ゲームをプレイしたくてもできないという人は少なくない。「ゲームアクセシビリティ」(高齢者や障がい者がゲームをプレイできる度合い)が欧米ゲーム業界で話題になって久しいが,今回は,ハンデキャップを持ちながらもプログラマーとして活躍する人物と,ゲームで遊びたい人々を支援する非営利団体の活動を紹介したい。
足の指で作られていくゲーム「Warlocks」
2014年10月2日,ポーランドのインディーズ開発チームOne More Levelが,クラウドファンディングサイトKickstarterにおいて,彼らの処女作「Warlocks」の開発資金の調達に成功した。目標額は2万5000ドル(約272万円)と小さめだが,これは2015年4月の発売まで,5人の開発メンバーの生活費として使われるという。一人あたり約800ドル/月,というところだ。
Kickstarter「Warlocks」企画ページ
「Warlocks」は,もともとゲームデザイナーのドゥシャン・チャチェイ(Dushan Chaciej)氏が進めていた個人プロジェクト,「Risk of Death」をベースに,同氏が新たに思いついた“魔法使いの主人公”という新しいアイデアを追加して練り直したものだ。チャチェイ氏は,2013年12月に友人のプログラマー,マックス・ストルゼレスキ(Max Strzelecki)氏を誘って,この「Warlocks」を本格的なプロジェクトとしてスタートさせたという。
Co-opモードもあり,それを通じたオンラインコミュニティの育成にも重点が置かれている本作は,2014年8月にドイツで開催されたgamescom 2014でプレイアブルデモが公開されていたので,開発のペースもなかなかのものだ。
ところで,そのストルゼレスキ氏だが,生まれつき両手がないというハンデキャップを持っており,足の指を器用に操りながらキーボードを叩くという異色のプログラマーでもある。「Counter-Strike」や「League of Legends」などで遊ぶのが大好きというストレツキ氏だが,「Warlocks」の開発においてプログラマーとして登録されているのは同氏だけである。足でキーボードやマウスの操作を行うのは大変だと思われるが,彼にとっては生まれてからの21年間行ってきた普通のことだ。
重度の障がいを持つゲーマーの強力な助っ人
2011年2月28日に掲載した本連載の第296回「ハンデキャップを軽やかに乗り越えるゲーマーの物語」では,全盲でありながら鮮やかにゲームをプレイする青年を紹介したが,世界中にはなんらかのハンデキャップを持ち,そのため,ゲームで遊びたいと思いながらもそれが叶わないという人も多い。
イギリスで2007年から活動しているSpecialEffectは,そんなゲーマー達の悩みに応じるためにコントローラの改造やセットアップなどを行ってくれる非営利団体だ。公式サイトやYouTubeの公式チャンネルにはさまざまな情報や成果が掲載されており,例えばその中の一人,リー・ナイト(Lee Knight)さんは,SpecialEffectによって大好きなゲームを再びプレイできるようになり,ついには「Grand Theft Auto V」の完全攻略までしてしまった。
SpecialEffectは,創設者であるミック・ドネガン(Mick Donegan)博士が開発した,眼球トラッキングカメラ「eye-gaze system」のノウハウも持っており,既存のコントローラの改造だけなく,それぞれのユーザーの状態に合わせた専用機器を制作することにも対応する。もっとも,そうした個別の事例に対応する装置の開発に加えて,対象者の状態把握のためにオフィスに来てもらったり,自宅に出向いたりするという細かいサービスを一つ一つこなしていくのは,やはり相当に時間のかかる作業である様子だ。
以上,ハンデキャップに負けることなくゲームプログラマーとして活躍する人物と,ゲームをプレイしたくてもさまざまな理由でできない人々を支援する非営利団体について紹介した。今のところ,SpecialEffectの活動はイギリス国内に限られているが,こうした動きが世界にも広がり,誰もが好きなゲームを楽しめるようになるのを願うところだ。
「SpecialEffect」公式サイト
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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