業界動向
Access Accepted第375回:インディーズゲームを取り巻く最近の状況
2000万人の登録ユーザーを数えるの大ヒットとなった「Minecraft」を始めとして,メインストリームにも負けない急成長を続けるインディーズゲーム市場。今や,プラットフォームホルダーや大手メーカーにとっても無視できない存在であり,次世代コンシューマ市場でも彼らの存在が重要視されている。今週は,そんなインディーズゲーム開発における,最近の状況をまとめてみたい。
大手メーカーよりも開発者が多い?
インディーズゲームメーカー
2月28日,ゲーム業界向けの情報サイトとして日本でも知られるGamasutraに,そんな「State of the Industry」のプレビュー記事が掲載された。Gamasutraは,オーナーであるUnite Business MediaがGDCの主催社である関係で,GDCの広報的な活動も受け持っていることでも知られている。
アンケートは,アメリカ在住の2500人を超えるゲーム開発者達を対象としたものだが,プレビュー記事によると,そのうち約半数にあたる51%が「自分はインディーズ開発者である」と答えているという。つまり,参加予定の開発者のうち,2人に1人が大手ゲームメーカーに「属していない」というわけだ。この結果にGamasutraも「インディーズ開発者が,かつてないほど増えている」と特筆している。
詳しく見ると,2500人のうちの46%が,大手メーカー/インディーズに関わらず「10人以下の開発チームに属している」と答えており,さらに,自分がインディーズ開発者であると答えた約半数の人のうち,自分達の作品がパブリッシャからリリースされた経験があると答えたのは24%。また,現在のプロジェクトのパブリッシャが決まっていると答えた人は20%に過ぎないという。
ごく単純な計算だが,つまりアメリカのゲーム開発者の約40%が,パブリッシャもいないままゲームを開発し,販売していることになるわけだ。
新たなハードやサービスを追い風にする
インディーズゲーム
以上のプレビューは,まさに,「インディーズゲームのメインストリーム化」といえるものだが,欧米ゲーム業界のトレンドに詳しい人にとっては,驚くような話でもないはずだ。わずか10年前と比べても,ゲーム開発めぐる状況は大きく様変わりしており,今では大手パブリッシャに頼らないゲーム開発/販売が可能になっている。
その大きな理由は,これまでにも何度か書いてきた「オンライン配信システム」の登場にあるだろう。「Xbox LIVE」のスタートが2002年11月,PC向けの「Steam」が,その翌年の2003年9月に始まっているが,こうしたサービスを使うことで,インディーズゲーム開発者は,自分の作ったゲームをそれまでより手軽に販売できるようになり,消費者もより簡単に,かつ安心してゲームを購入できるようになった。
今回の記事でGamasutraが指摘しているのが,スマートフォンやタブレットPCなど,いわゆる「タッチ世代のモバイルプラットフォーム」市場の拡大だ。PCやコンシューマ機に比べて必要なリソースが少なくて済むため,多くのインディーズゲーム開発者の注目を集めており,調査によれば,ゲーム開発者の58%がスマートフォンに,56%がタブレットPCに注目していると答えている。
従来のパッケージビジネスは,「発売から6週間で,すべてが決まる」といわれており,長期間の販売を前提にはしていない。対してダウンロード販売では,6週間が過ぎたら自動的に陳列棚からどかされることもなく,ずっと売り続けてもらえる。「Angry Birds」が世界的な大ヒットになるまでには,発売から半年ほどの時間がかかっており,こうした点もインディーズゲームの開発の追い風になっているはずだ。
もはやメインストリーム
クラウドファンディングによる資金調達では,ほとんどの場合,投資した人に対して完成したゲームを贈ることになる。潜在購買層に行き渡ってしまうことで,リリース後にほとんど売れないということもあり得るのだが,資本力や実績のないメーカーであっても,多くの人が賛意を示してさえくれれば開発の緒につけるというクラウドファンディングは,インディーズゲームの開発者達にとってゲーム制作のハードルを下げるものだろう。
大手メーカーと比べて,これまでインディーズ開発者に不足しがちだったのが「宣伝力」だが,これもFacebookやTwitterを活用する,いわゆる「ニューメディア・マーケティング」によって解消されてきた。
ニューメディア・マーケティングの中心になるのは,「コミュニティマネージャー」だ。コミュニティマネージャーは,一般からのメールに対応したり,公式フォーラムでやり取りを行ったりするほか,ネットを駆使して不特定多数の人々にダイレクトに情報を発信することになる。個人の情報発信力が格段に向上した現代ならではの役職といえるだろう。
コミュニティ・マネージャーではないが,ファンとの直接対話を続ける「Minecraft」のマルクス・ぺルソン(Markus Persson)氏も,コミュニティマネージャー的仕事をしているといえるし,「Call of Duty」シリーズのヒットを裏側で支えていたロバート・ボウリング(Robert Bowling)氏(現Robotoki)のような,ファンによく知られ,信頼を得る人物なども登場している。
PlayStation 4への参入を表明したメーカーのリストには,新しいゲームハードの発表会ではおなじみの大手メーカーにまじって,コンシューマ機のユーザーがあまり耳にしたことのないであろう,小規模な企業名をいくつも見ることができる。その一つ,クラウドファンディングサイトで資金を調達し,新作「The Cave」の開発を進めるDouble Fine Productionsのティム・シェーファー(Tim Schafer)氏は,北米メディアの質問に「(今回は)Sony Computer Entertainmentからアプローチがあった」と答えている。つまり,プラットフォームホルダーにとっても,彼らのような小規模なゲームメーカーが重要視されるようになっているということだ。
少なくとも,来場予定者の半数以上がインディーズゲーム開発者というGDC 2013では,インディーズゲームを「メインストリーム」と呼ぶことに間違いはなさそうだ。世代交代が進むコンシューマ機市場で彼らが大きな存在感を発揮できれば,ゲーム業界全体のメインストリームになる可能性もある。そういう時代には,ゲームメーカーのありかたも大きく変わっていくことになるだろう。今後の彼らの動きに注目していきたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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