業界動向
Access Accepted第321回:新たな市場として注目される「トドラー」
最近,欧米ゲーム業界が,2歳から5歳程度の“幼年層”に目を向け始めているという。これまでゲーム関係者がほとんど意識してこなかったこの幼年層のポテンシャルが,携帯端末向けのゲームアプリによって発見され,成長しつつあるのだ。今週は,そんな幼児と携帯端末向けアプリとの関係,そして,幼児向けの新作タイトルを紹介してみよう。
トドラーという,新たなゲーム市場
小さい子供をつれて長距離ドライブをするとき苦労するのが,「ぐずり始めた子供を,どうするか」ということだろう。筆者の子供達がまだ小さい頃は,DVDプレイヤーで映画を見せたり,本を読んであげたり,あるいは紙とクレヨンで絵を描かせたりなどした。そういえば,筆者が息子にニンテンドーDSを買ってあげたのも,家族でシアトルに旅したときだった。そんな小さな子供達に今,北米ゲーム業界の注目が集まっているという。
アメリカのリサーチ会社NPD Groupの発表によれば,北米の2歳から17歳までの約6400万人のうち,実に91%がゲームを楽しんでいるという。そして,その中でも最も上昇気流にあるのが2歳から5歳までの,“トドラー”と呼ばれる幼年層であるらしい。「よちよち歩き」という意味の英単語“Toddle”からきたトドラーは,最近では日本の洋服売り場などでもたまに見かける言葉だが,だいたい保育園や幼稚園に入る前の幼児のことを指す。ただ,こうした話題に出てくる場合は,もう少し年長の児童も含まれることが多いので,今回は小学校就学前の子供ぐらいだと考えておけばいいだろう。
トドラーゲーマーの拡大は,モバイル端末の普及と関係が深いと言われる。NPD Groupの発表では,2009年の段階で携帯端末で遊んでいた幼児は約8%だったが,2011年にはそれが一気に約38%にふくれあがっている。もちろん,アメリカのお父さん,お母さんが幼児に携帯端末を買い与えているわけではなく,例えば,家族でドライブするときのバックシートで,あるいは母親がテレビやインターネットに熱中しているときのリビングルームで,子供達はゲームアプリを楽しんでいるという図式だ。ごく安い値段で購入できる簡単なゲームアプリの増加が,これに拍車をかけた。
筆者の子供達がトドラーだった頃,彼らが遊べそうな携帯ゲーム機のオプションとしてはニンテンドーDSしかなかった。それでも幼年層の上のほう,つまり4〜5歳児にとってさえ難しいゲームタイトルが多く,遊べるのは「スーパーマリオ」シリーズや「星のカービィ」シリーズが限界だったと思う。これはもちろん,ニンテンドウーDSが想定する「子供向け」の中に,そこまで小さな子供が含まれていないからなのだが,これに対して,iPadなどのタッチスクリーンを使うゲームは操作が直感的で分かりやすく,大人の「時間つぶし」を念頭に作られたタイトルは,読むべきテキストもごくわずか(あるいは,まったくない)。
こうしたことが,これまでまったく考えられていなかった新しいゲーマー層の開拓につながったわけであり,ある意味,ゲーム業界にとって大きな事件だといえそうだ。
開発側も敏感に反応しているようで,最近のアプリを眺めてみると,塗り絵やアルファベットを正しく並べるなど,いわゆるエデュテイメント系タイトルが増えているのが分かる。この傾向はモバイルだけでなく,コントローラを使わずにゲームを楽しめる,Xbox 360のKinect対応ゲームにも広がっているようだ。
トドラーゲーマーの拡大は,今後もしばらく続くだろう。未開拓分野の発見は北米ゲーム業界にとって重要なことだが,就学前の児童がゲームに熱中することに対する拒否反応も出てくるだろうし,親子のコミュニケーションの欠如を促進するという文脈で語られることも問題になるかもしれない。また,児童向けの同じような内容のアプリが大量にリリースされる可能性は,ゲーム業界にとって望ましいことではないだろう。今のところはまだ「興味深い傾向」という程度にとどまってはいるが,これからも気にしていきたい話題だ。
最後に,トドラー達のために最近リリースされた,または開発が進められているタイトルをいくつか紹介しよう。いずれも趣向の凝らされたタイトルで,もしかしたら,本稿を読んでくれているような人がプレイしても,十分に楽しめるかもしれない。
■FISH SCHOOL HD
2008年から幼年層向けのエデュテイメントソフトを発売しているDuck Duck Mooseの最新作が,iPad向けの「Fish School HD」だ。メイン画面にはさまざまな種類の魚が泳いでおり,どれかを触るとそれが群れになり,アルファベットや数字を形作るというもの。さらに,色や形なども学べる。
Duck Duck Mooseのゲームらしく,音楽を多用し,明るく楽しめるのがウケているようだ。タッチスクリーンのコンセプトを学ぶのにも役立つかもしれない。
■Cars 2 App MATes
ゲームに使える車は玩具店などで購入できるのだが,Disney Interactiveは,今後こうしたアプリと玩具をコラボした「App Mates」シリーズを続けていくようであり,2011年内にもさまざまな映画をテーマにしたゲームが登場するかもしれない。
■Sesame Street: Once Upon A Monster
「Psychonauts」や「Brutal Legend」など,コア向けでシャレの利いたゲーム開発で知られるティム・シェーファー(Tim Schafer)氏が,セサミストリートをライセンスした子供向けゲームを開発しているというのだから,最初に話を聞いたときはいささか驚いた。
それがWarner Bros. Interactiveから北米で2011年10月11日にリリースされたKinect専用タイトル,「Sesame Street: Once Upon A Monster」だ。トドラーというよりは,もう少し年長の子供を対象にしたもので,コントローラーを使わず,エルモやクッキーモンスターの動きに合わせてダンスをしたり,身振り手振りでクリアしていくというミニゲーム集。
著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。
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