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印刷2011/05/23 14:40

業界動向

Access Accepted第304回:「ゲーム」と「政治/軍事」をめぐる最近の話題

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 1000万人を超える登録ユーザーを誇るマルチプレイFPS「America's Army」は,もともとアメリカ陸軍がスポンサーとなって制作された新兵リクルート用のゲームだった。新兵として入隊したらどういうことが待っているのかを,ゲームの形であらかじめ紹介するものだったのだ。この連載でも何度か書いてきたように,本来ゲームとは無関係なものをゲームの形で親しみやすくすることを「ゲーミフィケーション」と呼ぶ。今回は,国際問題や軍事にまつわるゲーミフィケーション関連のニュースをいくつか紹介しよう。ゲーマーとして,持っていて損はない知識ではないだろうか。


大ヒットしたアメリカ陸軍製FPS「America's Army」


 2002年7月4日,アメリカの独立記念日に公開された「America's Army」は世界的に大きな反響を呼んだ。「Unreal Engine」をライセンスしたマルチプレイFPSとしての完成度の高さもさることながら,スポンサーがアメリカ陸軍であり,新兵のリクルートを目的に制作されたということが人々を驚かせたのである。公開後も頻繁にアップデートが繰り返され,現在は1000万人の登録ユーザーを抱える,ビッグタイトルに成長した。
 現在までに300億回を超えるマルチプレイ対戦がプレイされ,「無料オンラインFPSで最も遊ばれた作品」として,ギネスブックにも登録されている。

 マサチューセッツ工科大学の研究員であるEthan Mollick(イーサン・モリック)氏によると,America's Armyの公開によって,アメリカの16歳から24歳までの男性層の約30%が,アメリカ陸軍に良い印象を持つようになったという。つまり,単に新兵リクルートだけでなく,陸軍のイメージアップにも貢献したというわけだ。

初公開から9年を経た「America's Army」。現在では「Unreal Engine 3」に対応した,市販タイトルにまったく遜色のないハイレベルな作品として,アメリカだけでなく多くの国々でプレイされている。ただし,もともとはアメリカ陸軍が,新兵を効果的にリクルートする目的で制作されたものだ
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 この連載でも何度か取り上げてきたが,本来ゲームとは無関係なものをゲーム化して,楽しみながら学習させたり顧客を獲得したりすることを“ゲーミフィケーション”と呼ぶ。America's Armyが公開された当時,ゲーミフィケーションという言葉は存在していなかったが,陸軍のトレーニングの様子をゲームとして知ってもらうのは,やはりゲーミフィケーションだ。

 20歳前後の人なら,生まれたときからPCやゲーム機が身の回りにあり,まったくゲームに触れたことのないという人のほうが珍しいはずだ。爆発物を取り除く軍用ロボットの操作もゲームパッドのほうが操作しやすいし,シミュレーションゲームを使って軍事戦略を学ぶことにも抵抗はない。むしろ,ゲームを使ったほうが学習効率はいいかもしれない。
 というわけで,トレンドであるゲーミフィケーションのうち,最近耳にした軍事関連のニュースをいくつか紹介しよう。


ついに,人民解放軍が訓練用ゲームを採用


「光栄使命」のシーン
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 オンラインゲームのプレイ時間を規制するなど,ゲームについて神経を尖らせている様子の中国だが,それだけに,ゲームの持つ力も認識しているようで,America's Armyと同様のトレーニング用FPSを開発したというニュースが中国国内で報道され,YouTubeなどでそのゲームの内容が確認できる。「光栄使命」と題されたこのゲームは,America's Armyのように新兵リクルートが目的ではなく,兵士の訓練用として使用されているとのことで,我々のような一般人がプレイすることはできない。

 ビデオを見る限り,数世代前の「Call of Duty」といった雰囲気で,グラフィックスは旧式だ。中国に侵攻してきた敵と戦うという設定になっているようだが,興味深いのは,敵として登場するのがアメリカ兵であることだ。バンカーから飛び出してきた米兵を撃ったり,アパッチ戦闘ヘリにロケット弾を撃ち込んだりする様子が確認でき,ゲームの臨場感はなかなか高そうである。

 中国の急速な軍事拡張によって米中間の緊張が高まっているのは,読者の皆さんもよくご存じのとおり。昨年(2010年)はアメリカ高官の訪中に合わせ,中国が国内初のステルス戦闘機「殱20」をテスト飛行させ。対してアメリカも,邦貨で530億円にもおよぶ軍事関連製品の開発委託先を,中国から台湾に変更するなど,政治的応酬が交わされている。メーカーが開発したゲームならともかく,中国人民解放軍がアメリカ兵を敵にしたゲームを制作したということで,ちょっとした議論になっているようだ。


海賊問題に対処するMMOGをアメリカ海軍が開発中


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 MMORPGならよく聞くが,MMOWGLIは筆者にとっても初耳だった。これは“Massive Multiplayer Online War Game Leveraging the Internet”の略で,直訳すれば「インターネットを効果的に利用するMMO型戦争ゲーム」となる。発音は,ディズニーアニメ「ジャングルブック」に登場するキャラクター,モーグリーと同じだそうだ。
 MMOWGLIは現在,アメリカ海軍が開発中のゲームプロジェクトで,ソマリアやインドネシア周辺の海域で発生する「海賊」にどのように対処をしていけばいいのかを,多くの人々で考えていこうというものだ。

 開発は米国海軍大学院と,「Institute of the Futur」というボランティア組織が2009年から共同で進めており,2011年5月16日から参加者の募集を公式サイトで開始した。今後,応募者の中から選ばれた1000人が,対海賊タスクフォースもしくは海賊になってゲームを進めていくことになる。

 プレイヤーには,「特定の地域で海賊行為が頻発し,国際ボランティアが誘拐された」とか「アメリカはアフリカの資源を独占しようしていると,国際世論が批判している」といった課題が投げかけられ,それに対して回答を行う。出てきた回答について,ほかのプレイヤーが投票を行い,多数決でストーリーの進む方向を決めていくという,テキストベースのゲームになるようだ。

 「ゲーム」という言葉から受ける印象と異なり,Twitterのようなソーシャルネットワークにいくつかの機能を付け足して,1つのテーマに対するさまざまな意見を収斂できるようにしたサービスと呼べるだろうか。そもそもこのプロジェクトの目的には,「多数決で得られる答えは正しいのか?」をリサーチすることや,さまざまなシナリオが考えられる海賊問題の対処方法を,こういう形で数多く収集しておくことにもあるらしい。果たして,現在も頻発する海賊問題を解決する糸口となるかどうか,成果を期待したい。


テロリストがゲーミフィケーションを利用?


 北米の政治専門誌,Foreign Policyのオンライン版が報じるところでは,テロ組織との関連が指摘される団体の運営するチャットルームで,テロリストのリクルートが行われている可能性があるという。会員となって書き込みする人に対して,ポイントや評価を与えるシステムが導入されており,多くの書き込みしたり,ほかのユーザーから高い評価を受けたユーザーはフォーラムでの地位が上がり,プライベートなチャットルームへと招待され,そこで勧誘を受けるということらしい。
 チャットはゲームとはいえないが,ポイント制の導入などは明らかにゲーム的発想だ。

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 「難しいことも,ゲームの形で楽しくクリア」というゲーミフィケーションのアイデアは非常に強力であり,民間だけでなく,上記のように軍隊などでも積極的に利用され,さらに,ゲーミフィケーションを悪用するような動きさえあるという。最後はちょっと気味の悪い話になってしまったが,世の中ではこういうことも起きているのだということを,ゲーマーの知識として持っておくのも悪いことではないだろう。

著者紹介:奥谷海人
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,北米ゲーム業界に知り合いも多い。この「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年に連載が開始された,4Gamerで最も長く続く連載だ。バックナンバーを読むと,移り変わりの激しい欧米ゲーム業界の現状が良く理解できるはず。

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