業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第280回:ダウ・ジョーンズも注目する新鋭ゲーム企業
「ダウ平均株価」で知られる北米の企業ダウ・ジョーンズが,「今後注目すべき,50のスタートアップ」という記事を同社のサイトに掲載した。そこには,同社が“将来性あり”と見なした企業が並んでいるのだが,もちろんゲームに関係する企業もリストアップされている。新しい会社ばかりなので,あまり聞きなれない名前ばかりだが,今回はこれらの企業をピックアップして紹介してみよう。
ダウ・ジョーンズ(Dow Jones & Company, Inc.)の名前は,新聞の株式欄を読めば,間違いなく一度は目にするはずだ。世界標準の株式指標である「ダウ平均株価」を算出する企業であり,「ウォールストリートジャーナル」(The Wall Street Journal)の発行元でもあるダウ・ジョーンズは,最新の経済情報を毎日世界へ発信している。
同社は,IT産業の最新トレンドをテーマにしたカンファレンス,「FastTech」を2010年11月3日から4日までカリフォルニアで開催する予定だが,それに先立ち「今後注目すべき50のスタートアップ企業」という記事を,FastTechの公式サイトに掲載している。これは,昨年来の経済不況をものともせず,目の肥えた投資家や投資会社から開発費や運営費を集めている,“スタートアップ”(起業して間もない会社)達をリストアップし,さらにその中から有望な50社を選んだレポートだ。
「イノベーションとチャンスが出会う場所」というキャッチが付けられた「FastTech」は,カリフォルニア州レッドウッドシティで,11月3日から4日まで開催される予定だ。多くのベンチャー企業家や投資家,アナリストらが集まり,IT関連の最先端トレンドについて議論されることになる
これだけならIT関連の話題なのだが,筆者が記事を読んで気づいたのは,ゲームに関連する企業が少なからずリストアップされていることだ。メーカーの名前を見ると,やはりゲーム産業の新たな分野に果敢に挑む挑戦者ばかりで,なるほど,ダウ・ジョーンズやベンチャー投資家達の興味を惹くだけのことはあると思わせる。同時に,ゲーム産業そのものが,過去には想像もしなかったような広がりを見せていることも感じられる。
そこで今回は,裾野を広げつつあるゲーム産業の最前線で活躍する“気になるスタートアップ”を紹介してみたい。いずれも,このまま姿を消していく可能性もあるが,数年後にはダウ・ジョーンズなみに,その名を聞かない日はないほどの巨大企業へ成長しているかもしれないメーカーばかりだ。
企業名:Aurora Feint
業種:ソーシャルプラットフォーム
起業:2008年
公式サイト: http://www.aurorafeint.com/
もともとモバイルゲーム向けタイトルのデベロッパとして登場したAurora Feintだが,2009年2月,iOS(iPhone,iPod touch,iPadに使用されているOS)向けの「OpenFeint X」というソーシャルプラットフォームをリリースした。ソーシャルプラットフォームとは,開発者がOpenFeintを自分のゲームに組み込むことで,ゲームにソーシャルネットワーク機能を簡単に追加できるという一種のミドルウェアだ。本連載の第253回「既存の市場に果敢に挑戦する二つのビジネスモデル」でもOpenFeintを紹介しているので,詳しくはそちらを参照していただきたいが,iPhoneやiPadの市場拡大に伴って,Aurora Feintも急成長している。
アメリカのDigital ChocolateやBigPixel Studio,日本のタイトーやカプコン,そしてDeNAといった大手メーカーがOpenFeintXを利用しており,ライセンス契約を結んだデベロッパは1万3000社。対応ソフトが3400種類リリースされており,ユーザーのアカウント数も4500万に上るという。
順風満帆に見えるが,ライバルも少なくはなく,ここからが正念場といったところ。そのためか,最近はAndroidなど,ほかのモバイル機への進出も図っている。
企業名:Gaikai
業種:クラウドゲーミング
起業:2008年
公式サイト:http://www.gaikai.com/
Gaikaiは,サーバー側で画面のレンダリングなどゲームの処理をすべて行い,結果をストリーミングすることで,ユーザーがゲームをインストールすることなくプレイできるというサービスである。4Gamerでも何度か記事にしているので,すでに知っている読者も多いと思うが,ブラウザで「World of Warcraft」や「Spore」といったハイエンドPCを要求する3Dゲームがプレイできるなど,見た目のインパクトも非常に大きい。
またGaikaiは,JavaやFlash,Silverlightなど,既存のソフトウェアを利用しているため,サービスを利用するためのプラグインも必要としない。すでにアメリカやヨーロッパではβテストが行われているほか,詳細は発表されていないものの,日本にもサーバーが用意されるという情報もある。
ひょっとしたら,4Gamerのゲーム記事を開いた途端,Gaikaiを使ったプロモーションが始まり,ボタン1つでそのゲームのデモを楽しめるようになる,といった日が訪れることになるかもしれない。
もっとも,10月5日のニュースでもお伝えしたように,類似のサービスをすでに提供している「OnLive」では,対応ソフトの少なさやラグの問題などから人気が低迷し,料金形態を変更するということが起きている。ダウ・ジョーンズは同社の将来性を買っているわけだが,Gaikaiがどうなるかは,ここ数年のうちにハッキリするはずだ。
企業名:Tiny Speck
業種:MMOゲーム開発
起業:2009年
公式サイト:http://tinyspeck.com/
現在,FlashベースのMMOG(多人数参加型オンラインゲーム)「Glitch」を開発中のTiny Speckは,カリフォルニア州サンフランシスコとカナダのバンクーバーに分かれたスタジオに計8人の開発者が在籍する小さな開発会社だ。
中心となるStewart Butterfield(ステュアート・バターフィールド)氏は,Yahoo在籍中にデジタルフォトの共有サイトとして有名な,「Flickr」を開発した人物。その名前も手伝ってか,投資家達からすでに6500万ドル(5億3000万円)に達する資金を調達したという。
Glitchの公式サイトにはデモムービーが掲載されており,一見すると普通の横スクロール型アクションゲームに見えるのだが,ゲームの背景となるのは一つの巨大な世界で,多くのプレイヤーが集ってコミュニケーションしたり戦ったりできるものになるらしい。現在αテストの段階だが,2010年内に公開される予定だ。
ブラウザベースのオンラインゲームは,現在多数のタイトルがひしめいている状況であり,この分野で成功を収めるにはそれなりの仕掛けが必要になるだろう。「これまで,あなたの見たことのないゲームになる」と公式サイトにあるので,その言葉に期待したい。
企業名:Zong
業種:モバイル向け支払いシステム
起業年:2008年
公式サイト:http://www.zong.com/
“シリコンバレーで最もホットなベンチャー”とも呼ばれているのが,おそらくほとんどの読者が聞いたことのない,Zongという企業だ。Zongは2009年10月,「Zong+」という携帯電話向けのペイメントシステム用APIをリリースし,ゲーム会社と直接契約するという販売戦略で急成長している。契約先は,アメリカ,ヨーロッパの38か国の企業におよぶという。
Zong+の仕組みは,アプリやゲーム内アイテムを購入した場合,登録したクレジットカードに直接課金されるというシステムで,従来のように通信会社にトランザクション代などを払わなくてすむという利点を持っている。
また,購入時にクレジットカードの番号を入力する必要はなく,自分の電話番号を押すだけで良いところも特徴だ。すでに5億人のユーザーを超えるといわれるFacebookのほか,Gaia OnlineやMochi Media,ドイツのBigpointなどで採用されているという。
さらにZong+は,大胆なことにソースコードを公開しており,有志による機能追加なども行われているようだ。こうしたことも,IT業界で話題になっている要因の一つだろう。
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