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印刷2010/09/13 11:29

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第276回:カプコンの「デッドライジング 2: ケース0」はビジネスに何をもたらすのか

奥谷海人のAccess Accepted

 今回は,カプコンが2010年10月にリリースする予定のアクション「デッドライジング 2」に関する話題だ。北米では,日本より1週間ほど早くリリースされたダウンロードコンテンツ,「デッドライジング 2: ケース0」が,予想を超える成功を収め,ゲームのみならずそのビジネス戦略がファンやメディアの間で注目されているのだ。今回は,デッドライジング 2が欧米ゲーム市場に与えた影響についてレポートしたい。

第276回:カプコンの「デッドライジング 2: ケース0」はビジネスに何をもたらすのか

 

ケース0がXbox Live史上最高の初週販売本数を記録
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公式の数字ではないものの,アメリカでは発売初週に32万本を売り上げ,ヒット作となった「デッドライジング 2: ケース0」。プロローグ版を本編より早くデジタル配信するという,ユニークで挑戦的な戦略が功を奏した格好で,北米メーカーからも注目が集まっている

 カプコンがXbox Live用にリリースした「デッドライジング 2: ケース0」(以下,ケース0)が,アメリカのゲーマー達から良好な反応を得ている。アメリカのゲーム情報誌,GamerBytesの電子版が報じたところによれば,北米市場にリリースされてからわずか1週間で,Xbox LIVEのリーダーズボードに32万8000人以上のプレイヤー数が表示されており,Microsoftに支払う30%を差し引いても,約115万ドル(約9650万円)の売り上げを計上しているとのことだ。
 この数字は,これまでXbox Live史上最高の週間セールス記録だった「Shadow Complex」(2009年8月)の「1週間で20万本」という記録を大きく上回るものだ。
 Capcom Entertainment(Capcomの米国法人)は,「数字は公式なものではない」とコメントしているが,いずれにせよ大ヒットであることは間違いない。

 9月28日(日本では9月30日)に発売される予定の「デッドライジング 2」のプロローグとして配信されたケース0。デッドライジング2で描かれる時代の3年前,主人公チャック・グリーンが娘とともに「スティルクリーク」という砂漠の田舎町で遭遇する恐怖が描かれる。
 開発はカナダのサードパーティ,Blue Castle Gamesが中心となって行っており,もちろん,稲船敬二氏らカプコンの開発チームが深く関わっているのは間違いないが,そういう事情から,非常にアメリカンテイストなゲームだと評価されている。
 ちなみに,ケース0が北米でリリースされたのは8月31日だが,日本とオーストラリアでは配信前日に突然一週間の延期が発表され,9月7日に正式にリリースされた。延期の理由は「ゲーム中にふさしくない表現」があったからだとのこと。

 ケース0は,寄り道をせずストレートに遊べば3時間ほどで終わる短いゲームだが,内容をコンパクトにまとめ,5ドル(400マイクロソフトポイント)という比較的手頃な価格で販売されることも,今回の成功につながっていただろう。Shadow Complexのようなフルゲームの場合,通常は15ドル(1200マイクロソフトポイント)程度に設定されることが多いからだ。
 それに加えて,ケース0で得られたアイテムやコンボカードなどを本編に持ち越せるという部分も,お得感を大きく増す効果があったはずだ。

 

グローバルな視点でゲームを考えた“勇敢な挑戦”
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全世界で500万本の販売が見込まれる,“最強のゾンビ・エンターテイメント”「デッドライジング 2」。カプコンの思惑どおりになるかは,今回のケース0がある程度実証しているのではないだろうか。デッドライジング 2のPlayStation 3版とXbox 360版は9月30日,PC版は10月28日リリースされる予定だ

 新たなビジネスモデルの開拓という意味でも,ケース0は興味深い。
 アメリカでは,コンシューマ機のネット対応が本格化した時期からDLC(ダウンロードコンテンツ)を使ったさまざまな試みが行われていた。「Grand Theft Auto IV」「Mass Effect」「Fallout 3」,そして「LittleBigPlanet」などがリリースされた2008年頃には,企画段階からDLCの販売を念頭に置いて作品が作られるようになったというのは,本連載の第261回「ゲーム企業が開拓する,ネット時代の新しい販売方法」でも紹介したとおりだ。

 その一方,そんなDLCの動向を静かに見守っていたという印象が強いのが,日本のメーカーだ。DLCに限らず,ソーシャルゲームやシリアスゲーム,デジタル販売,ゲームオンデマンド,そしてクラウドコンピューティング(クラウドゲーミング)など,新分野の開拓に関して日本は常に後発か,もしくは静観の立場をとっており,ゲームビジネスの多様化についてはあまり興味がないように思われていた。

 それだけに,本編をリリースした後でDLCを投入するのではなく,正式発売の1か月も前に,スタンドアロンで遊べるDLCを配信するという,今回のケースは,ビジネスモデルの新境地を開いたという点からも非常に興味深い。
 「デモを販売しただけ」という人もいるかも知れないが,たとえプレイ時間は短くともケース0には独自のストーリーがあり,北米の市場でも価格に見合うだけの価値を持った「単体ソフト」だと評価されている。レベルやアイテムを本編に持ち越せることは,プレイヤーにとって利益であり,制作サイドから見れば,マーケティングや広報面で本編につながる大きな意味を持っている。

 価格設定も,iPhoneなどのモバイルゲームと十分に対抗できるものであり,こうしたことを考えると,おそらくカプコンは,相当な時間をかけて周到な戦略を練り上げたのではないかと感じられる。ケース0の成功を受けて,欧米ゲーム市場では,こうしたプロローグ型DLCが注目されていくことになりそうだ。カプコンの挑戦は,十分に賞賛される価値があるものなのだ。

 現在,ケース0のメタスコアは79点(36メディア)で,ユーザーの平均点は8.5点(10点満点)と,なかなかの成績を挙げている。結果としてはよかったが,もしケース0の評価がさんざんなものであれば,当然本編の販売にも影響を与えるだけに,その点からも勇敢な実験だといえそうだ。発売後のデッドライジング 2の動向にも,注目していきたい。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けている。2004年に開始された本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,4Gamerで最も長く続く連載だ。
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