業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第261回:ゲームにまつわる,ちょっと笑える「笑えない話」
一般のニュースサイトに登場するゲームの話題といえば,ほとんどが暴力ゲームの是非に関するものや,プレイのしすぎによる肥満を注意するものなど。とはいえ,時にはゲームサイトにも書かれないような,ちょっと不思議なネタが掲載されていることもある。今回は,そんなちょっと笑えるような笑えないようなニュースをお届けしよう。
アメリカやイギリスでは,発売初週にセールストップに躍り出るなど,なかなか好調な様子の「Tom Clancy’s Splinter Cell: Conviction」。ゲーム中,主人公のサム・フィッシャーが一般人にピストルを向けるシーンなんてないはずだが,いったいどんな設定のマーケティングだったのだろうか
ニュージーランド最大の都市,オークランドにあるバー「Degree」は,海に向かったオープンテラスを備える,欧米で今流行中の「ガストロバー」タイプのシャレた店だ。地元で採れる新鮮な海産物を使った,さまざまなオツマミを取りそろえる人気店だが,ある夜,そんなDegreeの前に,片手に包帯を巻き,もう一方の手に黒いピストルのようなものを持った不審な男が現れた。
テラスには20人ほどの客が座っていたが,Degreeに入ってきた男はおもむろに客に銃を向け,威嚇し始めたので,たちまち大騒ぎに。誰かが「ヤツは拳銃を持っているぞ」と叫び,それを聞いた店外の人が通報したことで警察が到着。結局,男は警官に取り囲まれてあっさり御用になったのだ。
ところが,この男が持っていたピストルは,プラスチック製のオモチャ。なんと,彼はマーケティング会社に雇われた役者で,ニュージーランドで発売されたばかりのアクションゲーム,「Tom Clancy’s Splinter Cell: Conviction」のプロモーションをしていたという。
このプロモーションを仕掛けたMonacoというマーケティング会社は,Ubisoft Entertainmentだけでなく,カシオや東芝,パイオニアといった有名企業のほか,ゲーム関連ではセガなどもクライアントに持つ,ニュージーランドではかなり大手の会社のようだ。
こうした,公共の場所で許可なく行われる宣伝活動は“ゲリラ・マーケティング”と呼ばれる,よく知られた手法だが,それにしても,何も知らない客にピストルを向けて脅すような行為は,どう見ても行き過ぎだ。
20人ほどの客しかいない場所での宣伝活動というのも,あまりに局地的過ぎるように思えるし,Degreeのマネージャーが,「銃を向けられていた人は,かなり怯えた様子だった」と話すなど,ゲームの宣伝にはまったくなっていなかったとしか思えない。終わってみれば,ずいぶんと迷惑な話である。
なお,この役者と彼の活動を近くから見ていたManacoのマネージャーは,警官から口頭で注意を受けただけで,逮捕や起訴はされていないという。「こんな騒ぎにはなるとは思いませんでした」とはマネージャーは言うものの,もしかすると,この出来事がテレビや新聞に取り上げられ,ニュースになるところまで含めての宣伝活動だったのかもしれない。だとすると,こうして日本の皆さんにお知らせしている筆者もまた,宣伝活動の一翼を担っているということになりそうで,うーん……。
続いて,「WiiFit」に夢中になっていた人が性依存症になってしまったというお話。イギリスのマンチェスター在住のアマンダさん(24歳 女性)は,ある日遊んでいたWiiFitのバランスWiiボードから落ちてしまい,それ以後,一日に10回前後,性的な興奮を求めなくてはならない状態になったという。
医師によれば,これは彼女の狂言でもなんでもなく,2002年に医学的に認められた「Persistent Sexual Arousal Disorder」(PSAD)という症例とのことで,アメリカで人気の医療ドラマ「グレイズ・アナトミー」で2008年に放映されたエピソードから欧米で広く知られるようになった。アマンダさんの場合,転んだときに神経を傷つけたことが原因になっているらしい。
ケータリングの仕事をしているというアマンダさんだが,記事によるとフードプロセッサーやミキサーの振動や,果てはポケットに入れた携帯電話の振動までに反応してしまうのだとか。不謹慎なことも考えてしまいそうだが,こんなことが精神的な欲求もないまま毎日何度も起きているのだから,苦痛以外のなにものでもないはずだ。
現在のところ,PSADに対する効果的な治療法はないようで,アマンダさんは衝動に駆られるたびに深呼吸して気持ちを抑えることが精一杯だとか。
アマンダさんが楽しんでいたWiiFitは,基本的にフィジカル面の健康管理に役立つゲームであるが,残念ながらメンタルな部分での健康管理をすすめる力はない。日本では,脳トレ系をはじめ,こうしたジャンルへの興味が高いこともあり,あんがい,こういった事例が契機となって,メンタルやリハビリに有用なゲームやデバイスの研究が進んでいったりするのかもしれない。
ゲーム販売サイトに,気づかずに魂を売ってしまった人はなんと7500人。アメリカやヨーロッパには宗教系のジョークに敏感な人も少なくはないので,エイプリルフールとはいえ,これはかなり危険なお遊びだ。そういえば最近,筆者も同意文書なんて読んでないなあ
ゲームソフトのオンライン販売サイトやインターネット通販などでショッピングするとき,必ず出てくる“同意文書”。「購入した商品の返品はできません」「不正な複製や内容の改ざんは違法です」などといったことが長々と書かれており,多くの人がほとんど読まずにスクロールダウンしているのではないだろうか。とくに海外サイトの場合,堅苦しい法律用語が含まれた長い英文を読み進めるのは至難の業だが,それはなにも日本人に限ったことではなく,英語圏の人達も同じらしい。
さて,その同意文書の中に,こんな一節があったらどうだろうか。
「西暦2010年,4の月の始まりの日,このサイトでオーダーした人は,あなたの魂を我々に譲り渡すオプションに同意するものとします。魂はいっさい返却できません。もし,これに同意しない場合は,5日以内に当サイトにご連絡ください。
また,同意しない場合,ご自分で6フィート分の釈明書に火をつけて灰にしていただくことも可能ですが,この場合に起こり得るいかなるダメージの責任も当方は負いかねます。
もし,
- a)あなたが死後の魂など存在しないと考えている場合
- b)ほかのグループにすでに魂を譲り渡している場合
- c)このような譲渡に賛同しない
場合には,ここを抜けてショッピングをお続けください」
もちろん冒頭の日付を見れば分かるように,これはイギリスのゲーム販売サイトGameStationが行ったエイプリルフールのジョークだ。釈明書に火をつけて……というくだりはカルト的な儀式を連想させるもので,魂を売る相手がGameStationという皮を被った悪魔であるというニュアンスを持たせた,イギリスらしいブラックジョークだ。
しかし,これをよく読まずに一気にスクロールダウンし,うっかり魂の譲渡に同意してしまった人が,なんと7500人もいたというから驚きである。
同意しなかった人は,ジョークのおわびとして5ポンド(約700円)分のギフトクーポンをもらえたというのに,その日の全購入者のうち,実に88%の人が「自分の魂とひきかえにゲームを買ってしまった」という。
こうした文書は,法的に内容が決められているわけではなく,サイト側が自由に記述できる。つまり,内容は各社の良心に沿って書かれているわけで,ひょっとしたら世界のどこかには,本気で魂の所有権を主張するような注意書きが存在するかもしれないのだ。
もちろん,GameStationの場合は,魂を渡すことに同意したすべての人にメールで「これはジョークで,魂を受け取る権利は放棄する」という通知を行なったという。
不気味といえばちょっと不気味な話だが,いずれにせよ,GameStationは「同意文書など誰も読まない」ことだけは証明してみせたといえるだろう。
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