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印刷2009/07/17 11:34

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第226回:ゲーム業界に広がる,「ロングテール」に続く新たなトレンド

奥谷海人のAccess Accepted

 やや使い古された感じのする「ロングテール」という言葉だが,デジタル流通システムの発展により,欧米のゲーム市場でもロングテール効果が見られる。もはや,PCゲーム市場の半分を担うまでに成長したと言われる,このデジタル流通システムで,ロングテールならぬ「テール蘇生」で活路を見出している,GOG.comを中心に,最近の欧米ゲーム業界のトレンドや現状を考えてみよう。

第226回:ゲーム業界に広がる,「ロングテール」に続く新たなトレンド

 

ゲーム業界にロングテール効果を生み出したデジタル流通
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「Fallout」(1996年)や「Postal」(1998年)など,ロートル選手をフィーチャーしているGood Old Gamersのモットーは,「あなたの10歳の息子より,上手にプレイできるゲームを揃えています」。良いゲームは新旧問わず,必ず買い手があるという信念のもと,数あるデジタル流通サービスの中でもユニークな立ち位置を築き上げている

 ITビジネスに興味のある人なら,必ず耳にしたことのあるであろう言葉,“ロングテール”(The Long Tail)。ロングテール効果(あるいはロングテール現象)とは,ごく簡単に言うと「インターネットを介した販売を行うことで,すでに商品価値を失っている古い商品でも,ある程度の収益になり続ける」という意味だ。商品の売り上げをグラフにした場合,初期売り上げの伸びがヘッド(頭)となり,その後は急激に販売数を減らしながらもテール(尻尾)のように続くことが語源だといわれているが,インターネットのバーチャル店舗であれば,半永久的に商品を棚に置いておけるため,たとえわずかでも,長期間の売り上げが見込めるわけである。

 もともとロングテールとは,アメリカの情報誌「Wired」で2004年頃から使われだした言葉で,Amazon.comやビデオ/DVDレンタルのNetflixなど,デジタル流通システムを採用した企業のビジネスモデルを説明するためのキーワードだった。ゲーム業界で言えば,ちょうどValveの「Steam」や,IGN Entertainmentの「Direct2Drive」,そしてヨーロッパの「Metaboli」などが出てきた頃である。

 それまでの北米ゲーム市場は,GamestopやWalmartといった従来の小売店/量販店での販売に依存していた。決して広くはない売り場に並んだ商品棚に置いてもらえるのは,一般的に長くても6か月。よほど人気のあるソフトや,俗に“ディストリビューション・フィー”(流通費)と呼ばれる特別料金を販売会社が支払わない限り,それ以上の期間は難しい。資金的に余力のない販売会社のタイトルなら,発売から6か月が過ぎればバーゲンビン(Bargain Bin)と呼ばれる大きな箱の中に無造作に投げ込まれ,叩き売られるのが従来型の“ショートテール”にある商品の行く末だった。

 そんな状況が大きく様変わりしたのは,デジタル流通システムが登場して以降,5年ほどのことだ。デジタル流通であれば,実際のパッケージやディスクを取り扱う必要もないため,サーバー上に半永久的な商品棚を作れる。また,この連載でも何度となく書いてきたように,違法コピー対策や流通経費の削減が実現できるなど,メリットは大きい。
 ロングテール効果を持つデジタル流通システムはコンシューマ機市場にも広がり,いずれ登場する次世代機では,さらに踏み込んだ流通の仕組みが開拓されるものと期待されている。

 もっとも,問題がまったくなかったわけではない。これまで,Steamなどのサービスがどれほどの規模に成長しているのかは各ディストリビュータの秘密とされ,NPD Groupなど大手市場リサーチ会社でさえアンタッチャブルな情報だったのだ。私企業のやっていることだから,公開の義務はないといわれてしまえばそれまでだが,ゲーム業界全体にとってはあまり良いことではないだろう。

 そんな状況もゆっくりとだが変わりつつある。例えば,現在650タイトルのライブラリを誇るSteamだが,そのほとんどはサードパーティのソフトが占めており,そうしたサードパーティは販売数の評価を求めている(つまり,「こんなに売れた」とアピールしたいのだ)。そのため,自主的にデジタル流通システムによって販売された本数データをリサーチ会社に公開する事例が増えているようで,徐々にデジタル流通システムの規模が見えはじめているのだ。

 こうした情報を総合して「2009年度のデジタル流通システムの市場規模は1億ドル(約950億円)に達する」と予想するのは,イギリスのリサーチファーム,Chart-Trackである。この数字が事実だとすれば,これはPCゲーム市場の半分を超えており,デジタル流通システムの急成長を物語っている。

 

一度は商品価値を失ったソフトが甦る
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この記事を書くにあたって,GOG.comから「Evil Genius」をダウンロードして遊び,思わず連載を落としそうになってしまった。ああ,なんて面白いゲームなのだろうか。このゲームを開発したDemis Hassabis(デミス・ハサビス)氏はBullfrog時代,わずか16歳で「Theme Park」を生み出した天才少年。チェス界のグランドマスターの称号も持つ人物だが,このEvil Geniusを最後に若くしてゲーム業界を引退している

 そんなデジタル流通システムが,ロングテールに続く新たなトレンドを作り始めているようだ。「Good Old Games」(以下,GOG.com)という,古いゲームに特化したサービスがその好例といえるだろう。「The Witcher」という玄人好みのRPGを送り出したポーランドのCD Projektが2008年に立ち上げたGOG.comは,もはやロングテールにさえ含まれない,忘れられたタイトルを買い入れたり,安価にライセンスすることで,一年も経たないうちに130作を超えるライブラリを作り上げたのだ。中には,無料で配布しているゲームもあるから驚きだ。

 GOG.comのユニークさの一つはDRM(Digital Rights Managements),いわゆる不正コピー防止プログラムがないことだ。いったんダウンロードすれば,プレイヤーがそれをDVD-ROMにコピーするのも自由だし,ほかのPCでプレイすることも可能である。すべてのタイトルの価格が10ドル未満で,メインプライスが6ドルという価格に抑えられているため,わざわざ苦労してコピーするモチベーションを低下させているのだ。

 “古いソフト”といっても,「Unreal Tournament 2004」や「Far Cry」,「Evil Genius」といったヒット作も多く,すべてが骨董品というわけではない。あまり聞きなれないヨーロッパ産のアドベンチャーやストラテジーに加え,「MDK」(1997年)や「Freespace」(1998年)「Kingpin: Life of Crime」(1999年)といった,メーカーの倒産によって売却されたInterplay Entertainmentの一連の秀作も揃っており,ラインナップは豊富だ。
 さらに,「Blackstone: Aliens of Gold」(1993年)や「Duke Nukem 3D」(1996年)など,年季の入ったMS-DOS時代のタイトルは,CD Projektオリジナルのエミュレーションソフトを使うことによって,Windows XP/Vistaでも問題なくプレイできるようになっている。

 本やDVD/ビデオなどとは異なるゲームの特性として,「古いタイトルが現行機種で作動しない」という点が挙げられる。名作といわれるゲームでさえ,当時遊んだ人々の間でしか体験を共有できず,時間が経つにつれプレイそのものが難しくなる。
 過去のヒット作を最新技術を利用してリバイバルさせた作品も増えているが,基本的にこれは別のものだ。たとえストーリーやキャラクターが同じでも,グラフィックスや操作性が変化すれば,元になった作品と同じとはいえないからだ。
 映画ならいつでも見ることができ,ときには過去の作品が再評価されて映画史に名前を残すこともあるだろう。だがゲーム開発者は,時代と共に急速に進歩するハードウェアに沿った形でゲームを提供し続けなければならない。コンシューマ機用,PC用を問わず,ゲームは映画や小説以上に「時代に応じて消費される物」であり,このあたりがゲーム開発者にとって歯がゆいところであるかも知れない。

 そういう意味で,GOG.comのような試みは非常にユニークだ。フィーチャーされているタイトルの多くが,従来ならゲーム史の彼方に去っていった作品を掘り起こしたものであり,まるでトカゲが尻尾を蘇生させるかのように,過去のソフトに商品価値が与えられ,新しい市場が作り上げられている。
 このようなトレンドは,デジタル流通システムの本家,Steamにも見られ, 2K Gamesからは「X-COM: UFO Defense」(1993年)や「Sid Meier's Civilization III」(2001年)「Prey」(2006年)など,20作にもおよぶかつてのヒット作が,「2K HUGE GAME PACK」として7月2日より5日間の限定でリリースされたりしている。

 現在,不況のただ中にある多くのゲームメーカーは,少しでも利益を得ようと,一度は切れてしまったテールを蘇生し始めた。
 筆者としては,そういうビジネス的な視点だけでなく,過去の名作を作ってきた開発者達の顔を思い浮かべて感慨に浸ったり,GOG.comのラインナップを眺めて「ああ,このゲームは今の人達にも遊んでほしいなあ」などとベテランゲーマー面をしたりして楽しんでいる。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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