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印刷2009/07/10 12:34

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第225回:あのメックが帰ってくる?

奥谷海人のAccess Accepted

 BattleTechをゲーム化した「MechWarrior」といえば,PCゲーム史に燦然と輝く一人称視点のコンバット・シミュレーションシリーズだ。第一作のリリースから満20年となる今年,その最新タイトルのものと思われるムービーがYouTubeに流れ,アメリカの古参ゲーマー達の間で話題になり,ついに現地時間の7月8日,デベロッパから開発の発表が行われた。さまざまなパブリッシャやデベロッパの間を渡り歩き,PCゲーム業界の成長と共に進化してきたMechWarrior,今回は,そんな興味深いメックの過去を振り返ってみたい。

第225回:あのメックが帰ってくる?

 

バーチャルリアリティの代名詞ともなった“BattleTech”
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この画像は,アップされたムービーをキャプチャしたものだ。メックらしき機体が人影のない街をのし歩く短いクリップばかりだが,ジェットを使って飛んだり,地面を揺らしながら進んでくる様子が見られる。また,海外ゲーム情報サイトのIGNでは,メックの一つであるWarhammerが戦う壮絶なインゲームシーンを収録したムービーも公開されている

 「アーマードコア」から「トランスフォーマー」まで,ロボットを操作するアクションゲームは数々あるが,ベテランの海外ゲームファンにとって最も懐かしい名前はやはり「MechWarrior」だろう。第1作「MechWarrior」が登場したのは,ちょうど20年前の1989年。今はなき名門デベロッパ,Dynamixが,当時話題になっていたボードゲーム,「BattleTech」をライセンスして開発したものだ。二足歩行の戦闘兵器メックによる戦いを描いた本作はゲーマーの人気を獲得し,続くシリーズはパブリッシャのActivision(後にはMicrosoft)の看板タイトルとして1990年代のゲーム市場を賑わした。
 そんなMechWarriorの,シリーズ五作目となるタイトルが開発中であることが明らかになったのだ。
 そもそもの発端は,YouTubeに掲載された三本のビデオクリップ。どう見てもメックとしか思えないロボットが,廃墟のような街を徘徊しているシーンが映し出されるもので,ムービーを見たファンを起点に噂が広がり,「ついにメックが」という期待があちこちで聞かれるようになった。どれも10秒以内の短いムービーだが,YouTubeから「Piranha Games」で検索すれば見つかるはずだ。

 そしてついに,現地時間の7月8日,カナダのパブリッシャPiranha Gamesがシリーズ最新作の制作を発表したのである。詳細については後日にゆずるが,スクリーンショットとムービーが公開され,そこには最新のグラフィックス技術によってパワーアップした懐かしのメックの姿が見られる。
 これに合わせて,BattleTechの公式ファンサイト“BattleTech”“MekTek.net”で,後述するSmith & Tinkerが版権を保有している第4作「MechWarrior4: Vengeance」を無料で配布することも決まった。このMechWarrior 4がリリースされたのは2000年,そして最後の公式拡張パックとなった「MechWarrior 4: Mercenaries」が登場したのが2002年11月のこと。
 実に7年ぶりの新作発表となったこのタイミングに合わせ,今回は改めてMechWarriorシリーズの過去を振り返ってみたい。

 MechWarriorのベースとなったBattleTechは,ジョーダン・ワイスマン氏らが設立したFASA Interactiveによって1984年に開発された。バトルドロイドと名づけられたオリジナル版のロボット達は,「超時空要塞マクロス」に出てくるロボットを思わせたが,やがてバトルメックと改名され,そのスタイルも戦車を思わせる重装甲のものに変更された。
 もともと拡張パックの名前だった,“MechWarrior”というタイトルを付けたPCゲームが登場したのは,前述したように1989年のことだが,実はその人気を後押ししたのは,1990年にシカゴで登場したアーケード版のBattleTechだった。
 これは,「テスラポッド」と呼ばれるコクピット型のマシンに乗って,LANで接続された最大16人のプレイヤーがロボットを操作して戦うもので,ライド型のアーケード筐体の先駆けといえるかもしれない。

 このマシンを並べたBattleTech Centerは,当時流行した「バーチャルリアリティ」という言葉と相まって大人気になり,シカゴを皮切りに全米の大都市,そして世界中に広まる。「郊外のテーマパークに出かけなくても街の中で楽しめる」と長い行列ができるほどブレイクし,PCゲーム版のMechWarriorは,どちらかといえばそんなバーチャルライドを家庭でもプレイできる,という位置付けだったかも知れない。

 

PCゲーム史におけるMechWarriorの業績
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 3Dグラフィックスの隆盛と共に登場したMechWarrior 2。1996年4月にはマルチプレイを可能にする拡張パック「NetMech」も登場した。インターネット対戦を可能にするKaliというソフトにも対応し,最大8人の戦いが楽しめるようになっていた。ちなみに,このあとMechWarriorのライセンスを失うことになるActivisionは,「Heavy Gear」というロボットアクションを制作している

 BattleTechをPCゲーム化したものは,実はMechWarrior以前にもあった。「BattleTech: The Crescent Hawk's Inception」という作品は,バトルメックに搭乗するパイロットを主人公にしたRPGで,開発したのは,のちにCommand & Conquerシリーズのヒットで知られるようになるWestwood Studios。古参ゲーマーであれば「Zork」シリーズで思い出すInfocomをパブリッシャとして1988年にリリースされているものの,あまり話題にならなかったようだ。

 BattleTechのPCゲームといえば,やはりロボットシミュレーションの認知度を押し上げたMechWarriorだ。最初のMechWarriorは,上記のInfocomがActivisionによって買収され,ライセンスが移譲されたことによってActivisionが制作/リリースしたもので,パイロット視点でメックを動かし,広いマップを自由に動きながら敵と撃ち合うというシステムだった。
 このMechWarriorをFPSの嚆矢とする人もいるが,一人称視点を採用したゲームそのものは,1980年代のRPGやアクションゲームですでに登場しており,流れとしてはドライブシミュレーションの拡張に近いと見るべきだろう。実際,Dynamixは「Skyfox」(1984年)や「Abraham Battle Tank」(1987年)といったミリタリー系シミュレーションを以前からリリースしてきた経験を持っていた。

 転機が訪れるのは1990年,高度なシミュレーション技術を保有していたDynamixをSierra On-Lineが買収したときだ。このため,ActivisionはMechWarriorシリーズの自主開発を行わなければならなくなり,第2作のリリースまでに,当時としては長めの6年という歳月がかかってしまう。
 ちなみに,この開発部隊はやがてPandemic Studiosとして独立し,2007年にElectronic Artsに買収される。現在「The Saboteur」を制作しているのがこの部隊だ。

 一方のDynamixも,このMechWarriorの経験を活かして,「MetalTech: Earthsiege」(1994年)や「Starsiege: Tribes」(1998年)といった名作をSierra On-Lineからリリースすることになる。その技術の系譜は,Dynamixが解体されたあとに設立されたGarage Gamesの「Torque」エンジンまで続いており,今ではロボットゲームとはなんの関係もないように見えるPandemic StudiosとGarage Gamesだが,実はMechWarriorとは浅からぬつながりを持っているのだ。

 とにかく,Activisionからようやく1995年8月にリリースされた「MechWarrior 2: 31st Century Combat」は,ゲーム新時代の幕開けを告げるにふさわしいタイトルだった。当時としては珍しい,ポリゴンで描かれた3D世界を自由に動き回ることが可能になっただけでなく,各社から3Dグラフィックスアクセラレーターが販売されるや否や,それぞれのチップに対応したバージョンを次々とリリースしていったのである。
 ATIの「3D Rage」やMatroxの「Mystique」,S3の「3D Virge」への対応に加え,3Dfxの「Voodoo」では同社の独自API「Glide」を使用する最初のゲームの一つとなり,800×600ドットでMechWarrior 2を堪能できた(※社名はすべて当時のもの)。「初めての本格的な3DゲームはMechWarrior 2」という古参ゲーマーは,日本でも多いのではないだろうか。欧米メディアによる「PCゲームTop 100」の一つとしてMechWarrior 2が選ばれることは多くあり,現在でも遊び続けている根強いファンもいるようだ。

 

さまざまなメーカーから発売されてきたMechWarriorシリーズ
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MicrosoftからリリースされたMechWarriorシリーズ最後の作品は,MechWarrior 4の拡張パック第2弾で,2002年11月にリリースされた「MechWarrior 4: Mercenaries」(画像)だ。これまで,ファンによってさまざまなMODがリリースされてきたが,ファンサイトである“BattleTech”“MekTek.net”では,MechWarrior 4を無料配布するという

 Voodoo 3時代に入った1999年に登場したMechWarrior 3を販売したのは,直後にHasbro Interactiveに買収されるMicroproseだった。MechWarrior 3は,3Dグラフィックスがアクションゲームにとって必須になりつつあった頃の作品で,その映像クオリティも当時の最先端とまではいえなくても,かなりハイレベルなものだったのではないだろうか。ゲーム性はFPSを強く意識したものだったが,当時,FPSは巨大なジャンルに成長しており,次々に登場する新作の中に埋もれてしまった感がある。
 MechWarrior 3の開発を担当したのは,Zipper Interactiveだ。のちにSony Computer Entertainmentに買収され,「SOCOM」シリーズを手がけることになる開発チームである。

 次のパブリッシャとなったMicrosoftからMechWarrior 4: Vengeanceが発売されるのは,3のわずか1年後,2000年11月のことなのだが,ここに至るまでの経緯はいささか込み入っている。
 MicroproseにBattleTechのゲーム化権を渡したFASA Interactiveは,自分達でもPCゲームの開発に乗り出しており,1998年には「MechCommander」をリリースしていた。MechWarrior 4: Vengeanceを開発したのも,実はFASA Interactiveだった。

 1999年,FASA Interactiveは,すでに人気が下火になっていたBattleTech Centerを経営するVirtual World Entertainmentと合併するのだが,その新会社を丸ごと買収するという形で傘下に収めたのがMicrosoftだ。
 そして,この買収から一年も経たないうちにMechWarrior 4: Vengeanceがリリースされたということは,Zipper Interactiveが3作目を開発していた頃からすでにFASA Interactiveも独自にゲーム開発を開始していたということになりそうだ。
 この頃のMicrosoftは,Xboxのローンチに必要な自社内部の開発部隊(後のMicrosoft Game Studios)の急速な拡充を図っており,その一環としてFASA Interactiveと,なによりMechWarriorシリーズの権利を手に入れたかったのだろう。

 もっとも,FASA Interactiveは2007年,「Shadowrun」をリリースしてまもなく解体されてしまう。このとき,BattleTechのゲーム化権を買い戻したのが,オリジナルのボードゲームのデザイナーであったジョーダン・ワイスマン氏なのである。
 ワイスマン氏は,Shadowrunがリリースされる前後に独立し,Smith & Tinkerという新しい会社を設立して,BattleTechやShadowrunなど,旧FASA Interactiveの権利をすべて取り戻している。このSmith & Tinkerがゲーム開発を委託したのが,最新作の開発を発表したPiranha Gamesというわけだ。

 ここまで,足早にMechWarriorの歴史を紹介してきた。日本の読者の中には,MechWarriorシリーズがどうしてこんなに多くの会社からリリースされてきたのか不思議に思っている人も多いだろう。本作は,以上のように,さまざまなメーカーの思惑に翻弄されたシリーズだったのだ。
 さあ,果たしてMechWarriorの新作は,どのパブリッシャからリリースされることになるのだろうか。ゲームの詳細は?
 ちなみに,Piranha Gamesの前作は映画「トランスフォーマー: リベンジ」をゲーム化した「Transformer: Revenge of the Fallen」(Xbox 360版 / PLAYSTATION 3版)。ロボットゲームの開発には,文句なしの経験を持っている。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
サンフランシスコ在住の4Gamer海外特派員。ゲームジャーナリストとして長いキャリアを持ち,多様な視点から欧米ゲーム業界をウォッチし続けてきた。業界に知己も多い。本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,連載開始から200回以上を数える,4Gamerの最長寿連載だ。
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