お気に入りタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

最近記事を読んだタイトル/ワード

タイトル/ワード名(記事数)

LINEで4Gamerアカウントを登録
特集記事一覧
注目のレビュー
注目のムービー

メディアパートナー

印刷2009/04/03 18:55

連載

奥谷海人のAccess Accepted / 第212回:GDC09に見るゲーム業界の最新トレンド

奥谷海人のAccess Accepted

 業界のリーダーが集まり,ゲーム産業の現状や今後について語り合うGame Developers Conference。2009年は,3月23日から3月27日までの5日間,カリフォルニア州サンフランシスコで開催された。印象として,開発の効率化を図ろうという動きが以前に比べて顕著になっただけでなく,iPhoneやFacebookのようなハード/サービスを対象に,既存のゲームビジネスの概念にとらわれない考え方も多く見られた。100年に一度の大不況といわれる今,ゲーム業界もその事実を深刻に受け止め,打開策を模索しているようだ。

第212回:GDC 09に見るゲーム業界の最新トレンド

 

iPhone,iPhone,iPhone……
image

EA在籍時代には,新市場の開拓や実験的な作品を手掛ける,EA Blueprintを率いていたヤング氏。彼が設立したngmocoは,すでにiPhone/iPod touch用ゲーム会社として,確固たる地位を築いている

 2009年のGame Developers Conference(以下,GDC)で最もホットな話題だったのが,iPhone/iPod touch向けのゲームアプリケーションだろう。2008年末の時点でiPhoneのワールドワイドな販売台数が1740万台に達したといわれており,「手軽に商売が成立する(かもしれない)新たなゲームマーケット」として脚光を浴びているのだ。
 これは,2009年を最後にAppleがMacworld Expoに参加しないことを表明したため,同イベントの集客力が大幅に落ち込むことが予想され,発表の場所を探すiPhone向けゲーム開発者の多くがGDCに流れ込んできたせいもあるかもしれない。
 実際,モバイルゲームやビジネス系のレクチャーの聴講者は,MacBookを使用している人が多く,個人的な感想だが,今まではあまり見られなかった光景である。

 GDC期間中に開催されたカンファレンス「GDC Mobile」の基調講演を行なったのは,元Electronic ArtsのエグゼクティブプロデューサーであるNeil Young(二―ル・ヤング)氏だ。2008年6月にiPhone/iPod touchアプリ専用の販売会社,ngmocoを設立した彼は,この講演でiPhone/iPod touchアプリは一日平均で167本がリリースされていること,そして人気アプリTOP100の60%はゲームだと語っている。
 現在,北米でのiPhone/iPhone 3Gの販売台数はプレイステーション・ポータブルの半分,ニンテンドーDSの3分の1程度ではあるが,まだまだ伸びしろがあるマーケットだというわけだ。アイテム課金などを実現する「iPhone OS 3.0」が正式になれば,革新的な“ゲーム機”としてブレイクする可能性は十分にあるだろう。

 新し物好きな投資会社も,iPhone/iPod touch市場に興味を示しており,ngmocoも1年足らずで15億円近い資金を集めている。もっとも,開発や販売が容易なiPhone/iPod touch市場では,一握りの良質なアプリケーションが,大量の凡作に埋もれてしまうケースが見られ,今後はApp Storeの整備なども必要になってくるだろう。

 

欧米の開発現場では制作パイプラインが急速に体系化
image

Epic Gamesのロッド・ファーグソン氏は,「常にプロジェクトを客観的に見て,悪い部分だけにフォーカスしないように心がける」と語る。画像は,そんな彼が陣頭指揮を執って完成させた「Gears of War 2」

 今回のGDCは,BioWareのRick Vogel(リック・ヴォーゲル)氏,BungieのAllen Murray(アレン・マーレイ)氏,Epic GamesのRod Fergusson(ロッド・ファーグソン)氏,そしてMedia MoleculeのSiobhan Reddy(ショバーン・レディ)氏といった,第一線で活躍しているプロデューサー達が参加し,いつになく豪華なメンバーが揃っていた。

 ゲーム開発におけるプロデューサーには,開発資金の調達やスケジュールの調整,チームの管理,さらにはテストの準備やライセンス交渉など,非常に多くの業務をこなせる能力が求められる。そのためアメリカのゲーム業界では,プロデューサーの年俸は平均して8万9000千ドル(約850万円),さらにエグゼクティブクラスになると平均して12万5000ドル(約1200万円)というから,まさに花形職である。

 そんなプロデューサーの最大の関心事は,「いかに効率良くゲームを開発するか」ということに尽きる。評価バージョンの作成やマスターアップ前の数週間を,アメリカでは“クランチ・タイム”と呼んでおり,オフィスに泊まり込むような事態が日常的に発生する。クランチ・タイムの間に高まるストレスや家族と会えないことからくる憂鬱さなどから,職を辞する人も少なくないという。
 そんな悲惨な状況を少しでも緩和し,よりスムースに開発が行えるようにすることがプロデューサーに求められるわけだが,従来,そうしたことはプロデューサー個人の経験や力量に委ねられてきた。しかし,ここ5年ほどは,プロデューサー職のノウハウや情報が共有されるようになり,多くの開発チームがその恩恵を受けている。GDCはその流れに大きな寄与をしているわけだ。
 大作の続編ながら,たった2年で開発を終えて400万本のセールスを記録した「Gears of War 2」は,その典型的な例だろう。本作のプロデューサーだったファーグソン氏は講演で,「Gears of War 2の開発にクランチタイムはなかった」と語るほどである。

 現在のアメリカでメジャーになっているのは,2年前のGDCでレクチャーが行われた「Agile」と呼ばれるゲーム開発手法だ。Agileの一つであるScrum方式は,Epic GamesやBioWare,Valveなどでも取り入れられているが,つまり開発チームを小さなグループに分け,それぞれが反復的に作業を進めていくというスタイルだ。部分的な目標に対して開発を進めていくこのやり方では,個々のグループの目的が理解しやすく,プロデューサーもスケジュール管理が容易になる。
 こうしたAgile/Scrum手法を中心に,最近では各社がそれに独自のアレンジを加えているようで,今回のGDCではBioWareが,Iterative Level Design Processという手法で「Mass Effect 2」を開発しているという講演も行われている。

 

次々に登場する流通プラットフォーム
image

iPhoneを使って自分をライブ中継しながらポーカーを楽しむ「Texas Hold' Em」は,新しいソーシャルゲームとして注目されるスタイル。ビジネスモデルはギャンブルに近いが,まだFacebookやiPhoneに対する法的規制はまったくといっていいほど整っておらず,それだけに「今が儲け時」と考えるメーカーもいるようだ

 ゲーム産業が誕生してからおよそ35年が経過したが,ビジネスモデルの中心に常にあったのは,「特定のハードウェア向けのソフトウェアをパッケージ販売する」というものだった。パッケージを小売店の棚においてもらうにあたって「ディストリビューション費用」と称する料金を小売店に支払う慣習がアメリカにあり,よほどのヒット作でもない限り,中小規模のメーカーにはそれが負担になっている。

 ご存じのように,小売店での露出が減ったPCゲームは,販路をブロードバンドを利用した流通システムに求め始めた。2003年にサービスを開始したValveの「Steam」は,2009年2月に2000万アカウントを達成し,現在のライブラリーも600種類を超えている。今ではElectronic ArtsやUbisoft,Rockstar Gamesやスクウェア・エニックスといった大手メーカーが利用するまでに成長した。
 また,「Galactic Civilizations」で知られるStardockは,独自のデジタル流通システムである「Impulse」をスタートさせており,急速にライブラリを増やしつつある。
 さらに,古めのゲームを低価格で提供する「GOG.com」や,Paradoxが運営する「GamersGate」などもあり,各サービスの正式な販売本数は不明だが,PCゲーム市場の約半分は,デジタル流通で占められたといわれている。

 最近,注目を集め始めているのが,FacebookやMySpaceなどを利用したゲーム。それらは,ほとんどがトランプやパズルといったシンプルな内容だが,ワールドワイドのアカウント数として,Facebookが約1億6500万,MySpaceは約1億600万と発表されており,ゲームメーカーが次に狙う市場としては実に魅力的だ。
 例えば,Facebookで脳トレゲーム「The Biggest Brain」をヒットさせたPlayFishは,毎日約250万人が利用するというヒットぶりを見せており,新たに投資家から3億円の資金を得ている。また,Facebookで月300万人のアクティブユーザーを集める「YoVille」というバーチャルワールドを運営するZyngaは,iPhone/iPod touch向けのポーカーゲームのサービスも成功させており,年間30〜40億円ほどの利益が見込まれている。
 以上のように,従来の考え方にこだわらない,新しい流通形態やビジネスモデルを模索する姿勢も,今回のGDCから強く伝わってきた。厳しい経済状況を知恵と技術,そして大胆な行動で乗りきり,将来につなげていこうというわけだ。

 そんな試みの一つである,オンデマンド方式の流通サービス「OnLive」も,GDCで大きく取り上げられており,我々としても気になる存在だ。これについては懐疑的なメーカーやゲーマーも少なくなく,成功するかどうかは現在のところ未知数である。だが,業界の中には既存の流通ビジネスの「終わりの始まり」と語る人もいるほどで,今後の展開が注目される。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。GDCの開催地でもあったサンフランシスコ在住の奥谷氏。いつもなら自宅と会場を往復しているはずなのに,ある晩ほかの取材班が泊まっているホテルにやってきて,「今日はここで食べさせてもらいます」と,夕飯だけを食べて帰っていった。なんでも,その前夜に中途半端な時間に帰ったために,家に食べ物が何もなかったのだという。だから,いつも「GDCは自宅通勤より泊まりがいい」と言っていたのだろう。
  • この記事のURL:
4Gamer.net最新情報
プラットフォーム別新着記事
総合新着記事
企画記事
スペシャルコンテンツ
注目記事ランキング
集計:04月26日〜04月27日