業界動向
奥谷海人のAccess Accepted / 第187回:発売記念 〜 起きるかSpore大旋風
メガヒット間違いなしといわれた「Spore」がついに発売され,前評判通りに快調に売れているようだ。話題作だけあり,その宣伝手法も凝っており,さまざまなプロモーションが行われた。今回はそんな注目作「Spore」にまつわるエピソードを紹介しよう。
サンフランシスコの中心街で
ちょっと小粋なゲリラ広告
サンフランシスコの街の中心にユニオンスクエアという広場がある。ここは,昼になると職場を抜け出してサンドイッチを頬張るビジネスマンらが集まる場所だ。観光スポットにもなっており,望遠鏡が設置されている。そして,その望遠鏡を覗くと,ビルに掛けられた広告が見えるようになっている。実はこれ,Sporeのプロモーションのひとつなのだ。
望遠鏡で見ないと分からない広告を,しかもゲーマーがいるとは限らない場所に設置するというのは,非常に興味深い。大作のSporeということで,National GeographicのTV番組に長めのCMが流されたことに加え,“ゲリラ広告”的なちょっと小粋な手法で,発売が祝されたのだ。まあ,サンフランシスコ限定だが。
サンフランシスコのユニオンスクエアから見て北の方角のビルに,22.5cm x 10cmという非常に小さなSporeの看板広告が掲げられた。広場に固定された望遠鏡でしか読めないサイズだ。書かれているメッセージは下側の画像のとおりだが,ゲーマーでなければ精子バンクの宣伝と間違えてしまうかもしれない
Sporeの開発構想が初めて公になったのは2001年後半のことだ。知る人ぞ知る(?)「4Gamer Magazine」創刊号に掲載した筆者とのインタビューで,Will Wright(ウィル・ライト)氏が本作の名前を出しており,世界的に見て最も昔のSpore関連のニュースの一つだと記憶している。
開発は2003年から始まり,初めて公開されたのが2005年3月に開催されたGame Developers Conferenceのことだった。当時は2006年末に発売されると発表されていたが,その壮大なスケールからか,結局約2年も遅れてしまったのだ。
Sporeは,ライト氏にしては珍しく「Sim」の名を冠していない。それは実に,1984年にリリースされた氏の処女作「バンゲリングベイ」(原題: Raid on Bungeling Bay)以来のことである。もっともSporeというのは当初,プロジェクトの仮タイトルでしかなかったらしく,「Sim Everything」というタイトル名候補があったことを,ライト氏自身が語っていた。
Sporeは生物の進化“すべて”をシミュレートするというのは皆さんも知ってのとおりだ。アメーバのような細胞フェーズから始まり,陸に上がって部族を形成し,やがては都市を建設して宇宙に飛び出す。「サンドボックス型ゲームプレイ」と呼ばれ,粘土やブロック遊びのように何かを作り出して遊べる作品だ。またこれまでのMaxis作品とは大きく異なり,明確なエンディングも用意されている。
Sporeのアニメーションやテクスチャーは,「プロシージャル」と呼ばれる自動生成技術が生かされており,1匹のクリーチャーは数キロバイト程度のデータ量しかない。例えていうなら,クリーチャーの情報がDNA化されてコンパクトにまとめられているようなものだろう。このため,他人の作ったクリーチャーや乗り物データの共有がしやすい。YouTubeに動画をアップロードする機能を含め,Sporeはプレイヤーのオンライン活動を強く意識したデザインになっているのだ。
批判の多さこそ大作の片燐か
Sporeは,プレイヤーの想像力と創造力 ――イマジネーションとクリエイティビティ―― を掻き立てる,非常に興味深いゲームである。宇宙をテーマにすると,なぜかコアゲーマー層にしか受けなかったり,失敗してしまったりするゲームが目立つような気がするが,Sporeはゲーマー以外の人達からも早くから注目されていた。
それは,6月に発売された「Spore Creature Creator」が,300万本も売れたという実績からも分かるだろう。Spore Creature Creatorは,無料で公開されてもおかしくない体験版のようなものだが,今でも週間売り上げチャートに顔を出すほど人気を集めている。これは,Spore本編の成功を保証しているといっても過言ではない。
また映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでフロドを演じたイライジャ・ウッドや,ギタリストのカルロス・サンタナといった50人の有名人にクリーチャーを作ってもらうという,プロモーションも評判がよく,話題作りに一役買っている(関連記事)。
Sporelebrity Galleryは,ハリウッド俳優などのセレブ50人にSporeでクリーチャー制作を試してもらったという,Electronic Arts主催イベントだ。写真はTVドラマ「Heroes」で大人気となったマシ・オカさんと,そのクリーチャーのPakasaur。IQが180以上の元ILM(Industrial Light & Magic)の特殊効果技術者らしい巧さだが,足がないので移動に問題があるかもしれない……。
Spore人気にあやかろうと,地球外知的生命体のリサーチ機関であるSETIは,Electronic Artsと提携(関連記事)。これにより,Sporeを買った人は,TeamSETIというSETIのジュニアメンバーになる会費が安くなり,生命体の探査やリサーチに貢献できる。プレスリリースでは「科学者の私でも,エイリアンの姿を簡単にビジュアル化できるのは素晴らしい」とSporeが絶賛されているのも興味深い。
アメリカでも日本と同様に,若者の理科離れが問題になっている。したがって,こういった取り組みを通して若い人に宇宙への興味を持ってもらおうという狙いのようだ。
そんな期待を背負うSporeではあるが,リリース後から思わぬ反発にあっている。すでにニュースで取り上げたが,アメリカの通販サイトAmazonに掲載された約2000件のレビューのうち,なんと1800件以上が,最低評価(一つ星)を下しているのだ。
実際に読んでみれば分かるが,それらのレビューの多くはゲームの内容については書かれておらず,コピープロテクトのSecuROMを搭載していることに対する不満がメイン。同じElectronic Artsが2008年5月に発売したPC版「Mass Effect」も, SecuROMによってコピープロテクト対策が行われていたが,ここまでの騒ぎにはならなかった。Sporeを購入した人の数が多いために起きた事態といったところだろう。Amazonに掲載された膨大な一つ星というのも,ある意味Sporeというゲームの大きさを物語るエピソードの一つかもしれない。
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※9月19日のAccess Acceptedは,Austin Game Developers Conference取材のため休載いたします。ご了承ください。次回の更新は9月26日となります。
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