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印刷2008/07/25 16:08

業界動向

奥谷海人のAccess Accepted / 第181回:E3は誰のためのイベントになったのか

奥谷海人のAccess Accepted

 7月15日から17日までロサンゼルスで開催されたE3 Media & Business Summit 2008には,前回のイベント終了後と同じように,否定的な意見が多いようだ。2007年の場合は,会場がいくつにも分かれていたので,参加者の少なさは目立たなかった。だが,ロサンゼルスコンベンションセンターは,5000人程度の参加者にとって巨大過ぎ,モンスターのいないダンジョンのような雰囲気だったのだ。今回は,そんな状況になった経緯を紹介し,取材者の立場として振り返ってみたい。

E3は誰のためのイベントになったのか
横断幕もポスターもない,
参加者5000人の小イベント

 7月15日から17日の3日間にわたって,ロサンゼルスコンベンションセンターで開催されたE3 Media & Business Summit 2008 (以下,E3 Summit 08)は,あらためてE3の存在意義が問われるものとなった。入場者数は推定5000人。ミーティングルームを確保した参加企業は30社足らずであり,出展されたゲームの数が1000を超えた,2006年以前のE3と比べると寂しい限りだ。

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E3 Summit 08で驚いたのが,外壁などに掛けられていた横断幕などが,どこにも見当たらなかったことだ。かつては7万人を集めたイベントだが,今年は開催されていることにすら,気付いてもらえなかったようだ

 前回の当連載でも書いたが,E3を主催するESA(Electronic Software Association)のリーダーシップが失われ,E3はゲーム市場を盛り上げようというイベントではなくなってしまった。Activision Blizzardのような名だたる企業がESAから脱退を表明しているだけでなく,北米市場でゲームを売りたいアジアやヨーロッパのメーカーも参加できない状況だ。E3は2007年から,ESAのメンバー企業に対象をしぼったのだが,結果として,任天堂,ソニー・コンピューター・エンターテイメント,そしてマイクロソフトという,プラットフォームホルダー3社が集うゲームイベントであるにもかかわらず,お祭り感がなくなってしまった。

 ESAというのは,北米市場でゲームビジネスを展開する企業を代表して,政府へのロビー活動などを行う団体だ。以前までは,年会費やE3の参加費をもとに年間2000万ドル(約20億円)を超える資金を集め,ゲーム産業活性化のために利用してきたのである。

 ところが,2007年からプレジデントになったMichael Gallaghar(マイケル・ギャラハー)氏は,政府に対してほとんどイニシアティブが取れていないというのが,多くの企業の見方である。華々しかったE3を,少数のメディアやビジネス関係者だけが参加するE3 Summitに縮小させたのは彼だけのせいではないにせよ,うまく舵取りができていないように見える。

 

世界最大の北米ゲーム市場で,
世界最大のゲームイベントを行う意義

 「そもそも,E3は誰のためのイベントなのか?」という疑問は,E3 Summit 08に参加した人の多くが,胸にいだいたのではないだろうか。そもそもE3は,デベロッパやパブリッシャ流通関係者などが世界中から集い,新作ゲームを見て売買したり,発注数の予測を立てたりするのが主な目的だった。ところが,大手パブリッシャはデベロッパの青田買いを行うようになり,小売店も独自のイベントを開き始め,トレードショウの意味は失われ,ビジネス的な特色は早くから薄まっていたのだ。それに伴い,E3は華々しいブースを構え,多くのコンパニオンを用意して,メディアや投資家へのアピールを念頭に置いたものに変化。その勢いがメディアを通じてゲームファンに伝わり,さらに投資家にフィードバックされてメーカーに還る。こういった流れが起きていたのが,映画プロデューサーなども参加するほどになった,2年前までのE3だったのだ。

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E3 Summit 08の基調講演で「ゲーム業界は,短い間に長い道のりを歩んだ。今こそが我々の“時”なのです」と,業界関係者の結束を促すESAプレジデントのギャラハー氏。1000人ほど収容できる会場で行われたが,100人も出席しなかったことには,彼自身も空しく感じたのではないだろうか

 だが,2007年から始まった,「よりエクスクルーシブで上品なイベント」という新たなコンセプトでは,ハリウッド映画産業を超えたといわれるゲーム産業の“勢い”を,まったくアピールできなくなったのは確かだ。とくに,Electronic Arts,Activision,Ubisoftなど,欧米の大手メーカーはこぞってE3直前に独自イベントを開催して新作を発表していたため,E3 Summit 08でお披露目されたゲームはほとんどなかった。

 「E3のような巨大イベントの役目は終わった」という話を最近は頻繁に聞くが,果たしてそうなのだろうか。自動車産業における国際モーターショウのように,各企業が趣向を凝らしたゲームを集める,「ゲームの祭典」もしくは「情報の発信源」のようなイベントは,決して無意味でないと思う。上り調子のゲーム業界が,どんな状況にあるのかを頭で理解するのがGame Developers Conferenceであるとしたら,肌で感じさせてくれるのが昔のE3だったのだ。

 同じような感想を,参加企業やジャーナリスト達も抱いていたようで,筆者が質問したほどんどの参加者がE3 Summitに対する不満を漏らしていた。「このままではE3はなくなる」という人もいたし,「昔のような活気がほしい」とブースで暇そうにしている開発者もいた。Electronic ArtsのCEO John Riccitiello(ジョン・リチティエロ)氏も,地方紙のインタビューに「こんなE3は見たくもない」とこぼしていたほどだ。

 

PCゲームを放棄し,
ゲームのメッカであることを捨てたE3

 では,PCゲームに関してはどうだったのだろうか。筆者にとって一番残念だったのが,PCゲームの少なさである。もちろん,「Crysis Warhead」「Empire: Total War」「Sid Meier's Civilization IV: Colonization」,そして「Spore」などが出展されており,PC専用のゲームに有望なものがまったくなかったわけではない。だが,その数は片手で数えられるほどだ。ゲームのマルチプラットフォーム化が進み,PC版が発売されるゲームでも展示されるのはXbox 360版ということが多くなったのも,PCゲームの出展を少なく感じた一因だろう。

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今年一番がんばっていたのは,Electronic Artsだろうか。発表済みのタイトルは「Battlefield Heroes」以外のほぼすべてを出展したほか,「Dragon Age: Origins」のような新作や,id Softwareとの提携など面白い話題を振りまいてくれた

 このことは,MicrosoftでGames for Windows部門を率いるKevin Unangst(ケヴィン・ユナングスト)氏も感じているようで,アメリカの著名ジャーナリスト,Dean Takahashi(ディーン・タカハシ)氏の質問に,「E3はコンシューマ機主体のゲームショウになってしまった。その中でGames for Windowsのための時間を割きたくない」と話している。

 Microsoftは2006年から「Games for Windows」というブランドを打ち出し,ゲームプラットフォームとしてのWindows再生の旗印になってきた。Microsoftは,E3で大々的にプロモーションを行わないで,いったいどこでやるつもりなのだろうか。

 ゲーム産業は右肩上がりで成長を続けているというのに,華やかさに欠ける現在のE3 Summitは,業界外へのプロモーション効果は薄い。ギャラハー氏は,E3 Summit 08の直前に「このイベントには発言力のある人が集まる」と豪語していたが,自身のスピーチには100人も聴衆が集まっていなかった。

 参加企業が3日間で億単位もお金を使うような非合理なイベントは必要はないし,プロモーションムービーを観るのに2時間も待つほどの参加者もいらない。とはいえ,昔のようにゲーム業界の勢いを感じさせるような,華やかで賑やかなイベントを望んでいる人は多いだろう。筆者も,“ゲームのメッカ”ともいえる狂騒に加わるために,毎年ロサンゼルスまで行っていたのを恋しく感じるのだ。

 来年のE3は,おそらく「昔より小さく,今より大きく」なるだろう。もちろん,来年もE3が開催されれば,の話ではあるが。

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。「最近はテロ対策などで混むから,離陸の3時間前には空港に着くようにしたほうがいいですよ」と,日本からE3 Summit 08の取材に参加していた,編集部の松本隆一とnoguchiに忠告した奥谷氏。しかし自宅のあるサンフランシスコに帰る奥谷氏は,飛行機の出発45分前に空港に到着し,セキュリティチェックの列を飛ばしてもらっての,ギリギリ滑り込みセーフだったという。ずいぶん発言と行動がかけ離れていると思ったら,なんでも到着時間と出発時間を間違えていたのだとか。そんなミスをしてしまうなんて,4Gamerに記事が残っていなかったら,毎年ロサンゼルスに来ていたという発言も,怪しまれるところですよ。

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