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Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
一方,ハードウェアテクノロジに精通したゲーマーにとっては,ソニーやMicrosoftを特許侵害で訴えた企業ということになると思われる。
現在,ソニー,Microsoftともに和解済みだが,一説によれば,ソニーはこの係争の和解時に,特許侵害延滞金などを含めてImmersionに90億円以上を支払ったとか。2006年の最初期型PS3に付属するゲームコントローラから振動機能が省かれたのはこの係争の影響だとも言われている。
2006年当時,ソニーは,PS3のコントローラに振動機能がないことを「Immersionとの係争とは無関係」という声明を出したが,和解後に振動機能を備えたゲームコントローラをあっさりと標準同梱したという経緯もある。
そう,任天堂が採用している振動機能は,フォースリアクターという電磁気とバネとを組み合わせたまったく別の技術だったので,Immersionの特許侵害に当たらなかったのだ。「たまたまなのか,任天堂法務部の優秀さがゆえか」については,いまだにゲーマーの間で語りぐさになっている。
Immersionとライセンス締結を行っている世界各国のメーカー達 |
なお冒頭で紹介したVR系事業は,2009年までにほぼすべてを売却し,清算してしまっている。そのなかでも,前述したCyberGraspなどのVR関連インタフェース技術は,その知的所有権とともにCyberGlove Systemsへ引き継いだそうだ。そして2010年には医療関連機器技術部門も売却,清算済みである。
Samsung製タブレット「Galaxy Tab」が採用している偏心モーターベースのフォースフィードバック表現はImmersionの特許技術だ |
Samsung製スマートフォン「Galaxy S」やLG Electronics製スマートフォン「Optimus 2X」なども,Immersionの特許技術を利用している |
Samsung製デジタルカメラ「TL225」は操作系のユーザーインタフェース(UI)にImmersionのフォースフィードバック技術を採用 |
2画面液晶パネルの搭載が特徴の東芝製ノートPC「libretto W100」では,ソフトウェアキーボードのレスポンスにフォースフィードバック技術が使われている |
Android機器のフォースフィードバック表現を
システマティックに実現できる開発キット「MOTIV」
さて,ここからが本題だ。COMPUTEX TAIPEI 2011の会期中,Immersionは,同社のフォースフィードバック技術に関する新サービス事業をアナウンスした。COMPUTEX TAIPEI 2011会場にほど近いホテルのスイートルームで,ゲームメディアを中心に概要が公開されるという形式で行われたのだ。その流れで今回は,筆者も話を聞く機会が得られたわけである。
現在,Immersionの特許技術は,スマートフォンを含む携帯電話に及んでおり,画面をタッチしたときに振動したり,あるいはそれに準じた挙動を示したりするものはImmersionの特許を使用していると判断されるようだ。
その開発プラットフォームが「MOTIV」。MOTIVは,Android搭載機器,およびAndroid上で動作するソフトウェア向けにHaptics技術を提供するもので,「MOTIV Integrator for OEMs」と「MOTIV SDK for Developers」という2つの要素で構成されている。
●MOTIV Integrator for OEMs
Androidベースのハードウェアを構成するとき,例えば偏心モーターなどのHaptics奨励デバイスをハードウェアに実装し,このツールを使ってAndroid OSをビルドすれば,すべてのユーザーインタフェース(UI)操作で効果的なHapticsレスポンスが得られるようになる。ユーザーがアイコンを選択したりするような操作系や,ソフトウェアキーボードをタイプしたりするときのレスポンスなどに対して,MOTIVが全自動で効果的なHaptics効果を付加してくれるというわけだ。
また,ゲームや音楽再生,動画再生などのサウンド表現においても,音波やビートを分析して,任意のコンテンツへ自動的にHaptics効果を与える機能もサポートされる。
●MOTIV SDK for Developers
このSDKを利用したアプリ開発には,前述のMOTIVをOSレベルで組み込んだハードウェアが推奨環境になるが,MOTIVに対応したデバイスを非搭載のハードウェアでもこのSDKを利用することはできるのだという。例えば,コストや設計上の問題で,振動デバイスが本体に内蔵されていないハードウェアにおいては,「スピーカーで重低音を再生して振動を起こし,Hapticsをエミュレーションで提供する」なんてこともできる。
また,SDKには,さまざまな質感表現を行えるHapticsライブラリが内蔵されている。銃撃アクション時の振動効果や,金属,木材,ゴムなどの材質に触感を再現するような振動効果などをプリセットから選んでカスタマイズして,自分のアプリケーションへ簡単に組み込んだりもできるそうだ。
ちなみに,前出のMOTIV Integrator for OEMsが有償だったのに対し,このMOTIV SDK for DevelopersはImmersionの開発者向けサイトから無償でダウンロード可能だ。
低予算でAndroid向けゲームなどを開発している中小スタジオや個人デベロッパからは,比較的楽に上質な振動機能を組み込む手段として歓迎されそうである。
「将来的にはあらゆる機器で
Haptics技術が活用されるようになる」
となれば,そうした多様な機器において,Haptics効果を採用して,直観的な使いやすさを実現していこうという流れも強まるはずである。今後MOTIVは,さまざまなシーンで活用されるようになるかもしれない。
Immersionの担当者によれば,このMOTIVの展開先は,Android向けハードウェア環境とソフトウェア環境が現時点ではメインになるとのこと。しかし,評価が高まれば,いずれWindows Phoneなどの他OSプラットフォームに対応させることも考えていきたいとのことだった。
もちろん今回は「新APIの発表」がメインテーマとなるわけだが,ある意味,ImmersionのHapticsビジネスをスマートフォンやタブレット端末にまで波及させるというアナウンスにも聞こえる。これまでゲーム業界を縄張りにしていたImmersionが,「こっちにもやってくる」と戦々恐々になってしまうメーカーも少なくないのではないだろうか。
Immersionの公式Webサイト
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