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Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
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印刷2011/06/18 00:00

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Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開

 突然だが,Immersionという企業を知っているだろうか。おそらく知らない人のほうが多いと思われるが,「知っている」という場合,Immersionに対し,2つの異なるイメージのうち,片方を持っている可能性がある。

バーチャル空間で,CGとのインタラクションを実現する「CyberGrasp」
画像集#002のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 例えば,バーチャルリアリティ(以下,VR)などを研究している大学関係者などからすると,触覚学(Haptics,ハプティクス)分野のマンマシンインタフェースデバイスを開発していたメーカーというイメージが強いだろう。同社が開発したサイバーかつ先進的な五指入力のフィードバックシステム「CyberGrasp」は,今でもVR関連の先端研究で利用されているほどである。

 一方,ハードウェアテクノロジに精通したゲーマーにとっては,ソニーやMicrosoftを特許侵害で訴えた企業ということになると思われる。

小型偏心モーターを使ったフォースフィードバック機能。Imeersionが幅広く特許を押えている
画像集#014のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 Immersionは,ゲームパッドなどのゲームコントローラにおけるフォースフィードバック(この場合は振動)機能で基本特許を幅広く押さえている企業である。この特許を侵害したとして,ソニーやMicrosoftを相手取り巨額の訴訟を起こしたことは有名な話だ。

 現在,ソニー,Microsoftともに和解済みだが,一説によれば,ソニーはこの係争の和解時に,特許侵害延滞金などを含めてImmersionに90億円以上を支払ったとか。2006年の最初期型PS3に付属するゲームコントローラから振動機能が省かれたのはこの係争の影響だとも言われている。
 2006年当時,ソニーは,PS3のコントローラに振動機能がないことを「Immersionとの係争とは無関係」という声明を出したが,和解後に振動機能を備えたゲームコントローラをあっさりと標準同梱したという経緯もある。

「どんな機器でも触って振動レスポンスが返ってきたら,そのたびにImmersionにチャリンとお金が入る」というのは冗談にしても,会社の規模こそ小さいながら,大企業と対等に交渉できるビジネス力があるのも事実だ
画像集#003のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 余談ついでに述べておくと,任天堂も振動機能を備えたコントローラを採用しているが,こちらはImmersionに訴えられていない。これはなぜかというと,Immersionのフォースフィードバック関連特許は,小型偏心モーターをベースにした技術に対するものだからである。
 そう,任天堂が採用している振動機能は,フォースリアクターという電磁気とバネとを組み合わせたまったく別の技術だったので,Immersionの特許侵害に当たらなかったのだ。「たまたまなのか,任天堂法務部の優秀さがゆえか」については,いまだにゲーマーの間で語りぐさになっている。

画像集#004のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
Immersionとライセンス締結を行っている世界各国のメーカー達
 さて,現在,Immersionはどんな事業にフォーカスしているかというと,やはり,広く特許を押さえている振動フォースフィードバック事業である。この特許技術をベースに,さまざまなサービスやソフトウェア技術のライセンサーとして収入を得ているわけだ。

 なお冒頭で紹介したVR系事業は,2009年までにほぼすべてを売却し,清算してしまっている。そのなかでも,前述したCyberGraspなどのVR関連インタフェース技術は,その知的所有権とともにCyberGlove Systemsへ引き継いだそうだ。そして2010年には医療関連機器技術部門も売却,清算済みである。

画像集#015のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
Samsung製タブレット「Galaxy Tab」が採用している偏心モーターベースのフォースフィードバック表現はImmersionの特許技術だ
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Samsung製スマートフォン「Galaxy S」やLG Electronics製スマートフォン「Optimus 2X」なども,Immersionの特許技術を利用している
画像集#017のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
Samsung製デジタルカメラ「TL225」は操作系のユーザーインタフェース(UI)にImmersionのフォースフィードバック技術を採用
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2画面液晶パネルの搭載が特徴の東芝製ノートPC「libretto W100」では,ソフトウェアキーボードのレスポンスにフォースフィードバック技術が使われている


Android機器のフォースフィードバック表現を

システマティックに実現できる開発キット「MOTIV」


 さて,ここからが本題だ。COMPUTEX TAIPEI 2011の会期中,Immersionは,同社のフォースフィードバック技術に関する新サービス事業をアナウンスした。COMPUTEX TAIPEI 2011会場にほど近いホテルのスイートルームで,ゲームメディアを中心に概要が公開されるという形式で行われたのだ。その流れで今回は,筆者も話を聞く機会が得られたわけである。

操作入力からHapticsレスポンスがユーザーに返るまでの流れ
画像集#006のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 Immersionは,一連のフォースフィードバック関連技術をあえて「Haptics」と呼んでいるが,これは,Immersionの始まりがVR技術関連事業からだったためだろう。以下,Immersionの資料に基づいて,本稿でもHapticsという用語を使うことにするが,実質的な意味においてはフォースフィードバックと読み替えて解釈してもらって構わない。

 現在,Immersionの特許技術は,スマートフォンを含む携帯電話に及んでおり,画面をタッチしたときに振動したり,あるいはそれに準じた挙動を示したりするものはImmersionの特許を使用していると判断されるようだ。

これまで機器メーカーが自前で実装させなければならなかったものを,ImmersionがAPI(SDK)として提供しようというのが「MOTIV」プロジェクト
画像集#007のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 これまでは,振動機能を実装する場合,その製品メーカーや,あるいはソフトウェアメーカーが独自に行わなければならなかった。そこでImmersionは,その開発効率を向上させるためにHaptics専門の開発プラットフォームを立ち上げたというわけである。

 その開発プラットフォームが「MOTIV」。MOTIVは,Android搭載機器,およびAndroid上で動作するソフトウェア向けにHaptics技術を提供するもので,「MOTIV Integrator for OEMs」「MOTIV SDK for Developers」という2つの要素で構成されている。


●MOTIV Integrator for OEMs


Android搭載機器のユーザーインタフェース(UI)にHapticsレスポンスを統合させるためのハードウェアベンダー向け開発ツールがMOTIV Integrator for OEMsだ
画像集#008のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
 MOTIV Integrator for OEMsは,HapticsレスポンスをAndroid搭載機器のユーザーインタフェース(UI)に統合させるための開発ツール。つまり,こちらはBtoB向けの有償商品ということになる。

 Androidベースのハードウェアを構成するとき,例えば偏心モーターなどのHaptics奨励デバイスをハードウェアに実装し,このツールを使ってAndroid OSをビルドすれば,すべてのユーザーインタフェース(UI)操作で効果的なHapticsレスポンスが得られるようになる。ユーザーがアイコンを選択したりするような操作系や,ソフトウェアキーボードをタイプしたりするときのレスポンスなどに対して,MOTIVが全自動で効果的なHaptics効果を付加してくれるというわけだ。
 また,ゲームや音楽再生,動画再生などのサウンド表現においても,音波やビートを分析して,任意のコンテンツへ自動的にHaptics効果を与える機能もサポートされる。

Immersionが提供するHaptics効果を実体験できるデモンストレータ
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●MOTIV SDK for Developers


MOTIV SDK for Developersは,本格的なHaptics効果を組み込んだアプリを開発するためのSDK
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 MOTIV SDK for Developersは,振動機能を備えたハードウェアにおいて,本格的なHaptics効果を組み込んだソフトウェアアプリケーションやユーザーアプリケーションを開発するためのSDKだ。
 このSDKを利用したアプリ開発には,前述のMOTIVをOSレベルで組み込んだハードウェアが推奨環境になるが,MOTIVに対応したデバイスを非搭載のハードウェアでもこのSDKを利用することはできるのだという。例えば,コストや設計上の問題で,振動デバイスが本体に内蔵されていないハードウェアにおいては,「スピーカーで重低音を再生して振動を起こし,Hapticsをエミュレーションで提供する」なんてこともできる。

 また,SDKには,さまざまな質感表現を行えるHapticsライブラリが内蔵されている。銃撃アクション時の振動効果や,金属,木材,ゴムなどの材質に触感を再現するような振動効果などをプリセットから選んでカスタマイズして,自分のアプリケーションへ簡単に組み込んだりもできるそうだ。

Haptics効果がネイティブレベルで組み込まれたピンボールゲーム。ボールが「からくり」にヒットしたり,パドルで打ち返したりすると,その素材の質感に合った触感が手に伝わる
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素材の質感をHaptics効果で再現したギター型の楽器演奏アプリケーション。指が弦に触れると,弦を弾いたような触感が振動で再現されるという
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 ちなみに,前出のMOTIV Integrator for OEMsが有償だったのに対し,このMOTIV SDK for DevelopersはImmersionの開発者向けサイトから無償でダウンロード可能だ。
 低予算でAndroid向けゲームなどを開発している中小スタジオや個人デベロッパからは,比較的楽に上質な振動機能を組み込む手段として歓迎されそうである。


「将来的にはあらゆる機器で

Haptics技術が活用されるようになる」


画像集#012のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
直接的なHaptics効果で最も分かりやすいのは,ソフトウェアキーボードの打鍵レスポンスだろう。これに加えて,各キー間の境目に振動で触感を与えれば,指先でキーピッチ感が得られるようになり,ミスタイプが減るという
画像集#013のサムネイル/Immersion,フォースフィードバック技術「Haptics」の開発プラットフォーム「MOTIV」をAndroid向けに展開
Immersionは,「現行世代機に望まれるHaptics効果は,単なるブルルという単調な振動ではなく,触れる素材までをも考慮した触感の再現だ」と主張する。確かに,素材の質感を再現できるようになれば,より高度なユーザーインタフェース(UI)表現ができそうだ
 現在,MOTIVの採用先はタブレットやスマートフォンが中心だが,Androidベースのハードウェアやソフトウェア環境そのものは多様な機器に展開が進んでいる。自動車向けの車載コンピュータやカーナビはAndroidベースのものが出始めているし,スマートTVに代表されるIT技術対応型家電にもAndroidベースのものがすでに存在するといった具合だ。将来的には,この流れが医療機器などにも展開していくと言われるほど,Android採用の勢いが加速している。
 となれば,そうした多様な機器において,Haptics効果を採用して,直観的な使いやすさを実現していこうという流れも強まるはずである。今後MOTIVは,さまざまなシーンで活用されるようになるかもしれない。

 Immersionの担当者によれば,このMOTIVの展開先は,Android向けハードウェア環境とソフトウェア環境が現時点ではメインになるとのこと。しかし,評価が高まれば,いずれWindows Phoneなどの他OSプラットフォームに対応させることも考えていきたいとのことだった。

 もちろん今回は「新APIの発表」がメインテーマとなるわけだが,ある意味,ImmersionのHapticsビジネスをスマートフォンやタブレット端末にまで波及させるというアナウンスにも聞こえる。これまでゲーム業界を縄張りにしていたImmersionが,「こっちにもやってくる」と戦々恐々になってしまうメーカーも少なくないのではないだろうか。

Immersionの公式Webサイト

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