
イベント
インディーゲーム展示会「横浜ゲームダンジョン」レポート。横浜に出現した迷宮には,どこか華やいだ空気が漂っていた
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このイベントは,プログラマやエンジニアたちの開発者コミュニティ「週末Unityもくもく会」を主催する,岩崎匠史氏らによって企画・実施されている「東京ゲームダンジョン」と,横浜の学校法人である,岩崎学園 横浜デジタルアーツ専門学校がコラボして行ったもの。
会場は同校のキャンパスで,「東京ゲームダンジョン」と同じように,個人や小規模チームが制作したデジタルゲームが展示され,参加者による試遊もできる内容となっていた。
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場所が場所だけに,学園祭のような雰囲気が漂っていた「横浜ゲームダンジョン」に出展されていた作品は,とにかくチャレンジしてみたという勢いや,常識に囚われないアイディアを感じさせるものが多かった。
それでは今回も,筆者の印象に残った作品をいくつか紹介していこう。
![]() “ゲーミング”的な七色の光を放ち,人々の注目を集めていたイロジックゲームズの看板。フレーム部分でLEDを光らせ,白いテープに光を反射させる仕組みになっているとのこと。出展作品「Flightpath」は,ストーリーやルートの分岐がある縦シューティングで,試遊も人気だった |
![]() 連打ゲーム「アルティメットマウス」を出展していた,HaraPeko部のブース。アーケードゲームの筐体をイメージした展示なのだが,おわかりいただけただろうか |
「横浜ゲームダンジョン」公式サイト
●CultureHouse
出展者:フツララ
ミッドセンチュリー風の研究施設で,不可思議な体験が待っている
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インディーゲームでは珍しい,フォトリアルなグラフィックスに目が止まった作品。静止画ではなく,建物の中を自由に歩き回ったりできる。
ブースの人に話しかけてみたところ,講談社ゲームクリエイターズラボの第2期ラボメンバーに選出されたフツララ氏その人であり,展示されていた作品は,7月末にSteamでストアページが公開されたばかりの「CultureHouse」だった。
![]() 1人で開発しているとは信じがたい画面。開発には,Unreal Engine 4を使用しているとのこと。3DCGデザイナーとしても活躍しているフツララ氏は,2022年まで「ポケモン」シリーズの3DCGやカードゲームなどを制作する,クリーチャーズに所属していた |
プレイヤーは,失踪した生化学者・イプセ博士の住宅兼研究施設“CultureHouse”に一週間滞在し,ジェニオという生物を培養することになる。このジェニオは,地球上のほかの生物とはかなり早い段階で枝分かれしたと考えられており,観察者(観測者と言うべきか?)にも不思議な影響を及ぼすのだという。
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ミッドセンチュリー風の建築物やインテリア,作中のシチュエーションから連想された映画や監督名を挙げてみると,そのあたりはフツララ氏もお好きなラインだったようだ。短い時間ながら,楽しく話をうかがえた。
ネタバレになる可能性もあるので,具体的な作品名や監督名は伏せておくが,このビジュアルに興味を持った人の期待に応えてくれる作品になることは間違いなさそうだ。完成は,2024年の夏以降を予定しているという。
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●恒星ドカ食い進化論
出展者:ドカ食い進化論者
太く短く生きた星は,華々しく散る
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本作は,恒星に隕石や彗星,惑星を“ドカ食い”させることで質量を増加させ,超新星爆発(スーパーノヴァ)を目指すという,壮大なスケールのアクションゲームだ。
![]() 恒星を爆発させるため,惑星の軌道を捻じ曲げて突入させていく。その所業に,「まるでバッツーラの作戦みたいだね」などとコメントしたくなったが,世代的に通じなさそうなので自重しておいた。ちなみにバッツーラは,ファミリーコンピュータ用ゲームソフト「スターラスター」などに登場する敵対勢力である |
恒星は,濃密なガスの塊が自ら生み出した重力で高圧高温となり,核融合反応を起こすことで誕生する。周囲の物質を引き寄せ続け,質量が太陽の8〜10倍以上程度までに育った星は,赤色巨星を経て,誕生から約10億年ほどでスーパーノヴァを起こす。一方,それ以下の質量の星は爆発までは至らず,燃え尽きて白色矮星となるそうだ。
プレイヤーは,そんなスーパーノヴァを起こすことが目的だ。惑星の軌道を操り,周囲の隕石を捕まえて恒星に投入したり,恒星自身の重力で隕石を吸いこませ,ドカ食いさせていく。
また,恒星に突っ込んだ惑星が生む「破片」を次々に連鎖させ,ボーナス質量を得るといった要素もある。題材のスケールは大きいが,大人から子どもまで,誰もが遊びやすいアクションゲームとなっていた。
![]() なるか? スーパーノヴァ! |
しかし,出展されていたバージョンは隕石の量がシブめで,なかなかスーパーノヴァが起こらない。リリース時期については不明だが,宇宙への興味の入口となるような,好奇心に訴える要素を備えつつも,スカッと遊べるゲームに進化することを期待したい。
![]() 残念,白色矮星でした。このあたりの演出も楽しい |
●SOMEN
出展者:体調大事に
涼しくてアツい。流しソーメンの常識をブッ壊す!
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味わいだけでなく涼感も楽しめ,暑い季節にぴったりな流しそうめん。そんなビジュアルからは想像もつかない,熱いスコアアタックを楽しめるのが本作だ。プレイヤーは,コースを猛スピードで流れる「SOMEN」を操作し,水量でスピードをコントロールしつつ,壁面を使って高くジャンプ! 空中でトリックをキメ,「麺のコシ」を高め,ハイスコアを狙う。
![]() 目指せ肆(4)回転ジャンプ! スケートボードやスキーのハーフパイプのような競技をイメージすると分かりやすい |
コースには分岐があり,ジャンプなどを駆使すれば,さらなるハイスコアを狙えるルートにも進める。しかし,コースアウトすれば奈落(畳だが)へと落ち,ペナルティとして減点されてしまう。高得点をゲットできれば「一流」のSOMENと評価されるのだが,これがなかなか難しい。
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写真撮影のために,腕に自信があるという開発者にプレイしてもらったのだが,なにやら普段の調子が出ない様子。幸いにも次第に調子を持ち直し,最終的には鮮やかな麺さばきを見せてくれた。
……が,最後の最後にドラマが待っていた。力が入りすぎたのか,はたまた脳裏に何かがよぎったのか,ゴール前でまさかのコースアウトとなり,最終評価は「二流」となってしまった。オーバーなアクションで頭を抱えていたが,そんな様子も含めて楽しいひと時を生み出してくれた作品と開発者に「感動をありがとう」と伝えたい。
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●チューバリアン
出展者:こひろくじ
文科系部活のはんなりした空気感が心地いい
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主人公のサキは,夜の学校で謎の少女リアンと出会う。本作は,そんなふたりが,誰もいない校内を探索していくアドベンチャーゲームだ。プレイは,吹奏楽部の部室から始まり,あちこち調べたり,手に入れたアイテムを使うことで,話が進んでいく。
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多くの人は謎めいたタイトルと感じるかもしれないが,吹奏楽部や音楽の経験者であれば,本作で開発者が描こうとしているものが何となく伝わってくるのではなかろうか。
作者の珈琲さんも中学時代に吹奏楽部に所属していたそうで,一般にはマイナーな“とある楽器”に思い入れがあるらしい。
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部室の雰囲気は,まさにといった感じ。チューニングメーター(楽器の音程を合わせるための機器)の話や,部室の鍵の管理の話,楽器を運ぶ時の話など,作中のテキストに含まれた小ネタなどが,いちいちリアルで楽しい。時代は変われど,吹奏楽部という部活はあまり変わらないのだなと知ることができた。
![]() 完全に余談だが,筆者もかつては全国大会を目指すような吹奏楽部に所属していたので,ノスタルジックな気持ちになってしまった |
まだ冒頭部分のみの出展ではあったが,中学や高校時代に部活に打ち込んでいた人には刺さる作品になりそうな予感がする。現段階では,Steamでの販売を目指しているとのことだ。
●釣りのゲーム(仮)
出展者:mumimumi
人と魚。釣られたのは果たしてどちらか
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7月末の東京ゲームダンジョン3にも出展予定だったものの,諸事情でブース自体がなくなってしまったmumimumi氏の作品。で,今回ブースに行ってみたらこの看板が待っていた。
![]() 釣られたのは,魚ではなく我々なのか? 新手のフィッシング詐欺? |
mumimumi氏が手がけた「モチ上ガール」同様の,ステージの地形に伸び縮みするヒモ状のものを撃ちこみ,スイングしたり引っ張ったりして動くアクションは今回も健在だ。
釣り竿だと「“元ネタ”に近すぎでは?」と思う人もいそうだが,本作は奥行き方向にも広がりがある3Dアクションとなっている。水に流されつつ,手前や奥の壁を蹴って斜め方向にジャンプしたり,勢いあまってコースアウト(!)したりと,独自の楽しさが味わえるのも特徴だろう。
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「釣りのゲーム(仮)」改め「女装フィッシング」には,もちろん魚釣りの要素もある。魚には,体当たりすることでダメージを与えられ,釣り糸のテンションがかかっている時ほどダメージが大きくなる。
……体当たり? ダメージ? 何か釣りではない気もするが,気にしてはいけない。
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魚を釣ると,切り身や寄生生物「ウオノエ」(グソクムシの親戚のような生き物。エビのような味で美味しいらしい)が手に入る。寿司を作って登場人物にプレゼントしたり,寄生生物をアイテムと交換したりしてゲームを進めていく。
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釣りゲームかどうかは置いておいて,ここまではまあまあ普通なゲームである。だが,この先から話が怪しくなってくる。登場人物と取り引きする際,ツリオくんを女装させると相手の脳が破壊され,有利な条件で交渉できるのだ。
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mumimumi氏によると,約10時間くらいでクリアできるボリュームで,Steamでリリースする予定とのこと。個人的に,完成が楽しみな作品だ。
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●BrainHacker
出展者:FutureSoftware ゲーム部
チャーミングな奥様が記憶をハック!
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文原 聡氏的なテイストとでも言うか,ポリゴンのエッジを隠そうともしないローポリ感が目と心に刺さった「BrainHacker」は,ステルス系のアクションアドベンチャーだ。ターゲットに忍び寄り,謎のアイテム「知恵のナイフ」で相手の記憶を切りとって頂戴するという,少し変わった内容になっている。
![]() 旦那の脳内の浮気相手の記憶を消し,愛を取り戻そうとする主人公だが…… |
こっそりと相手に近づき,相手の頭を狙ってナイフを使う感覚は,暗殺系のステルスアドベンチャーに通じるプレイ感がある。また,知恵のナイフの射程は数メートルと長いので,スナイパー系のゲームのように相手の動きを先読みし,「弾を置く」ように撃つのもアリ。ガジェットを使って相手の注意をそらしたりと,見た目によらず本格的でもある。
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プレイできたチュートリアル部分は物語仕立てで,1話完結の全3話となっていた。ストーリーが面白すぎて,システムの説明が,あまり頭に入ってこないのが困りもの(笑)。
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主人公である“思い込みの激しい奥様”がなかなかにチャーミングで,開発者であるぽちお氏の身近にもこんな人がいるんじゃないかと,つい想像してしまう。本編は,オープンワールドになる予定だそうだが,ドラマ要素もしっかり楽しめると嬉しい。
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答えはチャレンジの先にある
〜学生作品に触れてみた!〜
会場には,「横浜ゲームダンジョン」を協賛している,ゲームクリエイターズギルドのスペースも用意されていた。同社が運営する,学生ゲームのコンテスト「ゲームクリエイター甲子園」にエントリーされた作品が出展されていたので,その一部を紹介しよう。
![]() 展示の仕方に,全国7都市対抗的なニュアンスも感じられる |
●Luminous Emission
出展者:ジンギスカン(北海道情報専門学校)
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8Bitゲーム機的なビジュアルの本作は,「デンキ」くんを操ってステージクリアを目指すアクションアドベンチャーだ。扉の開閉のスイッチを操作したり,壁の配線の中を通って移動したり,さらには鉄のブロック内に「帯電」して敵の目を逃れるなど,電気らしいアクションの使い方がポイントとなる。
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デンキくんの特性は,多くの人が身近に使っている“電気そのもの”なので,「こんなことができそう」と自然に発想が湧いてくる。パズルを解くだけでなく,謎解き的な楽しさもあるわけだ。なお特性については,ヘルプ機能で確認できる。
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またデンキくんの目的は,ステージのゴールにある電球を光らせることなのだが,役目を果たしたデンキくんの表現がなかなかにエモい。
![]() 電球に光を灯すと……この先は自身の目で確かめよう |
EMISSION(放出,放射などの意)という,ミッションやエモーションを連想させるワードをタイトルに入れているのもニクいのだ。ゲームはこちらからダウンロードできるので,気になる人はぜひプレイしてみてほしい。
●攻城戦VR
出展者:攻城戦VR(大阪電気通信大学)
![]() ものども,いざメタバースに出陣! |
テーブルの上でフィギュアを動かして遊ぶミニチュアゲーム(※)を連想させるVR用タイトル。荒々しいポリゴンのビジュアルが,戦国の世を生きた荒武者たちの息吹きを感じさせてくれる……かもしれない。
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リソースの「米俵」を使って戦力を整え,ユニットを選択して移動先を指定するなど,遊び方はリアルタイムストラテジーのそれなのだが,VR空間で任意のユニットを指し示すにはコツがいる。
完成度的には,まだまだこれからな感じだが,VRという難攻不落の城に臆することなく挑んでいった制作チームの熱い意思が,まさに戦国のロマンを感じさせてくれた……ような気がする。
現在は,映像と画面写真のみの公開なので,プレイできる日を期待して待ちたい。
![]() 操作方法(巻物)は,横に控える忍の者が掲げている。VRなので,プレイヤーがそちらの方向を見なければならないのが少し不便 |
「横浜ゲームダンジョン」の会場となった,横浜デジタルアーツ専門学校と,同じ岩崎学園系の専門学校である,情報科学専門学校からも学生作品が出展されていた。
こちらには,本イベントのキャラクターグッズなどが並べられており,非常に華やいだ雰囲気であった。写真をメインに紹介していこう。
![]() ゲームの通信(コネクトコントロール)を学ぶために制作された「CCバトルアリーナ」。横視点で,互いをマウスで狙って撃ち合う対戦アクションになっている |
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![]() カオスな楽しさがあった「ポップコーンクリッカー」 |
![]() 「就活スゴ6」は,サイコロを振ってマス目を進めていくすごろく。18分の1の確率で就職(クリア)できるのだが,筆者は1ターン目で引き当ててしまった |
![]() この妙に味のあるキャラクターは,先輩が描いてくれたとのこと |
学園での開催,そして学生たちの出展が多かったこともあり,「東京ゲームダンジョン」とは違った雰囲気で楽しめた「横浜ゲームダンジョン」。より多くの人が楽しめるように,異なる学校や地に“ゲームダンジョン”が現れることを期待したい。
なおイベント終了後,出展者と協賛社,運営による懇親会が行われた。主催である岩崎氏に話を聞くことができたので,そちらを紹介して記事を締めくくらせていただく。
![]() 岩崎匠史氏 |
4Gamer:
「横浜ゲームダンジョン」の感触はいかがですか。
岩崎氏:
こちらが想像していた以上に,出展者も参加者も数多く来てくださったと感じています。今回,初めて出展料と入場料を無料にしたんです。それもあってか,学生さんの出展も多かったですね。
4Gamer:
「東京ゲームダンジョン」より,会場の平均年齢が低かった気がします。
岩崎氏:
若いですよね(笑)! 熱気があっていいなと。ワンアイデアで突き抜けた,楽しい作品もいろいろありました。
4Gamer:
横浜デジタルアーツ専門学校で開催することになった経緯を教えてください。
岩崎氏:
横浜デジタルアーツの教諭である村上さんが「もくもく会」に来ていて,そのつながりで実現しました。会場となる学園を見に来たらとてもいい感じだったので,その後はとんとん拍子に話が進んだ感じです。
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4Gamer:
「東京ゲームダンジョン」とは,雰囲気を変える意図もあったのでしょうか。
岩崎氏:
いえ,むしろ7月末に開催した「東京ゲームダンジョン3」とセットで考えていました。7月末だと都合が合わない人,制作が間に合わなさそうな人,さらっとしたビルドで様子見をしたい人に向けて,横浜も用意してみたという位置づけです。
ただ,実施してみたら両方に参加してくれた「ガチ勢」もいまして,そこは意外でした。
4Gamer:
「発表の場が多いほど制作が進む」のかもしれませんね。
岩崎氏:
それは実際あるみたいで,進捗が進むのでありがたいという声は耳にします。締め切り効果とでもいいますか(笑)。
僕もゲームを作っている側として,「皆さんもっと試遊できる場に出したらいいのに!」という思いがあるんです。個人開発の作品って,お蔵入りしてしまうものも多いんですよ。
4Gamer:
やはりというか,残念なことですね。
岩崎氏:
でも発表してみることで,ひとつ結果を得られるんですよね。遊んだ人の反応がいいにしろ悪いにしろ,開発者にとっては身になるわけで,次に何をやりたいかも見えてきます。
ですから,今後もこうした取り組みを続けていきたいですし,我々にご協力くださる学校さんや会社さんから声がかかれば,本当にありがたいことだと思っています。これからもぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
「横浜ゲームダンジョン」公式サイト
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