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[CEDEC 2022]仮想空間(メタバース)におけるAIキャラクターやアバターはどのような可能性を持つのか。最新事情を語るパネルディスカッション実施
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印刷2022/08/24 17:27

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[CEDEC 2022]仮想空間(メタバース)におけるAIキャラクターやアバターはどのような可能性を持つのか。最新事情を語るパネルディスカッション実施

 2022年8月23日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」で,パネルディスカッション「AIキャラクター事情 最前線!仮想空間(メタバース)での開拓ビジョン・取り組み・課題」が実施された。

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 このディスカッションは,仮想空間(メタバース)では「どのようなエンターテイメントおよびサービスが考えられるのか?」「そこでのAIキャラクター・アバターはどのような可能性を持つのか?」「そのビジョンを実現するために,どのような技術が必要となっていくのか?」をテーマにしたもので,以下の3人が議論を繰り広げた。

・パネリスト
  • ジェンビッド・テクノロジーズ・ジャパン 代表取締役社長 Remi Driancourt氏
  • デジタルヒューマン 代表取締役 荒尾和宏氏
  • rinna Business Chief Business Officer 佐々木莉英氏

・モデレーター
  • 日本マイクロソフト Gaming Ecosystem Organization Gaming Solution Architect 下田純也氏

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 ディスカッションの最初のテーマは,「コロナ禍で変化した人々の生活やエンターテイメント,サービスについて」。佐々木氏は,コロナ禍の影響で仕事でもプライベートでも雑談が減ったとし,例えば会議では議題についてのみ話すようになり,「最近こんなことがあった」といった感じの気軽な会話がなくなっていると述べた。結果として,その人の意外な一面などを知ることができにくくなったことを感じているという。
 一方プライベートでは,活動がオフラインからオンラインに移行したことを「面白い」と感じているそうだ。佐々木氏は例として,ボイスチャットを使ったゲームプレイや,音声SNSの台頭,そしてそれらがコミュニティ化しつつあることを挙げた。

 Driancourt氏は佐々木氏に共感すると述べ,雑談ができなくなったことによってメンバーの健康状態なども窺い知ることができず,不安になるとした。ただ業務に関しては,ジェンビッドがもともと国際的なリモート化を進めていたため,ほぼ影響はなかったという。
 また,ここ数年ストリーミングサービスのユーザーが増えていることを示し,「以前からオンライン化のトレンドがあったが,コロナ禍の影響で早まったのではないか」と語った。

 荒尾氏は,リモートワークやオンラインミーティングの一般化や宅配サービスの普及などを挙げ,「オンライン化や,自宅で何かをすることが世間に浸透した。ある意味,メタバースに近づいたのではないか」と話す。
 ただオンライン飲み会に関しては,最初こそ楽しかったものの,次第に発表会のようになってしまい,しんどくなっていった。理由について荒尾氏は,「居酒屋の大将や女将さんのような,自分達を取り巻く存在の不在」を挙げ,「オンラインミーティングは時間と話題は共有できるが,空間や体験を共有できない。ここが,メタバースの1つのポイントになるのではないか」と持論を披露した。

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 続いてのテーマは,「エンターテイメントの変化の潮流」について。佐々木氏は,コロナ禍の影響でゲームに触れる人が増えていることを挙げ,それまでゲームをやっていなかった20〜40代の人達の20%が新たにゲームを楽しむようになったこと,また,もともとゲームを遊んでいた人の50%が,さらにプレイするようになったことを示した。
 こうしてゲームを楽しむ人が増えると,単にゲームプレイに没入するのとは異なる多様な楽しみ方が必要になってくると佐々木氏は言う。例えば,SNSのショートコンテンツに親しんできた人達に向けた楽しませ方などが続々と出てくるとの見解を示した。

 Driancourt氏は,昔から新しい技術の登場やインフラの普及によってエンターテイメントは変化してきたとし,ゲームであればアーケードゲームからコンシューマゲーム,モバイル,クラウドと変化していったことを挙げた。加えてクロスプラットフォーム化によって,どこでも誰とでもつながれるようになったため,ゲームにもSNS的な要素を求められるようになっていると,佐々木氏に同意した。
 また,モチベーションも変わっているとし,ゲーマーであれば没入感を求めるが,SNS的な要素を求める人達はゲームの仮想空間で友人知人と楽しく過ごすことを求めていると語った。

 さらにDriancourt氏は「重要なポイント」として,プレイヤーの立ち位置の変化についての持論を展開した。ゲームはもともと,100人のプレイヤーがいれば,100人それぞれが主人公や神だったが,メタバースにはさまざまな人達が入ってきて,それぞれが異なる体験や遊び方を求めるため,「各自が主人公や神になるのではなく,どこまで世界に影響を与えるか,というパラダイムシフトが起きる」と話した。

 3つめのテーマは,UGC(User Generated Contents,ユーザー生成コンテンツ)について。Driancourt氏は多様な体験や遊び方が求められるようになると,UGCは欠かせないものになるとし,とくにクリエイターなど,自身の存在感を示したい人達にとって重要になっていくと語った。また,持続性の面でも,自身の作ったものが仮想空間内に残れば,エネルギーを投入する価値があると考える人もいるという。

 4つめのテーマは,「近未来のエンターテイメントおよびサービスは人に与える影響と関わり方」について。佐々木氏は,rinnaが展開しているAI「りんな」について,多様な人々にとって受け入れやすいコミュニケーションスタイルや価値観を踏まえ,少々突飛な話をしても「高校生だから,女子高生だから」と言ってもらえるようなキャラクターの設定を行ったと説明した。今後UGCがより台頭してくれば,1人1人の価値観に寄り添ったAIキャラクターを目指すという。与えられたものではなく,自分達で生み出したAIキャラクターやゲームワールドなら思い入れが湧き,強い没入感が得られるのではないかと話した。

 具体的には今後,1人のAIキャラクターへの没入ではなく,そのキャラクターをハブとして世界を広げるようなサービスを提供するという。例として,ユーザーを別のコミュニティへつなげることが挙げられた。

rinnaの考える,エンターテイメント分野におけるAIキャラクターの3つの可能性が示された
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 Driancourt氏は,インタラクティビティの一般化を挙げ,これまでインタラクティブではなかったエンターテイメントも,インタラクティブ性が求められるとした。例えば,生まれたときからスマートフォンのタッチ操作に慣れている子ども達は,普通のテレビを見ているときにも画面をタッチしてスクロールしようとしたり,キャラクターとのインタラクションを図ろうとしたりするという。今後のエンターテイメントやサービスには,そういった人達にも対応できるような設計が必要になるというわけだ。そのように,さまざまな人の要望に応えていく中で,必要なバリエーションを経済的に作り出すための仕組みとしても,UGCは重要になるとも話していた。

 ユーザーのエンゲージメントを高めるというテーマについて荒尾氏は,デジタルヒューマンの提供するAIキャラクターは,外見にこだわっていると説明した。例えば表情はAIで自動生成しているのだが,同じような表情や動きがループしないようにしたり,ときどき視線を外したりして自然に見えるように工夫しているという。またWebカメラを使って,AIキャラクターの瞳に対話しているユーザーの姿を映り込ませることを実現し,会話をしている感覚をさらに高めているそうだ。

 Driancourt氏も,エンゲージメントを高めることについては優先度を高めて研究を進めていると述べた。ジェンビッドは対象を「コミュニティ」と「ユーザー個人」という2つのレイヤーで考えており,1つのタイトルで得られた知見を次のタイトルでこう活かすといったように,試行錯誤しながら洗練度を上げているという。そのうえで,母数が大きくなるほど個人の影響力が弱くなる投票形式よりも,ポイントを投入するほど自身の影響力が強くなるビディング形式のほうがエンゲージメントが高まることなどを説明した。

 「現状の仮想空間に不足している人々の熱気と賑わい」については,佐々木氏が,メタバースに入ってもイベントがないと何をしていいか分からないことがある点を指摘した。
 そして,メタバースの楽しみ方の例として,アイドルが出演するイベントを挙げ,アイドル自身を観て楽しむのはもちろんだが,盛り上がっている観客を観察して楽しむこともできると話す。

 その点は,メタバース内部の店舗や観光スポットも同じで,商品を販売する人と商品を見る人,観光案内をする人,生活している人などがいれば,それだけで活気が生まれるという。

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 しかし,店舗や観光スポットをユーザーで埋め続けられるかというと,現状は難しい。そこで登場するのがAIキャラクターだ。レジや店頭にNPCのAIキャラクターを配置することで活気を出そうというのが,佐々木氏の提案だ。

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 一方,AIキャラクターをリアルに近付けていくと「不気味の谷」が生ずるという意見もある。不気味の谷とは,CGで描かれたキャラクターの外見が現実に近づけば近づくほど,ある段階で嫌悪感に変わるという現象だ。

 しかし荒尾氏によれば,今やそうしたキャラクターの外見に不気味さを感じることはなくなっているという。デジタルヒューマンのAIキャラクターも,新たに作ったもののほうが見た目が綺麗で動きもスムーズだが,「一定レベルのクリエイターが作るキャラクターについては,不気味の谷は一応超えている」と語る。

 荒尾氏は,仮想世界では自分以外の存在がBotだと分かっていても,キャラクターの外見や動きがリアルなら不気味だとは思わないが,誰かに制御されているかのようなぎこちない動きを意図的に加えると,不気味さを演出できると指摘した。たとえ現実の人間でも目の色を緑に変えれば気持ち悪さを表現できるように,人間は自分の想像の範囲を超えると不気味さを感じるという。

 加えて荒尾氏は,キャラクターの不気味さは会話にもあるとする。AIに話しかけたときに反応が遅かったり,意図しない返事が返ってきたりして,違和感を覚えた人もいるはずだが,これがスマートスピーカーなら「そんなものかな」で済む。リアルなAIキャラクターだから,不気味に感じるというわけだ。

 Driancourt氏も,インタラクティビティを求める中では,AIキャラクターの外見だけでなく総合的な不気味さを考慮しなければならないとする。不気味の谷は1970年代に提唱された概念だが,それから長い歳月が過ぎており,見る側のCGに対するリテラシーも変わっていることを指摘した。

 次いで話題は,メタバースなどの仮想空間が世界中の人々が集まるエンターテイメント空間として認識されるにあたって,多様性やバイアスコントロールが重要になることに移った。Driancourt氏によると,ジェンビッドはもともと国際的な企業だということもあり,全社的に多様性を重視しているという。提供しているタイトルも全世界に向けて配信しているので,多様性には配慮すべきだという。

 ジェンビッドはゲームをプレイして楽しむだけでなく,観て楽しむことにも注力しているが,Driancourt氏によれば,人々が自分でゲームをプレイする時間と,他人のプレイを見る時間が同程度になっているという。同社のインタラクティブなコンテンツも映像とゲームのもっとも魅力的な部分を組み合わせ,そこにユーザーを介入させることで,さらに面白くなってきたという。

 ディスカッションの終盤では,AIキャラクターに人間らしい振る舞いをさせるときの思考のプロセスがどのようにデザインされているかというテーマで議論が進んだ。佐々木氏によると,rinnaでは自由会話を4パターンに分解して考えているとのことで,そのうち3つが紹介された。1つめは「そこのおしぼり取って」というようなタスク(命令),2つめは「それっていいよね」といったような会話を盛りあげる技術,3つめは「最近新しい店ができたから一緒に行こう」といった,AIが学習した知識のアウトプットとして提案する技術とのこと。

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 佐々木氏によると,りんなは当初,2つめの会話を盛りあげる技術を重視していたが,技術の進歩に伴って次第に3つのパターンを掛け合わせた,自然な会話ができるようになったそうだ。
 今後は紹介された自由会話の3パターンに,キャラクターの行動原理を合わせ,それぞれの性格づけをしていくという。

 荒尾氏はまた,デジタルヒューマンのAIキャラクターについて,コミュニケーションレベルを一問一答ができるレベル2から,連続した自由な受け答えができるレベル3に引き上げたいと話した。

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 ディスカッションの最後には,パネリスト3名がAIキャラクターの今後などについて一言ずつコメントした。荒尾氏は,AIキャラクターの外見上はもちろんのこと,コミュニケーション面でもレベルを上げていきたいとあらためて語り,1対1だけでなく1対多のコミュニケーションに対応できる技術を培っていきたいと意気込みを見せた,

 Driancourt氏は,即興的かつ適切な対話のできるAIキャラクターを挙げ,AIで動くNPC同士でドラマチックなインタラクションを取れるような仕組みが必要と語った。
 そして佐々木氏は,AI同士のインタラクションを見て楽しむコンテンツや,コミュニケーション時の音声の波長の研究をしていることを紹介。今回の登壇者それぞれが所属する企業が協力することにより,AIキャラクターをより進化させていきたいと述べた。

「CEDEC 2022」公式サイト

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