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eスポーツ業界でビジネスチャンスを掴むには。「東京eスポーツフェスタ2022」のセッションをレポート
このセッションでは,eスポーツ市場の全体規模や関連産業・企業,主なサービス事例などに加え,これまでなかった新しいサービスを打ち出す企業やその収益構造も紹介され,新たなビジネスチャンスのヒントが示された。本稿では,そのセッションの模様をレポートする。
セッションの冒頭では,日本とグローバルのeスポーツ市場規模が示された。日本のeスポーツ市場規模は2018年には48億円だったが,2024年には184億円となる見込みとのこと。つまり6年間で約4倍に成長すると予測されている。
一方,世界のeスポーツ市場規模は2018年には870億円だったが,2023年には1800億円となる見込みだ。2018年におけるグローバルの市場規模は日本のそれの約20倍となっており,それだけ見ると「日本はeスポーツ後進国なのか」と感じるかもしれないが,北村氏は「むしろ,まだまだ成長の余地がある魅力的な市場」と表現していた。
eスポーツのステークホルダーは,大きく「大会主催者」「選手」「観戦者・視聴者(ファン)」の3つに分けられる。特徴的なのは観戦者・視聴者年々増加していることで,2018年には3億8000万人だったのが,2021年にはグローバルで約5億5000万人となる見込みである。これはもともと急成長していたところに,コロナ禍によってインドアのエンターテイメントへの需要が高まったことなどから,拍車がかかった状態だという。
続いて,eスポーツ市場における新規事業立案の観点が示された。まずeスポーツファンがフォローしている競技用ゲームのプラットフォームの割合を見ると,中国や韓国を含むグローバルではPCの割合が8割前後,続いてモバイル端末,コンシューマ機の順になっている。それに対して日本ではPC,コンシューマ機,モバイル端末の順になっており,とくにコンシューマ機の割合が高いことが分かる。
またeスポーツのステークホルダーは上記の大会主催者,選手,ファンのほかにもゲームのパブリッシャ,大会の配信やアーカイブ化を担うメディア,スポンサーとなる企業がある。とくにファンは34歳以下の若い世代が中心なので,企業にはスポンサーになったり広告を出したりするときに,ターゲッティングがしやすいというメリットが存在する。
現在,日本における大会主催者の収入はスポンサー料が大半を占めている。北村氏によると,グローバルと比較して日本は広告収入やグッズ販売など,ファンからの収入という面で劣っていることがその理由だという。
なおグローバルではスポンサー料が約4割,広告と放映権で約4割,残りはグッズなどの販売による収入となっているそうだ。日本においても,今後はファンである観戦者・視聴者に向けたサービスの拡大が予測されており,それに伴って広告収入も増えていくと予想されているとのこと。
以上を踏まえた,ステークホルダーごとの新規事業立案の観点も示された。まず大会主催者は,スポンサー料(収入)を増やしたいわけだから,スポンサーを集める必要が生ずる。そのスポンサーは人が集まっているところにお金を出したいわけだから,大会主催者はゲーマーやファンが集まりやすい仕組み作りを考える必要がある。
パブリッシャは,内容が分かりやすく需要があるゲームを展開する必要がある。例えば,これまでオフラインでプレイしていたようなゲームを,eスポーツの競技として展開できれば需要があるというわけだ。
ファンに対しては,大会やゲームにより興味を持たせるための仕組みや,ファン感謝イベントなどファン参加型の仕組みを用意する必要がある。
メディアは,新たな需要を掘り起こす仕組み作りや,人々が興味を持つ情報発信をしていく必要がある。
企業は,ファンにアピールする広告や,ゲーム要素を使った事業の展開を行う必要がある。
選手またはチームは,自分達のプレイスキルを高める仕組みや,人々がゲームに興味を持つような仕組みを構築していく必要がある。
北村氏は,以上をまとめて「ステークホルダーごとにターゲットとなる顧客像を絞り,明確にすることで,より解像度の高い新規事業の検討が可能になる」と語った。
eスポーツまたはゲームを活用した,6つの新規事業の事例も紹介された。最初に紹介されたのは,もともとデジタルサイネージ広告を扱っていた企業が,eスポーツ大会用のプラットフォームを構築し,登録者数を増やし広告料収入を得るビジネスモデルを採用したという,大会主催者の事例である。
またWebゲーム制作会社が,トーナメント大会を開催できるプラットフォームを構築し,利用料や広告料,大会参加料を得るビジネスモデルを採用したという,やはり大会主催者の事例も紹介された。この企業は,国内では賞金を出す仕組みを作ることが法規制により難しいことから,海外でこの事業を展開しており,同業他社と差別化を図っているとのこと。
続いて紹介されたのはパブリッシャの事例で,ファンに対する施策も含まれている。この事例は,イベント会社がそれまでオフライン開催していたダンスバトルをオンライン化したもの。ほかのイベント会社にアプリを貸し出し,利用料を得るビジネスモデルを採用している。
さらに「いいね」ボタンを使った投票機能やコメント投稿機能を用意し,観戦者・視聴者の参加を促している。
メディアの事例では,ムービー撮影の請負会社が,ゲーム実況などの動画制作スクールを展開したという新規事業が紹介された。
企業の事例では,eスポーツとは直接関係ないが,ゲームの要素を採り入れた新規事業が紹介に。具体的には,顧客がオリジナルアクセサリーのパーツを選択し,組み合わせる過程を視覚的に分かりやすく,かつ楽しくし,さらに購入への誘導を促す仕組みを持つアプリを構築したという,アクセサリー販売企業の事例だ。
同じく,ゲームの要素を採り入れた介護施設の事例も紹介された。この施設では,脳体操ゲームを活用したリクリエーションの開催により,顧客満足度の向上と,介護スタッフの業務効率化を図ることができたとのこと。
最後に北村氏は,今回のセッションのまとめとして,「日本のeスポーツに対する取り組みは諸外国と比較して遅れているが,今後日本でも市場拡大の余地が十分にある」「現在のeスポーツの収入源はスポンサー料が大半だが,将来的にはそれ以外のキャッシュポイントも狙い目となる」「eスポーツのステークホルダーごとに,自社の強みを踏まえつつ,立案できそうな事業検討が有効」という3点を改めて挙げていた。
「東京eスポーツフェスタ」公式サイト
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