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スクウェア・エニックスの開発資料を管理するプロジェクト「SAVE」のセッションをレポート。ゲーム開発の過去を探ることで,未来につなげる
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印刷2022/02/02 17:12

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スクウェア・エニックスの開発資料を管理するプロジェクト「SAVE」のセッションをレポート。ゲーム開発の過去を探ることで,未来につなげる

 立命館大学ゲーム研究センターは2022年1月22日,「ゲームアーカイブ推進連絡協議会2021年度セミナー」をオンラインで開催した。ゲームアーカイブ推進連絡協議会は,ゲーム所蔵のノウハウ共有,データベースの活用などといった連携強化を目的に活動を行っている組織である。
 本稿では,このセミナーにて行われたセッション「スクウェア・エニックスにおけるゲーム開発資料発掘プロジェクト[SAVE PROJECT]」の模様をレポートする。

画像集#001のサムネイル/スクウェア・エニックスの開発資料を管理するプロジェクト「SAVE」のセッションをレポート。ゲーム開発の過去を探ることで,未来につなげる


ゲーム開発の歴史を編纂して公開し,社会に還元するプロジェクト


 まずはスクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏が,同社のゲーム開発資料発掘プロジェクト「SAVE」を紹介した。

 三宅氏は,最初にゲームの保存には2つの意味合いがあると指摘する。1つは,消費者が手にすることが可能,もしくは可能だったゲームの商業パッケージの歴史をまとめていくことだ。こちらはパブリッシャやデベロッパ各社が個別に取り組んでいるケースはあるが,ゲーム産業全体としては何もなされてこなかったという。一方で,立命館大学ゲーム研究センターやゲーム保存協会といった組織や団体が,積極的に取り組んでいるケースもある。

 もう1つは,ゲーム開発の歴史をまとめていくことだ。具体的には,本来なら公にしない企画書やラフスケッチ,初期アートといったゲーム開発に使われた膨大な資料を編纂し,可能な範囲で公開して社会に還元することを指す。

画像集#002のサムネイル/スクウェア・エニックスの開発資料を管理するプロジェクト「SAVE」のセッションをレポート。ゲーム開発の過去を探ることで,未来につなげる

 三宅氏は,自身がゲーム開発に携わるようになった2004年当時,それまでAIをどのように開発してきたか問うたところ,「資料がないので分からない」という答えが返ってきたエピソードを披露し,「当時はおそらく,どの会社も同じだったのではないか」と推測。その理由を「開発資料を残すことは公式の仕事ではないし,個人が使用していたPCに記録されているものは,そのPCを廃棄するときなどに消去されてしまっていた」と説明した。

 資料がないとなると,開発者は自身の開発環境をゼロから構築しなければならない。三宅氏は「ベテラン開発者なら,そういった経験を2,3度しているし,残念なことに今なおそうしたケースがある」とし,「ゲーム開発の歴史をまとめることは,今後のゲーム開発にも役立つ」「過去を探る作業だが,未来にも向かっている前向きなプロジェクト」と表現した。

保存の対象となるゲームパッケージや開発資料の例
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 今回紹介されたSAVEは,スクウェア・エニックスの過去資産をサルベージするプロジェクトだ。このプロジェクトは現在,三宅氏を含む4人で構成されており,その全員が専任者ではなく,ほかに本業を持っているという。

 またSAVEの業務は,ある意味会社の歴史の編纂なので,やってみないと分からないことが多い。そのため,各メンバーにはっきりとした役割を決めず,それぞれの立場や業務を通じた長所を活かしつつ,フレキシブルに相互補完しながら作業を進めているそうだ。
 例えば開発者であれば,経験から資料の分類や由来の判断ができる。また社内の事務事業全般に精通しているメンバーは,各部署の責任者や実作業者まで把握しているので,問い合わせ先が不明瞭なものや明確な窓口がない案件の対応など幅広く活躍しているといった具合である。

 スクウェア・エニックス・グループの過去資産というと,すなわち旧スクウェアと旧エニックスはもちろん,タイトーやクエストなども含まれる。タイトーは1953年創業なので,実に70年近くの開発資料を同社は保有していることとなる。

 SAVEが手始めに行ったのは,開発資料がどこにどれくらいあるかの確認だった。資料は複数の倉庫に分散しており,その総量は段ボール箱1万箱以上にも上ったという。 
 それら資料の管理リストは,フォーマットがバラバラではあったが,部署やざっくりした内容が記されていたとのこと。実際に箱を開けて確認するまでは正確なところは分からないが,その内容からほとんどは事務書類で,実際の開発に関連するものは1割程度,つまり1000箱程度ではないかと推測しているそうだ。

 またそれら過去資産の中には,社内の部署ごとに個別管理されているものもあった。例えば宣伝素材は宣伝部が,書籍は出版部が,楽曲はサウンド部が,映像は映像制作部が,それぞれの部署で管理するといった次第である。

 それら過去資産をSAVEで開発資料として改めて管理するにあたり,フォーマットも定められた。まず,データベースのディレクトリは段ボール箱単位で管理する。そのディレクトリには,箱に入っている内容物の全体写真と一覧表(Excel),それぞれの個別写真を収める。また紙資料は,スキャナーを使ってOCR検索にも対応したPDFにする。
 三宅氏によると,このフォーマット作成は史料編纂の第1段階であり,どこに何があるのかを検索によってとりあえず把握し,迅速に手配するために行ったという。つまり,あるIPのあるタイトルに関する資料を参照したいとき,複数の段ボール箱にまたがっていたとしても,ここにあるアレとここにあるソレを取り寄せればいいという環境を構築するというわけである。

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倉庫に眠っていた旧エニックスの段ボール箱は宝の山だった


 SAVEを始動する経緯となったエピソードも披露された。三宅氏らは2019年夏,研究に必要な技術資料を探すため,旧エニックスのデータを調査していた。通常,技術資料は社内のデジタルライブラリで管理されているのだが,見つからなかったためアナログ資料を取り寄せることになったという。そのとき倉庫の管理情報が詳細ではなかったことから,倉庫1つ分の段ボール箱を丸ごと取り寄せる羽目になってしまった。

 そしてそれらの箱を開けてみたところ,求めていた資料以外にも,とくに開発者にとって貴重な開発資料が続々と出てきた。「こんな宝の山があったとは!」と驚いた三宅氏らは,「これはきちんと管理すべきではないのか」という使命感を抱いたそうだ。
 しかし,経験のない人間が資料を管理しても失敗するに違いないとも考えた三宅氏らは,2019年秋,CEDEC 2018にて旧ナムコの開発資料管理に関するセッションを行ったバンダイナムコスタジオの兵藤岳史氏と,元ナムコの岸本好弘氏に相談することに。

 兵藤氏と岸本氏の話を参考に,三宅氏らは資料管理のための事前準備を始めた。その時点では,資料は基本的に段ボール箱に詰められて倉庫で管理されており,管理表にはその倉庫に何が入っているか大まかな情報が記されていることが判明している。しかし,各段ボールの中がどうなっているのかは,まったく不明だった。

 最初にサンプルとして取り寄せたのは,旧エニックス地下倉庫の段ボール箱50数箱で,この当時は2人で作業をしていたため,このくらいの量が適当だろうと考えたそうだ。
 箱の中身はゲームソフト,グッズ,仕様書,宣伝素材,個人資料,営業資料などで,上にホコリが積もった状態のものも多かったという。それらはおそらく,旧エニックス地下倉庫でホコリの積もった状態で管理されていたものを,旧エニックス本社ビルから退去する際に,そのまま箱詰めして現倉庫に移動したものとのこと。したがって何かのルールに沿って計画的に分類されているわけではないし,倉庫の現状を把握している人もいない状況であることが判明した。

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未開封のソフトや販促用のグッズなど,段ボール箱には今となってはプレミア付きで取引されるようなものもゴロゴロ入っていた
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 大まかな状況が把握できた2019年冬,三宅氏らは対応策を検討することとなった。すなわち上記の管理フォーマットの定義,作業マニュアルの作成,カメラやスキャナーなど必要機材の洗い出し,スケジュールの計画,予算の算定などである。また社内の財産を扱うことになるので,関連部署に根回しをする必要もあった。これらについて三宅氏は,「始めてみたら,意外にやることが多かった」と振り返り,「おそらくどの会社も同じことになるだろう」と話していた。


2020年春,SAVE始動。しかしコロナ禍で当初の見込みとは異なる展開に


 そして2020年春,三宅氏らは資料管理プロジェクトに関するプレゼンテーションを,社長に対して直接行うことに。バンダイナムコの事例や兵藤氏と岸本氏とのミーティングの内容を紹介しつつ,プロジェクトの社内外に対するメリットをアピールしたところ,無事正式にSAVEとして承認されたという。

 しかし2020年春は,新型コロナウイルス感染拡大により世間的には在宅ワークが推奨されており,スクウェア・エニックスも例外ではなかった。さらに2020年4月の緊急事態宣言によって出社が原則不可となり,SAVEの資料管理に必須となる物理メディアのデジタル化作業が滞ってしまう事態となった。

 加えて,在宅ワーク推奨に伴いオフィスを縮小するのではないかという懸念も出てきた。そうなると,現在の作業には直接必要ない過去の開発資料,とくにラフスケッチや手書きのアイデアなど個人で管理している資料が廃棄される可能性が生じ,実際に一部が廃棄され始めてしまった。当初SAVEは,何となく進めて感触を確かめながら徐々に大きくしていく予定だったのだが,悠長なことはいっていられない事態に陥ったのである。

 そこで2020年秋,全社員が視聴可能な社内向け報告会にて,動画を使ってSAVEの活動概要を報告し,個人開発資料は廃棄せずにSAVEに譲渡するよう依頼することとなった。ほどなくしてSAVEにはいくつかの部署から問い合わせが入るようになり,また退職した偉い人の個人荷物や使途不明荷物など,扱いに困っていた案件の相談も寄せられるようになったという。

 2020年冬,在宅ワークの恒常化に伴い,総務部が個人荷物の持ち帰りを推奨するようになった。またオフィスも維持はされているが,スマートフォンゲーム部署を中心にデスクをシェアするようになるなど,ワークスペースの効率化が始まった。この流れもまた,個人開発資料の廃棄につながる事態である。
 そこで,個人荷物の持ち帰り作業を進める際に出てきた個人開発資料をSAVEに譲渡するよう,総務部に推奨してもらうことに。この総務部との連携によって,各部署や個人からの資料の回収依頼が加速度的に増加していき,ほかに本業を持つSAVEのメンバー達は大変な思いをしたそうだ。

 2021年夏には,個人開発資料の回収依頼も落ち着き,散発的に舞い込む程度になったとのこと。
 またSAVE本来の業務に関しては,旧エニックス資料のデータ化およびインデックス化が終了したが,タイトルごとの分類作業は未着手という状態だ。倉庫にはまだ,データ化・インデックス化を待つ膨大な量の資料が残っている。
 そして2021年冬には,各部署から2010年以降の比較的新しい資料の提供を受け,それらへの優先的な対応に追われている。そのため,倉庫にある資料の整理は進められていないという。


資料データ化の実作業を手がけるのは,スクウェア・エニックスのグループ企業


 SAVEにおける資料のデータ化作業の流れも紹介された。まず誰がデータ化を行うのかだが,SAVEメンバーはもともと本業の遂行と成果を期待されてスクウェア・エニックスに雇用されているので,時間とコストの双方で無理がある。
 
 それでは社外から短期雇用者を募るのはどうかというと,望ましくない。これは開発資料は本来機密情報であること,そして見る人が見れば極めて価値が高い──例えばネットオークションなどで高額で売買される──ものを扱うといった理由からだ。

 ならば,資料整理専門業者に依頼するのはどうか。調べてみたところ,こうした業者は一般企業の社史資料などを扱うのには長けているが,特殊なものの多いゲーム開発の資料整理は経験がない。また兵藤氏と岸本氏による,「ゲーム資料専門の業者はいない」というアドバイスもあったという。

 定年を迎えた元開発者なら,ゲーム開発にも詳しく,どの資料がどのように使われるのかすぐ分類できるのではないかという案もあった。しかし,ゲーム業界自体が比較的新しい存在で,スクウェア・エニックスでも定年を迎えている人員はごくわずかという状態である。

 そんな八方塞がりの中,スクウェア・エニックス・ホールディングス傘下のスクウェア・エニックス・ビジネスサポートに依頼してはどうかという提案がなされた。同社であれば,正規雇用のスタッフが本業務として責任を持って遂行可能で,品質にも信頼がおけるし,SAVEの不安定な動きにも継続的・断続的な協業ができるというわけである。
 さっそく打診してみたところ,対応可能という回答があり,SAVEとスクウェア・エニックス・ビジネスサポートとの協業による資料のデータ化作業がスタートした。

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スクウェア・エニックス・ビジネスサポートのグループ内での位置付けも紹介された
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 具体的な資料のデータ化の流れは,スクウェア・エニックス・ビジネスサポート オペレーション統括部 オペレーションチームの小林一弘氏松永圭一郎氏阿部拓人氏によって紹介された。

資料のデータ化に使う仕事場と機材も紹介に
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 最初に,SAVE側から預かった段ボール箱数10箱の中から,1箱を作業スペースに運び,中身をすべて取り出して内容物を確認する。
 さらにそれらの全体写真をカメラで撮影。撮影した画像はPCに保存するとともに,カラー印刷する。また内容物は,それぞれ個別撮影し,画像をPCに保存する。

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 紙資料は,ファイルからの分離,ホッチキスの芯などの異物除去,折れている部分を伸ばすなどの処理を施し,ズレないように重ねてスキャンできる状態にする。それらをスキャンしたら,PCでPDF化する。

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 撮影とスキャンが終わったら,何がいくつ入っていたのか,Excelに項目と数,ファイル名などを箇条書きして管理表を作成する。
 管理表ができたら内容物を段ボール箱に戻し,上記のカラー印刷した全体写真を同梱する。

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 そして,紙資料のPDFと資料写真のデジタルデータをサーバーに保存する。このときのディレクトリは,資料が入っていた段ボール箱と対になるように作成する。
 最後に作業が終わった段ボール箱を一時保管所に戻せば,1箱分の作業工程が完了となる。

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 作業に関わる人員は,実作業に4名,データ不備などがないか確認するのに3名とのこと。また作業スピードは,箱のサイズや内容物の種類と量にもよるが,一番ポピュラーなサイズの箱にグッズのみ入っている場合は1日以内,すべて紙資料だと1〜2日程度かかるという。1か月平均で,10〜15箱程度の作業を進めているそうだ。

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現場からの声や注意点なども紹介された
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サルベージした資料から判明した,旧エニックスが持っていた高いAI技術


 三宅氏によると,SAVEがサルベージした資料の大半はまとまりのないものが多かったという。しかし,きちんと資料が整理した状態で管理されていたタイトルもいくつかあり,その例がスーパーファミコン用ソフト「ワンダープロジェクトJ 機械の少年ピーノ」とNINTENDO 64用ソフト「ワンダープロジェクトJ2 コルロの森のジョゼット」だったそうだ。

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 三宅氏はスクウェア・エニックスにてAIを専門に研究してきたが,日本語の資料は「アストロノーカ」を手がけた森川幸人氏のものくらいしかなく,もっぱら「HALO」や「F.E.A.R.」といった海外FPSシリーズの資料を参考にしていたとのこと。それくらい日本で開発されたゲームAIの存在感は薄かったのだが,1ゲーマーとして日本のゲームをプレイしてきた三宅氏には「そんなはずはない。公開されていないだけだろう」と考えていたという。
 実際,サルベージした「ワンダープロジェクトJ」シリーズの開発資料から,1990年代のエニックス(現スクウェア・エニックス)が高いAI技術を持っていたことが判明したそうだ。

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 なぜ「ワンダープロジェクトJ」シリーズの資料がきちんとした形で残っていたのかといえば,旧エニックスは基本的に社外のデベロッパとゲームを開発していたため,仕様書や発注書,スケジュール表などをしっかりした形で文書化しておく必要があったからだ。
 加えてこれらの資料には,企画を通すための書類や,参考にしたゲームの目録,会議の議事録,デバッグ表なども含まれており,ゲーム開発の全工程が資料化されているといっても過言ではないという。
 さらにシリーズのプロデューサーを務めた人物が,現在もスクウェア・エニックスに在籍しており,当時の話を直接聞けるという幸運にも恵まれた。

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 「ワンダープロジェクトJ」シリーズは,プレイヤーとキャラクターの対話を中心に据えたゲームである。企画書では「ピノッキオの冒険」(1883) をモチーフにキャラクターを育成する,それまでにないまったく新しいゲームを作ることがコンセプトとして掲げられている。

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 しかしそのコンセプトをゲームに落とし込むには,いろんなことを決める必要がある。例えばどんなゲームプレイになるのか,キャラクターをどうやって育成するのか,どんなパラメータを用意するのか,プレイヤーはどこに喜びを得るのか,最後までゲームをプレイさせるために何を用意するか,キャラクターと対話するためのAIをどういった仕様にするか,AIにどうやって学習させるかといった設計の軸となる項目を,本開発を始める前に決めなければならない。

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 「ワンダープロジェクトJ」が発売された1994年は,三宅氏によると世間的には第2次AIブームが終焉を迎えたあたりとのこと。ゲーム開発には枯れた技術を応用するケースが多いのだが,当時はAIを使ったゲームがいくつか登場しており,本作はその先陣を切った形となるという。

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 また資料の中には,完成したAIの仕様書だけでなく,初期や中間的な仕様書も含まれていた。それらを読むことにより,開発中の仕様の変化やその理由に加え,膨大な量の研究や実験を行ったことなどが分かるそうだ。なお三宅氏によると,これだけのリソースを割いた研究や実験は今ではまず行えないとのことで,この資料は極めて貴重なものだという。

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メモリマップ。当時はROMの容量が小さかったため,メモリのどこにグラフィックスやサウンドなどのデータを配置するかマッピングしておく必要があった
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メモリに配置するサウンドの仕様書。メモリに入りきらなかったときのために,優先順位を決めている旨の記述がある
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メモリに配置するキャラクターのアニメーションの仕様書
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スケジュール表。実際の開発進捗に合わせて,何度か作り直すことになる
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世界観設定
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キャラクターデザイン
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アニメーションの原画。手描きの原画をデジタル化して動かす手法を採っており,以降のフルデジタル化への過渡期的な時代だったことを示している
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デバッグシート。本来必要ないイラストが描かれていることなどから,当時の開発の雰囲気やデバッガーの人柄を読み取れる
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一連の流れを経て,ゲームが完成
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 三宅氏は,これらの資料を読むことにより,ゲーム開発の追体験ができるとする。今どきは少規模のゲーム開発であれば比較的容易に実体験できる環境が整っているが,商品として流通させる大規模なゲーム開発となると,なかなか体験することはできない。こうした資料は,開発者の教育にも役立つと話していた。
 「ワンダープロジェクトJ」の振り返りについては,CEDEC 2021で行われたセッションでより詳しく紹介されているので,興味のある人はこちらも参照してみよう(関連記事)。

 SAVEの活動は,コンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術に関するカンファレンスと展示会,SIGGRAPH Asia 2021のセッションでも紹介された。このセッションは,1970年代から1990年代におけるゲーム開発の歴史を扱ったもので,タイトーの三部幸治氏が同社のアーケードゲームとファミコン用ゲームについて,三宅氏がスクウェア・エニックスのスーパファミコン用ゲームとPlayStation用ゲームについて解説した。

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SIGGRAPH Asia 2021の会場に設けられたギャラリーには,タイトーが所有する資料やSAVEがサルベージした資料が展示された
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 SIGGRAPH Asia 2021では,旧エニックスが1999年にリリースしたPlayStation用ソフト「Pop'n Tanks!」の資料が公開された。本作はアクションゲームであり,タンクの挙動をコントロールする動的なAIをどのように設計するかが大きなポイントとなる。

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キャラクターデザインは,吉崎観音氏
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仕様書には,AIの方向性などが記されている。1990年代後半は各社が試行錯誤を重ねて,3D空間で動くAIを作り出していたとのこと
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レベルデザインに関する資料。3Dアクションゲームの前例が少なかった時代に,面白くなるであろう要素を詰め込んでいることが読み取れる
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外注した3D空間の設計図
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 セッションの終盤には,三宅氏が改めてSAVEの活動をまとめた。このプロジェクトの目的とゴールは3つあり,1つは各倉庫に眠っている過去の資料をアーカイブ化し,資料を資産化して現在のスクウェア・エニックスの業務に有効活用する「開発支援」である。
 さらに社内外に向けて活動内容を発表する「広報的な支援」と,社内における開発の歴史を再構築する「人事的な支援」も目的としている。

 とくに,開発やビジネスなど社内業務の各分野はそれぞれ流れを持つが,その歴史が分からないとそれらの流れも分からない。三宅氏は,自身が入社したときがまさにそういう状態だったとし,「これまでの流れが分かれば,これからの流れもおおよそ予想できる」「やりたくてもできなかったことが,技術の発展によりできるようになることもある。過去にできなかったことを探れば,未来にやるべきことが見えてくる」と指摘した。

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開発資料がサルベージされたことで,対話エージェントの歴史の中の「ワンダープロジェクトJ」シリーズの位置付けが証明された
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SAVEの掲げる「資料を資産へ」も改めて紹介された
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 最後に三宅氏は伝えたかったこととして,「過去の資料を整理することは,未来の開発につながる」「過去の資料から,現在の開発の位置を知ることができる」「これからの未来を予測するには,過去から流れを遡るのがいい」「それぞれの仕事も価値があるが,1つ1つをつないで流れを作ることに意味がある。これはゲーム産業がアカデミズムから学ぶべきこと」を挙げて,セッションをまとめた。
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