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JOGAが主宰したブロックチェーンゲームの最新動向セミナーをレポート。ブロックチェーンはゲームそのものだけでなく,ユーザーの行動や周囲の環境にも影響を与える
尾下順治氏 |
このセミナーでは,ブロックチェーンゲーム関連事業を手がけるアクセルマークの代表取締役・尾下順治氏が,「ブロックチェーンをゲームに活用すると何が変わるのか」について解説を行った。
ブロックチェーン技術は,仮想通貨「ビットコイン」の基幹技術である。そして,この技術を応用し,さまざまなトークン(デジタル資産)やアプリケーションを発行・実行可能なブロックチェーンプラットフォームとして設計されたものが「イーサリアム」だ。
イーサリアムは,ブロックチェーンゲームなどDapps(分散型アプリケーション)のプラットフォームや,独自トークンの発行プラットフォームとして使われている。そして,ブロックチェーンゲームのアセット(キャラクターやアイテム)は,一般的にNFT(Non-Fungible Token)として発行される。
なお,NFTとは“合算できない”,つまり通貨的に使われるものではないトークンや代替不可能なトークンを指している。
世界的な人気を誇るブロックチェーンゲーム「Crypto Kitties」のNFT「ERC721」も紹介された |
ブロックチェーンゲームは,ゲーム内のアセットをNFTとしてブロックチェーン上に記録し,ユーザーに所有権を持たせたり,アセットの移動にイーサリアムが提供する簡易なプログラムを自動実行する「スマートコントラクト」を用いて,決済・移転処理を行ったりするものである。
つまり,ブロックチェーンゲームとは,「ユーザーの持つアセットがゲーム運営者(ゲームサーバー)でない,かつ永続性があるとされるブロックチェーン上で管理できるゲーム」であり,それは言い換えると「ユーザーにゲーム内アセットの所有権を付与できるゲーム」であると,尾下氏は説明した。
※ビットコインやイーサリアムなどブロックチェーンはデータとして存在するに過ぎず,有体性を欠くことなどから厳密には司法上の所有権には該当しないと考えられている。尾下氏は本セミナーにおいて,説明の便宜上,所有権という言葉を使っている
ユーザーがゲーム内アセットの所有権を持つと,それらを「売る」「貸す」「消す」「持ち運ぶ」という4つの権利が生ずる。そうなると,価値を持ち取引可能なアイテムが登場し,それらを売買,あるいは貸し借りする市場が成立するわけだ。
その市場の周辺には,例えば金融におけるデリバティブのような派生商品が生まれ,経済圏が構築される可能性が出てくる。尾下氏は,そうしたさまざまな価値創造のスキームが発明されていくと,やがてゲーム内で仕事をし,生活する人々が登場するのではないかと予想した。
その一方で,ブロックチェーンの誰でも簡単にプロジェクトを起こせる仕組みを悪用した“詐欺まがいのプロジェクト”が存在している。
とくにゲームは大衆娯楽であり,多くの人々に向けたものであることから,尾下氏は今後も同様な悪質なプロジェクトが増えていく可能性もあるという見解を示し,「同業他社と一緒に協会を作るなど,業界全体で取り組んでいきたい」と意気込みを見せた。
ユーザーがゲーム内アセットを所有することで得られる権利のうち,売るという行為はオンラインゲームなどにおけるRMT(リアルマネートレード)と同じなのではないかと思う人もいるかもしれない。
しかし尾下氏は,「ブロックチェーンゲームの場合,ガチャでゲーム内アセットを排出し,それを売ることを担保すると賭博開帳図利罪に問われるため,アクセルマークのタイトルにはトークン発行におけるガチャは採用していない」と説明し,さらに「販売しているのはステータスなど内容が分かるもので,それぞれ一定数発行し,ユーザーの皆さんに買っていただいている」と続けた。
ゲーム内アセットを売るという行為については,「キャラクターを育成し価値を向上させて販売する」「希少性のあるアイテムを採掘して販売する」といったものが例として挙げられた。
同様に貸す,消す,持ち運ぶについても例が示されたが,これらはゲーム提供者の設計次第でいかようにもなり得るとのこと。とくに持ち運ぶについて,尾下氏は「クリプトキティ」で獲得したアセットを用いて遊べる関連ゲームが登場していることに言及した。
こうした状況が進むことで,アセットの発行・管理を担当するアウトゲーム提供者,バトルシステムなどを担当するインゲーム提供者,取引所などを担当する取引機能提供者などにレイヤーが分かれ,相互に牽制してそれぞれが担当する部分の価値を上げていくビジネス構造になっていくと望ましいと,尾下氏は展望を語った。
また経済圏が誕生するとゲームのプレイも変わってくる。ユーザーはゲーム内で,資本家や労働提供者にもなれるので,例えばファンタジーな世界観を持つ作品でよく見られる,採掘や討伐の依頼と代行を仲介するギルドシステムなどがユーザーの力によって登場すると予想できる。
これまでのゲームでは,主に依頼を受けてモンスター討伐に向かう立場だったのが,逆に依頼する立場にもなれるというわけだ。
こうしたユーザー間の取引は黎明期のオンラインゲームには結構見られたものの,昨今のスマートフォンゲームではほとんどなくなっており,チャットですら外部のSNSに頼るようになっている。
ユーザー間の取引機能が減った理由としては,アイテムの交換や売買における詐欺などのユーザー間トラブルが挙げられる。
尾下氏は,イーサリアムのスマートコンタクトについて「依頼者が本当に対価となる資産を有しているか,その資産を報酬用にデポジットしているのか,逆に受託者が本当に依頼を実行したのかをブロックチェーン上に記録するアプリを実装すれば,依頼の達成とともに報酬が支払われる」と説明し,「ユーザー間取引の面白さを,もう一度解放していく流れにも一役買うことができるのではないか」と希望を語った。
ブロックチェーンが持つ特徴の1つに,すべての取引がブロックチェーン上に記録され,現在の所有者が誰なのか,誰でも知ることができるという“取引の透明性”がある。これにより,ゲーム提供者からの一方的な開示によらず,ゲーム内アセットの流通量や流動性をユーザーが自由に確認できるようになる。
つまり信用が担保されるというわけで,尾下氏は大きな実績を持たないゲーム提供者にとって,とくに重要であると話していた。
そして取引の透明性は,RMTにも影響を与える。従来のゲームにおけるRMTは,ユーザー間でアセットの売買を行うため,ゲーム提供者はそこから収益を得ることができない。
しかしブロックチェーンゲームであれば,取引の透明性により誰が誰にいくらで売ったのかが可視化されるため,スマートコントラクトの構築次第で,ゲーム提供者が販売手数料を徴収することも可能になるのである。
セミナーの最後には,尾下氏が3つの「ブロックチェーンゲームを通じて目指す変革」を示した。
1つめは「トークンを通じた新しい経済圏の構築」だ。ブロックチェーンゲームには,ユーザー各自がゲームに注ぐ熱量が一方的にゲーム提供者に寄せられるのではなく,さまざまなレイヤーのユーザーを巻き込みつつ経済圏を構築するポテンシャルを秘めているとし,尾下氏は「現在は絵空事に見えるかもしれないが,金融ももともとはそうだった」と説明した。
2つめは「価値の創造者を増やす」。ソーシャルゲーム黎明期は数千万円規模の予算でヒットタイトルを作れたが,今のスマホゲームは予算が10億円を下回ることは少なく,作り手が少なくなっているのが現状だ。
それに対してブロックチェーンゲームは,上記のとおり「自分は面白いアセットを生み出したい」「自分はそのアセットを使った新しいゲームを作りたい」といったレイヤーに分かれて,価値の創造者であるクリエイターの活躍する場所も増えていくというのが,尾下氏の見解である。
3つめは「権利管理の透明化によるIP価値保全と新たなマネタイズスキームの確立」で,これはアクセルマークが現在積極的に取り組んでいることであり,次回作に採用されるという。
具体的には,2次流通を歓迎しつつ,きちんと対価を徴収する仕組みとのことで,尾下氏は「これにより,たくさんのアセットを販売したことによるゲームバランスのインフレを少しでも緩和し,長く遊べるゲームであると認識していただけるのではないか」と語り,これからもチャレンジを続けるとしてセミナーをまとめた。
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