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休校中の子ども達に向けた単語学習アプリ「コトバハカセ」が誕生した理由とは。「ゲーミファイ・ネットワーク 第11回勉強会」聴講レポート
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印刷2020/05/18 15:52

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休校中の子ども達に向けた単語学習アプリ「コトバハカセ」が誕生した理由とは。「ゲーミファイ・ネットワーク 第11回勉強会」聴講レポート

 2020年5月15日,日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の教育専門部会(SIG)は,「ゲーミファイ・ネットワーク 第11回勉強会」をオンラインで開催した。
 このセミナーでは,ギフトテンインダストリ 代表取締役 濱田隆史氏が,同社の開発した教育アプリ「コトバハカセ」の概要や開発経緯などを紹介するセッション「家族みんなで楽しめる語学学習アプリ『コトバハカセ』はこうして誕生した」を行った。

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 ギフトテンインダストリは,5〜6年前に濱田氏が設立したインディーズゲームやアナログゲームのデベロッパである。5月2日に公開された「コトバハカセ」は同社初の教育アプリだ。スマートフォンなどのデジタルデバイスとアナログカードを組み合わせた百人一首やカルタのような遊びを介して,日本語を含めた7か国語の単語を覚えられる。

濱田隆史氏
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 濱田氏が教育アプリを開発しようと考えたきっかけは,新型コロナウイルスの感染拡大だったという。ギフトテンインダストリは2020年,海外での活動を強化する予定だったが,2月以降,GDCを筆頭に世界各国でイベントが軒並み開催中止となり,ほかのゲーム開発者とのコネクション作りや,自社タイトルのプロモーションといった計画は頓挫。日本でのオリンピック開催を前提に開発した新作のお披露目も,2021年に延期となってしまった。

 そうした事態により,濱田氏は3月に「リアルイベントで人とつながる」「人と(物理的な)距離を置く」「熱狂する」「冷静になる」「友達」よりも「家族」といったように,人々の価値観が大きく変わったと考えた。
 より具体的には,人が出歩かなくなったことから「自宅の内装に凝る人が増え,高価な家具や花が売れるのではないか」「多くの飲食店が店内でのメニュー提供を自粛するので,豪華な出前やテイクアウトが流行するのではないか」,そして「リモート環境をサポートする技術が発達するだろう」といったビジネスに関するアイデアを思いついたという。
 また自身の本業であるゲームのビジネスに関しても,以前はアナログゲームであればボードゲームカフェ,eスポーツであればスタジアムなどの会場に多くの人が集まる構図を目指していたが,今後はオンラインやVRに移行していかざるを得ないだろうと考えたそうだ。

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 その一方で,世間では学校の休校が大きな話題となっていた。東京都の教員である濱田氏の奥さんの話によると,教師達は休校中の児童や生徒,学生のために何かやろうといろいろ企画しているのだが,結局「ほかの学校がやっていないから」という理由で話が立ち消えになってしまうとのこと。
 以上の諸々を合わせて考えた結果,濱田氏は“ゲーム開発のノウハウを活かして教育をサポートできないか”と思い立ったという。そして約1か月後に完成したのが「コトバハカセ」である。

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 教育アプリの開発にあたり,濱田氏はまずどんなアプリを作るかを考えた。当初は言葉を使うのではなく,「集中力」をキーワードにデジタルとアナログを組み合わせた遊びを試していたという。濱田氏は,タブレットに表示されていく線を画面に紙を当てて鉛筆でなぞっていくと最終的に綺麗な模様が描けるアプリ,ベルトコンベアで流れてくる立体を切った断面図でお題の図形を再現するアプリを作ったが,思ったよりも達成感がなかったり技術的な壁があったりして,いずれも公開は見送られた。

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 次に取り組んだのが,「コトバハカセ」のプロトタイプとなる百人一首をモデルにした英単語暗記アプリである。このプロトタイプを自身の5歳になるお子さんに遊ばせてみて手応えを得た濱田氏だったが,今度は英語よりもまず日本語の学習が先なのではないかと考えたとのこと。
 そこで山手線の駅名を覚えるアプリを作ってみたのだが,こちらはお子さんの反応が今一つだったそうだ。

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 そうした過程を経て「コトバハカセ」プロトタイプのブラッシュアップを選択したわけだが,ただ単語を暗記するだけではコンセプトが弱いと考えた濱田氏は,4月の第1週を使って教育に関する資料や論文を読み漁ったという。その結果,現在の日本の教育では帰国子女や外国人の児童・生徒に対する日本語指導が大きな課題になっていることが分かった。
 加えて海外生活では,例え滞在先の国の言語をうまく話せなくとも,少し言葉を覚えてコミュニケーションを取ろうとすれば相手が心を開いてくれるという自身の経験から,子ども達がさまざまな国の言葉を覚えられる遊びにしようと決めた。

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 また「コトバハカセ」では,外国語として英語,中国語,韓国語,タガログ語(フィリピン語),ポルトガル語,ベトナム語を学べるが,これらは在日外国人の国籍比率をもとに選出したという。濱田氏は「学校にこれらの国から来た子がいたら,『コトバハカセ』でその国の言葉を覚えて話しかけると仲よくなれるのでは」と見解を示していた。

 4月第2週にはネットでテスターを募集し,プロトタイプのユーザーテストを行った。しかしアンケートの回答数が少なかったことから「アプリの仕様やテストのやり方を間違えた」と感じたそうだ。
 続く4月第3週には,2020年度からスタートした小学校の外国語学習の教科書に沿った単語100個を選出するなど,アプリの新たな仕様を決めていった。単語の選出にあたっては,子ども達が指を差して存在を示せるものを重視したという。これは,例えば「milk」を覚えた子どもが牛乳を指して「これはmilkだ」というような感じで,すぐに使えるための配慮である。またアプリ内の表記も,ひらがなを多用するなど子ども達が何をすればいいのか,すぐ分かるようにしていった。

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 4月第4週には本開発に入り,第5週には広報活動を開始。プレスリリースを作って配信したり,休校中の学ばせ方に関するSNSのグループに加入して宣伝したりとプロモーションを行い,その反響に手応えを得たという。
 しかし公開後,実際に「コトバハカセ」を遊んでもらえたケースは少ないのではないかと感じているそうだ。

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 濱田氏によると,「コトバハカセ」の開発にあたりもっとも困難だったのは「リモート環境によるユーザーテスト」とのこと。通常のゲームやアプリの開発では知人などのもとに出向いてプレイしてもらい,どこでつまずくのか,どこが楽しそうなのかといったテスターの無自覚な反応を観察しながら仕様が適しているかどうかを判断するのだが,リモート環境ではそれができない。今回はプレイ後のアンケートで対応しようとしたが,回答がテスターの自覚した内容になってしまうので,濱田氏が得たかった無自覚の反応とはズレてしまうという結果となった。
 また多くの人にとって,未知のゲームやアプリを試すことに加え,アンケートにまで回答することはかなりハードルが高い。さらにはSNSを使ってテストをお願いした友人知人がそのゲームやアプリを試してくれなかった場合,そのあと連絡を取りづらくなるという人間関係上の弊害も生ずる。

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 そこで濱田氏は,次回から「リモート・ユーザーテスト」の実施を検討しているそうだ。このテストは,ゲームなどのオンライン対応化ツール・Parsecとチャットツール・Discordを組み合わせた環境を作ることにより,テスターのゲーム画面やマウスの動き,言葉などからどこでつまずくのかを判断できるようにするもの。実際に試してみたところ,いい感触を得られているという。
 また,事前の反響のわりには公開後になかなか遊んでもらえない点についても大きな課題であり,過去の事例や識者の知見を参考に解決していきたいと語っていた。

「ギフトテンインダストリ」公式サイト


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