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福祉に楽しさを取り入れた運動ゲーム「TANO」とは。セミナー「ゲーミファイ・ネットワーク 第10回勉強会」聴講レポート
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印刷2020/02/17 13:58

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福祉に楽しさを取り入れた運動ゲーム「TANO」とは。セミナー「ゲーミファイ・ネットワーク 第10回勉強会」聴講レポート

 2020年2月14日,日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の教育専門部会(SIG)は,「ゲーミファイ・ネットワーク 第10回勉強会」を東京都内で開催した。
 このセミナーでは,TANOTECHの代表取締役 三田村 勉氏が,自身の開発したモーショントレーニングシステム「TANO」の概要と活用法などを紹介するセッション「福祉に楽しさを取り入れた運動ゲーム『TANO』の試み!」を行った。

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三田村 勉氏
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 三田村氏は小学生時代からプログラミングに取り組んでおり,多数のゲームを作って雑誌などに投稿していたという。その中でも高校生時代に作った,生徒を育成して高校に進学させるゲーム「塾」は,ソフトウェアコンテストに入賞した。また三田村氏自身,このゲームによってシミュレーターの重要性に気づかされたそうだ。

三田村氏が開発したゲーム「塾」
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 また,三田村氏は演劇クラブに入っており,老人ホームで公演を行ったところ,お年寄りに泣いて喜ばれるという経験をしていた。そのため高校卒業後はプログラマーになるか舞台俳優になるかで悩み,個人でシェアウェアを開発して収益を得つつ,ぬいぐるみ劇団で演劇活動を続けていたという。

三田村氏が開発したソフトの数々
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 そして1999年,三田村氏は鉄道教材開発会社に入社し,電車の運転士がトレーニングに使うシミュレーターの設計開発を手がけることになった。三田村氏が携わったシミュレーターはゲーム要素を採り入れ,電車の走行を3Dグラフィックスでリアルに再現したものだ。運転席から線路周囲の光景を確認できたり,天候が変わったりするのはもちろんのこと,2か所以上に原因がある複合的な故障や飛び込み自殺への対処なども疑似体験できたという。

 さらに2012年には,VRシミュレーターのシステム開発を手がけるラッキーソフトを設立。三田村氏は,この会社で交通安全のシミュレーターの受託開発をしつつ,外に出たくないと言う認知症の母のために室内で運動できるソフト「とざん」を作った。
 この「とざん」は,PCの内蔵カメラなどで被写体の動きを感知すると,山を登ったり道を歩いたりといった一人称映像を再生するというものだ。被写体の動きが止まると映像も止まるので,その場で足踏みをしているだけでも実際に登山をしたり散歩をしたりしているかのような気分になれるという。
 さらに映像はスマートフォンやドライブレコーダーを使って自分で撮影したものに差し替えられるので,スーパーなどの店内映像にすればショッピングの気分を味わえる。
 三田村氏は,以上をまとめて「疑似体験は,実のところ動画だけで十分」と語った。

「とざん」
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 「とざん」をベースにしたモーショントレーニングシステム「TANO」の開発を続けていた三田村氏は,2018年にラッキーソフトを奥さんに譲り,新たに国際展開と教育展開を掲げてTANOTECHを設立した。
 「TANO」はモーションセンサーを利用した福祉・介護・教育現場向けシステムで,利用者の身体がコントローラとなり,ゲーム感覚で楽しみながら運動,発声,脳活性化トレーニングができるというもの。今では100種類以上のコンテンツがあり,最近ではスポーツ選手やボディビルダーが活用する事例もあるという。

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 三田村氏は「TANO」のコンテンツを作るにあたり,“ゲームの要素”を意識していると語る。その要素とは,利用者が動くことで何か反応があるように「双方向」であること,それが「簡単」であること,触ってみたくなるといったように「情動」「本能」に訴えかけるものであること,「疑似体験」をさせて「想像力」を刺激するものであることだ。

 また,福祉施設で利用するコンテンツを設計するうえで意識するのは「多様性」であると語る。福祉施設には右手が動かない,足が不自由といったようにそれぞれ症状の異なる人がいるので,できるかぎり多くの人が利用できる内容を考えるという。
 加えて,多様性を考える場合にはあまりエビデンスを求めないほうがいいとのこと。それはエビデンスを求めると,健常者に近い人達や同じ症状の人達などターゲット層が狭まってしまうからとのことで,三田村氏は「身体の機能が改善された云々よりも,声を出して笑っていた人や喜んでいる人がどれだけいたかで判断するべき」と持論を語った。

「TANO」のコンテンツの1つ「サッカー」。モーションセンサーで利用者の動きを読み取り,蹴る動作に合わせてボールが的に向かって飛んでいく
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 以上のように,「TANO」はまさにゲーミフィケーションを採用したシステムだが,三田村氏はそのコンテンツ設計において「つい遊びたくなる」「遊んでいたら回復(訓練)していた」という部分が重要だとアピールする。また「お世話する,お世話される」という関係を作らないよう,自分自身が利用者と一緒に楽しめるような内容にしていると語った。

 さらに開発したコンテンツに対して,専門家からアドバイスを受けたり,施設のスタッフから予想外の効果を報告されたりすることもあるという。例えば「はなび手」というコンテンツは,画面上に表示される花火玉に手を当てて花火を打ち上げるという内容だが,リハビリの専門家のアドバイスによって,体幹を鍛えられるよう肩を使う「はなび肩」というバージョンも誕生した。
 さらに声を使って大勢で楽しむ「ふくわらい」は誤嚥防止,手の動きで魚を釣り上げる「さかなつり」は反射検査の結果が向上したり文字が書けるようになったりといった副次効果が報告されたそうだ。

「TANO」のコンテンツの1つ,「ふくわらい」。上下左右から流れてくる顔のパーツを,「あっ」という発声でタイミング良く止める。止めた場所が良いほど点数が高い
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「TANO」のコンテンツの1つ,「さかなつり」。浮きが沈んだ瞬間に腕を上げることで魚を釣り上げる。魚によって点数が異なり,高い点数の魚ほど釣り上げるタイミングがシビアになっている
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 三田村氏はこれらの事例から,ゲーミフィケーションを活用するには固定観念にとらわれることなく,「こういうものがあるから,こう使ってみてはどうだろうか」という発想力,応用力,課題解決力が重要であると指摘する。
 例えば上記の「とざん」にしても,「カメラの前で足踏みすればいい」で終わるのではなく,被写体が動けばいいということに気づけば,フィットネスバイクなど別のトレーニング器具と組み合わせることもできるし,足が不自由あるいは寝たきりの人なら腕を動かしてもいいのである。

 三田村氏は「TANO」のようなシステムを普及させ,社会的な課題を解決するには,技術と知識,現場のニーズが必要だとし,さらにそれらを支える基盤を作っておかないと無駄が多くなるとも語った。
 例えば社会保障費のうち介護給付費は日本全体で年間10兆円にも上っているが,それを当たり前と思うのではなく,どう削減していくかがビジネスであり,三田村氏はそこにゲームやゲーミフィケーションが介在する余地があるとした。

三田村氏は「社会的な課題を解決するには,経済産業省,厚生労働省,文部科学省を連携させる基盤が必要」とも語っていた
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 それではどうやって基盤を作っていくか。三田村氏は「子ども達の発想力や課題解決力を鍛えること」を挙げた。まず子ども達に世の中で問題となっていることや必要とされること,自分自身がやってみたいことなどの「需要」や「課題」を気づかせ,「どうすれば解決できるか」「どんなアイデアが面白いか」「どうしたら喜んでもらえるか」を考えてもらう必要がある。

 また,子ども達に技術を知ってもらうことも重要だ。例えばモーションセンサーやVRで何ができるかを知らなければ,それらを使うアイデアは生まれないが,知っていれば「あれもできるんじゃないか」と発想が広がっていくというわけである。

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 そして話題は,三田村氏が福祉フェスティバルに「TANO」をプレイアブル出展したときのことにもおよんだ。そのときは子ども達が1時間以上「TANO」を独占してしまっため,三田村氏が「これは社会的に役立つゲームで,子どもだけのために用意したものじゃないんだよ」と注意したところ,「それなら」と1人の子どもがお年寄りを連れてきたという。また,子ども達に「こういったゲームを作りたいか」と質問したところ,多くが「作りたい」と回答したそうだ。
 そもそも子ども達は社会的に役立つゲームがあるということを知らなかったわけで,三田村氏はこのとき気づきを与えることや,教えるコミュニティの重要性を認識したのだという。

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 それ以降,三田村氏はセミナーなどで子ども達に「TANO」を紹介する際に,「君たちなら,どんなゲームを作る?」と質問するという。そして子ども達は即座に身近なお年寄りのことを考えて,さまざまなアイデアを出してくるそうだ。
 三田村氏はこれを「考えること自体がゲームになっている」「私が小学生の頃ゲームを作っていたときも,作ること自体が楽しかった」と表現し,「今のプログラミング教育も教える,教えられるではなく,気づきと開発環境を与えれば子ども達は自然に学ぶのではないか」とセッションをまとめていた。

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TANOTECH 公式サイト

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