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eスポーツにおける多様性の可能性が語られた,東京eスポーツフェスタのトークセッションをレポート
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印刷2020/01/16 18:05

イベント

eスポーツにおける多様性の可能性が語られた,東京eスポーツフェスタのトークセッションをレポート

 2020年1月11,12日,東京ビッグサイトでeスポーツイベント「東京eスポーツフェスタ」が開催された。
 このイベントでは,eスポーツの競技大会や体験企画に加え,トークセッションも行われた。本稿では,性別や年齢,人種などの垣根や,障がいなどのハンデを超えて同じ土俵で競い合えるというeスポーツの側面に焦点を当て,具体的に4つの事例を紹介したセッション「eスポーツにおけるダイバーシティの可能性」をレポートする。

「東京eスポーツフェスタ」公式サイト


望月雅之氏
画像集#001のサムネイル/eスポーツにおける多様性の可能性が語られた,東京eスポーツフェスタのトークセッションをレポート
 セッションの司会を務めたソーシャルインクルージョン世田谷の望月雅之氏は,最初にeスポーツとダイバーシティ(多様性)を取り上げた理由を説明した。それによると,eスポーツがスポーツ興行として健全に発展するためには裾野の拡大が不可欠であり,とくにライト層や非プレイヤー層に参画してもらうことが大きなポイントになるという。

 その意味で,eスポーツには性別や年齢,人種,障がいなどのハンデを問わず競えること,マイノリティとされる人達の働く機会の増加が期待できること,さらにはそれまでネガティブな捉えられ方をしていたゲーム好きの中高生が,今やゲームが上手ということで注目されるようになりつつあることなど,社会的に貢献できる部分があると望月氏は語る。それらを地道にアピールし続けることが,eスポーツの裾野の拡大につながるというわけだ。

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 eスポーツのスポーツ化に関する探索的研究に取り組んでいる,昭和女子大学人間社会学部准教授 丸山信人氏もまた,eスポーツにはダイバーシティに対応する「ユニバーサル・ソリューション」の可能性があるとして,2019年に「ユニバーサルeスポーツ研究会」を発足したことを紹介。

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 この研究会の目的は,ダイバーシティに対応するユニバーサルな視点でeスポーツを捉え,その可能性を3つの視点で探ることにある。1つめの視点は,障がい者,社会的弱者というハンデを超える可能性,すなわちハンデを持つ人達が新しい価値を生み出すのではないかという期待である。
 2つめの視点は,女性,シルバー,若者といった性別や年齢の枠組みを超える可能性で,丸山氏はカナダの女性eスポーツプレイヤーや,スウェーデンの平均年齢70歳以上のeスポーツチームを紹介した。
 そして3つめが,ダイバーシティとインクルージョンに対応する新しい教育の可能性,つまり多様性の受容に関する教育が必要になるという視点だ。

 続いて,障がいやハンデを超えるeスポーツの要素として,ハンデを抱える人達が社会との接点を持つための新しい機会が創出されていることや,身体的・精神的なリハビリテーションになっていること,就労(プロ化,ネットワーク上の職場)につながることが挙げられた。

eスポーツは,プレイヤーだけでなく観戦者も楽しめるものであることも紹介された
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 そうしたダイバーシティに対応するためのeスポーツ教育についても言及がなされた。まずは「教育現場でのeスポーツ」で,丸山氏はアメリカ50校,中国20校,韓国10校の大学にeスポーツのコースがあることを紹介。日本でもeスポーツ部を開設する高校が増えていることを挙げ,「フィジカル面とはまた違った能力を発揮できる場になってほしい」と希望を述べつつ,「新たな教育的カリキュラムや,最初から世界を視野に入れた教育が必要」であると語った。

eスポーツがダイバーシティに対応するために必要な3つの社会課題
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 丸山氏は,eスポーツについて「社会に新たな価値を創出し,ユニバーサルなポジショニングでダイバーシティに対応するための『エコシステム』作っていく可能性を持っている」と改めてまとめていた。

 国立病院機構八雲病院 作業療法士 田中栄一氏は,障がいを持つ人がeスポーツに取り組もうと考えたときに発生する課題を説明した。1つめは,その人の特性に合った指導や,相談ができる人材がいないことである。
 2つめは,コントローラやキーボード,マウスによる操作ができないためにそもそも参加ができないこと。デバイスを工夫すれば参加できるケースもあるが,情報が出回っていない,試す機会がない,価格が高い,入手困難といった,さらなる課題が付きまとう。
 そして3つめは,大会のルールによりデバイスが制限されること。せっかく上記のデバイス面を克服できたとしても,ルールによって大会参加を諦めなければならないのだ。

筋ジストロフィー患者のeスポーツプレイヤーが大会に参加した事例も紹介
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 そうした課題を乗り越えるため,田中氏らは「安心・安全」をキーワードに,障がいを持つ人がeスポーツ競技に参加できる機会を育てる取り組みをしているという。会場では,国立病院機構八雲病院のeスポーツ部が2019年夏に開催した「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」の大会で,筋ジストロフィー患者達がそれぞれの症状に合わせて顎や足などで操作するデバイスを使い,対戦を楽しんだ事例が紹介された。

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田中氏らが取り組んでいる「ゲームやろうぜProject」
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田中氏らの取り組みでは,短期的には「拠点作り」,長期的には「eスポーツ教育」を行っていくとのこと。とくに,ほかのスポーツにある礼儀や礼節などをプレイヤーに教えるガイドライン作りが重要だと話していた
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 ビーウィズ 執行役員 オペレーション本部長 伊東雅彦氏は,eスポーツプレイヤーとコーチをつなげる同社のマッチングサイト「JOZ」(ジョーズ)を紹介。ビーウィズはもともと,顧客からの問い合わせに応じるコンタクトセンターを運営する企業で,ゲーム関連企業にもサービスを提供している。そうしたゲーム業界のコンタクトセンターには,eスポーツプレイヤーを目指す若者が多く在籍していることからeスポーツに着目したという。

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 そこで,現役で活躍しているプロ選手を含むeスポーツプレイヤー達に課題や問題をヒアリングし,ビーウィズに蓄積された人材育成のノウハウが,コーチングに応用できるのではないかと考えたそうだ。

JOZには2000を超える教育コンテンツがあり,湘南ベルマーレのプロ選手もコーチ登録している
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 またJOZでのコーチングはオンラインで行うため,障がいのある人がコーチとして登録できることも紹介された。JOZはボイスチャットだけでなく,テキストチャットにも対応しているので,コーチとプレイヤーの双方向コミュニケーションも無理なくできるとのこと。

 さらにJOZでは,eスポーツ選手になりたい人や,eスポーツ関連の仕事をしたいという人に向けて長期キャリア構築を支援する「eスポーツ選手養成プログラム」を用意している。これはビーウィズのコンタクトセンターで働きながら,ゲームやコーチングのスキル向上に取り組める制度で,現在は7名が在籍し,うち3名は何らかの障がいを持っているそうだ。

JOZの今後の展望も語られた
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 ゼネラルパートナーズ コンサルタント 茅原亮輔氏とBASE 社長室 三條 陸氏は,eスポーツパラアスリートの雇用事例を紹介した。それによると,ゼネラルパートナーズの手がける障がい者向けの就職・転職サービスにより,2人のeスポーツプレイヤーがパラアスリートとして入社したとのこと。このパラアスリート達は,「eスポーツの活動実績,とくに高い競技実績を生み出すこと」を目標に,eスポーツのトレーニングやイベント・大会への参加,それらに伴うPR活動を業務としているという。

左から,丸山信人氏,田中栄一氏,伊東雅彦氏,茅原亮輔氏
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 今回の取り組みのきっかけとなったのは,BASEの障がい者雇用である。当初はパラリンピックに出場するようなフィジカルパラアスリートの雇用を検討していたが,社内にゲームを好むスタッフが多かったため,eスポーツプレイヤーも視野に入れるようになったそうだ。
 そののち,さらに検討した結果,BASEがIT企業であることから,現在は障がい者雇用にとらわれることなく,プログラミングの入り口となり得るゲームやeスポーツへの貢献という考えで取り組んでいるという。

 一方,ゼネラルパートナーズでは今回の取り組みに向けて,まず登録者のeスポーツに対する興味・関心の高さについてのアンケートを行い,回答者の中から大会出場経験のある人にコンタクトを取っている。
 結果,国内ランキング10位以内,国外ランキング100位以内など上級者が8名,ゲーム内ランク上位者など中級者が37名と,非常にレベルが高いことが判明したという。とくに発達障害の人には過集中と呼ばれる特性があり,通常業務に支障をきたすこともあるのだが,ゲームやeスポーツにおいては逆に強みとなり得るという事実が判明したとのこと。

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雇用後の実績と課題や,今後の展望も示された
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左から,三條 陸氏,BASE パラアスリートの芳野友仁選手と安井達哉選手。芳野選手と安井選手は,今後の抱負などを語った
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 セッションの最後に,望月氏から登壇者に向けて「障がい者eスポーツが盛り上がるために必要なことは何か」という質問が投げかけられた。田中氏は「障がいのある人達がeスポーツに取り組み,自身の生活を変えている事実を多くの人に知ってもらうこと」と回答し,「それでも大会に参加できない人もいる。どうすれば参加できるか考えてほしい」「ぜひ障がいのある人達とたくさん対戦してほしい」と語った。
 また丸山氏は,2019年に行われた調査で,小学6年生男子がなりたい職業の1位がプロスポーツプレイヤーであり,eスポーツはその中でも,サッカー,野球,テニスに次いで4番めだったことを紹介。さらに彼らが世界を視野に入れているとしたうえで,BASEのパラアスリート達もぜひ世界で活躍し,日本におけるeスポーツの盛り上がりに拍車をかけてほしいと期待を語っていた。

 最後に望月氏が,「2019年夏に,海外には筋ジストロフィーのプロeスポーツプレイヤーがいると知り,それから数か月で日本にも誕生した。いい流れが来ているので,このまま地道にeスポーツとダイバーシティに関する活動を続けて行きたい」とし,「東京に障がいを持つ人が運営に参加するeスポーツ公民館を作りたい」というプロジェクトを紹介してセッションを締めくくった。

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「東京eスポーツフェスタ」公式サイト

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