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メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの
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印刷2019/04/03 12:00

イベント

メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

 2018年9月,デンマークのユトランド半島中部にある地方都市ヴィボーにて,ゲーム/アニメ系クリエイターを対象としたアクセラレーター(企画・創業支援)プログラム「NipponNordic」(ニッポンノルディック)が行われ,日本からは6名がゲーム系プロジェクトで参加した。

 この取り組みが始まったのは2017年からだが,「ファイナルファンタジーXI」や「バーコードフットボーラー」などにゲームデザイナーとして携わってきた私は,NipponNordic参加し,ヨーロッパの業界関係者に向けて自身が今開発しているゲームのプレゼンテーションをした。
 その縁もあり,今回はゲーム系プロジェクトの「メンター」(指導者)として,再び参加することになったのだ。

 今回はメンターとしての活動だけでなく,現地の企業やクリエイター達と会って話をする機会をもらうことができた。本稿では,「このクリエイティブな環境についてもっと多くの人に知ってほしい」という思いから,NipponNordicの紹介ができればと思う。


ヴィボーのゲーム/アニメ産業クラスタ


画像(001)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの
 NipponNordicの開催地となったデンマークのヴィボー市は,首都コペンハーゲンの位置するシュラン島ではなく,ドイツと国境を接するユトランド半島側にあり,コペンハーゲンからは電車で5時間ほどの距離にある。
 人口は4万人ほどだが,デンマークの総人口が約580万人であることを考えると,そこまで田舎ではない。市内にはサッカースタジアムもあり,中心部には有名なブランド店も見られ,ここに住む人々が都会のポップカルチャーや消費生活から隔離されているとは感じなかった。

 そのヴィボー市の中心にあるのが,国立総合大学であるVIA University College(VIA大学)と,その所属機関であるThe Animation Workshop(アニメーションワークショップ。以下,TAW)である。「ヨーロッパ有数のアニメーション,ビジュアライゼーション,グラフィック・ストーリーテリングのトレーニングセンター」と紹介されるTAWは,1988年に民間のアニメータートレーニングセンターとして設立された。

 TAWには主にCGやアニメーションの芸術系学士課程からなる大学としての機能があるが,そのほかにデッサン,ストーリーボード,コンセプトアート,VFXなど,ジャンル別の集中講座を提供している。日本から見ると,専門学校と美大のどちらにも当てはまらない,また両者の中間という表現もふさわしくない特徴を持つ教育機関である。

 そんなTAWは,EUからその価値を認められ,1990年代を通して専門教育機関として発展していったが,2007年には国立大学へと編入される。その背景には,この地域の若年失業率の改善,人口の定着という課題があり,その解決手段として,アニメーション及びゲーム産業が注目されたのである。

 デンマークというと高度な社会保障が注目されることが多いが,580万人という少ない人口で社会の豊かさを維持するためには,1人あたりの生産性を高める必要があり,国内産業の育成方針としては自ずと知的産業,中でも市場規模の大きい映画,ゲーム産業に期待が寄せられる。

 政府や地域社会の期待に応えるため,TAWはゲーム産業の人材育成に力を入れ始めている。TAWの敷地内にはThe Arsenalet(アーセナル)というアニメーションとゲームの関連企業が集まるインキュベーション施設があり,インターンなどで常にTAWの人材と交流している。
 TAWの学生は卒業後の就業やその仕事内容をすぐにイメージできるし,アーセナルの企業は人材の確保に困らない。先述した「都会のカルチャーから隔離されていると感じない」この街の雰囲気は,TAWとアーセナルが夢のある若者を集めることで成り立っているのかもしれない。


NipponNordicという試み


画像(002)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの
 TAWの最大の特徴は,オープン・ワークショップというプロフェッショナル向けのアーティスト・イン・レジデンス(長期滞在型のプロジェクト開発)の環境を提供し,世界中から人材を集めている点にある。私は滞在中にオープン・ワークショップの参加者と話す機会があったのだが,ヨーロッパだけでなく,アジアや南米など,さまざまな地域のアーティストに出会えた。

 ここに集まった参加者は,そのような多様性の中でお互いを刺激し合い,時には協力して自分の作品を発展させていく。2014年には,ヨーロッパ,ブラジル,日本の3地域からアーティストを集める企画コンセプトのワークショップ「SEA - コンセプト開発マスタークラス」も行われた。

 NipponNordicは,そのワークショップを発展させたものである。名前から分かるように,日本と北欧のアーティストの交流がコンセプトであり,参加資格は,デンマーク人,日本人,そして両国に在住する外国人に限定され,デンマークと日本の応募者の中から8人ずつ計16人のアーティストが選ばれる。

 また,オープン・ワークショップが半年から1年間の滞在を想定しているのに対して,NipponNordicは3週間の集中プログラムであり,作品の完成ではなく新しい企画コンセプトの開発(ゲームならばプロトタイプかそれ以前の段階)が目的とされる。
 メインイベントとして,ヨーロッパの業界関係者を前にしたピッチ(10分間のプレゼンテーション)の機会が設けられ,参加者は主にその準備を行うことになる。

 そのため,応募時にはオリジナルの企画の提出が求められ,内容が審査される。企画への本気度やクオリティを担保するために,学生ではなくプロフェッショナルとしてのキャリアがあることも参加資格となっている。
 対象ジャンルは,「アニメーション」「ゲーム」「VRコンテンツ」であり,2017年に私は,日本から唯一のゲーム系人材として参加した。参加の経緯やそこでの体験の詳細については長くなるので割愛させていただくが,異国の街の素晴らしい雰囲気の中で,フランス人ゲームデザイナーのアドバイスを受けながら企画コンセプトを開発し,映画祭スタッフからの専門トレーニングを受け,ヨーロッパの業界関係者の前でピッチを行なったことは,私のキャリアや人生を変える出来事だったと言える。


NipponNordicで発表された多様なゲーム系プロジェクトの数々


 2018年度のNipponNordicでは,日本から6人,デンマークから1人の計7人がゲーム系プロジェクトに参加した。今回は一人ひとりに,NipponNordicに参加した動機や,参加してみての感想,そして,今後についても聞いてみたので,どれだけ多様なバックグラウンドを持つ人材がここに集まっているのか,分かってもらえると幸いだ。



◯「YOKAI FRIENDS」(関 厚人/CGアニメーター/カナバングラフィックス)

 関 厚人氏は,ゲームデザイナーではなく「イナズマデリバリー」「ウサビッチ」などの作品で知られるカナバングラフィックス所属のアーティストだ。主に3DCG作品における各種デザインを仕事としているが,今回は自身初となるゲーム企画「YOKAI FRIENDS」で参加した。

 この作品は,プレイヤーの部屋にさまざな妖怪を招き,友情を育むという箱庭&ペット育成系のゲームで,日本社会の発展の中で忘れられた妖怪という存在を,主に海外の人に知ってもらおうというコンセプトになっている。

 日本で妖怪もののゲームというと「妖怪ウォッチ」が思い浮かぶが,もちろんそれは承知のうえである。私を含むメンターとディスカッションを重ね,結果的にはまったく違う個性を持つゲームとなった。
 実は前年度,関氏はほかの作品で応募して落ちてしまったので,本年度は手堅く選考を通過できるように,日本らしい作品にしたそうだが,デンマークに来てみたら逆にカルチャーギャップを乗り越えることに苦戦したらしい。ピッチの直前には,TAWやアーセナルから多くの人を集めて感想を聞き,キャラクターデザインを調整していた。


 NipponNordicには,前身プログラムのSEAに参加した職場の上司に勧められて参加することにしたそうだ。ほかのアーティストとの交流に興味もあり,また,仕事にマンネリを感じていたことも,背中を後押ししたという。
 そんな関氏は今回の体験で,クリエイティブなモチベーションを取り戻せたと語ってくれた。普段の仕事で参加する作品では,評価が分かりにくいところがあったそうだが,今回は自分のオリジナルの作品について評価や指摘をもらえたことで,勉強になったと同時に自信にもつながったという。

こちらは都内のイベントでコンセプトアートを紹介する関氏。ゲームとして出るかは分からないが,妖怪の世界観はアップデートされ続けているようだ
画像(007)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

 もっとも,「Yokai Friends」がすぐに商品企画となるのは難しいため,今後は会社の仕事を続けながら個人で創作を進めていくか,ほかの会社や国に移るか,TAWのオープン・ワークショップに行ってみようかと,迷っているそうだ。
 いずれにせよ,モチベーション自体はかなり高まっているので,すぐに行動を起こしたいと語ってくれた。実際,自分の企画がすぐに仕事につながるわけでもなく,帰国直後に何をすべきか分からなくなってしまうというのは,私も前年経験したことだが,このモチベーションの高まりが結果的には良い方向に導いてくれることも知っている。



◯「Farmanoid」(渡部 健/インディーズゲーム開発者)

 渡部 健氏は,京都でインディーズゲーム開発者として活動している人物だ。すでにオリジナルゲームの「ネコの絵描きさん」で「Google Indie Games Fesival 2018」 のTop3に入賞するなどの実績があり,ブログでの情報発信も日本のインディーズゲームシーンでは知られた存在である。

 そんな渡部氏は,NipponNordicへの応募の動機について「主催者側が滞在費や渡航費を負担してくれるし,北欧やほかの日本人のクリエイターと交流できるのが楽しそうだった。欧米のゲーム開発を学べることも期待しました」と教えてくれた。

 渡部氏が今回発表したのは,農場で働くロボットのAIを設計する「Farmanoid」というゲーム。プログラマーとしてのバックグラウンドを持つ渡部氏らしい作風とも言えるが,農場ゲームという人気のジャンルで,プログラミングの楽しさを多くの人に知ってもいたいという発想から始まった企画らしい。

 このゲームでは「トマトがなったら収穫する」「トラックがいっぱいになったら出荷する」など,農場におけるルティーンワークについて,「何がどうなったら」という対象および条件を表すパーツ,それに対して「何をする」という行動を表すパーツ,それら2種類の組み合わせを並べてAIをプログラミングし,ロボットに仕事を任せていく。
 ルティーンワークをやらせるだけなら簡単なのだが,そこに害虫の発生など突発的なイベントが加わるため,行動の優先順位を考慮するなど,AIの柔軟性が要求されることにゲームプレイの深みが生じる。

 毎日Unityによるプロトタイピングを着々と進め,何事も順調そうに見えた渡部氏だったが,英語でのピッチについては不安があったらしい。結果的にはピッチもうまく行き,その経験が自信につながったと言うが,それに加えて今回得られたものとしては,人とのつながりがもっとも大きいと語る。


 帰国後は,デンマークに行く前から進めていたプロジェクトの再開や,法人化の準備などで多忙な日々を過ごしていたようだが,今回知り合った人達と何か面白いことができれば良いと希望を語ってくれた。
 また,以前はシェアハウスの運営もしていたそうで,日本で同様のアーティストインレジデンスを実現したいとも言っていた。渡部氏の体験は,日本の開発者コミュニティにきっと還元されることであろう。今回発表した「Farmanoid」についても,デンマークでの反応を踏まえて開発を継続すると言うことで,リリースを楽しみに待ちたい。なお,渡部氏は自身のブログでも今回の滞在記を書いているので,興味のある人はそちらも確認してみてほしい。



◯「Mini-Book Adventure」(濱田隆史/ゲームデザイナー/ギフトテンインダストリ)

 Nintendo Switchで遊んでいる人なら「マドリカ不動産」というゲームをご存知かもしれない。その「マドリカ不動産」の作者である濱田隆史氏も,2018年度のNipponNordic参加者の1人だった。
 ちょうど「マドリカ不動産」のリリースを控えたタイミングでデンマークへとやって来て,帰国してからはPR業務やパッチ開発に忙殺されたという濱田氏だが,隔離されたヴィボーの環境のおかげで,集中して次回作の検討ができたという。

 濱田氏が現地で発表した「Mini-Book Adventure」は,「マドリカ不動産」と同様にNintendo Switchと紙を用いてプレイする,デジタルとアナログのハイブリッドなゲームであった。濱田氏は毎日異なるゲームのプロトタイプ(実際に紙とiPadでプレイ可能なもの)を我々メンターに見せてくれたのだが,同じゲームデザイナーとして,1日に1つのゲームを考えて作ることは簡単なことではないと分かっている。

濱田氏はNippon Nordicでピッチしたプロジェクトを紹介(都内でのイベントの様子)
画像(006)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

 なので,その実行力やスピード感には驚かされた。プロトタイプを作る過程について濱田氏は,バックグラウンドの異なる人達が集まるヴィボーの環境において,さまざまなフィードバックを受けられたことで,モチベーションが維持できたと語る。
 また,TAWの学生やオープン・ワークショップの参加者などが毎晩何かしらで集まており,パーティーのようなことをしていたおかげでテストプレイの機会に困らず,朝に思い付いたものを1日かけて作り,夜に遊んでもらうというペースを継続できたという話は,このNippon NordicやTAWの環境の特殊性を物語るエピソードと言える。

 その結果として生まれた「Mini-Book Adventure」は,プリントアウトした紙を折りたたんで,小さな本を作って謎を解くゲームが複数収録されたものだが,内容は今後変わっていきそうだ。
 すでに自社でゲームを開発しており,リリースする能力があるため,ピッチで賞を狙ったり出資を募るよりも,あくまで初期開発の一環としてこの環境と時間を有効利用したようにも見えた。とにかく多くの人と積極的にコミュニケーションを取る姿が印象に残ったが,このように実績がある開発者であっても,ここには一度来る価値があると言えるし,逆に言うと濱田氏のような開発者に出会えるという意味でも参加する価値はあるだろう。

 私自身も,メンターとして濱田氏に何かを教えるよりも,むしろその行動力に影響されたと言える。もし「マドリカ不動産」を気に入ったなら,濱田氏の新作を楽しみに待っていてほしい。



◯「INTERA」(福島 海/VRデベロッパ)

 今回,日本人の参加者の中で唯一VR作品のプレゼンテーションをしたのは,福島 海氏である。応募時は大学院生で業界での経験はなかったが,大学院ではVRを研究し,ゲーム開発者としては日本デジタルゲーム学会の第6回シリアスゲームジャムで最優秀賞を受賞したチームのメンバーである。

 福島氏が発表したのは,タブレットを持つプレイヤーと,VR HMDを装着するプレイヤー2人1組でプレイするゲーム「INTERA」だ。母国語の異なる人同士が,言葉以外の方法で関係構築できないかという発想から生まれたゲームであるという。
 当初はタブレット側のプレイヤーが入力した楽譜によって,VR側のプレイヤーが音楽/ダンスゲームのようなものをプレイするといったものだったが,音楽の素養のないプレイヤーにも気軽に楽しんでもらえるようなUIに悩んでいるようでもあった。

 そしてある日,私が氏のブースを訪れると,まったく違うゲームに変わっていた。画面にはボクセルアートで作った怪獣やF-15J戦闘機が映っていたのだが,どうやらVR側のプレイヤーが怪獣になり,タブレット側のプレイヤーが音符の代わりに戦闘機や戦車などを飛ばすようだ。
 とにかく怪獣となったプレイヤーは,シンプルに体を動かし破壊を楽しむ。例えばイベント会場などで一見さんにプレイしてもらうことを想定した場合,確かにその方がどう楽しむのか分かりやすいし,VR側のプレイヤーとタブレット側のプレイヤーが一緒にプレイして笑い合うところも想像できる。

 実際のピッチでは,福島氏がVR側のプレイヤーとして実演するところでオーディエンスから笑いが起きていた。このような発想の転換について福島氏は,多くの開発者に囲まれた環境でインスピレーションを受けた結果だと語る。


 このようにピッチでは好反応を得たプロジェクトであるが,帰国後に福島氏にうかがったところ,開発は一旦中断しているという。その後,都内のゲーム開発会社に就職を決めた福島氏であるが,まずはプロの開発者としてチャンスの多いモバイルゲームに軸足を起きたいということらしい。

 これは,2年を通して見えて来たNippon Nordicの課題とも言えるのだが,福島氏に限らず,日本からのプロジェクトの場合はピッチで好評価を受けたとしても,現地のファンドが日本人を対象としていないなどの理由ですぐに資金援助につなげることは難しい。もっとも,本人にとってはピッチの体験自体が大きな糧となっているだろうことは,日本で再会した時の福島氏の表情から感じ取ることができた。



◯「Playing with Shapes」(村上寛光/アートディレクター/株式会社フリッカ代表)

 2017年まで東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻で助教を務め,2017年度のNipponNordicの参加者も複数指導していたという村上寛光氏は,ゲームを応用したインスタレーション作品を発表した。ちなみに,インスタレーション企画ということもあり,今回紹介する中では村上氏だけが私を含むゲーム系のメンターの担当から外れていた。

 東京藝大の映像研究科というと,2019年度からのゲームコース開設のニュースを覚えている読者もいるかもしれないが,今はこのように芸術研究の分野からゲームの持つインタラクティブな体験の価値への関心が高まっているタイミングなのかもしれない。

 今回発表された「Playing with Shapes」は,子どもの芸術センスを開拓する目的のインタラクティブアートで,カメラによる画像認識と大型のスクリーンを用いたインスタレーションであるが,開発にはゲームエンジンのUnityが使われる。
 カメラが参加者のジェスチャーを認識するとスクリーンに図形が描かれるので,参加者はそれをジェスチャーで移動させて,ほかの参加者の図形にぶつける。図形にはじゃんけんのようなすくみがあるので,それを利用して図形を消滅させたり合体させたりするという内容だ。

 2人組で一緒にジェスチャーを行うと大きな図形が作れたり,3人だと無敵の図形が作れたりと,協力プレイに重きが置かれているが,ピッチで見せられた先行デモ版の映像では親子で息を合わせて図形を作る姿が印象的であった。
 また,カメラはジェスチャーを認識するだけでなく,その日の参加者のシルエットをとらえ,翌日に画面上部に写してNPCとして登場させるという仕掛けもある。これは,いかにもインスタレーションというゲームデザインに思えた。


 東京藝術大学を退職後に自身の会社を設立した村上氏は,海外での仕事のチャンスを探していたという。NipponNordicでは,プレゼンテーションのトレーニングを受けられたことと,アニメーション以外の人脈ができたことを成果として挙げていたが,一方で自身の企画に対するビジネス的なコンサルティングやメンタリングは不足していたとも感想を述べていた。

 これは,NipponNordicが元々アーティストインレジデンスの延長として始まったが故,参加者をアーティストとして扱いその自主性や作品性を尊重した結果,起業支援プログラムとしての側面が軽視されてしまっていたということであろう。
 これもNipponNordicの今後の課題と言えるが,その辺りを指摘するのは大学教員としてのバックグラウンドを持つ村上氏ならではの視点であると私は感じた。帰国後に話をうかがったところ,今回の経験を活かして会社として国際的なプロジェクトに関わって行きたいと意欲を語ってくれた。ゲーム業界とのコラボレーションにも期待したい。



◯「What A Beautiful World」(入交星士/アニメーション作家)

 長く劇団の作曲家として活動し,その後デンマークの映画学校に留学,最近はアニメーション作家として海外コンペでの受賞の経歴を持つという入交星士氏が発表したのは,1人の昏睡状態の少年の深層心理を探求するというストーリーのゲーム「What A Beautiful World」だ。昨今のインディーズゲームシーンで,「インタラクティブ・フィクション」と呼ばれるような内容だ。

 私はメンターとして初めて彼の企画書を目にしたとき,そのあまりにもアーティスティックな作風に驚いた。まず,とにかく企画書それ自体のレイアウトといいグラフィックスがとても目を引くものであった。ゲーム業界の企画書では,キャラクターのイラストやコンセプトアートなどで目を引くものがあるが,そういう意味ではなく,企画書それ自体が全体として1つの作品のようであったのだ。

 ゲームの内容も,ある悲劇的な事故で昏睡状態に陥り,8人の人格に分裂した少年の潜在意識と対話しながら少年の記憶を補完し,事故の真相に迫るという,個性的なものになっている。そのような世界観について入交氏は,一時期務めていた精神障害者福祉の仕事での体験が元になっているという。

 ゲームメカニクスは,スマートフォンのカメラで撮影した花の画像が鍵となって少年の記憶の断片がアンロックされて行くという仕組みだ。
 断片化した少年の記憶は,動画をレイヤー別に分けたファイルや,BGMを楽器パート別に分けたファイルという形で表現され,それらを重ねることによって完全な動画となり,少年にあった出来事の真相が明かされるというもの。作曲家,そしてアニメーション作家としての経験とスキルを活かしたゲームメカニクスと言える。

 また,どれを重ね合わせれば良いかは8人の人格との会話においてヒントが得られるらしいが,最初に1人の人格から始まり,段々と話せる人格がアンロックされていくゲームプレイの流れは,全体の個性的な作風とは逆にゲームとして分かりやすい。


 入交氏はゲームプロジェクトでの参加の動機について,2016年のデンマーク留学時に,ヨーロッパで映画やドラマやゲームが並列に扱われてることに気づき,またアニメーション作家としてはゲームとの表現の親和性が気になっていたからだと述べていた。
 すでにデンマーク留学を経験していたこともあり,現地のアーティストと交流することよりは,日本のゲーム関係者とコネクションができたことが収穫だと語る。今回発表した「What A Beautiful World」は,ピッチの後に審査員からゲームプレイとストーリーのどっちを重視してるかと問われたため,よりストーリーを重視した方向で練り直すつもりらしい

 自身にゲーム開発の専門スキルがないため,共同開発者を探すこともピッチの目的だったらしいが,とにかく全体の雰囲気がとても印象的な本作,ぜひともゲームとしての開発を実現させてほしいところだ。



◯「Noon’s Journey」(Sascha Altschuler/Tideshell Studio/2Dアーティスト)

 今回,ゲーム系プロジェクトでは唯一デンマークからの参加となったSascha Altschuler氏は,すでに現地ゲーム会社の2Dアーティストとして5年の活動歴があるが,「自分自身のプロジェクトを落ち着いて開発する時間が欲しかった」という理由で,NipponNordicに参加したそうだ。

 Altschuler氏が発表したのは,「Noon’s Journey」(発表時は「Drifter」)という名の2Dアドベンチャーゲームである。内容は,故郷の村を飲み込んだ大波によって,海を漂う浮島の都市に流れ着いた主人公の少女が,都市を探検しながら故郷に帰る手段を探すというもの。
 基本的には往年のポイント&クリックのアドベンチャーゲームであるが,特徴的なゲームメカニクスが2つある。1つめは,ゲーム世界独自の言語を話すNPCと辞書を用いて会話するという点。プレイヤーはNPCに絵を見せた時の反応を頼りにゲーム内の辞書を作りあげていくのだ。

 もう1つは,潮位を自在に上下させられるアイテム「Tideshell」(潮の貝殻)の存在だ。プレイヤーはそれを用いて,時には小型潜水艇で水の中を進み,時には降りて歩き回ることで新たな道やアイテムを発見していく。
 私はメンタリングの過程において,紙に描いたレベルデザインや,辞書により会話のプロトタイプを体験させてもらったのだが,その時点でTRPGのようなゲームプレイの感覚を楽しめた。このような「ペーパープロトタイピング」の手法は,大手スタジオでも用いられるらしいが,ゲームデザイナーとして大いに参考になった。


 Altschuler氏にNipponNordicで得られたものは何かと聞いたところ,「人脈を広げられたこと,プロジェクトにおいて意味のある進捗を得られたこと,それらはどちらも家で1人でやっていたら得られなかった」と答えている。
 また一方で,このプロジェクトはピッチの結果「最優秀コンセプト賞」を受賞したほか,その後「The Danish Film Institute」(デンマーク映画研究所)の資金援助を受けるまでに至っている。

 資金援助はNipponNordicでの受賞とは直接関係ないものの,ここで考えた企画に対して開発資金が出たのは最大の成果と言って良いだろう。現在はコペンハーゲンにてプログラマーであり兄であるSimon Altschuler氏と共に,Tideshell Studioという開発スタジを立ち上げて開発を継続しているらしい。リリースされるのが楽しみである。

Tideshell Studioの開発blog



かけがえのない体験だが,アクセラレーターとしては課題も……


 NipponNordicの参加者とそのプロジェクトは,どれも個性的で可能性を感じるものがあり,2017年度に引き続き現地の関係者の評価は高かった。しかし,とくに日本からのプロジェクトの場合,すぐに資金調達といかないところが今後の課題であろう。
 個人のレベルアップを目的としたアーティストインレジデンスとしては,十分な成果を上げているものの,企画の実現や起業を目的としたアクセラレータープログラムとして見ると,成果として物足りないのが実情である。

 例えば2017年度のデンマーク側参加者の中にも,Altschuler氏のようにデンマーク映画研究所の資金援助を受けたケースがあったのだが,それも少額であり現実的には本人の自己負担によって開発が成り立つ部分が大きい。

 日本からのゲーム系プロジェクトに関しては2017年度を含め,資金援助の実績はゼロである。まずNipponNordicにおけるゲーム系プロジェクトの位置付けとして,文化事業としてスポンサーを募るアートなのか,将来的なリターンを提示して出資を募るビジネスなのか曖昧であると言える。
 インディーズゲームですらレッドオーシャンになってしまう現在の市場の状況を考えると,必然的に前者になると思われるが,その場合においてもスポンサーとなり得る組織や団体とのネットワーキング機会の提供,ピッチ内容のオリエンテーションも現状では不十分と言える。

Altschuler氏によるペーパープロトタイピングの様子
画像(003)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

 ピッチの審査委員にもゲーム業界のステイクホルダーは少ない。このことについては,私も主催者側に意見していこうと思っている。一方で,このような試みに対する日本での注目度の低さにも寂しさを感じる。
 それが本稿を書く動機でもあるのだが,2017年度と比べてゲーム系の応募者が増えたとはいえ,まだインディーズゲームデベロッパがこぞって応募するような状況ではないし,ここへの参加実績が出資や仕事の獲得につながるまでには至ってない。

 日本のゲーム産業にピッチという慣習がないために,せっかくデンマークで完成させたピッチを日本に持ち帰っても,披露する場がないという点についても忘れてはならない。私自身,1人のゲームデザイナーとして企画を実現するチャンスを求める立場であると同時に,会社の経営者として日本のゲーム産業の人材育成の現状に問題意識を抱く立場でもあるが,一言で表すとこのNipponNordicは「ゲームデザイナーの登竜門」となってほしいと願っている。
 ともかく,まだ始まって2年目であり,少なくとも渡航費や宿泊費やそのほか現地での生活に関する諸々のサポートのうえに,これだけの体験を提供してくれることには感謝の念しかないし,主催・運営の熱意を考えると今後の改善にも期待はできるだろう。


今年度はNINOKOユニバースアクセラレーターとして参加者募集中


画像(008)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの
 さて,今年の話であるが,同じく9月にこれまでの日本とデンマークに新しく韓国を加え,“Ni”ppon, “No”rdic, “Ko”reaそれぞれの頭文字を合わせた「NINOKO」という名称での実施が決まった。
 3月1日に募集を開始し,3月9日には都内で説明会も開かれ,先に紹介した濱田氏と関氏,アニメーションでの参加者でオープン・ワークショップ賞を受賞した二瓶紗吏奈氏によって,前年度の体験談が語られた。

 三者とも改めて,落ち着いたヴィボーの環境において集中して作品と向き合えることや,多くの人材から意見や感想をもらえることのメリットを強調していた。ちなみにこの日は,大手ゲームパブリッシャの社員も説明を聞きに訪れていたのだが,終了後に話を聞いたところ,会社の仕事を抜けて参加できるかどうかという悩みがあるようだった。

左から,村上氏,関氏,濱田氏,二瓶氏。この日司会を勤めた村上氏は,今年度より日本人参加者向けのコーディネーターを務める
画像(004)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

 私が参加した2017年度も,アニメーション作家として日本の大手スマートフォンゲームパブリッシャの社員が参加していたのだが,社員の参加について企業がどれほど理解を示してくれるかは,主催者側の広報活動のほか,私のこの記事の影響力にも依るだろう。参加希望者だけでなく,できるだけ多くの業界関係者にこの体験の価値が伝わることを願っている。

TAWよりアニメーション・CG学部長のMichelle Nardone氏も来日し,TAWやアーセナルを紹介
画像(005)メンターが語るデンマークの協業支援プログラム「NipponNordic」。参加者を通して見る,ゲーム開発者が得られるもの

NINOKOユニバースアクセラレーターのオフィシャルサイト

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