
インタビュー
「serial experiments lain」の20周年を記念し,主要スタッフにゲーム版をプレイしてもらった。次作は「誰かが適当に作ったら」?
最高&最先端を目指して
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AXのとき,なんで中原くんは安倍くんに「目指せケーブル10万本!
安倍:
そのフレーズ自体は聞き覚えがありますけど……。
上田:
奴は,そういう勢いってものが好きで,とにかく“最高”を目指す男なんだよ。「オヤジの最強PCを買いにアキバ行こうぜ! 120万円かかってるやつ!!」つってさ。そういう勢いだけはある。
安倍:
僕の自転車も,「これに今ある最高のパーツを全部着けてみようぜ!」と言って,24万円という(笑)。
小中:
面白かったなあ(笑)。
上田:
面白いけど,被害者はたまらないよ(笑)。
小中:
ネタとか冗談とかでなく最高を目指すんだよね。
上田:
彼はSF小説とか理論的なインタフェースとか,そういう最先端も走っていた。
小中:
隆太郎さんに心酔していたのもあるだろうし,隆太郎さんも中原くんにインスパイアを受けていたから,異業種カルチャー同士の影響というものが,ゲームとアニメであったわけですよ。
上田:
「一番上を目指す」ってコンセプトがあるから,作ってる途中に「ダサい!」となったら「いや,ちょっとセーフじゃない?」と言っても「いやダサい! 変えよう!」ってなる。
そういうところが分かりやすいのはいいんだけど,「今言うか? それも,自分で決めたやつをひっくり返してさ?」みたいな,そういうとこが……なあ。
小中:
でも,間違いなく才能はあったからね。けっこう助言もしてくれたし。ある種,孤高の職人ではあったよ。「普通,アニメの監督や脚本に向かってそれ言うか?」ってことを平気で言ってたからね。私はけっこう「あ,そうなんだ」って感じで受け取ってたけど。
上田:
あいつのバックグラウンドで集積されていたSFやメディア観は役立ってる。“インタフェース=思想”みたいなところもあってさ。
小中:
現実でもそうなったよね。
上田:
そういう,最先端を確実に貫いている奴ではあった。
小中:
本来なら中原くんがここにいればいいんだけど,ちょっと今,行方不明なので。
上田:
俺達がドアを叩いてないだけで,近くにいるかもよ(笑)。
安倍:
中原はSNSとかやってないの?
上田:
知らない。あいつ,最後の方はメールも自宅サーバでやってて,それで「電気止まっててメールを読めなかった」とか……。
(爆笑)
上田:
lainの前か後か忘れたけど,京都のATR(国際電気通信基礎技術研究所)に呼ばれたんだよな。中原の知り合いがインタフェースの研究をしていて,「NOëLでは,どうやって人工知能もどきを作ったんですか」ってことで,解説してほしいと。京都まで中原と2人で行ってさ。学者からすると,「市井の民間企業が,なんでこんな高度なことをできてるの?」って感じだったらしくて。
小中:
と言っても,NOëLは人工無脳だよね。
上田:
そう,ELIZA(※)の延長っていうかさ。今でいうAIではない。
※1960年代に開発された,対話型の自然言語処理プログラム。
小中:
だけど,それが本気の人達からすると,ある種の理想形だったのね。
上田:
学者脳で考えると「これしかデータがないのに,なんで目指しているアウトプットができているんだ」って疑問が湧いたみたいで,説明しに来てくれって言われてさ。で,行ったらアラン・ケイ(※)がいたんですよ!
※コンピュータ科学者のアラン・カーティス・ケイ氏。さまざまな功労があり,とくに個人用の「パーソナルコンピュータ」という概念を提唱した人物として知られる。
※中原氏によると,アラン・カーティス・ケイ氏ではなく人工生命プログラム「Tierra」の開発などで知られるトマス・S・レイ氏だったらしい。(welcome back to wiredの10月2日掲載記事より。10月2日13:40追記)
小中:
マジで!? 初めて聞いたよ。
上田:
俺は「アラン・ケイがいる!!」つって,中原も「オヤジオヤジ! サインしてもらおう!」って,NECの製品にサインしてもらって,「やったやった〜♪」ってニコニコして帰った。
小中:
何でlainをやってたときに教えてくれなかったの……。
上田:
lainの後だったのかな……。
小中:
私はアラン・ケイの写真をWebで探して,After Effectsで動かしてたのに……あ,でも私達(小中氏&安倍氏)もパナソニック先端研究所に行ったよね。だからやっぱり,自慢じゃないけど専門家が「なんで?」って思うようなものをやっていたんだよ。
安倍:
行きましたね。あれは向こうから呼ばれたんですか? 何かの取材かと思ってました。
小中:
呼ばれたんだよ(笑)。
上田:
ああいうのは嬉しいね。本業のプロから「すごい」って言われるのは,本当に光栄だし。頑張った勲章だよ。lainのゲームも,「ちょっとヤバいんで監修してもらえますか?」って,医療業界誌で記事を書いているような人に見てもらったんだけど。そしたら,ほぼ間違いがなくて「よく調べましたね! すごいですよ」と言われて,「よかった〜」ってなった。
小中:
アニメ版も,人々が勝手にしゃべっている描写(※)が「Twitterっぽい」って言われるようになって,それを想定していたわけじゃないけど,「ネットではみんなブツブツ独り言を言ってるよ」みたいなのは表現できていた。
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ゲームメーカーとしてのパイオニアLDCとは
4Gamer:
ゲームの制作についてうかがっていければと思います。そもそもパイオニアLDCがゲーム業界に参入したころの状況というのはご存知でしょうか。
上田:
始めは何だっけかなあ。「天地無用」か何かの,アニメ関連のやつ?
4Gamer:
調べたところでは,スーパーファミコンの「バウンティソード」(※)が第1作だったそうです。
※1995年に発売されたスーパーファミコン用のシミュレーションRPG。リアルタイム制を採用しており,ジャンルは「瞬間決断アドバンスドRPG」と謳っていた。後にPlayStationで「バウンティソード・ファースト」としてリメイクされる。
安倍:
PlayStation版の攻略本で,僕がイラストを描いたやつだ。
上田:
マジで!? ああ,太田さん(※1)っていう先輩がバウンティソードを作っていて。ゲームが好きなので,ちょくちょく開発チームへ遊びに行ってたら,そこにいた亀井(※2)って奴に「アニメの力を借りたい企画があるんです」と言われて,中原とところの2人を紹介されて,NOëLの企画書を見せられたんだ。
※1 バウンティソードのプランナーである太田 泉氏。現在は日本マイクロソフトのパブリックセクター統括本部に所属し,教育ICTエバンジェリストとしても活動中。
※2 NOëLシリーズのプロデューサーである亀井 毅氏。
上田:
で,「何このクソみたいな企画書! 面白くねぇ! フツーこうしない?」って言ったけど,中原が「俺達が元々提案してたのはソレです!」と言い出して,そこから付き合いが始まってNOëLができた。
でも俺は,1作で喧嘩別れしたんだよ。亀井に「ふざけんな!」って言うようなことがあってさ。
小中:
一本目はヒットしたの?
上田:
発売当時で20万本。ベスト版なんかを合わせら,30万本は軽く行ってる。でもNOëLも,今やったらイタいよ?
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小中:
NOëLのテレビ通話的な表現って,そんなに古びてないんじゃない?
上田:
でも,あれもまた謎なゲームシステムで。会話しているとキーワードに対応したボールが流れてきて,それを放り投げると会話がつながっていくという。
小中:
シナリオは膨大だね……。
上田:
今はゲームでも電話帳みたいなシナリオが当たり前だけど,当時としては膨大だった。予定の日付で終わらなくて「いつになったら終わるんだよ!」って鶴岡センセ(※)が激昂するし,役者は気持ち悪くなって途中で帰るし。
※音響監督の鶴岡陽太氏。音響制作会社・楽音舎の代表取締役。
小中:
相手がいないのに,ずっとしゃべってると病むよね。
上田:
それに,こっちも徹夜で書いてるから誤字脱字が激しくて。バグも,些細なものは放置せざるをえなかったね。
安倍:
高橋さん(※),「バグで,自分でも予期してない挙動をして会話が違う方向に行くんだ。それがいい!」って得意げに言ってましたけどね(笑)。
※チーフプログラマーの高橋 吏(おさむ)氏。
上田:
開発は,結局オリジナルのチーム(※)ではできなかったの。納期を大きく超えても完成しなくて,最後は面倒見てくれる開発会社に閉じ込めて集中的にやってもらって。それで中原はヘソを曲げて来なくなったりして。それでも,なんとか上げたマスターだったな。
※開発チームのSR-12W。詳細は不明ながら,パイオニアLDCの傘下で法人化されていたようだ。アニメ版lainのムック「visual experiments lain」には中原氏が代表であると記されている。
小中:
次のlainは雪辱戦みたいなものだったんだ?
上田:
そう思ってたら,もっと酷い! 当時のPlayStationだと,ビジュアルとか内容がキツい以上に,インタフェースの重さやローディングの長さが超キツくて。
安倍:
待っている時間の方が長いんですよね。
上田:
せめて「どこの階層にいるか」とか,全体図は出してほしかったんだけど,それを頼むと中原が「それが分かったら面白くねえだろオヤジィ!!」って。いやいや,この無味乾燥な記号の荒波でストレス抱えさせられちゃ,俺はもう生きていけんわ……と。
本当,このゲームを買った人には「申し訳ない」としか言えなくて。
小中:
実際のところ,売れたの?
上田:
そこそこ売れちゃったので,その分だけ罪の意識もある。何割かの人は満足してくれたかもしれないけど,当時のマシンスペックではストレスが半端なかったよね。
小中:
画素数的なことを置いとけば,これはこれでかわいいんじゃない?(笑) キャラクターは誰の担当だっけ。
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安倍:
垪和(※)さんかな?
※垪和 等(はが ひとし)氏。近年では「メイドインアビス」副監督 ,「NORN9 ノルン+ノネット」演出など。そのほか原画,撮影,メカニックデザイン,銃器デザインでも多彩な作品に携わる。
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ペルソナは,目がバッテンになるなどアニメにはないコミカルな部分がありますよね。
安倍:
まあ「ゲームっぽくなってるなあ」というのはありますね。
小中:
ドジっ子設定なの? 本編が陰惨だから,ここは可愛くしようってことなのかな。
上田:
ああ,それ中原が言ってたかも。
小中:
メインBGMもオルゴールで,ホラー系じゃないしね。
上田:
このオルゴール,長野のオルゴール制作している業者さんに頼んで,収録用に作ったんだよ。3台か4台をサンプリングして,1曲にして使ってる。オルゴール代は自腹だった気がするなあ(笑)。
4Gamer:
ファンアイテムとして作ったら,けっこう高くても売れそうな気がしますね。
上田:
でも,1曲再生するのに複数をつなげないといけないからね。大きいのだったら1曲いけると思うけど,「音をサンプリングしたいなら分けたほうがいいです」って業者さんに言われて,小さいのにした。
小中:
プレイヤーが預かり知らないところでのこだわりだ。
上田:
既存の音源で竹本くん(※)に作ってみてもらったら,すごいショボくて。ずーっと流れるわけだから,ここはちゃんとした音にしたかった。音のクオリティは妥協できないと伝えたら,「本物作るしかないんじゃないですか」って言われて,「じゃあ作ったるわ!」と(笑)。
※竹本 晃氏。データイーストで「デスブレイド」や「ウルフファング 空牙2001」のサウンドを手がけたときの,RAIKAという名義でも知られる。
小中:
シンセサイザーでオルゴールっぽい音はあったけど,こうではないんだよね。
上田:
そうなんだよ,今ほどサンプラーも良くなかったし。そう考えると,足りないなりには頑張ってた。
小中:
オルゴールは良い選択だったと思うよ。ピーキーな音を出すとショボく聞こえちゃうし。
上田:
lainで,これを流しながら皆でダベって,陰惨なムービーが突然流れるような……そういうファンイベントってあるのかな?
小中:
ないと思うよ(笑)。
上田:
部屋でずっとリピートさせてたら,お酒が進むかもしれないね。まあ,もうちょっと画質は良くしたいけどなあ。小さいモニタで,フォトスタンド的に。……あっ,玲音ちゃんだ。
(玲音の日記的な音声ログ)
玲音「風邪が治らない……もう一週間になるのに。ちゃんとお薬も飲んで,じっとしているのに。またお医者さんに行くのやだなあ……本当にただの風邪なのかなあ……」
小中:
大人っぽい演技だよね。
上田:
そう? 当時の清水(※)まんまだけど。「棒読みでいいから」と言って,フラットに徹底させた。
※玲音のCVを担当した清水香里さん。収録当時は15歳で中学生。
小中:
当時の地なのか。絵があるからってのもあるだろうけど,アニメのほうはもっと幼い感じだよ。
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小中:
そういえば,安倍くんのゲーム体験みたいなのは,PC-88のころから?
安倍:
僕が最初に買ったのはPC-6000シリーズ(※)でした。
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俺がPC-6001で,安倍はPC-6001MkIIなんだよね。
安倍:
音声合成できたやつで。武田鉄矢がCMやってました。
小中:
そのころから音声合成はあったのね。「ゲームにおける音声合成(テキスト読み上げ)の元祖」って何だったんだろう。
上田:
lainが初めてかは分からないけど,家庭用で音声をもとに合成したのは早いほうだよね(※)。そういうのにトライして,テストもいっぱいしたんだけど,まあ難しいね。
※lainには,特定の条件を満たすと音声合成でプレイヤーネームが呼ばれるといった機能(近年のボーカロイドやボイスロイドのようなもの)が存在する。なお,「ゲームにおいてサンプリングした音声をシステム上で編集して任意の単語をしゃべらせる」という試みとしては,最初期のものにあたる。
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上田:
こんなのばっかり!
(爆笑)
上田:
当時としてはベストを尽くしてるんだけど……至らなくてすみません。
小中:
この時の体験が,何か役に立ってる?
上田:
根を詰めて何かをやったのは,ここがピークだよ。12月30日から箱根駅伝までPCの前に座って,ずっとテキストとExcelを打ってて,あのときの集中力と孤独感ったらないね。箱根駅伝が始まっているのを見て,「行かなきゃ……」とテレビを消して,そのまま成田空港に行って旅立ったという。
小中:
ポーランドだっけ。
上田:
そう。作曲家の周防義和さんが担当した,「バトルアスリーテス 大運動会」のオーケストラのレコーディングがあって。帰りはアムステルダムまで行って,ゴッホ美術館に寄ったりしたよ。
小中:
まあ,そこで一応ホリデイは楽しめたわけだ?
上田:
ホリデイはね。で,帰ってきたら正月を経験してないから年を越えたって感じがなくて……貴重な体験をしました。
小中:
何歳のとき?
上田:
20代かな。
小中:
だんだん責任を持たされて,TVアニメをやるようになる直前だね。
上田:
責任は今も大して持ってないからなあ(笑)。そりゃ自分の企画には責任を持っているけど。あとは,ときどき小言を言うくらいのクソジジイになってる。「テメエらやる気あるのか! 全員●してやる!!」って(笑)。
小中:
丸くはなってないんだ。
上田:
丸い丸い! もう物を投げないし。真木さん(※)のころは酷かったんだぜ?
※現・ジェンコ代表取締役の真木太郎氏。近年はアニメ映画「この世界の片隅に」(プロデュース)やTVアニメ「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(企画),TVアニメ「監獄学園」(企画)などに関与。
小中:
この前,真木さんに会ったよ。あの人は物投げそうだね(笑)。私はジェネオンがNBCユニバーサルになってから,今回初めて来たけど,今はどうなの?
上田:
普通に外資だから,今あんなことをしたら一発アウトだよ。ワーナーとも分かれたりして,いろんな人が抜けて,営業に「アミテージ・ザ・サード」を分かる奴が1人もいなくなったりしている。
移植,リメイク,続編は?
4Gamer:
クラブサイベリア(※)のときにおっしゃってましたが,ゲームアーカイブス化や現行機移植に関しては,やはり「誰か頑張ってくれ!」的なスタンスなのでしょうか?
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上田:
そうねえ。実際のところゲームアーカイブスは,ハムスターさんから「出させてくれ」って言われたんだけど,自分でプレイしてもストレスあるし,被害者をこれ以上増やしても……っていうのがあってさ。そのときは断っちゃったのよ。
4Gamer:
ゲームアーカイブスのNOëLとかバウンティソード・ファーストとかは,ハムスターが出してますよね。
上田:
そうそう。で,「lainも出させてくれ」って言われたんだけど。
小中:
lainだけ断ったのは,ちょっと考え直した方がいいんじゃない?
上田:
でもこのグラフィックス,やっぱりプロとしてはキツいよ。
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4Gamer:
都市伝説的なところでは,「自殺などの残虐表現があるから」という噂がありますけど,そういうことではなかったと。
上田:
残虐表現ねえ……今見ちゃうと,そんなに残虐じゃないよね。
小中:
今の「バイオハザード」なんかと比べるとね。ただアニメにも共通しているんだけど,“狂気”みたいなのは,実際の規制とは別のところでタブー感がある。
上田:
それはある。今,人を洗脳して,追い詰めて本当に殺しちゃう「Blue Whale Challenge」ってゲームというか,アジテーションというか,そんなのがあるじゃない。殺すのはもちろん,ああいう方向性は良くない。
小中:
でもlainは違うよね。
上田:
もちろん「誰かを殺したい」とは思ってない。でも,さっき安倍が揶揄した「サイコストレッチウェア」ってのは,サイコ=狂気をストレッチするって意味で。自分の中に秘められている危ない部分というのを意識せずに危ない奴になると,本当に危ない事件が起こっちゃう。それに対して,ゲームを通して自分の危ない部分を認識することで,何か変わってもらうというのは,制作の想いとしてちょっとあった。だけど,それをちゃんと伝えられるだけのゲームとして築けなかったというネガティブさもあるんだよな。
小中:
以前,Twitterで「serial expetiments lain」って検索して,まあ一種のエゴサをしてたんだけど,「ゲーム版が至高」みたいな人が今でもかなりいるの。それは,ある種の「選ばれし人々」なんだろうけど。
上田:
鬱屈した青春を送った人達だ。俺とか安倍とかの友達(笑)。
小中:
アニメ版だったら,サイバーパンクのTVアニメとして「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」とかの横に並ぶじゃない? でも,ゲーム版って横に並ぶようなタイトルが挙がらないんだよ。
上田:
まあ,普通こういうのは発売できないだろう。
小中:
独自性があるんだよね。だから20年後の今でも語られている。そこは,若気が至って作ったものだからっていうのもあってさ。「プロとして」というより,デヴィッド・リンチの「イレイザーヘッド」(※)みたいなもので,“原石”なんだよ。
※奇妙と不条理とグロテスクをじっくり煮込んだようなモノクロ映画。「ツイン・ピークス」や「マルホランド・ドライブ」などのカルト映画でおなじみ,デヴィッド・リンチ監督の長編処女作。
上田:
イレイザーヘッドはちゃんとした作品じゃないか(笑)。でもまあ,原石感はあるかもね。
小中:
だから,僕は「出したらいいのに」とは思う。
上田:
クラブサイベリアでも似たことを言ったけど,スキャンしてガシガシやれば,コピーできるんじゃないの? それか,自分の気に入ったビジュアルで,この世界みたいなやつを作っちゃえばさ。
小中:
それはちょっと違うような気もするなあ。ムービーはそのまま,インタフェースを綺麗にしてさ……。
上田:
時代感とか,この世界を無理やり構築したエネルギーとかがゲームの中に若干あるんだよな。整然としたら,逆に破綻するような気もする。
小中:
時代感と言っても,「このときじゃないと分からないゲーム」ってことはないんじゃないかな。アニメ版も,絵柄の流行としては古くなってるかもしれないけど,今見ても「そんなに古くないな」って思うよ。20年後まで生き延びるとは思わなかったけど(笑)。
上田:
まあ,“先”を作っていたからね。NOëLみたいな,アニメとかコミックとかのバーチャル感とは違う,伊達杏子(※)的な“我々のバーチャル”を作ろうというのはちょっとあったね。
※ホリプロが1990年代後半に展開したバーチャルアイドル。2000年代に2度復活したが,現在は活動休止中。
小中:
でも,それはまったく普遍性を持たないわけですよ(笑)。まあ,それが良かったんでしょうね。
上田:
実在感のアプローチを色々こねくったら,こんなことになっちゃったんだよ。
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何か陰惨な映像が流れて(笑)。
上田:
細切れだ(笑)。
小中:
今のやつは何だったの? サイコホラーとは関係ない,事故じゃない。
上田:
「事故を見ちゃった」っていうムービーで,データを閲覧していくと,「あのことを言ってるのか」みたいなのが出てきて,あれが本当で,これが嘘で,実際はこうなっているのかな……みたいなのが見えてくる。サイコなことがあったのを客観視してる,その一部なんだよな。
安倍:
ムービーが流れるのは,サイコやホラーってより“不吉”ですよね。
小中:
こういう細かいムービーは,僕は書いてないはずだけど,これは「救急車が走っている」とか「レストランの窓に血がドバッ」とか,そういうリストを作ったの?
上田:
あれは千昭氏が書いたはず。
小中:
私がやったのはストーリーのコンセプト的な部分だけ。
上田:
それを分解して見せてるんだよ。千昭脚本に書かれた奴から,一連の不吉な映像を見てどうのこうのっていう,その不吉な部分だけ,シーン単位とか,数カットつなげたやつとかで切り出してる。カウンセリングとか音声データとかのところは,データブロックだからシナリオライターに頼むべき仕事でもないと思って,俺がやったんだけど。
小中:
そんなこともないんだけどね。
4Gamer:
ちなみに,小中さんがシナリオを担当された「ありす イン サイバーランド」(※)も用意してみました。アニメ版に登場する“ありす”とCVの浅田葉子さんは,ここから継承されたというか,そんな経緯なんですよね。
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小中:
そうだね。でも,ゲーム版だと基本計画しか僕は絡んでないので。開発時,大変そうだから「手伝おうか?」って聞いたんだけど,「いや無理だよ!」って断られて,「うーん,じゃあ頑張ってね?」みたいな感じで。なので,ゲーム版に対しては割と傍観者ですね。
上田:
柊子さんの設定は,たぶん千昭氏がやったよ。ストーリーにおける柊子さんの仕掛けとしては「ミイラ取りがミイラになる」みたいな話だけど,こういうのってホラーでは昔からあるの?
小中:
意外とないかな? ある意味,独創的だったかもしれない。ところで,ムービーのデータって現存してる?
上田:
素材データはファイルフォーマット的に,たぶんもう再生できないと思う。まだ今の盤から引っこ抜いたほうが,データとしては正確じゃないかな。
サイコサスペンスを始めた理由
小中:
そもそも,なんで凄惨なのをやろうと思ったの。
上田:
時代的にも映画の「リング」とか,ああいうホラーがはやっていたし,その一方でアニメにはシリアスなやつがそんなになかったしね。「世紀末!」みたいな雰囲気にかぶれていたわけじゃないけど,「アニメってほんわかしたのや,冒険とか魔法とかしか出ないの?」って気持ちは多少あった。……まあ,本質的にはたぶん,俺とか安倍とかが暗い性格だから(笑)。
安倍:
上田さんから最初にもらった企画書は,もっとすごかったですよ。登場人物が家に帰って,冷蔵庫を開けたら,そこに婚約指輪のはまった,ちぎれた指が置いてあるという……。
上田:
ええっ!? 俺そんなの書いた?
小中:
精神が荒廃してないと,そういうのは書けない(笑)。
上田:
でも千昭氏のホラー界隈なんて,もっと荒んでるでしょ?
小中:
いや,僕らがやってるのは幽霊だからさ。そんなリアルにエグいのやってないもん。
上田:
そうか……。当時はサイコパスみたいなのが,「危ない人は(一般人ではなく)危ない人」くらいのところにあって,社会に顕著化されていない時代だったじゃない。でも,俺には「俺達(一般人)も一寸先は闇だぜ?」みたいな感覚がちょっとあってさ。それで,カウンセリングとか精神病院とかの本を読みまくっていた時期ではある。
(プレイを進める)……おっ。新しい絵が出ました! おめでとう! 安倍くんの絵だ!
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安倍:
絵は最初,「200枚描いてくれ」って言われたんですよ。
小中:
結局,何枚描いたの? けっこうカラーもあるよね。
上田:
46枚くらいかな。
安倍:
このころは作業に時間がかかっていて,「このペースで何十枚も描けないよ!」と思ってました。あと,lainの絵が初めて電撃PlayStationに載るとき,上田さんか中原さんが間違えて,僕がサンプルで送っていた縮小版を渡しちゃって,ドットの荒いやつが載っちゃったんですよね(笑)。
上田:
きっと俺だろうな。ゲームの実データは横200ピクセルくらいだから,「完成品に使うデータ」をくれって言われると,印刷解像度ではどうにもならないものが……。
安倍:
ゲーム中のやつじゃなくて,ビケちゃんを抱えている描き下ろしの。
上田:
ああ,アレか! それは……事故!
安倍:
そのときの上田さんの発注は最初,「F1のヘルメットを被って『ウェーイ!』ってやってる玲音を描いてくれ」みたいなことで。「何ですかそれ?」って聞いたら,「F1ゲームだって嘘ついて出しちゃおうぜ!」みたいなことを言われました。
(爆笑)
上田:
マジで!?
小中:
とんでもないね(笑)。
上田:
まあ,雑なところは多少雑よ。ゲームでポリタンとコラボしてるけど,これも何の意味もなくて。玲音はクマのキーホルダー付けてるし,ポリタンもクマだし,クマ同士でコラボしたら面白いかなーって。
4Gamer:
なんだかインディーズゲーム的なノリですね。
上田:
いや,単純にポリタン好きだった(笑)。
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4Gamer:
開発の体制は,先ほどのお話を聞くところではパイオニアLDCの内製だったんですね。
上田:
そう。lainのときは,開発室としてマンションを借りて,プログラマがチーフと……労働者1人と,グラフィッカーが2人いて。
小中:
企画から完成まで,どのくらいかかったの?
上田:
1年半かな。4人くらいで,始めたときはもう1人いたんだけど,そいつは働かないからクビになって。開発室としてマンションを借りた契約が1年で,開発が終わらなくて予算オーバーして延長したのが半年か9か月くらいだから,曖昧だけど最長でも1年9か月くらい。
安倍:
僕に声がかかったのは1996年で,そのときはまだ全然違う話でした。
4Gamer:
ゲームとアニメで,相互に影響があったりはしたのでしょうか。
上田:
中原が隆太郎さんに惚れ込んでしまって,そっちを優先するあまりゲームの開発が滞った(笑)。「隆太郎さんが言ってるんだからさあ,オヤジもこっちをやんないとダメだよ!」「いやいや,お前ゲームどうすんだよ」「2つもできないよ!」……って。それじゃあ仕事を受けちゃダメでしょ(笑)。
小中:
けっこう被ってたんだ。私はてっきり,ゲームに目処が付いてからアニメに来たんだと思ってた。
上田:
ガチ被り。駐車場のオバケのシーン(※)あるじゃん。中原と2人で,毛布を持って近くの駐車場に行って,「とりあえずオバケみたいに毛布被って歩いてきて! これを編集して何とか怖くしようぜ!」つってるときも……。
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小中:
開発は終わってなかったんだ。
上田:
「千昭さんが作ってくる映像は素晴らしいのに(※),俺達はダメだ〜」みたいなことを言いながら作ってた。
※アニメ作品としては異例なことに,脚本の小中氏も一部映像を担当している。
小中:
そうだったんだ……本当に,よく出来たね。
上田:
でも一番の地獄は,PlayStationのマスターって16枚を1回で納品しないといけないんですよ。しかも,等速で焼かないといけない。開発が終わって,俺だけ残って等速で延々16枚を焼くんだけど,明け方になっても終わらなくて。
8時間かけて8枚を焼いた時点で「ごめんなさい,第1便8枚で,残り倍速で焼いたらダメですか?」ってソニーと交渉して。「じゃあ残りの8枚は倍速でいいですよ」って言われたけど,倍速でもそれなりに時間がかかるわけですよ(笑)。
納品しても一発OKなんていかないわけでさ。マスターをもとにデバッグチームがプレイして,翌日くらいからちょろちょろとデバッグレポートが来だすから,修正版を焼いて,デバッグして……を何回も繰り返して。
小中:
デバッグは外注できたの?
上田:
デバッグは社内と外注と,あとソニーさんでもやってもらった。ソニーのデバッグチームは優秀だったから,どんどんレポートが来て,でもこういうゲームだから「それは仕様です」「それは……バグです!」みたいな。
小中:
デバッガは「これ何?」って思っただろうね。当時デバッグした人の証言も聞いてみたい(笑)。
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デバッガがおかしくなってなければいいんだけど(笑)。そういえば,取説ってどうしてたかな。このころ,俺もちょっと変な方向に転がってて。(パッケージから取説を出して開く)ああ,でもちゃんと説明してある。思ったより親切!
小中:
親切で当たり前なんだけどね。
上田:
あれ……隠しサイトってあったけかなあ……やめたんだっけかなあ……。いわゆる裏サイトみたいなやつを隠しで作ろうかと言ってたんだけど……攻略本に書いてなかったら,たぶん作ってないな。
(一同笑)
小中:
攻略本の人達が全容を解明したかも分からないじゃん?
上田:
まあ資料で内部データを見ればさ……(攻略本のページをめくる)えっ!? 俺,インタビュー受けてる!
小中:
他に誰が受けるんだよ!
上田:
あー……何言ってんだ(当時の)俺。
(爆笑)
上田:
「僕なんかマハラジャとかサイババとか入力してたから,エンディングのたびに寂しい思いをしてました」。
小中:
意味が分からない(笑)。
上田:
デバッグで,普通の人が入れない名前を自分で担当したからってことだと思うんだよ。
小中:
そういうのって自分の名前を入れるものなのかな。NOëLでは,「名前を呼んでもらえる」みたいなのはやらなかったの?
上田:
2作目の「NOëL 〜La neige〜」でやりたいって言われてたんだけど,あいつらが他のゲームで大失敗して,予算繰りのために「(簡易な設計で)すぐ作りたい」って言うから,「そんな生温い仕様の続編,俺は認めん! お前らはExcelでも見てろ!!」つって。
小中:
まずはExcelなんだ?(笑)
上田:
いや,金勘定とか段取りとか,そういうのをまったく見れない人達でさ。太田さんはクリエイティブ寄りな人で,仲良かったんだけど,それ以外の人達とは超仲が悪くて。俺の中では「次のレベルに行かないと他社と戦っていけないよ」と確信していたので,「2はこんなんじゃダメだ」って。ゲームから離れた一番の理由はそれだね。もう1つの理由は,さっき言った亀井氏との相性だな(笑)。
小中:
「NOëL3」はどうなの?
上田:
3のころは,もう完全に声もかからない。俺が怒っているのは皆知ってるから。3にいたっては,ギャルゲーじゃなくミッションものに変わってたしね。1のころに,岡野由香ちゃんっていうキャラクターを使ったサイバーアクション的なやつを開発ルームでちょっと話してたけど,その延長線上でやったのかな。
小中:
じゃあ,lainの後にゲームのディレクションをしたのは……。
上田:
lainが最後。lainで懲りました(笑)。
小中:
やっぱりゲームアーカイブスで出すべきだよ。こんなイカれたプロデューサーのゲーム,他にないんだから(笑)。
思ったよりは酷くなかった!
(カウンセリングの音声ログが流れている)
柊子「玲音ちゃんは勉強好き?」
玲音「あんまり好きじゃない」
柊子「どんな教科が嫌いなの?」
玲音「体育と,国語……」
柊子「そっかあ。玲音ちゃんは,運動が嫌いなのね」
玲音「違うの。体育が嫌いなの」
柊子「運動は好き?」
玲音「うん」
柊子「何の運動が好きなの?」
玲音「鉄棒」
柊子「すっご〜い! 先生は,走るのは得意だったけど」
上田:
病むなあ,この会話(笑)。
4Gamer:
こうしてプレイしてみて,感想としてはいかがでしょうか。
上田:
苦行だったし,多くの人が評価しているとは思わないけど,好きな人が楽しんでくれているポイントはなんとなく分かった。ただ,PS3のスペックがないとダメだね。PlayStationだと本当に辛かった。
小中:
でも,あのころのゲームはlainに限らずロードは長かったじゃない?
安倍:
突出してましたよ!
上田:
当時は「これを世の中に出したら,俺のプロデューサー生命は終わるかな……」ってストレスと,「これをお客さんに売って,カネを取っていいのかな……」ってジレンマはすごくあった。でもPS3でやってみると,だいぶ違うね。思ったより酷くなかった!
小中:
それ,いいフレーズだよ。ネットでは「酷い」という言説が出回っているけど,上田Pとしては「思ったより酷くなかった」って(笑)。
4Gamer:
ゲームアーカイブスに関しての話は先ほどうかがいましたが,もしリメイクやリマスターの企画が他社から持ち込まれたら,どうされます?
上田:
リメイクっていうか,オフィシャルの承認が欲しければ,「面白いもの作ったらオフィシャルってハンコ押すよ!」って感じですね。まぁ会社に確認はするけど,ライセンスみたいなもんだし不可能じゃないと思う。でも個人的に「出来はよくても面白くなかったら押さない!」みたいなところはある。
小中:
ただ,アホみたいなプレミア価格を放置しているのも,ねえ。
上田:
それも良くないとは想いつつも……商売に負けて出すのも,それはそれで嫌な感じがしちゃうし。
小中:
変な美学があるよね。
上田:
でも普通に考えてさ,「高額になっていてプレイできない」つったらさ,ROMを落としてきてエミュレータでやればいいんじゃないの?
小中:
それでやったって公言したらアウトでしょ。
上田:
アウトだけど,メーカーは再販しないし,「やった後に消しました!」とかだったら,まあいいか(※)……みたいな?
※ダメです。
4Gamer:
今だと,「エミュレータで簡単にできちゃうからこそ,実機でやりたい」みたいな意識が逆に高いかもしれないですね。
小中:
望ましいのは……PS4のダウンロードソフトで出す? あとはスマホか。
上田:
スマホだったらエミュレータと変わらないから,別に正規の流通に乗っけなくても……。
安倍:
なんですぐアングラ化させようとするんですか!
(爆笑)
上田:
lainはアングラだぜえ?
小中:
権利元は天下のNBCユニバーサルじゃない(笑)。
上田:
まあそうだけどさ,パイオニアの1セクションの,「これでマスターか……」みたいなレベルで売ったゲームで,中原という男と喧嘩別れするくらいになったものがさ。
小中:
喧嘩別れってわけじゃないでしょ。
上田:
まあ,中原も俺に気を遣ってさ……苦い青春時代ですわ。
俺はとにかく辛かった。マシンスペックと,俺らのやりたいことのギャップがデカすぎたね。インタフェース1つを取っても,それが動かせるものなのかとか……もうちょっと「データベースの中を泳ぐペルソナ」みたいなところを表現したかったとは思うね。
4Gamer:
そういうのを聞くと,なおさらリメイクなどを期待してしまいますが(笑)。
上田:
どうなんだろうなあ。
小中:
じゃあ,「lain 2」を作ろうよ。
上田:
それも,lainを好きなやつが誰か,適当に作ってlainぽかったら,ハンコ押すよ。
4Gamer:
実際,オマージュ作が正規ライセンスを得て続編として出るパターンは,海外ではいくつか例がありますね。
上田:
俺は,そういうやつの方がいいと思うんだよな。プロが業務として作ると妥協するし,世界観をスタッフ間の共通意識として持てなくて,歪みが出てくる。商売にすると歪みはなおさら増大していくから,インディーズというか,アングラな,同人の方が。
同人のトップクラスなんか,お客とダイレクトに接している分,自分達が作りたかったものを伝えるっていうところは長けていると思うので。
インディーズで作っちゃってくれたら,まあ幾ばくかはもらうけど,当日版権みたいなノリでさ,申請してくれたらいいんじゃねえの? なんなら,lainのデータをオープンソース化しちゃってもいいんだよ。
小中:
安倍くんの絵はオープンソースにできないけどね。
上田:
まあ,それも昔描いた絵だしさ?
4Gamer:
安倍さんは,もし「lain 2」を作りたいという人がいて,そこから発注されたら受けられますか?
安倍:
どうですかねえ(笑)。
上田:
まあ数にもよるよな。あと,生活に困っていたら受けるけど,困ってなかったら受けないとか(笑)。
安倍:
生活にはつねに困ってます(笑)。
小中:
子持ちだからね。
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といった形で、2時間ほど語り合ってもらった今回の企画。振り返ってみると「そう言えばThe nightmare of fabricationって,背景はゲーム版がベースなのに,何でアニメ版の英利政美が出てきてるんですか?」など聞きそびれたことは割とあるが,ゲーム自体の背景については,20年越しの裏話がけっこう明らかになったのではないだろうか。
冒頭で述べたように“ゲーム”としての体裁を成しているかは怪しく,またゲームプレイが「苦行」な出来のタイトルだが,本作が「単なるクソゲー」や「奇をてらった出オチ」などと切り捨てられていないのは,ざっくり言えば“アクの強い”スタッフ陣の特性が高い精度で噛み合い,結晶化した……小中氏の言葉を借りれば「独自性をもった原石」となり,特有の魅力を放っているからだろう。ゲーム版がなければアニメ版などもなかったわけで,いろいろ考えると奇跡のような連鎖で生まれたシリーズだったと思えてくる。
また筆者としては,独りでプレイすると「何これ……うわぁ……何これ……うーわぁー……」となるような(と言うかなった)ゲームが,集団でプレイすると爆笑さえ巻き起こる雰囲気になっていたのは意外な発見だった。lainのようなメタフィクション的な設計のゲームは,実況プレイやSNSでの動画共有などが一般的になった現在では,また新たな切り口が見えてくるものなのかもしれない。叶うならば,現代に沿った新たなlainも見てみたいところだが……どうなるだろうか?
ちなみに,もしlainがゲームアーカイブスで出たら,PS3やPS Vitaの本体ストレージからデータを読み込む都合上,CD-ROMからの起動よりもロードが早くなるはずなので,そちらも少しばかり期待を抱くところだ。
最後に,もし中原順志氏の行方をご存知の人が本稿を読んでいたら,Twitter共有ボタンからコメント付きで投稿するなどして,ソロっと教えていただけたら幸いだ。もしコンタクトを取れたらlain企画第2弾があるかも!?(ないかも)
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