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【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き
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印刷2018/04/21 12:00

連載

【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き

Jerry Chu /  香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


ゲーム業界における労働組合の動き


 ゲーム会社のプログラマーとして,Game Developers Conference 2018(GDC 2018)に参加してきた。4Gamer読者ならご存じだろうが,毎年,サンフランシスコで開催される世界最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスだ。技術とノウハウの共有はもちろん,世界各国のクリエイターと交流を図ることで,ゲーム業界の潮流も感じられる。筆者にとって,非常に貴重な経験だった。

【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き 【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き

 いくつかのセッションに参加したが,とくに筆者の目を引いたのは「ゲーム業界における労働組合に関する議論」だった。日本を含む全世界のゲーム業界に影響を及ぼしかねない大きな出来事だと思うので,これまでの連載記事とは趣旨が異なるが,今回のテーマとして取り上げたい。


過酷を極める欧米ゲーム業界の労働環境


イラスト提供:いらすとや
 欧米ゲーム業界の労働環境は極めて過酷である。過重労働(海外では「crunching」と呼ばれる)は珍しくない。IGDA(International Game Developers Association,国際ゲーム開発者協会)の「Developer Satisfaction Survey 2017」によれば,過重労働をしているゲーム開発者は51%におよび,過重労働とは言わないまでも長時間労働にあてはまるゲーム開発者は44%だった。過重労働に該当する者のうち,毎週70時間以上も働いたゲーム開発者は14%を占める。そればかりか,過重労働や残業をしたゲーム開発者の37%は残業手当や代休を一切得られなかった。

 恒常的な過重労働はゲーム開発者のプライベートな時間を奪い,その体と心を損なっている。New York Timesの報道によれば,「The Elder Scrolls V: Skyrim」のプログラマーであるJean Simonet氏は,残業と休日出勤を続けたせいで激しい胃痛を患い,三度も救急処置室で治療を受けたそうだ(出典元)。
 一方,「Splinter Cell: Chaos Theory」のクリエティブディレクターであるClint Hocking氏は,毎週80時間労働を2年間続けた末,記憶喪失になったと回顧している(出典元)。

 開発が終了した途端,スタッフが大量に解雇される。給料の遅配が何度も起きる。女性開発者が性差別を受ける。過重労働以外のこうした労働問題も跡を絶たない。

 近年,欧米ゲーム業界における労働問題はゲームメディアで大々的に報道されており,労働状況の改善を求める声が強まっている。2016年,アメリカの映画俳優組合であるSAG-AFTRAは,ゲームに出演する声優の待遇改善を求めてストライキを起こした(関連記事)。
 また,フランスのゲームスタジオであるEugen Systemsのスタッフは,労働者の権利侵害を巡って経営陣と15か月にわたって交渉したが,今年2月に交渉が決裂。従業員21名がストライキを決行した(出典元)。


GDC会場に響き渡る,労働組合結成の呼びかけ


 GDC 2018では「Union Now? Pros, Cons, and Consequences of Unionization for Game Devs Roundtable」と題したラウンドテーブルが開催された。「ゲーム開発者は労働組合を結成すべきか」を議論する場である。
 それに先立ち,労働組合結成を呼びかける団体「Game Workers Unite」が発足し,会場内ではキャンペーンを展開していた。パンフレットやピンが配布され,Twitterでは賛同する声が集まった。

GDC会場内で配布されたパンフレット。「ゲーム業界の過酷な労働環境はメディアに取り上げられてきた。だが,賃金不払い残業や大量解雇,ほかのハイテク業界より賃金が低いといった問題に対して,まだ具体的な対策が行われていない。労働組合は搾取と酷使に反抗するための確実な手段である。世界中のゲーム業界の労働者よ,団結せよ」と呼びかけている
【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き

 前述のラウンドテーブルでは,IGDAのエグゼクティブディレクターであるJen MacLean氏を司会に迎え,100名以上の参加者がディスカッションを行った。Game Workers Uniteの代表者も出席し,開始前には参加者にパンフレットを配布していた。
 なお,参加者の身元が明らかになると雇用者から仕返しをされかねないという危惧から,ラウンドテーブル会場では写真撮影が禁止されていた。

 「労働組合によって解決できる,ゲーム開発者が直面している課題とは」というテーマでは,やはり過重労働が議論の的となった。「9か月も残業したのに,1週間分の有給しかもらえなかった」というゲーム開発者もいれば,「労働環境があまりにも過酷だったので,ゲーム業界を離れた」という人もいた。残業代の不払いが常態化しており,それを訴えようとする人が会社に脅されたという話もあり,労働組合があればこうした状況に改善の道筋が開かれるだろう。

 大量解雇の問題も語られている。プロジェクト半ばに数十人ものスタッフが雇用され,開発が終了したらそのほとんどが解雇されるようなケースだ。労働組合がゲーム会社の雇用と解雇に干渉することは難しいだろうが,失業保険の改善や仕事探しを支援するといったことはできるかもしれない。

 また,職場でハラスメントを受けた場合,被害者は人事部に通報することになるが,会社の利益を第一とすると,必ずしも被害者を守ってくれるとは考えにくい。「労働組合のような第三者の組織であれば,中立の立場からハラスメントに対処できるのでないか」と参加者が語っていた。

 性的少数者のために待遇の格差を無くす。これも労働組合にできる可能性がある。大学の学生組合がジェンダーフリートイレを設置するように学校側と交渉した例を挙げて,「労働組合は性的少数者の労働環境を改善できる」と主張する参加者もいた。

 従業員に限らず,ゲーム業界を目指す学生も搾取の対象になっている。学生が無給のインターンシップで労働させられていることに対し,参加者の1人は「ふざけたインターンシップはもうやめろ! 賃金を払え!」と怒鳴り,ほかの参加者から拍手喝采を受けた。「無給のインターンシップは裕福な学生しか参加できない。アンフェアである」という指摘もあった。

 実績を持つベテランに対して新入社員の立場は弱く,搾取の対象になりやすい。労働組合によって,新入社員やゲーム業界志望者の正当な待遇を確保することも期待されている。


労働組合を切望するゲーム開発者達


 筆者は発言することなく,あくまで傍観者としてラウンドテーブルを見ていたが,参加者の熱意に心を動かされた。ほぼ全員がゲーム業界の労働問題に憤っており,労働組合結成を切望している。ただ「自分の待遇を良くしたい」というわけではない。「性的少数者や学生など,弱い立場にある人の労働環境を改善させたい」という意志が感じられた。ゲーム業界の不当に立ち向かい,共に是正しようとする熱意に,思わず涙がこぼれた。

 司会のJen MacLean氏は労働組合に対して懐疑的だった。以前のインタビューでは「ゲーム開発者の仕事を守れるものは,労働組合ではなく資本である」と述べている(出典元)。
 今回のラウンドテーブルでも労働組合に疑念を示す言動が目立った。例えば,スタッフの大量解雇を指摘する参加者に対して,「労働組合はそれをどのように解決できますか。人材を採用するたび,労働組合がいちいち審査すればいいのですか」と詰問している。
 だが,Jen MacLean氏の厳しい意見は,参加者の激しい反論を受けた。一方,労働組合に賛同する発言には指を鳴らし,大きな拍手が巻き起こった。

今年の「Independent Games Festival」で大賞(Seumas McNally Grand Prize)を獲得した「Night in the Woods」も労働問題に触れている(関連記事
【Jerry Chu】ゲーム業界における労働組合の動き

 ゲーム開発はビジネスであり,失敗のリスクが常に伴う。プロジェクトの失敗によって,やむなく人員削減をせざるを得ないということもある。
 それに対して,「労働組合はプロジェクトの失敗を防げないが,ダメージを最小限にすることができる」という意見があった。解雇自体はどうしようもないが,退職金の交渉をするといった方法で,離職に追い込まれた開発者を助けられるはずだ。

 また,「中小スタジオや個人開発者に対しても,大手スタジオと同等の労働条件を要求するのか」という疑念には,参加者から「ほかの業界の労働組合には,会社の規模を考慮したポリシーがある。それを取り入れればいい」と提案された。
 すでに労働組合やギルド制度を採用している業界の前例から学ぶことで,ゲーム業界はスムーズに労働組合を取り入れられるという意見もあった。実際,映画業界の労働組合の代表者も出席しており,アメリカの労働組合に関する法律や実態が紹介されている。


ますます勢いを増していく,結成への動き


 今回のラウンドテーブルは,さまざまな欧米ゲームメディアで報じられた。「今こそゲーム開発者達が労働組合を結成すべき(Kotaku)」や「ゲーム業界は変わらなくてはいけない。今,変革が始まる(Rock Paper Shotgun)」など,労働組合に肯定的なヘッドラインが散見される。Twitterでも支持を表明する声が上がっている。

 労働組合の実効性を疑っていたJen MacLean氏は,ラウンドテーブル終了後にZAMのインタビューを受けて,「メンバーが望むなら,IGDAは労働組合を支持する」と表明した。「ゲーム開発者達の労働組合を結成する権利を擁護するか」という質問に対しても,「絶対に」と応えている(出典元)。氏の労働組合への見方が柔らかくなったように思える。

 今回の議論を受けて,IGDAのシカゴ支部は労働組合について議論するラウンドテーブルを開催すると表明した(出典元)。労働組合結成に向かって,欧米ゲーム業界は動き出している。


日本のゲーム業界に与える影響


 欧米ゲーム会社の労働環境は激しく批判を受けているが,日本はどうだろうか。
 筆者は日本のゲーム会社に務めているが,今の環境に満足している。だが,日本のほかのゲーム会社については,よく知らない。もっとも日本と欧米では文化や法律がまるで違い,欧米の論調をそのまま日本にあてはめるべきではないだろう。
 日本のゲーム会社の労働環境について,どのような課題があるのか。日本でも労働組合が必要とされているのか。有識者による調査と議論に期待したい。

 いずれにせよ,欧米の労働組合結成の動きは日本のゲーム業界に多少なりとも影響を与えるだろう。海外の活動家に呼応して,国内でも労働組合結成を呼びかける声が上がるかもしれない。たとえ国内にそうした声がなかったとしても,もし欧米で労働組合が結成されれば,日本のゲーム会社の雇用に影響が及ぶだろう。
 日本のゲーム会社には,日本のゲームに憧れ,働いている外国人のクリエイターが多いからだ(筆者もその1人である)。もし他国でゲーム開発者の労働組合が立ち上がれば,「労働組合のない日本より,他国のほうが働きやすい」と考えるかもしれない。さらに外注先の国に労働組合があれば,発注にも影響が出る可能性がある。

 GDC 2018における労働組合結成の呼びかけは,まだ兆候でしかない。だが,世界中のゲーム業界を変えるポテンシャルを秘めた,極めて重要な出来事であると感じた。


「問題を次の世代に持ち越すべきではない」


 今回のラウンドテーブルが終わったとき,筆者はGDC 2017の講演を思い出した。Ubisoftのゲームデザイナー,Liz England氏が壇上に立った「Everything I Said Was Wrong: Why Indie Is Different Now」である。

 ベテランのゲーム開発者には過重労働を経験した人が多い。「ベテランの世代は過酷な環境を耐え抜いた。だから,若い世代も同じように我慢しろ」という考え方もあるだろう。
 しかし,Liz England氏は「自分の世代が抱える問題を次の世代に持ち越すべきではない。ゲーム業界を是正するのは我々の責任だ」と語った。


 ゲーム業界は過重労働や大量解雇,差別といった問題を抱えている。こうした現状を甘受するのではなく,若い世代のためにも改善しよう。今回の労働組合の呼びかけも,Liz England氏の講演も,その主張は共通している。間違った風潮を正し,クリエイターがより働きやすい環境を作ろうとする志に筆者は感服した。

■■Jerry Chu■■
香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。
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