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幻の企画も飛び出した,「『鈴木爆発』『ストライダー飛竜』通好みのゲームはどのようにつくられるのか?」聴講レポート
「ストライダー飛竜」を手がけた四井浩一氏と,四井氏と共に「鈴木爆発」を作った,シシララの安藤武博氏が登壇。PlayStation初期の熱気や,なぜ2人の作るゲームは通好みになってしまうのか? といったテーマが語られた。
四井氏と安藤氏は,通好みのゲームを作るクリエイターだ。ここでいう「通好み」とは,個性的かつ斬新で,一部に熱狂的なファンを擁するゲームのことである。
四井氏の代表作は,言うまでもなく伝説のアクションゲーム「ストライダー飛竜」だ。そんな四井氏と共に,美女が爆弾を解体する「鈴木爆発」を制作したのが安藤氏である。安藤氏はこのほかにも,ヤンキーライフを疑似体験できる「疾走、ヤンキー魂。」や,iPodの音楽ファイルからキャラクターが生まれるRPG「ソングサマナー 歌われぬ戦士の旋律」といった個性的な作品を世に送り出している。いずれも強いインパクトを持ち,続編制作を望む声も多い作品といえるだろう。
このように,作るゲームがなぜか通好みになってしまう両氏だが,その理由を探っていくのが,今回のトークショーだ。
両氏が手がけた「鈴木爆発」は,主人公の美女・鈴木さんが「みかん」や「踏みきり」「月」など,ありえない爆弾を解体していく。モデルの緒沢 凛さんが鈴木さんを演じたほか,実写取り込みを積極的に使ったことにより,結果として極めてシュールな雰囲気を醸し出すことになった。安藤氏曰く「今となっては“バカゲー”と言われる通好みな作品になっている」作品だが,当時は「本気で100万本売るつもり」で開発したのだという。
時代性とSCEの取り組みが功を奏し,音楽をゲームにした「パラッパラッパー」や,アナログスティックで料理を作る「俺の料理」など個性的な作品が大ヒットを記録。これを見た安藤氏は「とにかくユニークなゲームを作れば100万本売れるんじゃないか」と考え,プレイヤーの裾野を広げ,普段ゲームを遊ばない人にも作品を届けるべく,モデルを起用した実写取り込みのグラフィックスを選んだのだという。
結果として通好みな作品となった「鈴木爆発」だが,「作り手は通好みになるよう狙って作るわけではなく,皆さんに楽しんでもらおうと考えている」と安藤氏は語る。氏は「今から考えると,絶対に100万本売れるものではない」企画であると語っていたが,制作費を回収できる程度には売れたうえ,現在でもファンの心に残る作品となったのだから,これはある種の成功と言えるのではないか……と筆者には思える。
こうして今までないゲームを作るべく努力を重ねた四井氏と安藤氏だが,中には開発が中止になってしまったものもあるという。ここで両氏はPlayStation 2用の未発売レースゲーム「マッドスティック(MAD STIX)」の資料を初公開した。
「ハンドル,アクセル,ブレーキで操作“しない”レースゲームを作ってみよう」という着想から,「右のアナログスティックを回せば回すほどカーアクションが危険になっていき,逆に左のアナログスティックを回すと走りが安全になっていく」という独特の操作系を考案。左右のスティックを適宜回しつつ,事故を起こさないギリギリのところで見応えのあるカーアクションを行う「チキンレースのような」(安藤氏)内容になる予定だったそうだ。
このシステムの利点は,カメラを自由な位置におけることにあると安藤氏は語る。通常のレースゲームだと,ハンドル,アクセル,ブレーキで操作するため,カメラを運転席や車体後方に配さなければならない。しかし,本作の場合はそうした制限がないため,映画の様なカメラワークが可能だったそうだ。想像するに,レースゲームのリプレイのような迫力ある画面だが,車は自分で操作できるというシステムのようだ。
「発売されていたらやはり通好みなゲームになっていたかも知れないが,当時は自動車のゲームに革命を起こそうとして一生懸命頑張っていた」と,安藤氏は振り返る。このように制作中止になるケースも珍しくなかったそうで,ほかにも「セクシーな女性になって寄ってくる蚊を叩く」ゲームなどは試作までされていたとのこと。お蔵入りとなってしまったのはもったいないような気がしてしまう。
最後に安藤氏は「作り手の“ヒットしてほしい,たくさんの人に楽しんでほしい”という気持ちが,どこかボタンを掛け違えたことによって,通好みのゲームは生まれる」と結論づけ,最後に「また四井さんと一緒に,次は通好みにならない,たくさんダウンロードしてもらえるゲームを作ってBitSummitに参戦したい」と語って講演を締めくくった。
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