イベント
多彩なVGMコンポーザによるライブやトーク,物販が行われた「東京ゲーム音楽ショー2017」をレポート。来年度は大田区PiOで開催
なお,次回「東京ゲーム音楽ショー2018」の開催もすでに決定している。次回はディファ有明よりもさらにフロア面積が広い大田区産業プラザPiOの大展示ホールで,2018年2月24日に実施される。
物販スペース
本棟のロビーと別棟の会議室では,物販が行われた。通常商品のほか,お蔵出しのレア盤や本イベント用に作られた限定盤なども販売されており,とくに限定盤はどこのブースでも開場間もなく完売となっていた。
ライブステージ
メインフロアでは,DJやバンドによるライブが行われた。
細井聡司
ヨナオケイシ
三宅 優
SATO
中潟憲雄 with AQUA POLIS
ZUNTATA
山田一法
菊田裕樹
古川もとあき
トークショーステージ
会議室では先述の物販のほか,トークショーステージが設けられ,トークや小編成バンドないしソロでのミニライブが行われた。
ベイシスケイプ
ベイシスケイプは,所属コンポーザによるトークショーを実施した。ここでは「RPGで必要だと思う音楽はフィールド曲か戦闘曲か」や「自分が得意とするのはシンプルな楽曲か複雑な楽曲か」といったお題のもとで,各コンポーザのスタンスが語られた。
ゲーマデリック
景山将太
景山将太氏は,キーボードでPS Vita用恋愛アドベンチャーゲーム「鏡界の白雪」やiOS/Androidアプリ「仮面の勇者〜心の迷宮RPG〜」の楽曲を生演奏。また,中盤からはボーカルとして彩羽真矢氏も登場した。
ノイジークローク
なかやまらいでん
なかやまらいでん氏はキーボードでミニライブを行い,「赤い時間,赤い音楽。」や「あかさたなはまやらわ」など自身のオリジナルアルバムの収録曲を演奏。しっとりとしたトーンの楽曲で,激しいライブやはっちゃけたトークで熱くなっていた会場に涼やかな空気を呼び込んでいた。
Hiro師匠とhally兄さんのトークショー
土屋氏からはビデオレターが寄せられており,その中で同氏は「来年,必ず戻ってきたいと思っています」と語っていた。トークショーの終盤に主催のくまぁん氏から語られたところでは,来年度は土屋氏の負担を軽減させる意味も含め,トークショーの前後編を,片方はHiro師匠と土屋氏,もう片方はHiro師匠とHally氏という形でセッティングすることも考えているという。
最初のゲストは,ケイブの松本大輔氏。デパート屋上に設置される遊園地の管理人やメダルゲーム等遊技機の製造担当などを経て,着メロ販売を展開していたころのケイブに入社したことからVGMに関わり始めるという,遠回りでコンポーザとなったエピソードを語った。VGMが一際大きいブームだった1980年代のVGMファンとのことで,その時代を代表する1人であるHiro師匠の前で,取り分けて緊張している様子だった。
ニコニコ動画では“挫折P”という二つ名で知られる,でか大氏。自己紹介では,商用のボツ曲をボーカロイドでリメイクしたが「ニコニコ動画で公開するなら動画作品にしなければならない」という思い込みで公開を躊躇していたことや,口パク動画を作ってみたが途中で力尽きたことなど,二つ名を付けられるに至ったエピソードの詳細が披露された。比較的ボーカル曲を手がけることが多い同氏は,「ボーカルはパーカッション(の一種)」という持論や,「曲先(楽曲を歌詞よりも先に作る)で単語をはめていく方法がメインなので,詞先(歌詞を楽曲よりも先に作る)で歌詞をもらうと困る」という独特の苦労を語っていた。
「入社直後の仕事がない期間はずっと『R-type』をやっていて,1周クリアできる腕前になった」など,アイレム(旧)に関するエピソードを語った石田雅彦氏。アイレムで「R-type II」や「イメージファイト」などのサウンドを手掛ける前はフュージョンバンドで活動しており,1980年代に流行していたフュージョン系VGMについて「嫌いではなかったが,認めたくないという気持ちがあり,『負けひんぞ』と思っていた」という。
三つ巴のアレンジCD売上対決(参考記事)を行っていたATOMIC花田氏,細井聡司氏,Yu_Asahina氏は揃ってゲスト出演。「『空牙』の『Vapor Trail』をお洒落なカフェみたいな曲にされた」や「ゲーマデリックの提供した音源がライブ版なのでテンポ検出が大変だった」など,曲の嗜好や制作形態の違いに関する一種のカルチャーショックを語り合っていた。ちなみに,売上対決は最終的に“全員完売でドロー”という結果となっている。
同人ゲームからキャリアをスタートしたという,出展者の中では比較的珍しい出自を持つ来兎氏。音楽制作の勉強は独学によるところが大きく,「『メルティブラッド』の効果音を第2作で改善したときは,カプコンの格ゲーが一番の参考書だった」や「耳コピでメジャーセブンスコードを発見した」といった,独特なエピソードを語っていた。ちなみに初めて作曲したのは高校生のときで,徳間書店刊「テクノポリス」の募集コーナー(読者が他の読者に協力を募るもの)経由で寄せられたオーダーに応えたのが始まりだったという。実はそのとき作曲未経験だったのだが,「締切に追い込まれて作ってみたら,作れた」とのことで,「締切は重要」と悟ったそうだ。
タイトーの「レイ」シリーズなどで知られるTAMAYO氏と,ボーカリストのCyua氏によるユニットのBETTA FLASH。CD-BOX「Ray'z PREMIUM BOX -BEYOND-」へ収録する新曲を制作するにあたって,TAMAYO氏がイギリスで音楽活動をしていたCyua氏をスカウトして“TAMAYO featuring Cyua”のチームを組んだことをはじめ,結成前のエピソードなどが語られた。また,Hiro師匠がTAMAYO氏がカプコンからタイトーへ移籍した理由を聞き出そうとしたり,話題が「サンダーフォースVI」に及んで意味深な笑いが会場にさざめいたり,タイトーの石川氏が昔の話題を振られて「セガの専門なのでタイトーのことはよく分からない(※石川氏はセガマニア)」とボケたりと,妙な方向性で話が盛り上がった。
初対面ということで名刺交換をするHiro師匠とTAMAYO氏 |
トークショーステージ対面のタイトーブースで物販対応をしていた石川氏。話の流れに巻き込まれる |
彩京やスクウェア・エニックスを経て2010年からフリーランスとして活動しており,今年で作家生活20年を迎える谷岡久美氏。学生時代はTVCMのBGMやFMラジオのジングルなどの作曲に憧れていたが,そういったスタジオへのアプローチ方法が分からなかったうえ,弟がゲーマーだったこと,たまたまアルバイト情報誌に彩京の求人を見つけたことなどから,VGMコンポーザとしてのキャリアをスタートしたという。実はセガ・エンタープライゼス(当時)の求人にも応募していたのだが,不採用になっていたとのこと。これに関してHiro師匠は,その担当部署が自身の所属とは異なることを確認すると,「(セガが)逸材を逃したのは俺の責任じゃないです!」と自身をフォローしていた。また,谷岡氏は基本的な音楽知識を小学生のころに通っていたヤマハ音楽教室で身につけたとのことで,「音楽の基礎を子供に学ばせたい場合はヤマハはいい」と語っていた。
そのほか,以前の東京ゲーム音楽ショーに参加していた深見誠一氏からのメッセージが,主催・くまぁん氏によって読み上げられた。深見氏は,かつてKONAMIで活動し「グラディウスIII」や「ガイアポリス 〜黄金鷹の剣〜」などの楽曲を手掛けた人物。現在はゲーム業界を離れて久しく,音楽からも遠のいていたが,東京ゲーム音楽ショーの会場で今でも自身の曲を愛してくれているファンと触れ合い,音楽活動の再起を決意したという。オールドKONAMIのファンは,これからの動向に期待しよう。
ワークショップエリア
菊田裕樹
別棟応接室に設けられたワークショップエリアでは,はじめに菊田裕樹氏のワークショップが行われた。これは,DTMer meeting主催の公募企画CD「オレが考えたフィールド曲」に寄稿された楽曲を,サンリオの「Show by Rock」やアプリボットの「LEGEND OF MONSTERS」などに楽曲を提供している伊藤 翼氏と,作曲のほか音楽指導や教本執筆で活躍している彦坂恭人氏,そして菊田氏の計3名が添削していくというものだ。
「オレが考えたフィールド曲」は,VGMを前提としたオリジナル楽曲を公募し,アルバムとしてまとめたオムニバス盤「オレが考えた○○○曲」シリーズの第2弾。東京ゲーム音楽ショー2017の会場で先行販売が行われたほか,4月30日に東京流通センターで行われるM3でも販売される。
あくまでプロに限定しない一般公募の企画ではあるが,添削の3名からは「勉強になるわ」や「パクろ〜」と笑い混じりの声が上がるほどの秀作揃い。それでも批評は真摯で,「ギターのコードに明るくないなら他のパートで個性を出すといい」や「複雑な楽曲を作ってもプレイヤーには曖昧な印象しか残らないので,プロはあえて分かりやすい楽曲を作ることがある」などのアドバイスが語られており,参加者は真剣にメモを取っていた。
VR体験コーナー
菊田氏のワークショップ終了後の同エリアは,VRリズムゲーム「リズムタクト」の体験コーナーとなった。本作は,アイレム(旧)の「野球格闘リーグマン」やSNK(旧)の「メタルスラッグ」を手掛けた濱田慎一氏の指導のもと,東京コミュニケーションアート専門学校の学生が制作したVRリズムゲームだ(関連記事)。
今回のバージョンはバンダイナムコエンターテインメントのカタログIPオープン化プロジェクトを利用したものとなっていて,「ゼビウス」や「パックマン」,「ドルアーガの塔」,「ディグダグ」のリミックスBGMを聞きながら各ゲームの敵キャラクターをリズムに合わせて叩いていくというものになっていた。
書道コーナー
ワークショップエリア前のロビーでは,書家・詩人の荒木游莫氏による書道コーナーが設けられており,任意の文字や文章を色紙などに書いてもらえた。オーダーは「ダライアス」ボス戦前の警告文やゲームキャラクターの名台詞などが寄せられており,荒木氏はTwitterで「バラエティに富んだご依頼が多かった」とコメントしていた。
年々規模を拡大していく東京ゲーム音楽ショー。単にフロア面積や出展者数が拡大されただけでなく,販売商品にはカセットテープやLP盤,インディーズゲームなどの変わり種も現れ,さらに“これからVGMコンポーザになる人”に向けたワークショップも行われるなど,初期よりも広い意味での“VGMのイベント”へと進歩を続けている。来年の「東京ゲーム音楽ショー2018」にも,VGMファンは要注目だ。
「東京ゲーム音楽ショー2017」公式サイト
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