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[CEDEC 2016]自主制作ゲーム開発のスタイルは千差万別。パネルディスカッション「『僕たちは作りたいものを作る』自主制作ゲームの今」をレポート
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印刷2016/08/27 16:29

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[CEDEC 2016]自主制作ゲーム開発のスタイルは千差万別。パネルディスカッション「『僕たちは作りたいものを作る』自主制作ゲームの今」をレポート

 2016年8月24日から26日にかけて,CEDEC 2016がパシフィコ横浜で開催された。本稿では,8月25日に行われたセッション「『僕たちは作りたいものを作る』自主制作ゲームの今」の模様をレポートしよう。

 このセッションは,,2016年内にゲームタイトルをリリースする個人または小規模独立系デベロッパの代表5名によるパネルディスカッション形式で行われ,それぞれの自主制作ゲーム開発に対するスタイルやアプローチなどが紹介された。

左からProject ICKX プロデューサー 若葉 章氏,三原亮介氏,room6 CEO 木村征史氏,ヘッドハイ 一條貴彰氏,degG 下田賢佑氏
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 会場で最初に提示されたのは,ヘッドハイの一條貴彰氏が独自に実施したアンケート調査の結果だ。一條氏は,日本国内においてゲームの自主制作を生業にしようとする人が少ない(もしくはそのように見える)理由と,その状態の解決策を求めて,こうした活動を行っている。とくに最近では,自主制作ゲームが「インディーゲーム」と呼ばれ大きく注目された数年前と比較し,勢いが落ちていると感じるそうだ。

国内で自主制作ゲーム開発者が増えない状況に対する,一條氏自身の考察も披露された
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一條氏が独自に行ったアンケート調査の結果。調査はUnity公式カンファレンス「Unite 2016」にて行われた一條氏自身のセッションの聴講者を対象としているため,回答者全員が自主制作ゲームに取り組んでいるわけではない
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 この調査結果からは,回答者の多くが無料もしくは低価格のオリジナルゲームの開発を志向しているということが読み取れる。一條氏は,「少々極論に走ってしまいますが」と前置きをしつつも,ゲームの自主制作で生きていこうと考える人が増えないのは,世間一般にゲームに対価を払おうという人が少ないからではないかと持論を展開。「ユーザーやファンが,もっと作り手を応援・支援できるような場やシステムが必要」と語った。

 自主制作ゲームの価格が低めになってしまうことに対し,degGの下田賢佑氏はSteamなどのダウンロードサイトは不特定多数のユーザーを対象としているため,インディーズバンドのライブ会場における自主制作CD販売や同人誌即売会などと異なり,作り手に対するリスペクトが薄れてしまっているからではないかという見解を示した。

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 Project ICKXとして同人ソフト開発を手がけている若葉 章氏は,同人専門店でゲームを販売する場合,「買い手が慣れているから」という理由で相場がある程度決まってくるという事例を紹介。仮に相場の価格帯から外れると,買い手が不安を抱き購入しないという事態が発生するという。

 また一條氏は,ゲームの内容・ボリュームと価格との間に分かりやすい基準がないことを指摘。たとえばCDであれば1枚あたり最大70分強の楽曲が収録されているため,時間や体験に対していくら支払ったか,それを高いと思うか安いと思うかを把握しやすい。
 ところがゲームの場合は,低価格であっても極めて長い期間にわたって遊べたり,逆に数時間の斬新な体験のために高額を支払ったりとタイトルごとに異なるため,多くの人が共有できる基準がなかなか確立しないのである。


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 二つめのテーマは,「売れる努力をしているか,そもそも売れたいと思っているか」。若葉氏は「最大限の努力をしている」とし,その理由を「『より多くの人にプレイしてもらう』という目的に対し,もっとも効率の良い戦略が『売ること』だから」と説明。また同人ソフトの場合は,取り扱ってもらう販売店の売上に貢献することも考慮に入れる必要があるとのことだ。

 また自主制作デベロッパが創作活動で自活できる状況の確立を目指す一條氏は,「そのモデルケースとなるべき自身がまず売れなければ」として,プロモーションや講演活動に力を入れていると話していた。
 ちなみに2016年4月にリリースされた一條氏の「Back in 1995」は,売上目標を達成できていないという。その理由を一條氏は,リリースを急いだためにプレイヤーの期待に応えきれなかったこと,プレイヤーの期待と自身が考えていたことにズレがあったことなどを挙げた。こうした反省点は,今後のアップデートおよびニンテンドー3DS版に生かすという。

 room6の木村征史氏は,事業として自主制作ゲームに取り組んでいるので,収益を上げるため,常に売ることを意識しているという。ただしゲーム開発事業はまったく初めての取り組みであり,現在は投資フェーズであるため,必ずしも収益だけにこだわっているわけではない。

 下田氏は,「ゲームを作ってお金を稼ぎたい」というのであれば,ゲーム会社に入社しても変わらないことを指摘。しかし現在の国内のゲーム産業は,プロデューサーやディレクターといった組織を管理する立場にならなければ,収入が増えない構造となっている。また国内におけるプロデューサーやディレクターは,海外のそれと異なり,作家性よりも社内の管理職としての役割を重視される。つまり専門職がその専門性を高めることで収入を増やすことは難しいのだ。
 下田氏は,国内でAAAタイトルをディレクションしようと思うのであれば,一つの会社に入ってプロデューサーやディレクターへの出世を目指すよりも,外部でディレクターとしての実績を作ったほうがいいとし,ゲームの自主制作はそのためのセルフプロデュースの場でもあるとの持論を示した。

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 3つめのテーマは,「展示会に参加したほうがいいのかどうか」。東京インディーフェス,BitSummit,デジゲー博,東京ゲームショウのインディーコーナーと自主制作ゲームの展示会が増えているが,下田氏は全部に出展するのは大変だと考えているという。

 もともとスマートフォンアプリの個人開発に関心があり,結果的にゲームを手がけることとなった三原亮介氏は,長らく一人で作業を続けており,2014年にBitSummitに出展して初めてほかの自主制作ゲーム開発者と知り合ったとのこと。そこでお互いのゲームをプレイして感想を言い合ったり,情報交換したりすることの重要性を感じたそうだ。

 一條氏は,現在国内にて2か月に1回のペースでさまざまな展示会が開催されているため,「次の出展までに,このバージョンを完成させよう」といった感じで開発ペースを保つのにちょうどいいという。その一方で展示会が増えた今,展示会ごとの特徴を打ち出したほうがいいのではないとも話していた。

 京都で活動している木村氏は,東京で開催される展示会にも積極的に参加しているが,これは地元だけに留まることなく,自主制作ゲーム開発者との広いつながりを作るためとのことである。

 下田氏は,展示会に向いているゲームとそうでないゲームがあることを指摘。たとえばシミュレーションゲームは,ある程度時間を掛けてプレイしてみないと内容が分からないため,展示会で10分程度試遊してもあまり意味がない。また音楽をフィーチャーしたゲームも,にぎやかな場所でプレイするのと,静かな場所でじっくりプレイするのとでは印象が変わってくる。したがって作っているゲームの内容によっては,出展しないほうがいいこともあるという。

 また下田氏自身,いざ展示会で来場者と対面すると,どうしても場を盛り上げようとしてしまうので,試遊も“良い雰囲気”だけで終わってしまうことが多いという。そのため,本当にその人がゲームを楽しんでくれたのかどうか分からないケースもあると話していた。

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 4つめのテーマは,「ゲームが完成しないと思うことはあるか。また時間やお金はどうやって捻出しているか」。同人活動としてゲームを開発している若葉氏は,開発スタッフ全員が本職を持っているため,資金繰りの失敗で開発が頓挫することはないという。またスケジュールはとくに管理しているわけではなく,逆に仕事ではないのだから,各自の納得がいくまで取り組んでいるとのこと。若葉氏によると,研究と開発を並行している状態であるため,スケジュールを立てにくいという事情もあるそうだ。

 一條氏は,最終的なクオリティに多少目をつぶっても,発売時期を明確に定めて完成させることを優先するというポリシーを持って活動していると回答。幸いなことに昨今ではパッチやDLCの配信によって内容を拡張できるため,最初の段階ではゲームとしてはミニマムなものの完成を目指すという。

 下田氏は,自身が現在開発している「GDH2030」を1年程度で完成させるつもりで作り始めたが,実際は2年近く経った現在になってようやく完成の目処が立ったとのこと。この理由を下田氏は,結局自分の作りたいゲームは,もともとそれだけ開発に時間の掛かるものだったと説明した。

 三原氏は,長年にわたり開発し続けている「Gesuido」というタイトルを,ようやく2016年冬にリリースする予定だ。長らく自分の理想とするゲームを全力で作り込むという思いで開発を続けてきたが,40歳という年齢が視野に入ってきた最近では,自分の人生を踏まえてそろそろタイムリミットが迫っていると感じているという。
 それだけ時間が掛かってしまったのは,時間を捻出できなかったこともあるが,途中からやりたいことが増えてしまったからとのこと。今は落ち着いたが,展示会でフィードバックを得ると「これじゃダメだ。作り直そう」という思いに駆られてしまう時期もあったそうだ。


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 5つめのテーマは,「本当に自主制作でないとダメなのか」。すなわちパブリッシャとの共同開発や,ゲーム会社への就職といった選択肢はないのか,というものである。
 三原氏は,自主制作したゲームをパブリッシングしてくれる企業があるなら歓迎するとのこと。

 一條氏は,たとえばプログラマーとしてバリバリ活躍したいのであれば,ゲーム会社に就職するべきであるとする一方,自分が持つ世界観を世に問いたいのであれば,必ずしも就職は正解ではないと見解を述べた。
 またパブリッシャとの共同開発に関しては,方向性が合致すれば問題ないとのこと。一條氏は「Back in 1995」に,とある企業から出資の申し出があり,その条件がネットワーク対戦機能の実装だったというエピソードを披露。しかし一條氏が掲げていたコンセプトは「初代PlayStationのような3Dグラフィックスの再現」であり,方向性がまったく異なるため,話は実現しなかったそうだ。
 それはともかく,自主制作ゲームに企業が出資するという話自体は出てきているので,今後事例が増えていくだろうと一條氏は展望を語っていた。

 最後のテーマは,「5年後はどうなっているか」。ここ数年は,ある意味でブームとして自主制作ゲームに注目が集まっていたが,それが終わったときにきちんと文化として定着するのか,あるいは自分自身がゲームの自主制作を続けているのかについて,登壇者各自が思うところを述べた。

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 一條氏は,自身が開発するゲームのように,個性豊かな自主制作ゲームがもっと増えること,また開発者が個性的なゲームから収入を得て創作活動を続けられる社会になることを目指して,現在活動を進めているという。理想は50%が仕事,残り50%が創作活動とのことである。

 木村氏は,5年後にも事業を継続するためには,オリジナルのゲームを定期的にリリースしていくほかないとした。
 また若葉氏は,現状一人のメインプログラマーに依存している部分があり,それを改善するためのプランBへの着手にもまだ時間が掛かるため,長い目で見たときに活動継続への不安が残ると語った。
 そして三原氏は小規模の自主制作ゲームを継続して作り続けたいとし,一條氏が目指すような世界観が理想だと語った。

 一言で自主制作ゲーム,インディーズゲームと表現されていても,それに取り組むアプローチやスタイルには「こうあるべき」というモデルはなく,このディスカッションで示されたとおり,開発者ごとに千差万別である。これからゲームの自主制作に取り組む人は,自分の作りたいものを明確にすると同時に,自分自身に合った開発スタイルを模索することとなるが,このセッションはその糸口になるのではないだろうか。

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