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ソフトバンクグループの2016年3月期決算説明会をレポート。孫 正義氏が9年振りに通期黒字反転した米SprintのV字回復を宣言
通期(2016年3月期)決算関連URL:
決算短信(※PDF):
http://cdn.softbank.jp/corp/set/data/irinfo/financials/
financial_reports/pdf/2016/softbank_results_2016q4_001.pdf
プレゼンテーション資料(※PDF):
http://cdn.softbank.jp/corp/set/data/irinfo/presentations/
results/pdf/2016/softbank_presentation_2016_004.pdf
決算データシート(※PDF):
http://cdn.softbank.jp/corp/set/data/irinfo/presentations/
results/pdf/2016/softbank_presentation_2016_004_002.pdf
調整後EBITDA(Earnings Before Interest,Taxes, Depreciation and Amortization。利払い前税引き前償却前利益)は連結で+19.4%。営業利益も同様で,国内通信,スプリント(Sprint),ヤフーなどいずれも右肩上がりとなった。
孫氏は,かつてソフトバンクはADSLで“世界一早く安い”を実現し,光ファイバー(FTTH)へと移ったが,当時は収益を上げられる構造になっておらず困難な状況だったとコメント。やっと収益が成り立つ事業モデルが構築できたことで,この1年間で積極的に展開,安定的に業績を伸ばしていけるようになってきたと述べた。
孫氏は,同社のパケット接続率が大手キャリア3社中トップで,日本でもっともパケットがつながるネットワークになったとアピール。また,日本のモバイル通信ネットワークは世界でも最先端で,孫氏の体感としては世界でも1,2を争うトップクラスのスマホネットワークであるとも述べていた。
ソフトバンクでは継続的に設備投資を行ってきて,今後も継続していくが,そのピークは過ぎたとのこと。そのため,フリーキャッシュフロー(FCF)が創出できるようになり,今後継続して4000億〜5000億円レベルで稼げる状況になっていくと孫氏は説明した。
孫氏は,ポストペイドが125万増,ポストペイド携帯電話が44万増と,顧客純増にこぎつけたと説明。さらにポストペイド携帯電話では,T-mobileには及ばないもののVerizonとAT&Tを逆転したことなど,業績改善をアピールした。
孫氏によれば,解約される一番の要因だった,ネットワーク接続率の悪さを改善できたことが大きいとのこと。孫氏がチーフネットワークオフィサーとして自ら陣頭指揮を取り,毎日改善の努力を続けてきたことで解約率の低下につながり,さらには売上高が底をうって微増ではあるが反転したと述べた。
孫氏は,企業が潰れたり業績が悪くなったりするのは経費が粗利を超えているときで,会社を復活させるときに真っ先にやらないといけないのは,経費の削減だと述べた。スプリントにおいては1年間で13億ドルの固定費削減を実現し,調整後EBITDAが21億ドル(前年比36%)増,営業利益では3億ドル増と,過去9年で初の黒字(通期)を達成したことを紹介した。
孫氏は,現在のスプリントは,数年前までソフトバンクが「つながらない」と言われていた状況に近く,まだ世の中の人に十分に評価されていないとコメント。Nielsenが全米で行った調査では,LTEダウンロード実行速度で競合他社を抜きスプリントがNo.1になっていると述べた。
2016年度の予想では,調整後EBITDAで2015年予想を達成,さらに20億ドルほど増益できるとした。孫氏は,ソフトバンクモバイルの業績が真っ逆さまに下がっていたのをV字回復させたように,自身のプライドにかけてスプリントもV字回復を実現させる,その見通しが公言できるところまで来たと力強く語っていた。
ショッピング事業はeコマースをアリババモデルに切り替えたことで,急激に改善しているとのこと。取扱高が62%増の1128億円に達し,過去最高の成長率を記録したという |
一方で好調なのが,ディスプレイ広告だという。スマートフォンではPCより画面が小さいため,広告効果が薄れると言われていた。そこでディスプレイの方法を変え,記事と記事の間に広告が表示されるインフィード広告のモデルにしたところ,スマートフォンブラウザでの広告効果が上がったとのこと。
また,Googleにロイヤリティを払わなければいけない検索連動広告よりディスプレイ広告のほうが利益率が高く,広告利益は着実に伸びていると話していた。
続けて孫氏は,ソフトバンクが投資して大きく成長した企業の実績を挙げた。
eコマース関連では,アリババグループの取扱高が約60兆円と,世界最大と言われるWalmartを年度ベースで逆転したことを紹介。売上高は約2兆円(前期比33%増),純利益は8268億円(前期比22%増)と成長が著しい。なお,モバイル収入は前期比2.8倍の約9737億円で,モバイルMAU(Monthly Active Users / 月間稼働ユーザー)は前期比42%増の約4.1億人に達しているとのこと。
また,インドのsnapdeal,韓国のcoupang,インドネシアのtokopedia,インドのOYOなど,いずれも特筆すべき結果を残していることをアピールしていた。
※ガンホーはもともと子会社だったが,2015年6月1日より持分法適用関連会社になっている。
最後に,質疑応答で出た質問とその回答のうち,いくつか取り上げて本稿の締めとしよう。
まず,熊本地震の障害発生とその復旧に関する話題だ。東日本大震災発生時に迷惑をかけてしまい,ネットワークを守る責任を痛感したという孫氏は,災害対策のために設計を見直し設備投資を行ってきたと述べる。係留気球無線中継システムによる臨時基地局の設置や移動中継車なども用い,いち早く全面復旧を実現したとのこと。
今世間を賑わせている「パナマ文書」にソフトバンク関連会社の名前が上がったことについて。これは孫氏もテレビのニュースを見て知ったそうだ。孫氏は,見ていなかったという管理責任はあると前置きしたうえで,今回の件で名前が上がった会社は,ソフトバンクグループが十数年で行ってきた2000社近い投資や設立会社の中の2社で,孫会社の孫会社のようなものだと説明。1社が6000万円,もう1社が2億円のマイノリティ投資で,その投資先が“タックスヘイブン”に登録していたのだという。片方は2000年に,もう片方も2007年に赤字で終了しており,税を払う業績にも満たなかったとのこと。
総務省による“行き過ぎた端末購入補助”の適正化,つまり「実質0円」の実質的な規制が事業に影響を与えるかという質問も出た。孫氏は,まだ新しい枠組みになったばかりでコメントは時期尚早だと,直接の回答は避けた。なお,これに付随して「利用者の料金負担軽減」があるが,これについて孫氏は,ワイモバイルで率先してやっていると述べていた。
なお孫氏はこれに関連して,国内のモバイルユーザーの総数は決まっていることから,携帯キャリア間で端末数の回転率が上がっても,ゼロサムのようなもので,利益が増えることにはならないとコメント。また,これからは同じ端末を長く使うサイクルに入ってくるため,端末数の回転率が下がってきていると思うと述べた。大切なのはユーザーのトータルの数であり,サービス収入を上げるために,いちユーザーあたりのスマホを使う度合いを高めていると話していた。
そのほか,日本の通信料金はアメリカよりはるかに安く,イギリスやドイツなど世界の先進国と比べても高くないと思うと孫氏はコメント。競争が新しい枠組みになったばかりなのでいろんな体験をしてみるべきであり,そこから学ぶのではないかとまとめた。
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