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「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆
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印刷2022/04/21 10:00

インタビュー

「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

 セガ×Colorful Paletteのリズム&アドベンチャーゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」iOS / Android。以下プロセカ)には,リズムゲームらしく日々“楽曲”が追加されている。

 2022年3月30日に迎えた配信1.5周年には巡音ルカ,MEIKO,KAITOの人気楽曲,プロセカユニットの新曲,さらにハチ氏の名曲「マトリョシカ」「砂の惑星」「ドーナツホール」が連続で追加されるなど,プレイもリッスンもさらに豊かになっている。

 ということで,今回はこれらの楽曲がプロセカに実装されるにあたり,内部的にはどのような流れで作られてきたのかを,セガの楽曲制作担当である瀬上 純氏田村あかね氏に尋ねてきた。

左から,セガの瀬上 純氏田村あかね氏
画像集#001のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

 ちなみに,4Gamerでは「プロセカの2DMV制作話」のインタビューも載せているので,興味がある人はあわせて読んでほしい。

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「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」公式サイト

「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」ダウンロードページ

「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」ダウンロードページ



音楽はプロセカの大事なコア


4Gamer:
 本日はプロセカの楽曲制作に関するお話,よろしくお願いします。
 まずはそれぞれ自己紹介からお願いできますか。

瀬上 純氏(以下,瀬上氏):
 瀬上です。私は1993年にセガに入社して,これまでいろいろなプロジェクトに関わってきましたが,一番知られているのは「ソニック」シリーズのサウンドディレクター,リードコンポーザー,ギタリストとしての顔だと思います。
 最初に言っておくと,プロセカではいっさい演奏していません。

4Gamer:
 人によっては「プロセカに瀬上 純が関わってるとは」な驚きもあるんじゃないかと。私もお話を聞いたときはそうでした。
 名を知られる業界人がとくに宣伝に使われるでもなく,内々で裏方に徹しているところからもプロジェクトの姿勢が見えてくるというか。

瀬上氏:
 そこんところ,プロセカで裏方に徹している人たちというのはそれでいいんですよ。私はこのインタビューですら,当初は匿名での参加のほうがいいんじゃないかと思っていたくらいですし。

画像集#002のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

4Gamer:
 そういうのがこちら側に“キく”んですよ。
 続けて,田村さんのほうもお願いします。

田村あかね氏(以下,田村氏):
 田村です。私は3年ほど前,プロジェクトの立ち上げ時期にセガに入社しました。最初は3Dチームのお手伝いをしていましたが,音楽制作が本格的にはじまったころから楽曲制作の専任になっています。

4Gamer:
 もともと音楽制作に携わっていたりは?

田村氏:
 それこそ,セガの入社前は音楽業界にいました。ただ瀬上さんのような作り手ではなく,今のような制作側でしたね。
 それが縁だったのか,プロセカでもこうなりまして(笑)。

4Gamer:
 ベストマッチでしょう。
 ちなみに,瀬上さんが参加したのはいつごろのことですか。

瀬上氏:
 私がプロセカに参加したのはローンチ当日ですね。忘れもしない2020年9月30日です。その日「今日から運営開始なので……」と田村さんたちに言われて,流れで担当することになりました(笑)。
 ただ,プロセカはそこから長きにわたる運営と,多岐にわたる展開が想定されるプロジェクトだったため,とりわけ重要な音楽制作に関しては,セガのサウンドチームとしてもきっちり向かい合って関われたらと内々で話していたので,意気込みはちゃんとありました。

田村氏:
 瀬上さんの言うとおり,プロセカにおいて音楽は重要な柱でしたので,きちんと熟知してもらえるチーム体制をと考えていたんです。
 セガの熟練のサウンドチームが担当してくれたことは,本当にありがたい限りでした。

画像集#003のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

瀬上氏:
 私自身,これまで運営型タイトルには本格的に携わったことがなかったので,今の時代ならではの新鮮なゲーム作りの日々を送れています。まぁ,いつもなにかしらのイレギュラーが発生しますから,刺激的な立場である反面,気の休まることのない毎日ですが。

田村氏:
 なにもなく完成した曲なんて一つもないですよね(笑)。

瀬上氏:
 ほんとそう。これまで私が担当してきたような,自分さえ完成させたらゴールだったゲームサウンド作りとはまるで違うんですよ。
 プロセカの楽曲制作はスタートからゴールに至るまで,誰もが自分だけの判断では進めず,みんなで確認し合って進行しているので。

4Gamer:
 それがクオリティの担保につながっていると見ました。
 ではあらためて,プロセカにおける「楽曲」とはなんでしょう。

瀬上氏:
 プロセカは,ミクさんらバーチャル・シンガーと出会った少年少女たちが,それぞれの音楽を通じて成長していく作品です。
 人物がいて,物語があって,それらを歌詞やメロディーがつなぎ,それぞれの青春を積み重ねていく。このプロジェクトにおける楽曲というのは,そういった作品の奥行きを形作る大事なコアとなります。

田村氏:
 楽曲には,物語性を反映した書き下ろしの新規曲のほか,これまでたくさんのクリエイターさんたちが公開してきた既存曲があります。
 ゲーム内外ではそれらを,プロセカオリジナルキャラクターとバーチャル・シンガーがともに歌う「セカイver.」と,原曲をそのまま楽しんでもらう「バーチャル・シンガーver.」として提供しています。

4Gamer:
 個人的な印象ですが,ゲームというのは人物や物語,音楽などをまとめてパッケージングしたとき,一つの作品として評価されるものだと思っています。版権ものならゲームとIPの両手持ちだとしても。
 その点,プロセカはゲームが高品質,バーチャル・シンガーそれ自体も強力,ボカロ界隈をけん引する楽曲も大人気と,どこを取っても力強さがありますよね。それも売り文句にとどまらない実情ありきで。

瀬上氏:
 ありがとうございます。コンテンツの強みというのはよく組み合わせのかけ算で例えられますが,プロセカの場合は私から見ても「2乗の2乗の2乗」といった強さを感じますね(笑)。


楽曲ってどうやって作られる?


4Gamer:
 ここから当の楽曲について,制作の流れをお聞きします。
 まず,新規曲と既存曲の違いをあらためて教えてください。

瀬上氏:
 「新規曲」は,プロセカキャラクターのその時々の心情や事情を歌にした,物語と関連して作られる楽曲です。制作についても運営側からの始動とあり,大枠のテーマがあらかじめ設定されているものです。
 一方で「既存曲」は,クリエイターさんたちが公開済みの作品とあり,選曲・打診へと進んでいきます。

田村氏:
 新規曲の制作は,Colorful Paletteさんが決めた運営計画をもとに進行します。例えば「次のイベントはこの子がメインだから,こういう曲にしたい」と希望をいただいたあと,私たちセガの楽曲制作チームが「こういう曲なら,このクリエイターさんだろう」と勘案し,何名かピックアップさせていただき,Colorful Paletteさんとクリプトン・フューチャー・メディアさんにあらためて相談します。そこで打診する作家さんと制作事項を決めて,ご本人さまにお声がけさせていただくといった流れです。
 対して既存曲は,スタート地点が「選曲」からになりますが,そのあとの流れは新規曲と同じで,関係各社とのご相談は必ずしています。バーチャル・シンガーver.は原曲をそのままご提供いただければ実装作業はスムーズですが,セカイver.の実装には必ず制作がはさまりますので。

瀬上氏:
 その「選ぶ」も大変なんですけどね。リストが長い長い。

画像集#006のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

4Gamer:
 新規曲に関しては,制作前にどこに気を配るのでしょう。

田村氏:
 新規曲は前提として,プロセカオリジナルキャラクターやバーチャル・シンガーの,いわゆるキャラソンのようなものにしたいわけではなく,こちらが提示させていただくテーマをもとに,あくまで“クリエイターご本人の作風を生かした楽曲”を作っていただきたいと頼んでいます。
 プロセカの物語性を加味した作りにしていただく一方で,「この人が作ったらこそ,この曲になった」と言える独自の色を出していただくのは,このプロジェクトにおける私たちの命題となります。

瀬上氏:
 そういった音楽企画を成立させて,歌詞や作曲を納品するまでが田村さんたちの制作進行チームで,納品物にキャストの歌を乗せ,ゲームに実装するためのデータを完成させるのが私たち音楽制作チームです。
 田村さんたちがクリエイターさんに「やりたいところまでやってください」と頼んで,楽曲が仕上がったら,それをセカイver.として完成させるべく,走り出す感じです。

田村氏:
 クリエイターさんはプロセカ以外でも活動し,作品を出している以上,ご本人が納得しづらい作品を実装するのはいいことではないので,こちらは極力,納得がいく出来になるまで時間を要することもあります。
 そのためにも関係者間でのディレクションは欠かしませんが,そもそもクリエイターさんたちには十二分に理解していただいたうえで作品を手がけていただいているので,これまでも制作物のイメージが大きくズレていた例というのはほとんどないです。

4Gamer:
 プロセカのことを知るクリエイターは多いですか。

田村氏:
 リリース前はイチから説明させていただいていましたが,最近は皆さん,大なり小なりプロセカのことは知ってくれていますね。
 なかには「声をかけられるの待ってました!」とありがたいお返事をくださる方々もいますので,こちらの要望をすんなりと咀嚼してくださるクリエイターさんも少なくないです。

4Gamer:
 お世辞ではなく,プロセカはカルチャーに台頭してますしね。

田村氏:
 そういった場をお借りしている作品ですので,クリエイターさん側に少なからず還元できているのなら,とてもうれしいです。

画像集#005のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

4Gamer:
 さて,楽曲の納品までは理解しました。次いでその先,納品された曲をセカイver.としてゲームに実装するまではいかがでしょう。

瀬上氏:
 公開済みの原曲でない限り,私の手元に届く新規曲のデータはこの時点では「歌詞とメロディーのみ」です。そこから作業をはじめて,ユニットの歌にして,セカイver.というレールに乗せていきます。
 いただいた曲は,ゲームとして一定のフォーマットに落とし込むために調整をする箇所はあれど,手を加えることはしません。

4Gamer:
 セガ側で編曲(アレンジ)はしないと?

瀬上氏:
 新規曲ではないですね。作詞・作曲はクリエイターさんの領域ですから,こちらが勝手に歌詞やメロディーを弄ることはありません。

4Gamer:
 ふむふむ。なら,セガ側で担当する作業はどの段階からでしょう。

瀬上氏:
 まずは「歌唱のキー選定」と「パートの歌い分け」です。セカイver.はユニット全員で歌うもの,特定の組み合わせで歌うものとさまざまですが,「どのキャラがどこを歌うか」の指定は,クリエイターさんのご意見を踏まえつつ,こちらであらためて選定します。
 歌い分けを細かく考えてくれる作家さんもいますが,キャストがそのキーで歌えるかの課題もありますしね。

田村氏:
 歌い分けの指定は人それぞれですね。こちらとしては制作中のイメージとしてありがたく参考にさせていただいています。
 そのうえで,新規曲と既存曲では事情が異なるものの,どちらもバーチャル・シンガー込みだと「人が歌えるようにできていない」こともあるのでキー選定は必須です。それにプロセカでは,世には出していませんが,大体の曲は歌い分け以前に“1ユニットの全キャストが1曲通しで収録”しているので,曲全体を全員が歌えるかどうかも合わせて確認します。

4Gamer:
 パートごとにレコーディングするよりは融通が利きそうな。

田村氏:
 楽曲の品質をより高めるには,時間がかかっても1人1人に歌いきってもらい,音源を収録したほうがいいという判断ですね。

瀬上氏:
 既存曲のほうは,原曲からキーを変えることでイメージが変わってしまうので,ファンの皆さんがそれぞれの楽曲に抱いている印象を崩さないよう,さりとてキャストが歌えるよう,バランスを取るわけですね。
 まあ,たいていはキャスト陣にがんばってもらっていますが(笑)。

田村氏:
 最近,レコーディング現場でもキャストさんによく言われるんですよ。「歌の難度がどんどん上がってませんか?」って(笑)。

画像集#004のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

4Gamer:
 目に浮かぶような光景。続く作業はなんでしょう。

瀬上氏:
 「ゲーム尺の設定」です。セガは例えば「maimai」シリーズなど,これまでさまざまなプラットフォームでリズムゲームを提供してきましたが,それらは楽曲のゲーム尺をなるべく均一化し,1回のゲームプレイ時間を調整するなど,タイトルごとのルールを設定してきました。
 その点,プロセカも尺の上限下限は設けていますが,プレイ時間よりも,楽曲ごとの作りに応じたゲーム尺を用意しています。

田村氏:
 尺に収めるためにメロディーのつなぎ方が不自然になるくらいなら尺を伸ばしてしまおう,をそのままやっている形ですね。

瀬上氏:
 また,このあたりから「ゲーム譜面用&MV用の音源準備」もはじまります。プロセカは楽曲制作と並行して,リズムゲーム部分のノーツ設計や3DMVもやっていくので。

田村氏:
 MVチームは歌唱に連動して3Dモデルを動かしますので,ここまでに歌い分けの調整は必須です。
 そうでないと歌唱と映像にズレが生まれてしまいます。

瀬上氏:
 音源の準備ができたら,次は男性・女性ボーカル用の仮歌を含め「キャスト歌唱用の資料作成&スケジュール調整」です。
 このあたりは外部の協力会社さんとも連携しつつ進めていきます。

4Gamer:
 キャスト陣の歌唱には,ここまで努力もあったんでしょうか。

田村氏:
 本当にすごくがんばっていただけています。曲によりけりですが,ボカロ楽曲はやはり人が歌うには難しい音階やリズムがあることも少なくないのと,おのおのが演じるキャラクター性を生かすことも重要なので,収録はいつも「どうしましょうか……」からはじまります。
 それでもキャストの皆さんはとてもお上手なので,要点を伝えるとだいたい表現してくれますね。そのうえ個々人でも練習してきてくださるので,いつも現場でご協力していただけている日本コロムビアさんのディレクターさんたちもはじめ,関係各位には大変感謝しています。

4Gamer:
 レコーディングにはどれくらい時間がかかるんでしょう。

田村氏:
 1人あたり,メロディーやコーラスも含めて3時間ほどです。

4Gamer:
 ってことは単純計算で,1曲あたり4人の……12時間?

瀬上氏:
 それも,あくまでレコーディングの素材収録ですね。インストと歌唱をミックスして,調整から完成に至るまでの時間はもっとです。時間というか,1曲あたりの制作期間は半年ほどかかっています。
 既存曲のほうも,ライセンスの調整から実際に実装するまで,長らく期間が空く例もありますし。

田村氏:
 準備期間が3か月,レコーディングが2か月,そこからミックスで1か月,実装の1か月前にはデータを納品してと……さすがに1年はかからないものの,1曲あたり半年から8か月ほどはかかります。

4Gamer:
 うへえ。1曲で半年。それで毎月実装ですから……気が長い。
 セカイver.に関しては「人とバーチャル・シンガーが一緒に歌う」という点も気になります。このあたりの目指すべき着地点やバランス感は,各位であらかじめイメージを共有しているのでしょうか。

田村氏:
 今現在も関係者みんなで模索しているところです。
 ただ単に人間とバーチャル・シンガーとを一緒に歌わせるだけだと,どうしても違和感が拭えないケースはあります。それぞれの良さを生かして,音楽として調和が取れるのはどのあたりか。現時点では幸い好評をいただけていますが,今後も引き続き挑戦していく部分です。

4Gamer:
 そういえば,バーチャル・シンガーの調声もセガが?

田村氏:
 セカイver.のバーチャル・シンガーの歌唱パートについては,基本的にクリプトンさんが担当してくださっています。
 クリプトンさんも人とバーチャル・シンガーとが調和する歌はどのようなものか,専門の方々が挑戦してくださっています。私からはあまり見えない領域なのですが,おそらくとても苦労されているものかと。

4Gamer:
 それでも,これ以上ないほどの餅は餅屋。

瀬上氏:
 プロセカ楽曲は,人やバーチャル・シンガーのどちらかの歌唱に傾倒させるのではなく,また異物感を覚えさせないよう,両者が楽曲の一員として世界観を表現する。そんな目標を持って作ってきました。
 レコーディングやミックスなど,各ステップにおいて多くのプロフェッショナルな方々とチームを組みながら制作を進めてきていますが,各所が尽力したのち,ゲーム用の楽曲データを完成させたらColorful Paletteさんに納品して,私たちの業務はいったん終了です。

画像集#007のサムネイル/「プロセカ」の曲はこうして作られた。セガの瀬上 純氏&田村あかね氏に聞く,楽曲が結ぶ“みんな”の絆

4Gamer:
 いわゆる往年の名曲となると,データ的な新旧,ないしクリエイター側から「今の自分的にはここを直したい」などと言われたりは?

瀬上氏:
 今のご自身の作風でアレンジしたい人も,そのままにしておいてほしいという人も,人それぞれですね。ただ,セカイver.もバーチャル・シンガーver.も原則,メロディーは原曲のままで,手を加えるのも聴感上のレベル調整くらいなので,アレンジはやはり例外としています。

田村氏:
 世代の名曲ともなると作り手側のみならず,ファンの皆さんが持っている印象もまた,大きく関わってきます。私たちもそこに懸念を抱かせたくはありませんので,セカイver.にしても大きくは変えず,それでいてプロセカらしさを出せるようにと相談させてもらっています。

瀬上氏:
 近々だと,雄之助さんの楽曲「PaIII.SENSATION(パッショネート スリー ドット センセーション)」(作詞:牛肉 作曲:雄之助)のセカイver.を原曲ともども追加しました。こちらは曲自体が2016年に制作されたもので,当時の雄之助さんご自身の作風とあって,当初は私たちがどう仕上げるのかを気にされていました。
 しかし,セカイver.は私たちの独断では進めず,相談しながら一緒に作り上げていき,最終的に「2022年バージョン」とでもいうべき内容に仕上げられました。その際,雄之助さんから「すごくうれしかったです」と一言いただくことができて,こちらとしてもなによりでしたね。

4Gamer:
 また,ユニットの新規曲も発表されていましたが。

瀬上氏:
 1.5周年生放送で,ワンダショ(ワンダーランズ×ショウタイム)の新規曲をまらしぃさんと堀江晶太(kemu)さんに,レオニ(Leo/need)の新規曲を傘村トータさんに作ってもらうことを発表しました。

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田村氏:
 まらしぃさんとはこれまでも「青く駆けろ!」などの実装や,大会施策などでご縁がありましたが,書き下ろし楽曲の依頼は今回が初となります。方向性はもちろん“美しいピアノ楽曲”です。

4Gamer:
 まらしぃさんとkemuさん(堀江晶太さん)の両者に頼んだ理由は。

田村氏:
 まらしぃさんから「kemu(堀江晶太さん)さんと一緒でいかがですか」とお返事をいただいたからです。こういったどなたかと組んで楽曲制作をしていただくときは,私たちのほうから「〜〜さんと一緒でどうですか」とお願いすることはほぼなく,クリエイターさんご本人から「こういう曲なら,〜〜さんと一緒に作ったほうがよさそうです」とご提案いただけるのを,こちらが採用させていただくことが大半です。
 仮に私たちから頼むケースでも,特定の誰かではなく「こういう曲にしたいのですが,誰かと一緒のほうがいいですか?」とヒアリングして,クリエイターさんご自身に“一緒にやりやすい人”を教えてもらいます。

4Gamer:
 特定の組み合わせありきではない,ってことですね。

田村氏:
 はい。大切なのはクリエイターさんたちが作曲をしやすいかどうかですので,一緒の仕事でもしっかりと言い合える関係性のご友人など,クリエイターさんたちの交友関係から最優先でセッティングします。

4Gamer:
 傘村さんに関してはいかがですか。

田村氏:
 こちらも傘村トータさんらしい“バラード楽曲”を予定しています。
 ただ担当ユニットがレオニ,つまりバンドとあり,傘村さんには「バンドサウンドでもやっていただけますか?」からのご相談となり,それでも幸いなことに快諾していただけました。

4Gamer:
 弾き語りとバンドだと,ある意味じゃ正反対ですもんね。

田村氏:
 けれど,プロセカでは毎月2曲,5ユニットに3か月に1曲程度のペースで新規曲を追加しているので,各ユニットで想像しやすい曲調ばかりを作り続けていると,偏りや類似が生まれてしまいます。
 ですから,それぞれ「どこまでどんな曲を表現できるのか」の範囲を広げているのが,まさに最近の挑戦かもしれません。

4Gamer:
 どこまでがレオニで,どこまでがレオニじゃないか。
 その判断基準はやはり,プロジェクト全体が持つ感性ですか。

田村氏:
 感性ですね。当然,判断基準は私個人ではなく,各チームやプロジェクトに携わる多くの人たちの意見を踏まえてのことですが。

瀬上氏:
 その流れでお話しすると,例えばアニソンってあるじゃないですか? 昨今は曲調込みではくくれないほど広がりのある音楽ジャンルですが,「オケだけ聴いたらヘヴィだけれども,かわいらしい歌唱で歌われるもの」みたいな例っていくらでもあるんですよね。重めのバンドサウンドに軽やかな歌声というミックスはボカロ界隈のみならず,昨今の日本の音楽シーンでは一般的に受け入れられているミックスです。
 つまりこれは,軽重さまざまなメロディーに,軽重さまざまな歌唱をあてることで,楽曲自体のおもむきはガラリと変化するという話です。

4Gamer:
 たしかに。

瀬上氏:
 だから私たちがやっている,クリエイターさんが作詞・作曲したメロディーに,プロセカなりの歌唱をあてる制作体制というのもそれに近くて,ミックス次第で楽曲性をより引き立てたり,それらの雰囲気や色合いを調整したりすることができます。
 モモジャン(MORE MORE JUMP!)のアイドル感も,ビビバス(Vivid BAD SQUAD)のストリート感も,ニーゴ(25時、ナイトコードで。)のアンダーグラウンド感も,歌詞やメロディーのよさを引き出す歌唱とはどういうもので,プロセカなりの表現とはどのあたりか。そういうことを考えて作ってきました。

4Gamer:
 とても分かりやすいお話,ありがとうございます。
 ちなみに,お二人の担当楽曲数はこれまでどれくらいですか。

田村氏:
 私は全曲ですね。すべての制作を担当したわけではなく,チームスタッフに任せたり,引き継いだりしたものも含めますが,これまでの実装曲には確認作業をとおして全曲関わってきました。

瀬上氏:
 私が楽曲データとして扱ったのは,150数曲くらいかなあ?
 まだ触ってない曲もあるよね。

田村氏:
 そのうち触れることになると思います(笑)。
 私はノータッチな領域ですが,瀬上さんたちサウンドチームはゲーム用の楽曲データだけじゃなくて,そのあとのCD音源化やライブ音源の調整作業もあるんです。だからゲームでの制作作業が終わっても,手持ちの楽曲のお仕事にはまさにゴールがないって感じなんですよね。

4Gamer:
 あー,楽曲はゲーム(1次利用)に次いで2次利用もあるんですもんね。プロセカではCDとライブが主ですか?

瀬上氏:
 そうですね。近々のもので宣伝しますと,5月11日にレオニのセカイver.楽曲を集めた「SEKAI ALBUM」が発売されます。

4Gamer:
 CD音源化にあたって,追加作業もあるんですか。

瀬上氏:
 ゲーム用のゲーム尺での提供とは違い,フル尺ですからね。データ自体はあらかじめ全曲フル尺で用意していますが,音源化にあたり作品の質を向上させるべく,新たに調整を加えたりもしています。
 ですから田村さんの言うように,私の手元の楽曲データは,ゲーム実装時点では半分しか作業が終わっていないようなもので(笑)。

4Gamer:
 CD以外にも,2021年10月にオーケストラコンサート「セカイシンフォニー」,2022年1月に3DCGライブ「プロジェクトセカイ COLORFUL LIVE 1st - Link -」,そして6月11日には「セカイシンフォニー2022」も開催決定となりますが。ライブ関連でも同じく?

瀬上氏:
 ええ。イベントごとに作業の方向性は変わりますが,セカイシンフォニーでは楽曲編成やオーケストラの組み合わせ,セカライでは全体でバンドサウンドの筋をとおし,そこに歌を乗せる,というのが主な仕事です。
 いずれにせよ,楽曲データはゲーム向けに調整したもので,ただ合わせるだけだとオーケストラともバンド演奏とも音圧からなにから違うので,それぞれの公演に向けた仕上げ方が求められます。

4Gamer:
 想像はできませんが,まるで違うんでしょうね。

瀬上氏:
 セカイシンフォニーのほうは3月30日にBlu-ray&CDが発売され,セカライのほうもBlu-rayの発売決定が発表されました。
 昨年秋や今年初めの時勢もあって会場に足を運べなかったという人は,この機会にぜひご自宅で楽しんでみてください。

※サービス1.5周年に合わせて公開された情報です
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4Gamer:
 余談というには重めな質問になるものの,プロセカは若い世代の人たちに大いに受け入れられている実情がありますが,現代ではもはや歴史とも言えるボカロ楽曲の潮流は,2010年代や2020年代における一過性の音楽ジャンルではなく,あと数年で収束するトレンドでもない,将来的にも一つのジャンルとして続いていく不変性はあると思いますか。

田村氏:
 あると思います。私はもともと音楽業界にいたのもあり,そのときどきで移り変わっていく音楽シーンをたびたび見てきましたが,ボーカロイド界隈ひいてはバーチャル・シンガー楽曲はもはやブームではなく,すでにジャンルとして不変な立ち位置を確立していると思っています。
 もちろん,そのなかでの流行りすたりはありますが,歌詞がなんだ,曲調がなんだという見方ではなく,「バーチャル・シンガーの声が好き」「ボーカロイドの歌が好き」など,ボカロ楽曲や界隈自体を受け入れて楽しむ,そういう文化はすでに形成されているかと思います。

4Gamer:
 比較対象が正しいかは置いといて,ジャズやクラシックのように歴史ごと楽しめる音楽ジャンルになったことには違いないですもんね。
 それらとの大きな違いは,ストイックに歴史をひも解いて勉強する姿勢は求められず,入口からしてある種のコンテンツとして楽しめるというか,Wikipedia的な楽しみ方であるというか。小難しく言ってるだけですが,要はネット上だけでも成立するエンタメである気がします。

瀬上氏:
 さまざまな音楽性を受け入れられる土壌や,インターネット上で分け隔てなく触れられる音楽としては,バーチャル・シンガー楽曲というのは既存のジャンルとはぜんぜん違いますよね。
 セガも過去にバーチャル・シンガーを題材にしたゲームをいくつも出して,ファンの皆さんに楽しんでもらっていた背景がありますが,プロセカがここまで大きな反響を得られたのは関係各社の尽力もそうですし,これまでよりもゲーム性や楽曲,キャラクターや世界観に広がりを持たせたのもそうですが,なにより「現代音楽として受け入れられているシーン」が年々強くなってきたからだと常々感じています。

田村氏:
 プロセカ自体,「ボカロ楽曲をもっとたくさんの人に聴いてほしい」と発足したプロジェクトですので,これから先も広がりの一助を担えるよう,がんばっていきたいです。

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4Gamer:
 かしこまりました。プロセカはやっぱり音楽が重要でした。また,それらの制作にはセガのみならず,クリエイターや関係各社が力を合わせて,同じ目標に向かって協力しているご様子です。
 そういったもろもろを踏まえて,あらためて。本プロジェクトにおける「楽曲」とはお二人にとってどのように映るでしょう。

瀬上氏:
 私にとっては,クリエイターさんとプロジェクト,そしてファンの皆さんを結ぶ絆のようなもの。プロセカの真ん中にあるものが楽曲だと感じています。だからこそ,この作品における中心は作家さんや楽曲であり,バーチャル・シンガーやオリジナルキャラクターたちであるべきなので,私たち裏方はそれらをより光らせられるよう,今後もがんばる所存です。

田村氏:
 そうですね。プロセカは作曲・イラスト・映像などのクリエイターさん,Colorful Paletteさんにクリプトン・フューチャー・メディアさんにセガ,そのほかたくさんの関係会社さんがいますが,いずれも誰か1人,どこか1社の考えで完結させない,いろいろな方々が手を取り合って進めてきたプロジェクトです。それらを結び,ファンの皆さんとのつながりを生んでくれるのがプロセカにおける楽曲だと,私も感じています。
 今後とも,プロセカを楽しんでくださっているユーザーさんに,プロセカなりの新しいセカイを楽曲に乗せて届けられるようがんばって参りますので,これからもぜひご期待いただけるとうれしいです。

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