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海外出版のメリット・デメリットは? 国産ボドゲの海外展開を担うJapon Brandが実情を語ったトークセッションレポート
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印刷2023/07/31 14:00

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海外出版のメリット・デメリットは? 国産ボドゲの海外展開を担うJapon Brandが実情を語ったトークセッションレポート

 2023年7月22日に,東京都立産業貿易センター台東館で開催されたアナログゲームイベント「CONNECT」の会場から,Japon Brandの健部伸明氏らが登壇したトークセッション「世界に広がる日本のボードゲーム」の模様をお届けする。

左から「ラブレター」の制作者であるカナイセイジ氏,Japon Brandの健部伸明氏,「タイムボム」制作者の佐藤雄介氏
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 Japon Brandは,日本のボードゲームを海外向けに出版する事業を手掛ける一般社団法人だ。国産タイトルを海外のパブリッシャが販売するにあたっての仲介や,個人では難しい取引をまとめる手助けを主な活動内容としている。
 今回のステージは,そんなJapon Brandの成り立ちや,国産ボードゲームを海外向けに発信するにあたってのメリットやデメリットが語られるものとなった。さらにグローバル展開で起きがちな問題や,ボードゲーム業界全体が抱える問題についても触れられたので,ボードゲーム制作に興味がある人は,ぜひ最後まで読み進めてほしい。

Japon Brand公式サイト

「CONNECT」公式サイト



まずゲームを面白くするのが最優先。最初から「海外向け」を考える必要はない


 ステージには,Japon Brandの代表取締役にしてプロモーターの健部氏に加え,Japon Brandを通じて作品を世界に向けて提供しているゲームデザイナーのカナイセイジ氏佐藤雄介氏が登壇。活動内容の紹介や,疑問への回答などが行われた。

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 まずは,Japon Brandの成り立ちが語られるところからスタートした。当初のJapon Brandは,健部氏が世界最大規模のボードゲーム見本市「SPIEL Essen」に赴くにあたり,「せっかくだから日本のゲームを紹介するブースを作ろう」と思い立ち,出展を行ったのが始まりだという。
 「SPIEL Essen」がドイツのエッセンで開催されるイベントであることからも分かるとおり,ボードゲームの世界では,1990年代から現在に至るまでドイツが非常に大きな存在感を示している。ボードゲームのカテゴリとしてドイツゲーム,あるいはユーロゲームという括りがあるくらいで,そんな中で日本発のタイトルの存在感を示したい,といった意図があったのだそうだ。

 初めは出展や移動の費用を折半する有志の集まりだったが,2012年頃に一般社団法人として活動を開始。活動を通して海外展開を行うための人脈やノウハウを蓄積していったそうだ。そして現在では,国産タイトルの海外展開をサポートする事業を展開している。

 続いては,事前にTwitterアカウントで募集が行われた質問に回答するコーナーに。質問の内容は,やはり海外に向けてボードゲームを流通させるにあたっての留意点や,メリット・デメリットを問うものが多かったようだ。

 海外に作品を発信するにあたってのメリットについてカナイ氏は,「ターゲット層が大きく広がります。単純に日本より圧倒的に多くの人が楽しめるようになりますから」と語った。加えて「ゲームのルールを楽しむ感覚」が世界共通であると実感できることも,大きな利点なのだとか。言語は違えどルールに則って合理的な動きを考える楽しさは,やはり世界共通なのだろう。

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 「SPIEL Essen」の会場で,ゲームのインストラクションを行ったという佐藤氏は,「拙い英語でも伝わるルールと,そうでないルールがあることが分かります。ルールの多さや複雑さとは別の尺度で,直感的な理解しやすさを意識するようになりますね」とコメント。海外展開にあたって多くの人と関わった体験は,以降のゲームデザインにも影響を与えたそうだ。

 しかしカナイ氏も佐藤氏も,最初から「海外向け」を意識してゲームを制作することはないとのこと。海外展開においては重要とされる言語依存性を意識すべきかという質問にも,健部氏は「あなたが今作ってるゲームに言語が必要かどうかが大事なのであって,世界にウケるゲームを作ろうというのがすでに邪道でしょう」とコメントしていた。

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 普段から言語依存性の低いゲームを多く手掛けている佐藤氏も,「無理に寄せているというより,そもそも言語依存性が低い作品を思いつくことが多いんです。もちろん最終的に調整はしますけど」と語り,いずれにせよ商業的な要請にゲーム側を合わせるといったことはないそうだ。
 ただ,ゲームシステムに国境がなくとも,受け入れられるテーマには国ごとにかなり偏りがある。佐藤氏の「タイムボム」の海外版は,販売される国ごとにテーマがまるきり変えられているが,システムの同一性さえ保持されていればあまり気にしないとのこと。制作時点で海外を意識するより,海外向けに出版すると決まったときに,それをどう市場に合わせるのかが大事になるのかもしれない。


海外展開に期待しすぎるのも禁物。個人では対応しきれない問題も


 海外のパブリッシャから声がかかったらからといって,すべてが順調に進むとは限らない。カナイ氏は「企画がポシャることもあるし,声がかかったからといって期待しすぎるとガッカリしてしまうかもしれません。こればかりはどうしようもないので……」と,実感がこもった声で語っていた。
 また,大規模なイベントではクリエイターに直接声がかかることもあるが,個人では不利な契約を結ばされてしまうことも少なくないという。佐藤氏は当初,個人で海外パブリッシャとの契約していたが,Japon Brandの仲介が入ってはじめて不利な契約を結んでいたことに気付いたとのこと。
 健部氏は「日本人は契約書があるから約束を守ろうとするけど,向こうではそうじゃない」「破られたときに止めたり,催促したりするために(その根拠として)使うんです」と,海外との取引にあたっての考え方を語った。

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 続いては「海賊版はどうやって対策しているのですか?」という,かなり踏み込んだ質問だ。
 ゲーマーなら知っている人も多いと思うが,ゲームのシステムやルールそのものは,世界的にも著作権による保護の対象とはならない。ドイツでは「Spiele-Autoren-Zunft」(ボードゲームデザイナー連盟)が,ボードゲームのゲームシステムに著作権を認めてもらうべく運動を行っているが,今のところ法の保護を得られる段階ではない。つまりゲームのルールを模倣すること自体に,なんら違法性ではないのである。

 ボードゲームにおいても,こうした背景から類似品や海賊版(は論外だが)が問題になることは少なくない。最近では佐藤氏の「タイムボム」と酷似したルールの作品が発表され,オリジナルの作品としてクラウドファンディングで資金を集めるといった出来事があった。
 これは非常に話題になった事例だが,実際にはもっと小規模なコピー品の販売は各所で行われており,すべてを管理するのは現実的ではないという。各パブリッシャも見える範囲で対応は行うものの,対策はしようがないというのが現状のようだ。

 しかし,そうしたものはコミュニティから大きな批判を浴びるリスクもあって,コピー品や海賊版が市場を埋め尽くすほど氾濫しているわけではない。ある意味,コミュニティ全体の“民度”に助けられている状態なのだ。ゆえにこれから市場がより大きくなったときには,業界全体の課題となるかもしれない。

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 以上をもって,Japon Brandのステージは終了となった。健部氏によると,今後はJapon Brand専任の人材を確保して,よりグローバルな展開が可能な体制を整える予定だという。これまではヨーロッパやアメリカ向けの販売が中心だったが,アジアや南米に向けた出版も可能にしたいとのこと。
 またJapon Brandでは,自分の作品を積極的に海外に売り込みたい人のサポートするだけでなく,海外パブリッシャからコンタクトがあった場合の折衝を代行するといったサポートも行っている。そうした悩みを抱えているクリエイターは,一度問い合わせてみるのも手かもしれない。

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