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2vs.2という“ジャンル”を世界へ。「ライズ・オブ・インカーネイト」を手がける馬場龍一郎氏,村野大輔氏,マイケル・ムレイ氏へのインタビュー
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印刷2015/08/19 00:00

インタビュー

2vs.2という“ジャンル”を世界へ。「ライズ・オブ・インカーネイト」を手がける馬場龍一郎氏,村野大輔氏,マイケル・ムレイ氏へのインタビュー

日本発のゲームを世界に広げるため,まずは欧米の意見を聞いた


4Gamer:
 さきほど2vs.2の認知度を広げるため,Free-to-Playを採用したというお話はうかがいましたが,Steamというプラットフォームを選んだ理由は何でしょうか。個人的な印象ですが,バンダイナムコエンターテインメントさんとPCゲームという組み合わせは意外だったので。

馬場氏:
 ROIの立ち上げ時は,コンシューマゲーム機が世代交代の時期にさしかかっていましたし,Steamがプレイヤー数を急激に伸ばしていて,社内でも新たに挑戦すべきプラットフォームとして検討候補に上がっていました。そこでゲーム性やFree-to-Playとの相性なども考えて,最終的にSteamを選んだということです。もちろんコンシューマゲーム機でのリリースの可能性が無いわけではなくて,反応次第ではそちらも考えたいと思っています。

村野氏:
 もともとFree-to-PlayはPCゲームから生まれたものですし,Steamのほうが親和性が高いだろうという判断もありました。

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馬場氏:
 とはいえ,会社としてもかなりのチャレンジになるので,実際に企画を通すのは大変でした。相当社内でやりあいましたね。最終的に,開発チームや海外チームの意見を吸い上げてまとめた計画が,チャレンジに値するものだと会社に認めてもらえたということです。

4Gamer:
 そうして始まった開発も進んで,2015年の2月にアーリーアクセス版の提供が始まりましたが,その時点では日本からプレイできませんでしたよね。最初の発表のリリースは日本のメディア向けにも送られていたので,期待していた日本のプレイヤーも多かったと思うのですが。

馬場氏:
 決して日本をないがしろにしたわけではなくて,日本発信のゲームを世界中で広げたいという戦略のもとで,まずは欧米のみの提供ということにさせていただきました。まずは2vs.2を初めて触る人達から,どんな反応が返ってくるかを確認したかったんです。

4Gamer:
 海外を狙うタイトルである以上,そうなるのは分かるのですが……。

馬場氏:
 また,日本のプレイヤーのみなさんからは,EXVS.のプレイ経験に基づいたニーズが寄せられることが想像できました。開発メンバーはどうしてもプレイヤーからの意見を無視できませんし,それまで自分もEXVS.を担当していたわけですから,知らず知らずのうちにEXVS.へと寄っていくことになる可能性があったんです。

4Gamer:
 同じタイトルになってしまっては,ROIを立ち上げた意味がないと。

馬場氏:
 はい。日本のプレイヤーの意見を汲むことに問題はないんですが,ROIはエンジンもEXVS.とは別物にしているくらいなので,アーリーアクセス期間でしっかり差別化をしてから,正式サービスに入ろうと。

4Gamer:
 エンジンから違うんですか。本当に“似て非なる”ものなんですね。日本からのプレイは遅くなりましたが,欧米のプレイヤーは2vs.2に慣れていないので,いい“ハンデ”になったかなと思います。

村野氏:
 正式サービスが開始されて,2vs.2に慣れている日本のプレイヤーがランキングに多く入って来ましたけれど,アーリーアクセスで上位にいた欧米のプレイヤーも頑張っていますね。正直なところを言わせてもらえば,どちらかが圧倒するのではなくて,いい感じにしのぎを削ってくれればいいなと思っています。

EVOのROIブースでは,大会の合間に来場者が試遊を楽しんでいた
画像ギャラリー No.025のサムネイル画像 / 2vs.2という“ジャンル”を世界へ。「ライズ・オブ・インカーネイト」を手がける馬場龍一郎氏,村野大輔氏,マイケル・ムレイ氏へのインタビュー
4Gamer:
 7月に開催されたEVO 2015にROIが出展されていましたよね。欧米のプレイヤーでもかなりコアな層が試遊したと思うのですが,反応はどうでしたか?

村野氏:
 僕やマイケルがガイド役として説明しながらプレイしてもらったんですが,それほど時間がかからずに2vs.2の面白さを理解してくれたようで,かなりの手応えを感じています。ただ,プレイ後に「いつリリースされるの?」と聞かれることもあったので(笑),もうすこしアピールはしていかないといけないと。

ムレイ氏:
 EVOの少し前にあったROIのローンチイベントで,Justin Wong選手やPR Balrog選手といったプロゲーマーと開発陣のエキシビションマッチがあって,そこで村野が勝ったのですが,EVOではブースにいる村野のところへPR Balrog選手が来て,リベンジマッチを挑んでましたよ(笑)。

馬場氏:
 仮にROIが1vs.1の対戦格闘だったら,たとえ開発者であってもPR Balrog選手に勝つのは難しかったんじゃないかと思います。2vs.2は対戦格闘とは違うジャンルなんだ,という証明になったんじゃないでしょうか。

村野氏:
 ほかにも,おそらくローンチイベントの配信を見ていた人だと思うんですが,「お前を倒しに来た」という人が何人か来ましたね(笑)。

ムレイ氏:
 そういったところを見て,EVOに来るようなコアなプレイヤーにも受けると確信できました。

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2vs.2というジャンルでは,現実世界においても独特のコミュニケーションが生まれる


4Gamer:
 2vs.2の面白さは,ほかのジャンルより密にコミュニケーションが取れて,勝敗の責任も大きくなるところ,というお話がありましたが,それだからなのか,EXVS.の方では,熱くなった一部のプレイヤーがほかのプレイヤーに中傷メールを送りつけるといったマナーの悪さが話題にされていますよね。馬場さんもEXVS.の大会の挨拶でこの問題に触れているので,対応に苦慮されていると思うのですが,思うところを聞かせていただければと。

馬場氏:
 多くの血気盛んな若い人がプレイする以上,そういったことが起きるのは致し方ないのかな……と思いつつも,何とかしなければいけないと悩んでいます。このゲームを作るうえでの宿命のようなものかもしれません。マッチングやボイスチャットの方式など,システムで改善できそうなところはROIでもEXVS.でも改善していきます。

4Gamer:
 ROIはチュートリアルがすごく充実していて,キャラクターごとの動き方などもしっかり学習できますが,あれにも初心者がトラブルに遭わないような配慮の意味があるのでしょうか。

馬場氏:
 チュートリアルに限らずですが,プレイヤー同士が揉めたり,初心者が入りづらくなったりといったことにつながりそうな部分には一番気を使っています。ROIのチュートリアルも,かなり修正を繰り返しましたね。

村野氏:
 そうですねぇ。みんなで頑張りました。

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4Gamer:
 具体的にはどのあたりで苦労しましたか。

村野氏:
 欧米のプレイヤーって,「教えられる」ということがあまり好きではないようなんです。なので,いかに体験として,能動的にROIを学んでもらうか,というところに気を使いました。

4Gamer:
 あぁ,なるほど。確かにROIのチュートリアルは,バトルの中で行うようになっていて,プレイヤーが課題として出された操作をクリアした後も,好きなだけバトルをプレイできるようになってますね。

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ムレイ氏:
 チュートリアルの開発では,スタッフがEXVS.で2vs.2に慣れてしまっていたため,初めてプレイする人の感覚が分からなくなっていた,という点も厄介でした。

4Gamer:
 それは例えばどんなところでしょうか。

ムレイ氏:
 ROIの近距離攻撃には,方向キーとの組み合わせによってさまざまな派生が用意されているんですが,開発初期のころに欧米の人がプレイする様子を見ていると,近距離攻撃時はほとんど前方向にしかキーを入れていないことが分かったんです。そういったことは予測していなかったので,そこでチュートリアルの内容も大きく変えなければなりませんでした。

馬場氏:
 チュートリアルの大きな変更はα版でもβ版でもありましたし,アーリーアクセスでは2回やってますね。チュートリアルのためだけにテストプレイヤーを呼んで,触ってもらったこともあります。

4Gamer:
 相当な力の入れようですね。

ムレイ氏:
 何の説明もないと,ひたすら近距離攻撃だけを繰り返すようなプレイも多くみられたので,最初はチュートリアルをスキップできない仕様にしていたんです。でも,それだとやはり「長い」という反応が強かったので,スキップ可能にするといったこともありました。そのあたりのバランス調整が難しいですね。

村野氏:
 例えばFPSだったら,初めて触る人でもどんなプレイをすればいいのかは何となく分かってもらえるんでしょうけど,欧米では新しい2vs.2というジャンルのタイトルですから。

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ROIのチュートリアルはバトルの中で進行。基本システムだけでなく,キャラクターごとのチュートリアルも用意されている
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4Gamer:
 知られていないジャンルだからこその難しさですね。では,今後の展開についても話を聞かせてください。7月末に日本のキャラクターである宇津田姫が実装されたばかりなので,少々気が早いかもしれませんが,お話しいただける範囲でお願いできればと。

村野氏:
 はい。CPU戦をプレイしているとき,謎のキャラクターが出てきて「あれは何だ」と思っているプレイヤーもいると思いますが,あのキャラクターがプレイアブルになります。時期に関してはまだ言えませんが,もうしばらくお待ちいただければと。

※インタビュー後,このキャラクター「レッドドラゴン」が8月26日に実装されることが発表された

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4Gamer:
 EVOに出展されるくらいですから,将来的には公式大会などの構想もあるかと思うのですが。

馬場氏:
 EXVS.で大会運営やレギュレーション策定のノウハウはありますから,ぜひやりたいですね。e-Sports大会の種目に選ばれるくらいのコミュニティを作って,2vs.2のグローバルスタンダードを目指したいです。

ムレイ氏:
 欧米のプレイヤーが2vs.2というものを知ったところに,熟練している日本のプレイヤーが入ってきて,「日本のプレイヤーを倒せ」という流れになっているので,その次のモチベーションとなると,やはり大会じゃないかと思います。

馬場氏:
 これはEXVS.のプレイヤーには「釈迦に説法」かもしれませんが,EXVS.が「相方ゲー」などと呼ばれることもあるように,2vs.2はリアルでのコミュニケーションが生まれやすいゲームなんです。ゲームがうまくて,プレイの相性もいい人を3人4人と集めてチームを作るのは大変ですが,2vs.2のゲームであれば,自分と合いそうな人に声をかけて,向こうがOKしてくれたら,それでチーム結成ですから。

4Gamer:
 確かに。チームを作るまでの労力は圧倒的に軽いんですよね。

馬場氏:
 東京で開かれるEXVS.全国大会の前日に,地方から来たプレイヤーがゲームセンターで相方を見つけて,チームを結成するということもあるんです。しかもそのチームが上位に食い込んだり。

4Gamer:
 おぉ,運命的な出会いですね。

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馬場氏:
 仲がいい友人で固まる,というのとはまた違う,お笑いコンビのボケとツッコミみたいな関係ですね。「あいつのボケは俺のツッコミと相性がよさそうだ」みたいな感じで,例え相手のことをよく知らなくても,プレイでは息が合いそうだから,ちょっと声をかけてみようと。そういったコミュニケーションツールになるというところも,ほかのゲームにはない2vs.2の特徴だと思います。

4Gamer:
 なるほど。ボケとツッコミという例えはすごく納得できました。では最後に,4Gamer読者に向けてのメッセージをいただけないでしょうか。

ムレイ氏:
 同じ2vs.2ではありますが,EXVS.とは違う部分がたくさんあります。キャラクターも魅力的で,それぞれに違う特徴を持っていますので,EXVS.をプレイしたことがある人も,別のタイトルとして,まずは触ってほしいです。僕や村野とゲーム内で会うこともあると思いますが,その時はぜひ楽しいメッセージを送ってほしいですね。

村野氏:
 ROIは,EXVS.はもちろんのこと,対戦格闘やFPSといったジャンルのテクニックも生かせる対戦ゲームです。言ってみれば“総合格闘技”だと思うので,多くの人のチャレンジを待っています。

馬場氏:
 2vs.2というジャンルを世界中の人達と楽しみたい,盛り上げたいという思いで作りました。最初にお話ししたように,EXVS.とは違うものですが,ROIがあるからといってEXVS.を放っておくわけではありません。ROIで得たものによってEXVS.もステップアップしますし,それがさらにROIに生かされていきますので,ROIをプレイしつつ,EXVS.にも引き続き期待していただきたいです。そして,ルールとマナーを守ってプレイしてほしいですね(笑)。

4Gamer:
 そこは本当に大事ですよね(笑)。本日はありがとうございました。

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