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ジャンクヤードでの死闘,再び。「放課後ライトノベル」第36回は『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー』でニルヴァーナを目指せ!
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印刷2011/04/02 10:00

連載

ジャンクヤードでの死闘,再び。「放課後ライトノベル」第36回は『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー』でニルヴァーナを目指せ!



 以前,本コーナーで「『ドラゴンクエスト』シリーズをプレイしたことがない」と書いた筆者だが,同じようにこれまでなんとなくプレイする機会がなかったゲームに,アトラスの「女神転生」シリーズがある。

 その人気ぶりは重々承知しているし,悪魔合体などのユニークなシステムも知識として知ってはいるのだが,なにせ作品数が多い。しかも派生作品がそれぞれシリーズ化されており,プレイしようにもどこから手をつけていいか分からない。「『女神転生』と『デビルサマナー』と『ペルソナ』は一体どう違うのか?」といった具合で,そうした取っつきにくさがこれまでなんとなく敬遠していた理由の一つであるのは間違いない。

 そんな筆者がこのたび高度に政治的な理由によって,「放課後ライトノベル」の第36回として,『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー』の紹介をすることになった。タイトルからもお分かりのとおり,「女神転生」シリーズのスピンオフ作品の一つ,「DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー」のノベライズである本作だが,筆者にとってはこれが「女神転生」シリーズ初体験。

 「まあノベライズっていうのは,本を読む人に原作を知ってもらうためのものという側面もあるし,ここは一つメガテン初心者の自分をどれだけ楽しませてくれるのか,お手並み拝見といこうかしらん」と,なぜか上から目線で読み始めた筆者だったが,読み始めて30分で土下座することになった。すまん,面白いわ,これ。

画像集#001のサムネイル/ジャンクヤードでの死闘,再び。「放課後ライトノベル」第36回は『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー』でニルヴァーナを目指せ!
『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー I』

著者:五代ゆう
カバーイラスト:前田浩孝
出版社/レーベル:早川書房/ハヤカワ文庫JA
価格:735円(税込)
ISBN:978-4-15-031022-6

→この書籍をAmazon.co.jpで購入する


●これだけは知っておきたい“メガテン”基礎知識


 それではさっそく内容の紹介……の前に,簡単に「女神転生」シリーズならびに原作ゲームの紹介を。実際のところ,原作をプレイしていなくても十分楽しめる小説版だが,ある程度原作に関する知識があれば,より理解が深まる・原作への興味が湧くのは間違いない。

 これまでに多数の作品がリリースされている「女神転生」シリーズだが,シリーズ通して重要なキーワードとなっているのが「悪魔」という概念。悪魔とは人知を超えた力を持つ異形の存在で,人類がその力を手に入れ,戦いに身を投じていく……というのがシリーズに共通するテイストである。本流である「女神転生」シリーズのほかに,「デビルサマナー」「ペルソナ」といった外伝シリーズも多数作られている。

 もっともシリーズ同士の関連性は薄く,舞台やストーリー展開は作品によって大きく異なる。悪魔との関わりかたも作品によってさまざまで,実際に悪魔を召喚することもあれば,悪魔の力を身に宿し,超能力のような形で行使する作品もある。その中で唯一,キャラクター自身が悪魔に変身するのが「DIGITAL DEVIL SAGA アバタール・チューナー」なのである。

 小説版著者の五代ゆうは,富士見書房のファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)で初めての大賞を受賞した実力派。主に骨太のファンタジーを得意とすることで知られ,原作ゲームでも原案を担当している。この小説版はゲーム発売当時から刊行予定があったとのことだが,紆余曲折の末,原作の発売から6年以上が経過したこのたび,隔月刊・全5巻予定で刊行されることになった。


●ジャンクヤードの運命を大きく変えていく未知の力――アートマ


 物語の舞台は荒廃の地・ジャンクヤード。そこでは6つのトライブが,いつ果てるともしれない抗争を続けていた。目的は,ほかのすべてのトライブを倒すこと。ジャンクヤードの支配者である〈カルマ教会〉によれば,抗争の勝者は楽園(ニルヴァーナ)へと迎え入れられるのだという。

 ジャンクヤードの一地区,ムラダーラ・エリアの支配者であるトライブ〈エンブリオン〉は,突如現れた謎の「蕾」をめぐる,トライブ〈アサインメンツ〉との戦闘中,異変に襲われる。激しい爆発と閃光の中で〈エンブリオン〉のメンバーは意識を失い――目覚めたとき,戦場には彼らと,いつの間にか現れた黒髪黒瞳の少女が残されているだけだった。メンバーは彼女を連れて帰還するが,そのときすでにジャンクヤード中で異常な事態が発生していた。

 それは,ジャンクヤード中の住人が異形の怪物――“アートマ”へと変貌する力を身につけたというものだった。アートマとなった人間は,既存の兵器では太刀打ちできない力を発揮する代わりに,他者を喰らうことでしか癒せない餓えに襲われるようになる。人外の力を得たことに歓喜する者,人の枠を外れたことに嘆く者……人々がさまざまな反応を見せる中,戸惑いつつも抗争を続けることを余儀なくされる6つのトライブ。

 セラと名乗る,〈エンブリオン〉が保護した少女の血には,餓えを抑える効果があった。期せずして抗争の中心的存在となった〈エンブリオン〉は,終わりのない戦いに終止符を打つため,アートマの力吹き荒れる激しい戦いに身を投じていく……。


●悪魔の力と人の心を手に,戦いは新たなる次元へ


 アートマの力を得るまで,人々は盲目的に〈教会〉を信じ,なんの疑問もなく戦いを続けていた。だがアートマに覚醒したあとの人々は,そうした状況に疑問を抱くようになる。悪魔の力に目覚めると同時に,人らしさを得るというのはなんとも皮肉な話だが,“人”としての自覚と感情を得た人々が,いかにアートマの力と向き合っていくかが,物語の序章たる1巻の見どころだ。

 ためらいなくアートマの力を振るうヒート。人を喰わねば暴走してしまうという事実に葛藤するアルジラ。これまでにない感覚に戸惑う冷静な参謀・ゲイル。異常事態の中にあってムードメーカーを務める最年少のシエロ。そして,そんな部下たちを迷いながらも導いていくリーダーのサーフ

 それぞれに悩みを抱えつつも,〈エンブリオン〉はセラを守り,楽園に至ることを目指して戦い続ける。それまで絶対だった〈教会〉への不信感や,倒すべき敵でしかなかった他トライブとの共闘など,人らしさを得る前では考えられなかった要素が次々と加わり,戦いの行方は混沌とし始める。

 アートマとは何か? セラの正体,そして〈教会〉の目的とは? 多くの謎を抱えた物語はまだ幕を開けたばかりだが,1巻ですでにクライマックスと呼べるほど,怒濤のように変転する展開が読み手を魅了して離さない。読めば続きが気になること間違いなしの「クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー」。原作ファンにもそうでない人にも,ぜひ手にとってほしい一作だ。

■人修羅にもお勧めしたい,ゲームノベライズの名作選

『STEINS;GATE─シュタインズゲート─ 円環連鎖のウロボロス(1)』(著者:海羽超史郎,原作:5pb.×ニトロプラス,カバーイラスト:huke/富士見ドラゴンブック)
→Amazon.co.jpで購入する
画像集#002のサムネイル/ジャンクヤードでの死闘,再び。「放課後ライトノベル」第36回は『クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー』でニルヴァーナを目指せ!
 今回のコラムでは,『アバタールチューナー』のような,ライトノベルにおけるゲームノベライズの名作を紹介する。
 まずは榊涼介の手による「ガンパレード・マーチ」シリーズ(電撃ゲーム文庫)。原作「高機動幻想ガンパレード・マーチ」は2000年の発売だが,それから10年以上が経った現在も刊行が続いている。既刊30巻近くにもなる本シリーズは,いまや原作を離れて独自の地位を築いており,ファンからは「榊ガンパレ」の名で親しまれている。
 続いてはファミ通文庫から刊行されている「モンスターハンター」シリーズのノベライズ。原作に明確なストーリーがなく,プレイヤー一人ひとりが主人公と言うべき作品らしく,小説版でも「数多いるハンターの一人」を主人公に位置づけ,彼らの生活ぶりや,ハンターとして成長していく姿を活写している。ゆうきりん版氷上慧一版があり,現在は後者が長期にわたってシリーズ展開を続けている。
 最後に紹介するのは,この春からアニメ化も予定されている人気ノベルゲーム「STEINS;GATE」の小説版。『STEINS;GATE─シュタインズゲート─ 円環連鎖のウロボロス』(著:海羽超史郎)として富士見ドラゴンブックから刊行されている同作は,レーベル随一の分厚さや,コアなファンを有する著者の数年ぶりの新作ということで話題を呼び,原作ファンからの評価も高い。

■■宇佐見尚也(ライター/十字十字十字十字十字砲火)■■
『このライトノベルがすごい!』(宝島社)などで活動中のライター。ゲームノベライズというと,『サガフロンティア 裏解体真書』に収録されている「ヒューズのクレイジー捜査日誌」はいろんな意味で神がかっていたと述懐する宇佐見氏。「あれくらいクレイジーなノベライズも,たまには読んでみたい今日このごろ」とのことですが,確かにアレは本当にひどかったですね。もちろん,いい意味で……。
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