連載
「放課後ライトノベル」第18回は,ますますカオス度がアップする『蒼穹のカルマ6』で主人公・鷹崎駆真のご冥福をお祈りいたします
自分がこのコーナーを担当するのは3週間ぶりとなるので,前の2週はどんなことが書かれていたのかしらとバックナンバーを読み返してみて驚愕した。なんと柿崎氏ときたら,2週連続で「けいおん!!」の話をしているではないか。しかも筆者を差し置いてあずにゃんぺろぺろなどと言ってるとは。どちらが真のペロリストであるか,一度きっちり決着をつける必要がありそうだが,ひとまず今回はちゃんとゲームに絡んだ話をしておこうと思う。
ということで,皆さんは「世界万能対談」というものをご存じだろうか。言ってしまえばPlayStation 3の宣伝企画なのだが,その中身は,“リビングの万能エンターテイメントマシン”を目指すPS3が,同じ“万能仲間”である「万能ねぎ」と対談をするという,かなりぶっとんだものである。
PS3でいかにいろいろなことができるかをメインテーマにしつつ,PS3の万能ぶりに対抗して万能ねぎが繰り出してくる万能自慢トークと,それに対するPS3のリアクションがいい意味で斜め上を行っていて毎回楽しませてくれる。
しかも最近では,「世界万能『生』対談」と称して,マルチな活躍をする著名人を招き,PS3&万能ねぎと生放送で対談するという企画まで行われているのだ。もうこれ,万能どころかシュールすぎるでしょう,常識的に考えて……。
このシュールさを理解するには,文章で説明するより実際に見てもらったほうが早いと思うので,ぜひ一度PlayStation.comの特設ページにあるムービーを見てみてほしい。アンケートに答えるとPS3と万能ねぎがセットになった「万能セット」が当たったりもするらしいぞ!
しかし,万能度とストーリー展開のぶっとび具合でいえば,今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『蒼穹のカルマ』とその主人公も負けてはいない。なんせ目的のためには○○や○○になったりして,その力を存分に振るうのだ。
○○とは何か? その答えは以下の本文で!
『蒼穹のカルマ6』 著者:橘公司 イラストレーター:森沢晴行 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-8291-3576-1-C0193 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●空獣の脅威と戦う騎士たちを描く,正統派ファンタジー……?
舞台は日本にも似たファンタジー世界。世界には空獣(エア)と呼ばれる,大空を自由に飛び回る怪物が跋扈(ばっこ)しており,たびたび人間たちを襲っていた。空獣から人々を守るのは,天駆ける鎧・天駆機関を身につけた,蒼穹園騎士団の騎士たち。物語の主人公・鷹崎駆真(たかさきかるま)もそんな騎士の1人だ。騎士団の中でもエース級の実力者である彼女は,日々の平穏を,そして何より愛する姪・鷹崎在紗(たかさきありさ)を守るために,今日も蒼穹を駆けるのだった。
作品の見どころとして真っ先に挙げられるのは,周到に用意された世界観と,巧妙に張られた伏線を回収する構成力,そして駆真の,在紗を思う熱い気持ち,といったところだろうか。さまざまな要素を贅沢に盛り込みつつ,それでいて破綻なく仕上げてくるという,これがデビュー作とは思えない非常に完成度の高い作品なのだ。
……と,ここまで読んだ人は,角川書店の公式サイトに飛び,右上の検索窓に“蒼穹のカルマ”と入れて検索し,1巻から順に表紙とあらすじを見ていってほしい。見ましたか? 見ましたね。
さて,1,2巻は問題ないだろう。だが3巻で「ん?」と首をかしげ,4巻で「ハァ?」とつぶやき,5,6巻にいたっては「なんじゃこりゃ!?」と叫ぶに違いない。その気持ちはよく分かる。筆者もそうだった。毎回毎回,あらすじに書かれた内容がぶっとびすぎていて,さっぱり理解できないのだ。
だが,『蒼穹のカルマ』という作品の困った(?)ところは,その表紙,あらすじのすべてが,何ひとつ嘘をついていないということなのである(もちろん本段冒頭で述べた作品概要&見どころも)。
●表紙・あらすじに偽りなし! 驚天動地の真・作品内容とは?
種明かしをしよう。
駆真は確かに騎士団のエースであり,空獣と戦う最前線の戦士である。だが本作でもっとも重要なのは,駆真はそんな情報がどうでもよくなるほど,在紗を激烈に溺愛しているという点だ。
その愛しっぷりは在紗を神と崇めるがごとくで,在紗のためにはすべてを投げ打ち,在紗以外の人間はすべて塵芥(ちりあくた),と言わんばかりの勢い。空獣の襲撃に際して,本来の任務である迎撃よりも,在紗の授業参観を優先するような人間なのだ。
しかし,凄腕の実力者である駆真のもとには,彼女が望むと望まざるとにかかわらず,さまざまなトラブルが押し寄せてくる。例えば,異世界の勇者となって魔王を倒してほしいと頼まれたり(!),古代の魔人に主と仰がれたり(!!)。
彼女はそのたびに,在紗LOVEの一念でトラブルを粉砕していくのだが,その過程で,魔王になったり,魔法少女になったり,果ては神になったりする。文字どおり万能の力を手に入れるわけだが,そこでもやっぱり駆真の頭にあるのは「在紗」の2文字。その徹底的に一貫した行動原理は,ただただ清々しいのひと言だ。
そして何より驚くべきは,それだけむちゃくちゃやっておきながら,物語的には一切の破綻がないということだ。それどころか,そんな半分ネタ的な展開を重ねる中で,しっかりと軸となるストーリーを進めていたりする。一見由緒正しい異世界ファンタジーの皮を被った,実はなんでもありのすっとこどっこいファンタジー。それが『蒼穹のカルマ』という作品なのだ。
●在紗がいっぱい!? 駆真が死亡!? 新展開も予感させる最新6巻
さて,ここまで読んできた人はすでに最新6巻のあらすじにも目を通したことと思うが,そこにあるとおり6巻では駆真が死亡する(いやほんとに)。それも何度も。
突然駆真の前に現れ,彼女の死を予言した謎の少女。その正体は,なんと未来の在紗だった。彼女によれば,駆真の死は何者かに仕組まれたものであり,未来の在紗は犯人を見つけ出し,駆真を悲劇から救うためにやってきたのだという。駆真と現在の在紗は彼女に協力するが,奮闘の甲斐なく駆真は死亡。そしてその死を防ぐべく,別の時間軸からまた別の未来の在紗がやってきて……。
とまあ,そんな感じで作中では何度も駆真の死亡シーンが描かれるのだが,それが悲劇っぽいかというと全然そんなことはない。というのも,その死因というのがもう果てしなくしょーもないのだ(褒め言葉)。まあ,駆真らしいといえばこの上なく駆真らしいし,蒼穹園最強の魔女といわれる駆真を殺すには,そういう方向性しかないのかもしれないが……。
また,次々とやってくる未来の在紗も見どころ。性格も能力もまったく異なるそれぞれの在紗は,誰もがそれなりに魅力的であると同時に,在紗のポテンシャルの高さを感じさせる。個人的には,巻末の四コママンガに登場する黒在紗の成長したバージョンが見たかったりして。
いつもどおりといえばいつもどおりの展開ながら,最後にはきっちり「早く次巻を!」と思わせるのがまたニクいところ。1巻たりとも読み飛ばせない,今最も先が読めないライトノベルだ。
■『蒼穹のカルマ』と「ドリームクラブ」の関係とは?
『蒼穹のカルマ』は第20回ファンタジア大賞・準入選受賞作。応募時のタイトルは『全ては授業参観のために』という,ある意味超絶ネタバレなものであった。なお,同期にはアニメ化も決まった『これはゾンビですか?』(著:木村心一,佳作受賞)がいる。
『とある飛空士への恋歌』(著者:犬村小六,イラスト:森沢晴行/ガガガ文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
その破天荒な内容と,意外にも(?)高い筆力が評価されたのか,『蒼穹のカルマ』は新人のデビュー作ながら『このライトノベルがすごい!2010』(宝島社)で新作部門第1位(総合10位)を獲得。著者・橘公司の人となりについては,同書収録のインタビューを参照してほしい。
ちなみにイラストを担当している森沢晴行は,刊行時ネット上で大きな話題を読んだライトノベル『とある飛空士への追憶』と,その続編である『とある飛空士への恋歌』(共に著:犬村小六/ガガガ文庫)の挿絵も担当。同じ「空」がキーワードとなる作品ながら,こちらはまっとうな空戦ものとなっている。もっとも,ゲーム好きの人には「DREAM C CLUB」のキャラクターデザイン担当,といったほうがぴんと来るかもしれない。
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