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[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
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印刷2010/09/01 21:26

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[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート

国際大学GLOCOM 研究員 助教 井上明人氏
画像(001)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 ゲームが社会に与える影響や,ゲームビジネスの方向性といったことが折に触れて語られることはあっても,系統立てて研究されている例が紹介されることは多くない。そうした中でCEDEC 2010において,現役の社会科学系研究者3名による「実はこんな研究やってます――社会科学編」というセッションが開催された。なるほどと思わせる部分もあり,また少し厳しいことを言いたくなる部分もありで,なかなか興味深い内容だったのでレポートしてみよう。

 セッションは,国際大学GLOCOM 研究員 助教 井上明人氏が,社会科学研究とゲームの関連性について概論を述べ,芝浦工業大学 システム理工学部 准教授 小山友介氏と,東京工業大学 エージェントベース社会システム科学研究センター 特任講師 七邊信重氏の2名の研究者が,いくつかのテーマについて語るという形で進められた。

社会科学とゲーム。社会科学はゲームのネタになることもあれば,産業動向や組織を考えるための方法論にもなると井上氏は言う
画像(002)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート


社会科学サイドからのゲームに対する“目線”


電話機を例にしたネットワークの価値。横軸がユーザー数,縦軸が価値=価格だ。ユーザー数が増えるほど電話機の価値は高まるが,限界を超えると価値が減じてしまうこともあるという
画像(003)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 そもそも社会科学は何の役に立つのだろうか。井上氏は上のスライドに示されている4点を挙げていたが,あらためて列挙されると,なるほど無関係とは言えないなと納得できる。ゲーマーに馴染みがある部分で言えば,シヴィライゼーション(シド・マイヤー)やシムシティ(ウィル・ライト)といった社会科学系をネタにしたゲームもあるし,ゲーム産業の将来を占うのにも,社会科学の目線が役に立つ可能性はある。


少々余談だが,井上氏は,社会科学とゲームの参考書として,4Gamerの連載「ゲーマーのための読書案内」をかなり押していたことを付け加えておこう
画像(004)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 井上氏はひとつの例として,ネットワークの価値を,電話を例に挙げて紹介していた。電話機は使う人が多いほど,その価値を増す……というのは当たり前のようではあるが,スライドのようにあらためて考え直してみると,ゲーム機やゲームタイトルの今後を考える上でも役に立つのでは? というわけである。


芝浦工業大学 システム理工学部 准教授 小山友介氏
画像(005)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 社会科学は“ゲームとその周辺”にとって有用な学問なのではないか,という雰囲気が聴講者に伝わったところで,小山氏が具体的な研究例をいくつか挙げた。

 まず示されたのが「ゲームの発売延期率の推移」だ。ゲームが発売延期になるのは珍しくないが,それがどう推移しているかを調査したのだという。着眼点としては面白い。


初代PlayStation,PlayStation2,GameBoy Advanceの3つのゲーム機で発売されたタイトルの延期率の推移である。全般的に右肩下がりであることが分かるだろう
画像(006)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート

Web上でアマチュアのクリエイターを対象に調査した結果,ゲームに関してはプロが多く混じっていたとのこと。興味深くはあるが,Web上の調査は“答えたい人しか答えない”ことからサンプルの偏りが極めて大きくなることが多く,この結果を一般的なものと捉えるのは難しい
画像(007)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 グラフのように初代PlayStation当時がもっとも酷く,5割以上のタイトルで発売が延期されていたという。新たなゲーム機に世代が変わると,やや延期率が上がるものの,全般的にグラフは右肩下がりになっている。PlayStation 3のデータは,まだまとまっていないとのことだが,調査している範囲で見ても,それほど延期率は高くないとのこと。

 小山氏は「習熟度や内部ノウハウが溜まっていっている」のではないかと推測していたが,それ以前に,ゲーム/ソフトウェア開発の方法論/開発手法が,PlaySatation当時に比べると大きく進歩していることも見逃せないだろう。たとえば,今回のCEDECでもアジャイルソフトウェア開発(迅速な開発を行うためのソフトウェア開発方法論の総称)に関するセッションがいくつか組まれていたりもする。

 アジャイルを始めとする開発手法が系統的に研究,実践され,初代PlayStation当時に比べてソフトウェアの開発効率が向上した結果として発売延期タイトルが減っている……というのならハッピーだが,そこまで踏み込んだ調査は行われていないようだ。その点が,個人的にはやや食い足らないかなと感じさせられた。

 続いて示されたアマチュアの創作活動に関する調査だが,Web上の調査とのことでサンプルがいささか偏っており,断定的なことは言えない部分が多かった。アマチュアのゲーム制作者にはプロが多く混じっているという調査結果は興味深いが,あくまでWeb上の調査であるという点に関しては踏まえておく必要がある。

小山氏はゲーム専用機のビジネスが終わるのではと予測してみせたが,根拠が弱く説得力に欠けるように思えた
画像(008)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 また,「ゲーム専用機は終焉を迎えるのでは」という小山氏の予測も,残念ながら説得力には乏しかった。このことに関して,氏は主に2つの根拠をあげている。
 まず,成長著しい新興国ではPCと携帯電話が先に普及しており,その中にゲーム専用機が入り込むのは難しいのではないか,という点。ハイエンドPCの性能は現時点でゲーム専用機のそれを超えているので,どうしてもPCゲーム中心の市場が形成されるのではないかと,氏は予測しているのだ。
 ただ,PCでゲームを遊ぶには,起動するまでの煩雑な手間が必要だ。また,ゲームのことだけを考えるなら,コストパフォーマンス的には当然,PCよりもゲーム専用機が勝っている。ゲーム専用機が入り込める余地自体は,まだ十分にあるように思える。
 もう1つの根拠は,新規ゲーム機の立ち上げリスクが大きくなっているという点だ。例として氏は,PlayStation 3の立ち上げ時の原価率や歩留まりに関する話題を展開した。

ゲーム専用機に先がない根拠の一つとして挙げられた,PlaySation 2以降のビジネスモデル。新世代機の立ち上げはリスクが大きく,ビジネスとして成功させるのが難しくなっているとのことだが,後方互換性をとっていくことで,ある程度のリスクは抑えられる。また,PlayStation 3の歩留まり,原価率といった第三者の推定を根拠に使っていたのも気にかかった。むしろ公開されている決算データなどを用いたほうが,説得力が増すように思えるのだが
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 日本のゲーム業界はゲーム専用機に偏っており,氏はその点について警鐘を鳴らす意図があったと筆者は見ている。その気持ちは分かるのだが,残念なのは氏が挙げた理由を裏付ける,しっかりしたデータと分析が提示されなかった点だ。たとえば,新興国におけるゲーマーの意識調査などのデータがあれば,氏の自説の説得力は高まったはずだ。
 日本のゲーム業界側からすれば,社会科学サイドはまだ「外野」だろう。それだけに,しっかりした調査や分析を行った上での有益な議論が行われないと,両者が良い形で歩み寄ることは難しいかもしれない。最後の短いトークセッションで井上氏が「ゲーム業界内の調査が難しい」と漏らしていたのが象徴的だ。
 少々厳しいことも書いてしまったが,裏を返せば,CEDECのような開かれた場での,ゲームに関する社会科学研究は歴史が浅く,データ不足の部分が大きいということだろう。


同人界と商業界の連携でゲームが発展する


東京工業大学 エージェントベース社会システム科学研究センター 特任講師 七邊信重氏
画像(010)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 最後の七邊氏の発表は,それまでとはやや視点が異なり,同人ゲームの世界が取り上げられた。

 海外にはMOD文化があり,アマチュアがMODを開発しWeb上にアップして楽しむといったことが普通に行われている。そうした中から「新しい技術が生まれたり,新しい作品が生まれたりして,そこから出てきた優秀な人材が大規模開発に参加する」(七邊氏)という良いサイクルがある。日本ではそうした協力関係が薄いのだが,ご存じのように同人ゲームの世界は拡大してきている。

ヒットを飛ばす同人ゲームも増えており,市場規模も拡大しているという
画像(011)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート

お金のためではなく,仲間に認められるためにやっているというのが同人界。したがって,商業サイドからの開発者の青田買いや搾取は,同人界からの反発を招きやすい
画像(012)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 CEDECに集まる商業界が同人界のアイデアやパワーを借りるといったような場合,その特性の違いを踏まえる必要があると七邊氏は説く。七邊氏は同人界の特性を社会学の用語で説明してみせていたが,ぶっちゃけ「金銭より名声,評判を重視する世界」というのが大きな違いなのだろう。

 日本のゲーム業界も,アマチュアのパワーを取り込もうと試みた過去はある。現在はあまり目立った動きはないようだが,その点をどう分析しているのか筆者から質問してみたところ「以前はWindows上でゲームが作りにくいという時代だったが,現在はWindows上でゲームが作りやすくなり(同人ゲーム側が)無理にコンシューマに寄っていく必要はないと考えているようだ」と七邊氏は答えていた。
 それでも,同人界と商業界が協力していくことで,ゲームを発展させられるだろうというのが七邊氏の意見だ。そのためにはどうしたらいいのか,というあたりが,七邊氏の研究からさらに見えてくると,商業界の側も動きやすくなるかもしれない。

商業界と同人界が良好な関係を築くことで,ゲームをさらに発展させられる可能性があると七邊氏は語る
画像(013)[CEDEC 2010]現役の社会科学系研究者3人がゲームとその周辺を考える。「実はこんな研究やってます――社会科学編」レポート
 最後に,3人によるトークセッションも設けられていたのだが,時間切れになり深い話が聞けなかったのは残念だ。井上氏は「アタリショック」に興味を持っていると語っており,ぜひ社会科学の視点で本格的な研究をしてほしいと筆者も期待している。
 アタリは1980年代に米国で普及したゲーム機で,ソフトを含めて順調に市場を拡大させていったが,1982年に突如としてゲームソフト市場が急収縮,株式市場にまでダメージを与えてしまった。これがアタリショックだ。
 粗製濫造されたゲームタイトル……いわゆるクソゲーが増え,市場が飽和したためというのが定説だが,井上氏は「その説には疑問を感じる。再検証の必要がある」と述べていた。
 アタリショックは現在のゲームビジネスにも影響を与えており,たとえばゲーム専用機向けにリリースされるタイトルをコントロールするプラットフォーマーのビジネス手法は,アタリショックを参考にしたものとも言われている。しかし,そこまで大きなインパクトを与えた事件にもかかわらず,大規模かつ本格的な調査/検証は,さほど行われていなかったりする。
 アタリショックは,ゲーム業界にとっては未だに伝説のトラウマでもあり,社会科学からの目線で分析される価値がある事件だろう。社会科学とゲーム業界のより良い関係を構築するためにも,お三方の研究活動とその成果に期待したい。

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