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6コアCPU「Core i7-980X Extreme Edition」レビュー。“Gulftown”は新しい世界を切り開くか?
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印刷2010/03/11 14:00

レビュー

初の6コアCPUは,新しい世界を切り開くか

Core i7-980X Extreme Edition/3.33GHz

Text by 宮崎真一


Core i7-980X Extreme Edition/3.33GHz(の性能評価用エンジニアリングサンプル)
画像集#002のサムネイル/6コアCPU「Core i7-980X Extreme Edition」レビュー。“Gulftown”は新しい世界を切り開くか?
 Intelは,開発コードネーム「Gulftown」(ガルフタウン)と呼ばれてきた6コアCPUを,「Core i7-980X Extreme Edition/3.33GHz」(以下,i7-980X)として,近日中にリリースする予定だ。世間では依然としてデュアルコアCPUが主流のなか,ゲーマーを含む一般ユーザー向けでは史上初となるヘキサコア(Hexa-Core)CPUが,まもなく登場の見込みとなったわけだが,2から4,そして6へとコア数が増えることで,CPUは,ゲームプレイに革命的な何かをもたらしてくれるだろうか。
 4Gamerでは,正式発表に先立って,性能評価用エンジニアリングサンプルを独自に入手できたので,製品概要とパフォーマンスをいち早くお届けしたいと思う。


コア数とともにL3キャッシュも増量,12MBに

CPUクーラーはサイドフローの静音タイプへ変更


i7-980X(左)とi7-975(右)の底面。キャパシタの配置が異なっているが,外観上の違いはそれくらいだ。いずれも,Intel X58 ExpressマザーボードのSocket Bと互換性がある
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 さて,Gulftownことi7-980Xだが,これは,Intel Microarchitecture(Nehalem)を32nmプロセスへ微細化させた,Westmere(ウエストミア)アーキテクチャ世代のCPUだ。言うなれば,ClarkdaleコアのCore i5&i3と同世代のプロセッサである。
 CPUパッケージはLGA1366。従来のLGA1366とは完全なる互換性を確保しているため,既存の「Intel X58 Express」マザーボードは,BIOSをアップデートするだけでi7-980Xを利用できる。

 最大のトピックは6コア化だが,それに伴って,共有L3キャッシュ容量が12MBへと増量された点も見逃せないところ。2010年3月11日時点において,デスクトップPC向けのCore i7が搭載するL3キャッシュ容量は,CPUパッケージにかかわらず8MBなので,コアの数が4から6に増えたのに合わせて,L3キャッシュ容量も1.5倍になったわけである。

i7-980Xの製品概要。Extreme Editionという名から容易に想像できるとおり,CPUの動作倍率固定はなし。いわゆるロックフリー仕様となっている
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 その一方,開発コードネーム「Bloomfield」と呼ばれてきた,従来のLGA1366版Core i7最上位モデル「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」(以下,i7-975)と,動作クロックは変わらず。また,各コアの負荷状況によって自動的に動作クロックを引き上げる「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)による引き上げ段数も最大2と据え置きだ。

 付け加えるなら,内蔵するメモリコントローラがトリプルチャネルDDR3-1066仕様,CPUとノースブリッジ間を結ぶQPI(Quick Path Interconnect)のスペックが片方向6.4GT/s(片方向の帯域幅12.8GB/s)と,これまたi7-975から変わっていない。プロセッサナンバーは5上がって,さらに偉そうなXの文字も付与されたが,コア数とL3キャッシュ容量の変更と,プロセスシュリンクを除き,基本的な仕様はi7-975を踏襲していると言っていいだろう。

 ただ,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)値も130Wのまま変わっていないのは,ポイントが高そうだ。Intelは,32nmプロセスの採用により,i7-980XのTDPを,従来と同じ130Wの枠内に収められたとしている。
 LGA1156パッケージの「Core i7-870/2.93GHz」(以下,i7-870)も交え,スペックを比較したのが表1になるので,ぜひ比べてみてほしい。

※i7-980Xは北米市場における1000個ロット時の単価。i7-975とi7-870は,4Gamer調べによる2010年3月11日現在の実勢価格
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DBX-Bの概要。「DBX」が何の略かは分からないが,従来の付属クーラーと,まったく異なる外観なのは確かだ
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 というわけで,変更点のあまり多くないように見えるi7-980Xだが,実は,大きく変わったものがある。それは「DBX-B」と名付けられたリファレンスCPUクーラーだ。
 i7-980Xのために開発されたというDBX-Bは,タワー型のサイドフロ−タイプで,しかも,バックプレートを用いたネジ留め式。従来のExtreme Editionに付属していた,プッシュピン式の大型トップフロータイプからは,まさに“激変”である。

 DBX-Bで,ファンの回転数はCPUの温度に応じて800rpmから1800rpmまで自動制御されるが,800rpmの騒音レベルは公称値20dBA,1800rpmでも35dBAと,従来のCPUクーラーより低い。筆者の試聴印象に過ぎないことをお断りしつつ書き進めるなら,確かに,従来のIntel製CPUクーラーより静かな印象だ。
 ちなみに本クーラー,システムに取り付けた状態で3フィート(約90cm)の高さから落としても脱落しないという。

CPUとの接触面は銅製のプレート。そこから4本のヒートパイプが左右に分かれて放熱フィンへと伸び,取り付けられたファンで一気に冷却する仕様だ。貼付された両面テープでバックプレートをマザーボード背面に固定し,そのうえで,用意されたネジを使って本体を4点留めしていくことになる。フィン部に,ファンの回転数傾向を調整するスイッチが用意されているのも特徴だ。なお,右下の写真は,i7-975の製品ボックスに付属するリファレンスクーラーと並べたところ
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 そのほか,表1に記載しなかったi7-980Xの新要素としては,WestmereアーキテクチャのCPUで共通して採用される「AES-NI」も挙げられよう。AESは「Advanced Encryption Standard」,NIは「New Instructions」の略で,簡単にいえば,暗号&複合化アルゴリズムのアクセラレーションを行うものである。その効果は,「WinZip」などのアーカイバを使ってみれば容易に体感できるが,ゲームプレイと直接の関係はないので,今回は紹介だけに留めておく。


Turbo Boostの動作仕様は6コア化に合わせて変更

ただ,その違いを体感するのは難しい


HTTを無効化し,スレッドが確実に各コアへ振り分けられるようにした状態から,i7-980X搭載システムで「Hyper π」(Version 0.99b)を実行し,その状況を「TMonitor」(Version 1.02)からチェックした結果。左から順に,1コア,2コア,3コアのスクリーンショットになるが,2コアまで,3.60GHzへ上がっているのが分かる
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 先ほど,「最大2段。従来製品から据え置き」としたTurbo Boostだが,実はi7-980Xで,若干の仕様変更が入っている。
 i7-975やi7-870では,最大の引き上げ段数までクロックが上がるのは,1コアに負荷がかかっている場合のみで,2コア以上になったとたん,1段低い動作クロックへ下がるようになっていた。i7-975の話をすると,1コアにのみ負荷がかかっている場合は3.60GHzまで上がるが,それが2コア以上だと,1段階,3.47GHzまでしか上がらない。
 これに対しi7-980Xでは,2コアに負荷がかかっている状態でも,3.60GHzまで上がるようになったのである(※3コア以上に負荷がかかる場合,3.47GHzに留まるのは,i7-975と同様)。

 ただこの,「2コアに負荷がかかる状況で,3.60GHzまで動作クロックが上がる」というメリットを体感するのは難しそうだ。
 例えば,「バイオハザード5」公式ベンチマークソフトの場合,Windows 7の,

C:\ユーザー\【ユーザー名】\マイドキュメント\CAPCOM\BIOHAZARD 5 Benchmark Version\config.ini

に用意された「JobThread」という項目の値を変更することにより,利用するスレッド数を変更できる。i7-980Xを搭載したシステムに32bit版Windows 7をクリーンインストールした場合,この値は最大の「8」になるのだが,この値を「1」に変更して,ライターの米田 聡氏が制作した「それ自体がTurbo Boostの挙動に影響を与えることのない,Turbo Boostの効き方チェックツール」から確認してみても,CPUの動作クロックは3.47GHzまでしか上がらなかった。
 これは,グラフィックスドライバレベルでのマルチスレッド対応などといった外的な要因により,ゲームが1スレッドで動作する局面がほとんどない
かと思われる。

同条件でi7-975を差した場合には「7」と一つ少なくなるのだが,この状態でCPUだけi7-980Xに差し替えても,数字は自動的に書き換わったりしない。CPUをi7-980Xへ換装する場合は,アプリケーション側が「何スレッド使うか」の設定を変更する必要が出てくる場合もあるので,この点は注意が必要だ。

モンスターハンター フロンティア オンライン オフィシャルベンチマークソフト実行中の動作クロック推移を,Windows標準のパフォーマンスモニタからチェックしたもの。何度か3.33GHzまで到達するものの,Turbo Boostによって動作クロックが規定を超えることはなく,おおむね低めに推移している
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 別の可能性も試すべく,CPU負荷が非常に低い「モンスターハンター フロンティア オンライン オフィシャルベンチマークソフト」を実行してみる。すると,今度はCPU負荷が軽過ぎて,Turbo Boostどころか,「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST)が機能して,動作クロックは定格より低いクロックを中心に推移してしまった。
 結局のところ,マルチスレッド対応を果たしていないゲームタイトルというのは,古い世代のものが多く,得てしてそういうタイトルでは,i7-980Xが最大動作クロックに達するまでのCPU負荷を備えていないのである。ゲーマーがTurbo Boostによる2コア3.60GHz動作の恩恵を受けられる場面は,相当に限定的だと言わざるを得ない。Turbo Boostの仕様は変わったが,現実の効果はi7-975以下のCPUとほとんど同じだと考えておいたほうがいいだろう。


基礎テストでは12スレッドの効果大

その一方でL3キャッシュ周りには懸念も


Rampage II Extreme
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
実勢価格:3万6000〜3万9000円(※2010年3月11日現在)
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 続いては,i7-980Xの基本性能を,SiSoft製情報表示&ベンチマークソフト「Sandra 2010」(Version 16.26.2010.1)を用いて検証してみたい。

 テスト環境は表2のとおりで,比較対象はここまでも何度か登場願ったi7-975とi7-870。主役たるi7-980Xについては,「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,HTT)の有効時と無効時それぞれについて検証することにし,以下順に「i7-980X[HTT ON]」「i7-980X[HTT OFF]」と書き分ける。

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 というわけでまずはグラフ1,2,「Processor Arithmetic」と「Processor Multi-Media」である。前者では整数演算と浮動小数点演算の基本性能,後者ではSSEを用いた整数演算と,単精度および倍精度浮動小数点演算それぞれの性能を確認することになるが,ここではやはりというかなんというか,6コア12スレッド処理が可能なi7-980X[HTT ON]が突出したスコアを示す。
 一方,6コア6スレッド処理となるi7-980X[HTT OFF]は,どちらのテストでも浮動小数点演算のスコア――グラフ1のWhetstone iSSE3およびグラフ2のMulti-Media Float x4 iSSE2,Multi-Media Double x2 iSSE2――で,i7-975を下回った。

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 続いて,128kB以下のデータをコア間でやり取りし,そのパフォーマンスを測定する「Multi-Core Efficiency」を見てみよう。グラフ3がその結果だが,ここでは,2x 128kB Blocks以下で,i7-980X[HTT ON]のスコアがi7-975を下回り気味である点に注目したい。
 i7-980X[HTT OFF]のスコアが明らかにおかしく,本テスト項目が6コア12スレッドCPUを完全にはサポートしていないのは明らかなので,この結果だけで何かを断言することはできないが,i7-980Xの持つ容量12MBのL3キャッシュが,従来製品よりもレイテンシを増している可能性はありそうだ。

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 そこで,グラフ4の「Memory Latency」を見ると,i7-980X[HTT ON]のレイテンシ値は,「1MB Range」と「4MB Range」,つまりL3キャッシュでまかなわれる範囲において,i7-975よりも大きくなっているのを確認できた。
 i7-980XのL3キャッシュは,容量増加に合わせてレイテンシも大きくなっていると見て,まず間違いなさそうである。

※i7-980Xのレイテンシは,HTT有効時と無効時でほとんど変わらないため,グラフが重なっています。ご了承ください
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 一方,メモリとキャッシュの転送速度を見るテストで,CPUコアの数と動作クロックがスコアを左右する「Cache and Memory」では,グラフ5に示したとおり,i7-980Xのスコアが良好。なお,メモリコントローラの性能を見る「Memory Bandwidth」を見ると,i7-975よりもスコアは若干落ちているが,「メモリコントローラの性能が若干落ちている」のか「BIOSの最適化待ち」なのか,この結果だけで判断するのは難しい。
 なお,ASUSTeK Computerは4Gamerに対し,「Rampage II Extremeは,BIOS 1801からi7-980Xに対応している。ただし,現時点では最終検証中」と断っており,まだBIOSアップデートの余地があると示唆しているため,場合によってはBIOSのアップデートで変わってくる可能性もありそうだ。現時点では「おおむね同程度」と見ておくのが無難かもしれない。

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32nmプロセスルールの恩恵は絶大

空冷で4.5GHz動作を実現


 Westmere世代ではプロセスルールが45nmから32nmへと微細化されたことで,オーバークロック耐性の向上も期待される。
 そこで,CPUは先のDBX-Bを取り付けたまま,BIOSから動作倍率を上げていく方法で,オーバークロックを試みた。今回は,ストレスツールの「OCCT」(Version 3.1.0)を実行して3時間何の問題も発生せず,かつ,4Gamerのベンチマークレギュレーション9.0採用タイトルがすべて完走した状態をもって「安定動作」と認定することにしている。

4.52GHz設定で安定動作している様子を,「CPU-Z」(Version 1.53)から確認したところ。ベースクロックの小数点以下に誤差がある関係で,CPU-Zは4539.2MHzだとレポートしているが,今回はBIOSの設定値に従って4.52GHzとする
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 オーバークロック設定に当たって,Turbo Boostは無効化。また,途中でCPUコア電圧を定格の1.25Vから引き上げてもいるが,入手した個体では最終的に,CPUコア電圧1.5V設定時に34倍,つまり,133MHz×34=4.52GHzで安定動作した。BIOSの起動だけなら,電圧設定[Auto]のまま,4.78GHz(36倍設定)でも可能だったので,CPUクーラーや,CPUコア以外の電圧設定を突き詰めていけば,“それ以上”も目指せそうな気配だ。

 CPUクーラーが異なるため,横並びの比較はできないとはいえ,Thermalright製CPUクーラーを取り付けたi7-975が4GHz程度までしか上がらなかったのを考えると,耐性はかなり高まったと述べていい。オーバークロックを好むユーザーにとって,相当楽しめるCPUであるのは間違いないだろう。
 なお,今回のテストにおいては,HTTを無効化しても,オーバークロック耐性に変化はなかった。

※注意
CPUのオーバークロック動作や“4コア化”は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作や4コア化を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。


12スレッド処理の恩恵はあまりなし

HTTは無効のほうがいい?


 本当に前置きが長くなってしまって恐縮だが,ここからゲームのテストに入ろう。
 先ほども軽く触れたが,テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション9.0準拠。ただし,GPU負荷が高く,CPU性能が表れにくい「高負荷設定」は省略し,基本的に1024×768/1280×1024/1680×1050ドットの「標準設定」(※バイオハザード5は「低負荷設定」のみとする。
 また,i7-980Xについては,HTT有効,Turbo Boost無効設定でオーバークロック設定を行った状態のスコアも「i7-980X@4.52GHz」として示す。念のためお断りしておくと,それ以外のテスト条件はすべてTurbo Boost有効。i7-980X[HTT OFF]以外はHTT有効だ。

 定番の「3DMark06」(Build 1.2.0)から見ていこう。グラフ7が総合スコア,グラフ8が,3DMark06のデフォルト設定となる1280×1024ドットにおけるCPUスコアを抜き出したものだ。
 i7-980X[HTT ON]とi7-980X[HTT OFF],i7-975の動作クロックは同じため,基本的にはコア&スレッド数の違いがそのまま結果に反映される。だが,総合スコアにおける違いは最大4%。CPUスコアにおける約19%という違いを,「コア数1.5倍でも2割に過ぎない」と見るか,「CPUによるAI処理や物理シミュレーションでは最大2割のパフォーマンスアップが見込めそう」と見るかは,正直,ユーザー次第だろう。

 なお,i7-980X[HTT OFF]はi7-980X[HTT ON]からごくわずかながら総合スコアを落とした。i7-980X@4.52GHzでは,i7-980X[HTT ON]比で最大20%のスコア向上が見られる。

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 ただ,3DMarkシリーズのマルチスレッド対応は,たいていの場合,実際のゲームタイトルよりも進んでおり,現実に,ここまでの効果は得られないことのほうが多い。グラフ9に示した「Crysis Warhead」はそんな代表例の一つだ。グラフィックス描画負荷が高いこともあって,CPUの性能差は,オーバークロック状態であってもほとんどない。唯一,i7-870のスコアは低めだが,これは主に,動作クロックが低いことに起因するものだろう。

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 続いてグラフ10は「Left 4 Dead 2」の結果である。
 Crysis Warheadに比べると,マルチスレッド対応は進んでいる本作だけに,スコアには多少動きがあるが,そもそも論として,Left 4 Dead 2のCPU負荷は,ウルトラハイエンドのCPUにとって低すぎ,ほとんど誤差のような違いしかない。

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 それは,グラフ11に示した「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)でも同じ。i7-980Xの両テスト条件がi7-975のスコアを上回っているが,「おお,これはすごい違いだ!」とうなる人は,おそらくこの世にはいないだろう。
 そのわずかな違いに着目すると,i7-980X[HTT ON]とi7-980X[HTT OFF]では後者のほうがスコアが高めなので,コアや処理できるスレッド数ではなく,L3キャッシュの容量差が,この違いを生んだものと思われる。

 ちなみに,i7-980X@4.52GHzのスコアが明らかに落ち込んでいるが,これは,オーバークロックによって,どこかのバスなどに無理が生じたためではなかろうか。

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 一方,マルチスレッド対応が進んでおり,(先ほど述べたとおり)最大8スレッド処理が可能なバイオハザード5では,グラフ12に示したとおり,i7-980Xとi7-975Xの間に,誤差とはいえない違いが出てきている。その差は最大で13%だ。
 ここで面白いのは,マルチスレッド処理に最適化されている本タイトルにおいて,i7-980X[HTT ON]とi7-980X[HTT OFF]のスコアに違いがないこと。8スレッド処理が可能なら,前者のほうが有利なはずなのだが,実際には6コア6スレッド処理の後者と同じ結果になっているのである。

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 グラフ13に示した「ラスト レムナント」のテスト結果は,一言でまとめるならLeft 4 Dead 2やCall of Duty 4と似た傾向。1024×768ドットのスコアに着目すると,コア数の違いがスコアを左右しているようにも見えるのだが,しかしi7-980X[HTT OFF]のほうがi7-980X[HTT ON]より高い値を示していることからすると,ここはL3キャッシュ容量と動作クロックが効いていると見るべきだろう。

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 ゲームテストの最後は「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)。GPU負荷をなるべく上げないよう,今回はDirectX 9モードでのテスト結果を示しているが,ここで特筆すべきは,i7-980X[HTT OFF]のスコアが明らかに一段高いことだ。
 i7-980X[HTT ON]との違いは,最大8%。バイオハザード5のテスト結果も踏まえるに,マルチスレッド処理に対応しているといっても,「ある限りのスレッドを使う」ような設定にはなっていないゲームプログラムを前に,コア数が多いCPUで,HTTを有効化すると,(本来なら不要な)HTT処理をこなすオーバーヘッドが生じることがあると見るべきだろう。
 なお,i7-980X@4.52GHzのスコアはここでも低下した。もう少し低い動作クロックに押さえたほうが,ゲームでは安定してパフォーマンスを発揮できるかもしれない。

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i7-975と同程度の消費電力に収まるi7-980X

Hyper-Threading無効は消費電力でも有利


 i7-980XのTDPは130Wと,i7-975 EEから変わっていないのは前述したとおり。では実際の消費電力はどうなのか,OSの起動後,30分間放置した時点を「アイドル時」,OCCTのCPUテストを30分連続実行した時点を「高負荷時」とし,ログの取得が可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」からシステム全体の消費電力を測定することにした。アイドル時については,EISTの有効,無効両方でスコアを取得している。

 その結果をまとめたものがグラフ15となるが,i7-980X EE(HTT ON)の消費電力はi7-975 EEと同レベルと見ていいだろう。現在,i7-975で問題なく動作するシステムなら,そのままCPUを載せ替えるだけでOKなはずである。
 なお,i7-980X[HTT OFF]の高負荷時におけるスコアはi7-980X[HTT ON]より一段低く,HTTを無効化することにより,消費電力面で多少有利になる。一方,i7-980X@4.52GHzは,CPUコア電圧を1.5Vにまで引き上げていることもあり,高負荷時は341Wと,かなり高い消費電力値を示した。オーバークロックを前提に考えている人は,この点を押さえておく必要がありそうだ。

画像集#032のサムネイル/6コアCPU「Core i7-980X Extreme Edition」レビュー。“Gulftown”は新しい世界を切り開くか?

 グラフ16は,室温18℃の環境において,PCケースに組みこまず,バラック状態のまま,アイドル時と高負荷時におけるCPU温度を計測したものになる。
 計測に用いたソフトウェアは「HWMonitor Pro」(Version 1.08)。スコアは,各コアの平均値をまとめているが,i7-980XがDBX-B,i7-975とi7-870が製品ボックス付属クーラーと異なるため,スコアは参考程度になる。また,HWMonitor Proがi7-980XのTjmax値を正確に把握し切れていないためか,コアによっては室温以下の値を返すこともあり,結局のところ,グラフから述べられるのは,

  1. HTTを無効化すると,CPUコアの温度は下がる
  2. CPUコア電圧を高めたi7-980X@4.52GHzは,コア温度が通常時よりも30℃弱高くなる

点くらいである。

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6コア12スレッドに過剰な期待は禁物だが

これからExtreme Editonを買うなら本製品しかない


製品ボックスのイメージ。なお,i7-975は,i7-980Xの登場後も併売される見込みとなっている
画像集#016のサムネイル/6コアCPU「Core i7-980X Extreme Edition」レビュー。“Gulftown”は新しい世界を切り開くか?
 Intelは,i7-980Xで想定される用途を,デジタルメディアの加工,ワークステーション,性能を追及するオーバークロック,そしてハイエンドのゲーム環境としている。しかし,ゲームにおいては,HTTを無効化したほうがいい場面もしばしば見られるなど,ゲームプログラム側が6コア12スレッドCPUを持て余している印象を受けた。
 CPUの動作クロックがなかなか上がらない以上,ゲームプログラム側もマルチスレッド化へ進んでいくことは間違いないと思われるが,6コア12スレッド環境がその実力を存分に発揮するには,甘く見積もっても,まだしばらくの時間が必要だろう。

 ただ,空冷でたやすく4.5GHz超を狙えるのは,オーバークロックを前提とするならかなり魅力的。また,グラフ17表3に示した「PCMark Vantage」(Build 1.0.2)のスコアからは,一般PC用途なら,バイオハザード5と同等レベルのパフォーマンス向上が得られる可能性を見て取れるのも確かだ。1000個ロット時の単価が,i7-975のそれと同じなのもポイントといえる。

 その意味でi7-980Xは,「まったくもって万人向けではないものの,これからExtreme Editionを購入するなら,ほかに選択肢はない」。こうまとめることができそうである。

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  • 関連タイトル:

    Core i7(LGA1366,ヘキサコア)

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