レビュー
120Hz駆動の液晶ディスプレイがもたらす“ヌルヌル感”を堪能する
LG W2363D-PF
近頃,NVIDIAの3D立体視技術「3D Vision」への対応が謳われた液晶ディスプレイ製品をよく見かけるようになった。日本市場においては,先鞭をつけたSamsungの「SyncMaster 2233RZ」を皮切りに,いまでは著名なディスプレイメーカー数社からリリースされており,少なくとも,探せば購入できるレベルでは流通している状態だ。
大ヒットした映画「Avatar」(アバター)など,3D立体視に対応したビデオコンテンツを楽しむに当たって対応テレビを購入しようとすると,軽く数十万円クラスの出費が必要だ。これに対して3D Visionの場合,対応メガネとエミッタのセット「3D Vision Kit」が2万円弱(※2010年6月26日現在)で,対応ディスプレイも数万円。あとは,対応GPU搭載のPCを用意するだけで,3D立体視環境を手に入れられるのである。
これは,左右の目それぞれに向けて秒間60コマを表示できる機能を,2D平面表示に振り分ければ,2倍のリフレッシュレートを実現できるという理屈によるもの。「入力自体は60Hzで,ディスプレイ内蔵の映像エンジンによって中間フレーム挿入や黒色フレーム挿入などを行い,ビデオ再生時の残像感を少なくする」という,いわゆる倍速駆動とは異なり,純粋な120Hzディスプレイとして利用できるのである。
……筆者が3D Vision対応(=120Hz表示対応)液晶ディスプレイを初めて目にしたのは,もう1年近く前の話,「Tokyo Game Night」というLANパーティに参加したときのことだ。同イベントはBYOC(Bring Your Own Computer,参加者がそれぞれ自分のPCを持ち寄ってゲームを楽しむ)形式で,ある参加者が持参した2233RZを少し触らせてもらったのだが,120Hzというリフレッシュレートから生まれる動きの滑らかさに,心底衝撃を受けたのを,今でもよく憶えている。
液晶ディスプレイ全盛時代の前,まだCRTディスプレイがゲーマーの間で当たり前に使われていた頃の感覚が蘇ったというか,液晶ディスプレイを使ってゲームをプレイするうちにいつしか失っていた何かが戻ってきたような感覚がそこにはあった。
正直,その時点で「120Hzすげぇ。欲しい」と惚れ込んでしまったわけだが,2233RZのディスプレイ解像度は1680×1050ドット。フルHDの1920×1080ドットが当たり前になりつつあるこのご時世に,一段低い解像度の製品を買うことへの抵抗はあった。HDMI入力が用意されていないため,コンシューマゲーム機(以下,ゲーム機)を接続できないのも悩みどころで,最終的には見送った次第だ。
今回,4Gamer編集部でこのW2363Dを購入したとのことで,「垂直リフレッシュレート120Hzで何が変わるのか」,この一点を掘り下げてみたいと思う。3D Visionはおろか,静止画表示品質の検証も行わないので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
条件さえ揃えば“液晶の常識”を超えた滑らかさを実現
しかし条件は少々厳しく,万人向けではないかも
W2363DにはDual-Link DVI-Dケーブルが付属しているので,これに交換すれば何の問題もないのだが,それまで普通にSingle-Link DVI接続で使っていた人だと,そのままケーブルをディスプレイをつなぎ替えるだけで何とかなるのではと考えることが多いはず。そういった人達に向けた注意が,付属の「Easy Setup Guide」に一切記載されていないのは不親切であるように思う。
※DVIでは,1リンクで最大165MPixels/sという画素データ転送速度が定められている。一般的な60Hzリフレッシュレート仕様(=秒間60フレーム)に換算すると,1フレーム当たり2.75MPixels/sを転送できるため,液晶パネルの解像度は1920×1200ドット(約2.3MPixels)まで対応可能だ。ただし,120Hzリフレッシュレートの場合,1フレームで転送できる画素データ量は1.375MPixels/sとなり,1920×1080ドット解像度のW2363Dが要求する約2.07MPixels/sというスペックをを満たせない。そこで,接続リンクを2系統としたDual-Linkが必要,というわけである。
ケーブル交換後は表示も安定し,OSD上の表記も正常表示。というか,デスクトップ画面におけるマウスポインタの動きからして,すでに60Hz表示時とはまったく異なる。ちなみに今回のテスト環境は表のとおりだ。
とくに,筆者手持ちのBenQ製22インチワイド液晶ディスプレイ「X2200W」と並べて,クローンモードで出力比較してみると違いは歴然。「FPSプレイヤーで気づかない人はいない」といえるほど,滑らかさの差ははっきりと分かる。
最大の注意点は,「マルチスキャンのCRTディスプレイとは異なり,液晶ディスプレイであるW2363Dの場合,パネルのネイティブ解像度以外では,たとえ低い解像度であろうとも120Hz動作させられない」というもの。マルチスキャン対応CRTディスプレイの場合,より広い解像度で設定できるリフレッシュレートを維持したまま,用途に合わせて解像度を引き下げられたりするのに対し,液晶ディスプレイであるW2363Dの場合,120Hz動作がサポートされるのは1920×1080ドット設定時だけなのだ。
800×600ドットなどの解像度設定を行うときに,120Hzや200Hzといったリフレッシュレートも一応は選択可能なのだが,OSDから確認すると60Hzあるいは75Hzで固定。動きを見ても,期待したリフレッシュレートは得られていない。
一つは,ゲームアプリケーションをウインドウモードで起動する方法だ。デスクトップを1920×1080ドットの120Hz表示した状態なら,そのデスクトップ上で動作するアプリケーションには120Hzリフレッシュレートが適用されるので,1920×1080ドットでは“重すぎる”とか,そもそも本解像度設定が用意されていないとかいった場合に使える選択肢といえる。
ただ,当然ながらゲーム画面は小さくなってしまうし,ゲームの周りにアイコンなどが表示されるため集中しづらくなるという課題はある。もちろん,ウインドウモードでの動作がサポートされていないタイトルでも無理だ。
そしてもう一つは,EnTech Taiwan製のグラフィックスチューニングユーティリティ「PowerStrip」を使って,120Hz表示に対応したカスタム解像度を追加する方法である。導入は自己責任となるが,下記,ざっくりと利用方法を説明してみたので,興味のある人は参考にしてほしい。
PowerStripは29.95ドルのシェアウェア。代金を払わなくても今回紹介する内容は利用できるが,OSの起動ごとにツールチップが5秒間表示される |
セットアップするとタスクトレイにアイコンが常駐。ここから「Display Profiles」→「Configure」と進めば,設定ウインドウを開ける |
あくまで筆者が試した限りにおいてなので,筆者や4Gamer編集部がその内容を保証するものではないが,PowerStripを利用したところ,
- 640×480ドット
- 800×600ドット
- 1024×768ドット
一方,ネイティブ解像度である1920×1080ドットの全画面で使うことを選んだ場合,描画負荷の高いタイトルをプレイしたとき,「そもそも60fps以上出ない」という理由で,120Hz表示の恩恵を受けられなかったりする。例えば筆者のテスト環境だと,CPUを3GHzまでオーバークロックしても「Crysis Warhead」のフレームレートは30〜40fpsしか出ず,従来型の60Hz表示液晶ディスプレイと見栄えに違いがないことを確認済みだ。
序盤で述べたとおり,倍速駆動で残像感を減らす機能のようなものは搭載していないため,H.264形式で23.98fpsのアニメビデオを再生した場合なども,従来型液晶ディスプレイとの違いは見られなかった。
要するに,W2363DにおけるThru Mode&120Hz駆動の強みを出し切るには,DVI-D接続の1920×1080ドット設定で平均フレームレートが60fps以上,可能なら100fps以上出るような環境が必要というわけだ。正直,PCスペックという点でも,ゲーム側の対応という点でも,なかなかハードルは高い。序盤で紹介した中間フレーム挿入型の倍速駆動液晶ディスプレイのほうが万人向けであり,3D立体視にフォーカスしない場合のW2363Dは,あくまでもリフレッシュレート120Hzという点を重視する人向けのものということになりそうである。
動きの激しいPCゲームをするなら買い
対人戦で有利になるのは確実だ
PCゲーマーの中には,液晶の残像感や応答速度の遅さを嫌ってCRTディスプレイを使い続けている層が少数ながら残っている。これは,CRTディスプレイの恩恵である動きの滑らかさが,マルチプレイなどで対戦相手に対する絶対的なアドバンテージとなっていたからだ。だが,今回W2363Dを試した印象では,リフレッシュレート120Hzの液晶ディスプレイが登場したことにより,いよいよ“CRT派絶対優位”な状況に変化が訪れるかもしれない。
確かに,3D Vision対応こそが最大のセールスポイントであるものの,3D立体視を試してみたい人達だけのものにしておくのは,あまりにも惜しい。これまでの液晶ディスプレイでは得られなかった滑らかさの得られるW2363Dは,対戦好きのハードコアなゲーマー諸兄諸姉にとって強力な武器になるはずであり,その嗜好を持っている人には,広く勧められる製品だ。
大日本CRT派最高幹部会――というコミュニティがmixiにあるのだ――の一員としては,FEDやSEDといった期待の新技術が立ち消えた結果,乗り換え先が結局液晶ディスプレイに落ち着くことになるというのは想像できなかったなあと,やや微妙な気持ちではある。
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