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印刷2016/10/03 12:00

業界動向

Access Accepted第513回:パルマー・ラッキー氏の「政治活動」が招いたもの

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第513回:パルマー・ラッキー氏の「政治活動」が招いたもの

 自宅でVR対応ヘッドマウントディスプレイの開発を続け,19歳のときにOculus VRを立ち上げた若き発明家であるパルマー・ラッキー氏が現在,北米ゲーム業界の内外で批判にさらされている。これは同氏が,インターネットでヒラリー・クリントン大統領候補を批判する政治団体に資金提供していたというもので,それがこじれて,Rift向けのゲーム開発を行わないと表明するゲーム会社も現れた。今週は,大統領選でヒートアップするアメリカで突如浮上したこの話題を紹介したい。


Oculusの発明家が政治献金で問題に


Oculus VRのパルマー・ラッキー氏。専用コントローラー「Touch」の発売も近いと思われる
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 VR対応のヘッドマウントディスプレイ「Rift」で知られるOculus VR。2016年10月5日から7日まで,カリフォルニア州サンノゼでは恒例となった開発者イベント「Oculus Connect 3」が開発される予定となっており,待望の専用コントローラ「Touch」の発売日や対応作品など,詳しい情報が公開されることになりそうだ。

 Oculus VRの設立者であるパルマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏は,子供の頃からモノ作りが大好きで,大学に通いながら自宅でVR対応ヘッドマウントディスプレイの制作を開始した。それがインターネットで話題になり,クラウドファンディングに企画をアップしたところ,たちまち開発資金の獲得に成功。ラッキー氏が19歳で立ち上げたOculus VRにはその後,現CEOのブランドン・イリベ(Brandon Iribe)氏ジョン・カーマック(John Carmack)氏マイケル・アブラッシュ(Michael Abrash)氏など,著名なゲーム業界人が次々に参加し,さらに2014年3月,Facebookに20億ドルで買収されたことで,北米ゲーム業界注目の的となった。
 このときラッキー氏は,創業者として買収金額の3分の1にあたる7億ドルを受け取ったとされ,北米の経済誌フォーブスは「40歳以下で最も資産のあるアメリカ人」の第26位にラッキー氏をリストアップした。

 そんなラッキー氏が現在,北米ゲーム業界の内外で批判にさらされている。ことの起こりは2016年9月22日,アメリカのオンラインニュースサイトThe Daily Beastに「Nimble America」という団体のスポンサーであることを暴露する記事が掲載されたことだ。

 Nimble Americaとは,巨大ソーシャルメディア「Reddit」を舞台に,共和党大統領候補者ドナルド・トランプ氏を支援するグループが設立した非営利団体で,その手法は風刺や嘲笑をコミカルに描いたアートを掲載したり,シットポスト(ソーシャルメディアでの過激な批判文)を拡散したりするもので,これらを通じて対抗馬である民主党候補のヒラリー・クリントン氏を批判することが目的だ。例えばアメリカ中西部では,クリントン氏の似顔絵と共に「Too Big to Jail」(ブタ箱に放り込むには大き過ぎる)と書かれた広告を出したほか,Facebookなどにも広告を打っているという。こうした政治運動は,最近アメリカで「Alt-Right」(アルト・ライト)と呼ばれており,インターネットを主な活動の場にしている。日本のネットスラング,“ネトウヨ”に近いイメージと言えば,分かりやすいかもしれない。

Nimble Americaが掲載した巨大広告。「Too Big to Jail」はもともと,銀行への政府支援を批判するスローガンだったのだが,国務長官というポストにありながら不正Eメール問題が噴出したクリントン氏に対する批判にもよく使われている
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 The Daily Beastによると,ラッキー氏はこのNimble Americaに1万ドルを献金したほか,NimbleRichManというハンドルネームでRidditに頻繁に投稿を行っていたという。当初ラッキー氏はNimbleRichManとの関係を否定しており,The Daily Beastとのメールのやり取りの中では,「自分で書いた」とか「ほかの人が自分の身代わりになって書いた」などと,コメントが二転三転していた。


ラッキー氏がもたらした企業イメージの悪化


 こうした報道を受け,Riftの対応を見送るゲーム開発者が出てきた。知名度の高いメーカーとしては,「FEZ」で知られるPolytronがあり,現在VR向けに移植中のパズルアクション「Super Hypercube」について,「ラッキー氏の最近の行為により,Rift向けの発売を見送る」としている。また,VR情報サイトのMotherboardによれば,Insomniac Gamesが「すべての人が自分の政治的見解を自由に述べることができますが,報道されている(ラッキー氏の)行為は我々の価値観に合うものではありません。我々が毎日のように接しているOculus VRのすべての社員が,こうした行為や意見を共有しているものではないと信じております」と述べている。そのほか,「Subject 107」というプロジェクトを開発中のTomorrow Today Labsや,ヘンテコなシミュレーション「Computer Janitor VR」のOwlchemy Labsが,Rift向けタイトルの発売や開発を中止したという。

Rift向けの開発を中止した,Polytronの「SUPERHYPERCUBE」
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 こうした動きに対してラッキー氏は,自身のFacebookに声明文を公開し,自分の言動がOculus VRや関係者に迷惑をかけてしまったことを謝罪し,Nimble Americaへの献金は,インターネットを利用した新しい政治活動であることに興味を覚えたために行ったこと,そして,自分はリバタリアン(完全自由主義などと呼ばれる)であり,過去にはロン・ポール氏の応援を公言したことがあり,また,今回の大統領選では第3勢力として立候補しているゲーリー・ジョンソン氏に投票する意向であることなどを述べている。

 もともとラッキー氏は,自由奔放な発言で有名な人物だ。Redditに実名で現れてファンと直接やり取りしたり,割とぽっちゃり型の体型なのに,上半身裸で「マイリトルポニー」のコスプレ写真を公開するなど,奇行とも言えそうな行為でも知られている。交際しているとされる女性ニッキー・モクシ―(Nikki Moxxi)さんは,以前から反移民法の制定を支持するコメントをTwitterに書き込むことがあり,ラッキー氏がそれにリツイートをすることもあった。

10月5日から開催されるイベント,Oculus Connect 3で,パルマー・ラッキー氏が登壇するかどうかは今のところ不明だ。Touchで浮上を狙いたいOculus VRだけに,ラッキー氏の行動に注目が集まっている
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 さて,ここまで読んだ読者の中には,筆者と同じく不思議な感じを抱いた人もいるかもしれない。ラッキー氏がどの大統領候補を支持していようが,それはラッキー氏の自由であるはずだ。Nimble Americaが対抗馬を笑いものにするようなアートを作ったとしても,それが正当な政治メッセージなら,問題はないし,実際にNimble Americaの活動は選挙違反として扱われてはいない。
 ラッキー氏が実際にNimbleRichManとしてソーシャルネットワークで活動していたのかは未だに疑問のままだが,それもラッキー氏個人の問題だ。

 こうしたもやもやした気持ちは残るものの,少なくとも,自由奔放な言動のラッキー氏が招いたのがOculus VRのブランドイメージの低下であることは間違いないだろう。現在進行中のラッキー氏の騒動からは,彼のような企業リーダーや影響力を持つ人物の場合,“社外活動“は慎重のうえに慎重を重ねて行わなければならないという教訓が学べる。自由の国であるはずのアメリカでも,それに変わりはない。もし今回の騒ぎが収まることなくさらに続くようなら,ラッキー氏は大きな決断に迫られることになるだろう。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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