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Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡
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印刷2013/10/07 10:00

業界動向

Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡

画像集#001のサムネイル/Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡

 映画監督のスティーヴン・スピールバーグ氏,ファッションデザイナーのマーク・エコー氏,ホラー小説家のクライヴ・バーカー氏など,異業種の著名人がゲームを監修したり,アイデアを出したりするケースは少なくないが,「軍事シミュレーション小説」というジャンルを開拓した小説家トム・クランシー氏ほどゲーム業界にインパクトを与えた人物はいないだろう。今回は,急逝したクランシー氏が残した足跡を紹介したい。


保険の代理店経営から転身してベストセラー小説家に


66歳の若さで世を去ったトム・クランシー氏。和田 毅投手の所属するボルチモア・オリオールズの共同オーナーの一人に名を連ねるなど,生まれ故郷であり,そこで生涯を終えることになったメリーランド州に深い愛着があったようだ
画像集#002のサムネイル/Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡
 北米時間の10月1日,ベストセラー作品を次々に生み出した小説家,トム・クランシー氏がボルチモアの病院で亡くなった(関連記事)。死因は明らかにされていないが,数日前からなんらかの理由でメリーランド州にある自宅近くの総合病院に入院していたとのこと。66歳での死は,あまりにも突然だった。

 クランシー氏は地元の大学を卒業後,保険代理店を営むかたわら執筆した「レッド・オクトーバーを追え!」を1984年に上梓。旧ソビエト連邦の原子力潜水艦がアメリカに亡命するという内容で,当時としてはセンシティブなテーマだったためか,最初はどの出版元にも断られたという。結局,それまで小説を出版した経験のなかったNaval Institute Pressという出版社から,「5000冊で5000ドル」というギャランティで発売されたが,これがロナルド・レーガン元大統領の目にとまり,記者会見の席でレーガン元大統領が「ボクの求めていた本だよ」と発言したことをきっかけにベストセラーになった。この結果,クランシー氏はボーナスとして130万ドルを受け取ったという。

 その後,クランシー氏は人気小説家の道を驀進し,全著書25作品のうち17作がニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに入り,トータルで1億冊以上を売り上げたという。「レッド・オクトーバーを追え!」に登場したキャラクター,ジャック・ライアンを主人公にした作品はシリーズ化され,また,「愛国者のゲーム」や「いま、そこにある危機」などが映画化されたことにより,小説になじみのない層にもクランシー氏の名が知られることになった。

 そんなクランシー氏は新たなメディアであるビデオゲームに対して大きな興味と可能性を感じており,1996年にイギリス海軍の潜水艦艦長だった経験のあるダグラス・リトルジョンズ氏とともに,Red Storm Entertainmentというゲームメーカーをノースカロライナ州に設立した。同社の処女作は「Tom Clancy's Power Plays」というシリーズ小説をベースにしたボードゲーム風のストラテジー「Tom Clancy's Politika」(1997年)。クランシー氏はミリタリー系のボードゲームを趣味としており,1986年に発表されてベストセラーとなった「レッド・ストーム作戦発動」は,海戦ボードゲーム「ハープーン」を使った詳細なシミュレーションに基づいて書かれたものだったという。


クランシー氏がゲーム業界に与えた影響


 初の作品である「Tom Clancy's Politika」こそあまりパッとしなかったが,翌1998年には“トム・クランシー”の名前をゲーム業界に轟かせる作品がリリースされる。それが「Tom Clancy's Rainbow Six」だ。Red Storm Entertainmentの設立段階ですでに「3Dグラフィックスを使ったシューティング」の企画は立てられていたが,当初はFBIの人質救出部隊(Human Rescue Team)をテーマにしたものだったという。しかし,クランシー氏が同じ頃執筆していた小説「レインボー・シックス」が国際的な対テロ部隊を描いたもので,最終的にその作品と共通の世界観を持ったゲームとして制作されることになった。

アーケードライクなアクションに浸っていた当時の筆者には,ちょっと難度の高かった「Tom Clancy's Rainbow Six」。現実の国際情勢を背景に,実際の戦術や兵器を使うタクティカルシューティングというジャンルを切り開いた作品だ
画像集#003のサムネイル/Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡

 リリースされた「Tom Clancy's Rainbow Six」は,FPS/TPSのサブジャンルである「タクティカルシューティング」の草分け的な存在だった。当時のタイトルは「Quake」「Duke Nukem 3D」など,反射神経を問われるアーケードライクなものが主流だったが,そこに,綿密な作戦立案や隠密行動などが重要になる「Tom Clancy's Rainbow Six」が颯爽と現れたのだ。時をほぼ同じくして,Zombie Studiosの「Spec Ops: Rangers Lead the Way」(1998年)やNova Logicの「Delta Force」(1998年)などが登場したことで,タクティカルシューティングはたちまち多くのファンを獲得することになった。

 当時こうしたタイトルは,コンバットシミュレータの系列ということで「ソルジャーシム」などと呼ばれており,1999年にSierra Entertainmentから発売された「SWAT 3: Close Quarters Battle」と合わせて「タクティカルシューティング四天王」と呼ばれたこともあった。
 その中にあって,45万本のヒットを記録し,その後,矢継ぎ早に拡張パックや続編をリリースしてきたRainbow Sixシリーズはタクティカルシューティングの王者と呼べる存在だ。多数のシリーズ作品が制作され,さまざまな機種に移植されたRainbow Sixだけに,現在では,小説は知らないけれど,ゲームシリーズは知っているという人のほうが多いかもしれない。
 ちなみに,1999年の続編「Tom Clancy's Rainbow Six: Rogue Spear」以降,パブリッシングはRed Storm EntertainmentのほかにフランスのUbisoft Entertainmentが担当してきたが,中堅パブリッシャのUbisoftが現在のような大手メーカーになるきっかけもまた,このRainbow Sixシリーズにあったといっていいだろう。

前評判の高い「Tom Clancy's The Division」の話題で持ちきりだが,2011年末に発表されて以来音沙汰のないシリーズ最新作「Tom Clancy's Rainbow Six: Patriots」。現在も次世代機向けの開発が進められているという情報もある。クランシー氏の名前の使用権は,Ubisoftが2008年に買い取っており,今後もクランシー氏の名を冠した作品が制作されていくのかもしれない
画像集#004のサムネイル/Access Accepted第397回:トム・クランシー氏がゲーム業界に残した足跡

 Red Storm Entertainmentは,オープンスペースで近未来の戦闘を描く新シリーズ「Tom Clancy's Ghost Recon」開発中の2000年8月,そのUbisoftに買収される。Ubisoftはクランシー氏の名前を積極的に使い,ステルスアクションの「Tom Clancy's Splinter Cell」,ストラテジーの「Tom Clancy's End War」,そしてコンバットフライトシムである「Tom Clancy's H.A.W.X.」など,ジャンルを問わずに展開。17年間で39作,累計7600万本を販売するというUbisoftの看板ブランドに育て上げた。2014年には新シリーズである「Tom Clancy's The Division」がリリースされる予定であるほか,開発状況がまったく聞こえてこなくなってしまったが,Rainbow Sixシリーズの最新作「Tom Clancy's Rainbow Six: Patriots」もアナウンスされている。

「Tom Clancy's The Division」
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 ベストセラー小説家がその印税で自らのゲームメーカーを設立し,そこでもまたヒット作を生み出し,その作品の影響が現在まで続く。そんな前代未聞のことをやり遂げたクランシー氏。自らゲームを作ったわけではないものの,欧米ゲーム業界に与えたインパクトの大きさは,有名ゲームクリエイターに劣るものではない。小説だけでなく,ゲーム界に対してもまだまだ一波乱起こせる年齢だっただけに,今回の急逝は残念だ。ゲーム業界に果たしたクランシー氏の業績を讃えつつ,冥福を祈りたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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