業界動向
Access Accepted第373回:XNAとインディーズゲーム開発の話
新たなゲームアイデア開拓の場として,また人材発掘の源泉として,欧米ゲーム業界が熱い視線を注ぐインディーズゲーム分野。現在はアマチュアばかりでなく,新作開発の機会が減ったベテランゲーム開発者や他業種のプロなどが参入し,「Minecraft」を始め,メインストリームに大きな影響を与えるほどの傑作や人気作品が生まれている。こうしたインディーズゲーム隆盛の一端を担った技術の一つが,Microsoftの「XNA」だが,コンシューマ機の世代交代を前に動きが見られる。今週は,そんなXNAの最新事情をお伝えしたい。
インディーズゲーム隆盛の一端を担ったXNA
業界関係者によると,北米時間の2013年1月31日頃,Microsoftが一部のゲーム開発者にメールを送り「DirectXおよびMicrosoft XNAのサポートを終了する」ことを明らかにしたという。北米のいくつかのメディアがこれを報道しているが,例えばDirectXは今後も開発を継続するとする記事なども見られ,情報はやや錯綜気味だ。
メールには,「DirectXはもはや革新的な技術ではない」とあり,サポート終了は2014年4月1日が予定されているという。
詳細については,3月にサンフランシスコで開催されるGame Developers Conference 2013などで明らかになると思われるが,コードネーム「Durango」として知られる次世代コンシューマ機が控えているため,メーカーやゲーム開発者に向けて,すでに詳しい内容が伝えられているだろう。こちらも確定情報ではないが,DurangoのGPUはDirecxX 11をターゲットにしているとの情報もあり,その後に新しいAPIが導入されるとしても,いましばらくはDirectXの使用が続けられることになるはずだ。最新OSである「Windows 8」にもDirectX 11が採用されているので,世代交代には時間がかかるだろう。
サポート中止が伝えられるもう一方のXNAについても,ゲーム業界に直ちに影響をおよぼすといった性質の話ではないが,Microsoftの新たな動きであることは間違いない。
2006年12月に正式リリースされた「XNA Game Studio Express」は,ゲーム開発に必要なツールやライブラリを含む統合開発環境で,PCやXbox 360など,マルチプラットフォームに対応したゲーム開発がより容易に行えるというものだ。Xbox 360向けのゲームを開発するには,年会費99ドルを支払って「XNA Creators Club」に加入する必要があるが,加入によりさまざまなサポートも受けられるようになるため,資金が不足しがちなインディーズ開発者に歓迎された。
現在,ユーザー数は50万人を超え,約2600のタイトルがXbox LIVE Indie Gamesでリリースされている。PlayStationの「ネットやろうぜ」が,どちらかといえばホビースト向けだったのに対し,XNAは真剣にプロになりたい人々の興味を集めたという印象が強い。
#XNAのおかげで……
発表当時,MicrosoftはXNAを大きくプッシュし(関連記事),2007年にはXNA Game Studioを使用したインディーズゲームコンテスト「Dream-Build-Play」を開催している。受賞作は,ロボットを主人公にしたスポーツゲーム「Blazing Birds」と,コメディタッチの横スクロールアクション「The Dishwasher: Dead Samurai」の2本だった。
続く2008年には,Game Developers Conferenceに合わせて開催されたMicrosoftのプレスカンファレンスに,アルバイトで皿洗いをしていたという,The Dishwasher: Dead Samuraiの作者,ジェームス・シルバ(James Silva)氏を呼んで同作を大々的に紹介。シンデレラストーリーとして脚光を浴びた。
この頃から,ゲーム開発者が企業を離れ,インディーズゲーム開発者として独立するという話がよく聞かれるようになった。もちろん,こうしたベテラン開発者の中には,十分な資金や技術を持った人も少なくなく,必ずしもXNAが唯一の受け皿だったわけではないだろうが,より簡単にゲーム開発ができるXNAの登場が,アマチュアだけでなくベテランゲーム開発者の独立心に火をつけた可能性も高い。
200万本のヒットとなった「Terraria」や,同じく170万本の「Bastion」は,XNAを使用して制作されたタイトルだ。さらに,ゲーマーやメディアから高い評価を受けた「Fez」や「Dust: An Elysian Tale」,そして「Skulls of the Shogun」などの話題になったインディーズ作品も,XNAによって制作されている。
このようなインディーズゲームの盛り上がりの一方,Microsoftは2010年9月にリリースした「XNA Game Studio 4.0」を最後にバージョンアップを行っておらず,コンシューマ機の世代交代が迫る中,開発者の多くがサポート終了を予期していたという。もちろん,サポートが終了するといっても,XNAを使い続ける人もいるだろうし,PCゲームの開発に利用する人も少なくないはずだ。XNAをベースにしたサードパーティの開発環境「MonoGame 3.0」などが独自進化を遂げる可能性もある。
長きにわたってXNAコミュニティのメンバーだったゲーム開発者のニック・グレイブリン(Nick Gravelyn)氏は,今回のニュースに触れ「#becauseofXNA」(#XNAのおかげで……)というハッシュタグ(https://twitter.com/search?q=%23becauseofxna)を作った。このハッシュタグを使ってXNAに対する思いをつぶやく開発者達は後を絶たず,「仕事を辞めて,ゲーム開発に打ち込む決心をつけさせてくれた」「何十人もの友人ができた」というツイートや,「億万長者になっちゃった」という,話が本当なら誰だか特定できそうなものまで,さまざま書き込みが行われている。シルバさん自身も,「妻に出会うことができた」と書いている。
Microsoftが開発者に送ったメールでは,現在のXNA Game Studioの開発状況は活発とは言えないとされているようだ。事実はその通りなのかもしれないが,少なくとも数多くのインディーズゲーム開発者の背中を押し,彼らの人生に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。今後,インディーズゲーム市場も大きく変動していくはずだが,さらなる発展に期待したい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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