レビュー
16種のGPUに対応するGPUクーラーをGeForce GTX 480で検証
GELID ICY VISION
今回は,日本では未発売ではあるが,GeForce GTX 480にも対応する希少なGPUクーラーとして,GELID SolutionsがリリースしたGPUクーラー「ICY VISION」を香港から取り寄せてみたので,その特徴と性能を紹介していきたい。
多数のGPUに対応するICY VISION
ICY VISIONは,写真に示すようなヒートパイプ5本を用いたGPUクーラーだ。底面積は215mm×95mmと,ミドルハイ〜ハイクラスグラフィックスカードをほぼ覆うくらいのサイズである。高さはGPUとの接触面からファンの上端まで52mmとなっており,グラフィックスカードに取り付けると,2スロット半ほどを占有する。要するに,装着には3スロット分のスペースが必要だ。
92mm径のファン×2基で冷却するICY VISION。上面のサイズは215mm×95mmと一般的なグラフィックスカードとほぼ同寸である。なお,ファンの吹き出し方向は,この写真で上から下だ |
GPUに接触する銅製のアタッチメントから5本のヒートパイプを引き出し,2ピースに分かれた放熱フィンに熱を逃がしている |
メーカー側は,0.4mm厚のアルミ板を用いたラジエータ部に92mm径ファン×2を用いた高い冷却性能をアピールしている。冷却性能についてはのちほど検証するとして,もう一つの大きな特徴は,多数のリファレンスグラフィックスカードに対応する点だろう。AMD,NVIDIA,合わせて合計16機種に対応しているのだ。
・ICY VISIONが対応するグラフィックスカード(リファレンス)
ATI | Radeon HD 4850/HD 4870/HD 4890/HD 5830/HD 5850/HD 5870 |
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NVIDIA | GeForce 9800 GT/9800 GTX/GTS 250/GTX 260/GTX 275/GTX 280/GTX 285/GTX 465/GTX 470/GTX 480 |
現行機種の大半はサポートしており,ほぼ万能GPUクーラーと言ってもいいかもしれない。GeForce GTX 460対応は謳われていないが,これは発表時期の関係だろうと思われる。
もっとも,対応機種が多いというのは利点ばかりではなく,細かなパーツが数多く付属するなど,取り付け方の煩雑さにもつながっている。
利用するグラフィックスカードによって組み立て時のパーツが異なるのは,かなり厄介な点で,組み立てや取り付けは,マニュアルを熟読して行わなければならない。間違えると十分な性能が発揮できない……というあたりは,実際の組み立て例で説明することにしよう。
組み立てには気を遣う〜とくにGeForce GTX 480
組み立て自体は,さほど複雑なものではない。まず,当然ながら,あらかじめリファレンスクーラーを取り外しておく必要がある。そしてグラフィックスメモリとVRM(電源)部のスイッチング素子に,付属の小さなチップクーラー(パッシブヒートシンク,以下ヒートシンク)を熱伝導テープ(これも付属)で貼り付けていく。
※注意
リファレンスGPUクーラーの換装は,カードメーカー保証外の行為です。最悪の場合,グラフィックスカードの“寿命”を著しく縮めたり,GPUを壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考に試した結果,何か問題が発生したとしても,GPUメーカーやグラフィックスカードメーカー,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
上の写真のように,さまざまな形状のヒートシンクが付いているので,グラフィックスカードに合ったものを選んで熱伝導テープや付属のビスで取り付けることになる。使用するヒートシンクは,マニュアルにイラストで大まかに指定されているが,こと細かに指定されているわけではないので,イラストと合致しない場合は,利用者側が,ある程度工夫して合った大きさのものを貼り付けていく形になるだろう。GeForce GTX 480の場合はビス留め個所はなく,すべて熱伝導テープで貼り付ける形だった。
続いて,GPUと接触する銅製プレートに取り付ける「Backplate」と呼ばれるパーツの加工だ。ここに「Stand off」と呼ばれる「スペーサー兼,取り付け用のビス」を取り付けるが,Stand offには2種類の高さがあるので要注意だ。GPUと対応するStand offの組み合わせはマニュアルに指定されているので,それに従って選ぶ必要がある。
また,取り付け穴が写真のように多数空けられており,これも機種ごとに取り付ける穴の位置が異なる。マニュアルをよく確認して作業しよう。
完成したバックプレートを銅のヘッダ部分に付属の皿ビスで締め付けて取り付けるが,この締め付けにも注意が必要だ。GeForce GTX 480の場合,この締め付けが甘いとGPUとの接触が甘くなり,発熱が上手く処理できない状態になった。GeForce GTX 480という発熱王者ゆえのシビアさかもしれないが,ほかのGPUでも注意するにこしたことはない。
Stand offには2種類の高さがあり,GPUによって使うものが異なる点に注意。また取り付ける穴の位置もGPUごとに指定がある |
4つの皿ビスを使ってバックプレートを銅ヘッダ部に取り付けるが,この締め付けが甘いと放熱の効果が落ちてしまう |
これまたGeForce GTX 480だけの特殊事情かもしれないが,16種ものGPUに対応する汎用設計だけに,こうした微調整が必要になるGPUはほかにもあるだろう。
なお,ファンの電源コネクタはオンボードの電源コネクタと同形状で,オンボードに取り付けることもできる。また,4P電源コネクタ変換ケーブルも付属しており,それで電源ユニットの4Pコネクタに直結してもOKだ。あとでも触れるが,本機のファンは温度制御に対応していないので,オンボード,4P電源コネクタのどちらにつないでも回転数は変わらない。
冷却性能より,むしろ静音性が魅力か
実際にはFurmarkも回しているのだが,その結果からGELID SolutionsからFurmarkを利用しないでくれと要請された理由は分かる。先にも軽く触れたが,このICY VISIONはファンの温度制御に対応しておらず,常に公称2000rpm,センサー読みでは1950rpm前後の一定速度で回っている。Furmarkのような高負荷が連続するベンチマークを走行させると,少なくともGeForce GTX 480クラスの発熱量を持つGPUでは熱が処理しきれなくなり,徐々に温度が上がって,最終的には100℃を超えてしまう。これがリファレンスクーラーであれば,(もの凄い音にはなるかもしれないが)ファン速度をどんどん上げて冷やそうとするので,高負荷時の安定性は保たれるのだ。
GeForce GTX 480よりも発熱が低いGPUなら,これほど極端な温度にはならないだろうが,いずれにしても,ICY VISIONは,Furmarkのように高負荷が途切れなくかかる状況には弱いクーラーと言っていいようだ。実ゲームでは,負荷が常に変動しているので問題はないということなのだろう。
というわけで,表に示した動作環境において,「3DMark06」(Build 1.2.0)を連続して2回走行させ,MSI製のオーバークロックユーティリティ「Afterburner」(Version 1.6.1)を使って温度のログを取った結果を見てみよう。
今回は3DMark06の標準テストのうち,GPUクーラーには意味がないCPU Testをオフにし,代わりに「Feature Tests」をオンにしている。Feature Testsにはシェーダのテストが含まれており,GPUの負荷をかなり高くすることができるからだ。
以上を踏まえてグラフを見ていただきたい。リファレンスクーラー,ICY VISIONともに後半に大きなピークがあるが,これがFeature Testsを実行しているときのものだ。リファレンスクーラーは1回目の走行時に最大96℃を記録するが,2度目のテストのピークは91℃に収まっている。これはファンが温度制御されていて,1回目のテスト途中からファンの回転が上がったためだ。
一方,ICY VISIONは2度目のテストで最大88℃を記録している。ファン回転数が2000rpm固定なので,2度目のテストのほうが温度が上がってしまうというあたりがリファレンスクーラーとの大きな違いといっていいだろう。
ある程度負荷が小さいときには,ICY VISION使用時でもGPU温度は65℃以下に抑えられており,リファレンスクーラーと比べて10℃近く低温となっている。ICY VISIONで十分に冷えていると言ってよいと思う。高負荷時にはリファレンスクーラーが91℃に対してICY VISIONが88℃と,差はなくなってくる。
なお,テスト機はバラック状態で室温は29℃だった。窓際に置いてテストしていたために室温としては高めだが,ケース内に比べればまだ低いと見ていいだろう。ICY VISIONはケース内排気なので,使用時にはケース全体のエアフローを熟慮したほうがよさそうだ。
ファンの回転が制御されないというのが少々不安な点ではあるが,その代わりに騒音はリファレンスクーラーに比べると低く抑えられている。GPUから20cmほど離れたところにマイクを置いて,動作音を録ってみたので聞き比べてみてほしい。
リファレンスクーラーのファンはアイドル時,センサー読みで1800rpm弱に抑えられていることもあり,ICY VISIONより音は小さかったりする。だが,高負荷時の音は強烈だ
ICY VISIONは温度制御されないので,アイドル時も高負荷時も音の大きさは変わらない。リファレンスクーラーに比べると高音が抑えられており,ケース内に入れてしまえば,ほとんど気にならないレベルだろう
アイドル時の騒音は実はリファレンスクーラーのほうが小さいことが分かる。ファンの回転がICY VISIONより抑えられるためだ。ただ,ICY VISIONの騒音は高周波成分が少ないので,ケースに入れてしまえばかなり静かだろう。さらに,負荷がかかってもそれが変わらないというあたりがアドバンテージといえそうだ。
ウルトラハイエンドは避け,
ミドル〜ハイクラスでの利用がお勧めか
弱点を挙げるなら,パーツが多く組み立て時に注意すべき点が多いこと。ミスをすると冷却能力を著しく削ぐことになる。逆に,慎重に作業でき,マニュアルを熟読できる人なら,これを買っておけば,複数のグラフィックスカードで使い回せるという利点はある。(どれくらいいるかは不明だが)複数のグラフィックスカードを渡り歩いて利用しているような人にはコストパフォーマンスは高い製品といえるのではないかと思う。
冒頭でも書いたように,ICY VISIONの国内での発売は未定である。海外でのメーカー希望小売価格は55ドル程度なので,ウルトラハイエンドは避け,ミドル〜ハイクラスGPUを余裕を持って冷やしたい人は国内販売に期待してみるのもよいだろう。
「ICY VISION」製品情報ページ
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