企画記事
いったい何が飛び出してくるのか。黒田幸弘氏,南治一徳氏,伊藤龍太郎氏が,クラウドファンディングを利用したiOS向け新作ゲームの開発をスタート。これまでと,これからのゲーム業界について語り尽くす
歴史と同じことが起きるのが「リアル」ではない
伊藤氏:
4Gamer:
日本史に詳しい人ほど,そう思ったんでしょうか。
伊藤氏:
いや,僕がちょっとヘソ曲がりなだけなのかもしれません。歴史と同じことが起こるのが“リアル”っぽいというのは違うんじゃないのと思ったんです。例えば「本能寺の変」はいろいろな条件すべてが一致して起こったことであって,それを「ここに信長がいたからフラグが立って,本能寺の変が起こる」というのには違和感があったという話ですね。
4Gamer:
天下統一で弱小の大名を使うと,やはり滅んでしまう。しかし信長の野望だと勝ってしまう。そこにリアルさが感じられないということなのでしょうか。
伊藤氏:
僕としては,そういうところがボードゲーム的で面白かったですね。あと,滅びた家だと,史実では跡継ぎがいないですから,他の家から下の名前とデータを持ってくるじゃないですか。
黒田氏:
あれって,評判はいろいろだったんですよ。
伊藤氏:
10年前に滅びた家に「跡継ぎが出ました」と言うから見ると,●●家の●●信長。あ,信長だ! こいつは強え! 当家に優秀な跡継ぎができた,みたいなところに,粘っていれば,こんなことがあって何とかなるかもしれないと思わせられる。
黒田氏:
わざと名前を残してデータも同じにしたほうが面白いだろうと,やったんです。
南治氏:
信長が出たらかなり嬉しいですね。
伊藤氏:
実際,強いですし。
黒田氏:
やっぱり文句言う人には,「あれは“●●の上”にしたほうが汎用的で良い」とか,「数値もランダムで出したほうがいいんじゃないか」とかいろんなことをいっぱい言われましたけどね。まあ,やっちゃったことなので,しょうがない(笑)。
伊藤氏:
それはそれで一理ありますね。
黒田氏:
僕は「ゲームだからパラメータが見えてたっていいじゃないか」という考え方なんですよ。数字を見て「あ,こいつは強い!」というのが楽しい。天下統一の時は,“2桁と1桁”というのを強く意識しましたね。強い能力のある武将は2桁で,インパクトが違う。
4Gamer:
ケタ数によって,強さの違いがすぐに分かる。
黒田氏:
南治氏:
数値化って,必要ですね。
黒田氏:
これは単純に「見せる」「見せない」の違いなんですけど,この手のゲームなら見せちゃってもいいんじゃないというのはあると思います。
伊藤氏:
そのへんは微妙なところですよね。見せない派もいますし。それを一番徹底したのが,ファミコンの「不如帰」ですね。
黒田氏:
そうですね。
伊藤氏:
不如帰は徹底的に数字を見せない形でしたけど,あれも僕は大好きだった。不如帰って,黒田さんのボードゲーム「戦国大名」を見て作ったようなゲームじゃないですか。「うわー,ファミコン版戦国大名が出たー!」みたいな(笑)。あれをご覧になって,どう思われました?
黒田氏:
多少プレイしたことありますよ。何もこちらに話はなかったですけど(笑)。こっちが城の名前を誤字で入れたところまでそのまま入ってたような(笑)。まあ,あまり気にしませんでしたけど。
4Gamer:
黒田さんは,どのような考えでボードゲームを作ってらしたんですか。
黒田氏:
そうですねえ,僕はたぶんボードゲームを作っている人達の中でも異端です。普通のボードゲームのデザイナーは,真面目に資料を調べて,戦力を調べたり,史実をいろいろ読むんですけど,僕はどっちかっていうと,笑える要素が入ればいいかなと(笑)。
4Gamer:
ええっと,笑える要素ですか?
黒田氏:
昔,ボードで「関ヶ原」というゲームを作ったことがあるんです。関ヶ原といったら,普通は合戦をやるんでしょうが,私は買収合戦をやったんです。敵の武将に「君にはこの土地とこの土地をやるから,ウチに味方しなさい」と持ちかけて,敵も「ウチが勝ったらこれやる」と交渉する。で,合戦になると「公開! ウチは合計50万石,君は30万石,この武将はウチの味方だ!」って(笑)。
南治氏:
おおー,なるほどなるほど。
黒田氏:
ルールがややこしくて,あんまり売れなかったんですが(笑)。
伊藤氏:
「誰が裏切るか分からない」というのが当時の関ヶ原の状況なので,それを再現しようとした黒田さんのアプローチは面白い思います。
だいたい,関ヶ原の合戦のゲームを作ろうとすると,せいぜい史実通りに部隊を置いて,毎ターンさいころを振って「1が出たら小早川秀秋が裏切るよ,2〜6なら動かないよ」とかそんなテーブルを作って……みたいな感じになることが多いので。
黒田氏:
そういう変わった面白さを追求するところはあるんですよね。「The Elder Scrolls IV: Oblivion」をここ1〜2年ダラダラ続けているんですけど,やってて何が面白いのかと言うと,フィールドで相手を引っかけること。こっちが高いところに登って上から撃つとか,10人いるところを3人くらい倒して,それからとにかく魔法を撃つとか。とにかく,変なことをやるのが面白い。でもダンジョンは,相手が正面にいて殴り合うだけだから,あまり面白くない。
ただ,最近キャラクターが強くなりすぎちゃって,魔法キャラクターだったのが剣で斬ったら全部倒せる「無双」状態になったのでやめました(笑)。
さっき「人間が自分の作ったゲーム勝つと面白くない」と言いましたけど,自分でやるときはPC側を引っかけるのが楽しいですね(笑)。引っかけて面白くなるには,AIがある程度強くないとダメ。バカでなんでもすぐに引っかかるのでは楽しくありません。自分の腕やアイデアを使って,大きな意味で何かを表現できるのが,僕にとって楽しいんです。
4Gamer:
相手を引っかけるという部分では,人間相手だともっと面白いかもしれませんね。友人関係が崩れる可能性がありますが。
黒田氏:
最初から敵同士だと分かっていると,日本ではそんなに仲が悪くなりませんよね。でも仲間だと思っていた人に裏切られると「俺は滅んでもこいつは殺してやる」となるのに(笑)。
ともかく最近,「俺はこういうのが好きだったのかな,実は」っていうのが分かってきましたね。もうこの年になってそんなの分かってもしょうがないんだけど(笑)。
「ドミニオン」と「Draw Something」
4Gamer:
これは皆さんにお聞きしたいのですが,ソーシャルゲームに限らず,最近やって感心したタイトルやシステムなどありましたら,教えてください。
伊藤氏:
僕はついこないだ遊んだ「ドミニオン」(※)ですね。前に一度遊んで,しばらくやってなかったんですけど。また久々にやる機会があって,あらためて,ドミニオンってすごいゲームだなあと。
※2008年にアメリカのRio Grande Gamesから発売されたカードゲーム。ホビージャパンから日本版も発売されており,2011年に開催された第1回ドミニオン世界選手権では日本代表が優勝した
4Gamer:
「デッキ構築型」ゲームの傑作ですね。
伊藤氏:
「場からカードを購入して,自分の手元にデッキを作っていく」っていう手順がゲームのメカニズムの中に入っていて。それを繰り返して勝利点を貯めていく。だけど,勝利点稼ぎに走ると,有用なカードの枚数が減ってしまうから,バランスをうまく取っていかなければならない。自分のデッキをシャッフルして手札を引いていくので,何のカードが出てくるかは分からないんだけど,「デッキの中にどのカードが何枚あるか」っていうのは自分で把握していかなくちゃ勝てないわけです。そこで,どういう方針でデッキを構築していくのかをいろいろ考えさせられる。
4Gamer:
手札をデッキからランダムで引くから運の要素もあるけど,どういった構成のデッキにするかはプレイヤー次第だから,戦略によって運をある程度コントロールできる。戦略と運のバランスがよく出来ているということですね。
伊藤氏:
それがすごく絶妙で。カードの種類もいろいろあって,使うカードによって,ゲームの様相がまたガラッと変わったり。「このカードさえ集めていればいい」という必勝法も作りにくい。
4Gamer:
カード同士の相性もあるから,同じカードであっても,ゲームによって価値が大きく変わってくるんですよね。南治さんはいかがですか。
南治氏:
私は最近だと,iOS/Androidで出ている「Draw Something」というアプリが面白かった。アメリカのApp Storeでは少し前まで「Angry Birds」を抑えて1位になっていたことがあって。これは普通のゲームっていうよりは,コミュニケーションツールに近いんです。システムからお題が出て,そのイラストを描いて友だちに送るんですね。で,友だちは描かれている様子を見て,「これが何か」というのを当てる。そういうゲームってこれまでにもあったじゃないですか。
4Gamer:
絵を描いて当てるゲームは昔からありますよね。
伊藤氏:
「ピクショナリー」(※)とか。
※すごろくに,お絵かきクイズの要素を組み合わせたボードゲーム
南治氏:
ただそれが,システムとして良く出来ているんです。自分の画面に,相手が描いた順番も含めて再生されるんですね。だから何をやろうとしているのかすぐに分かる場合がある。
それに,闇雲に難しくなりすぎないように「この文字の組み合わせで当ててね」と,下に12個のアルファベットが出るんですよ。その文字の中で「これとこれとこれ」と選んで当てられる。
お題自体はシステムが出してくる3つの中から自分で選ぶんですけど,たまに変なものがあって,これがなかなか面白かったりとか。あと,知っている仲間同士だったら「このお題でちょっと変わった変化球のイラストでも描いてみるか」とか。
伊藤氏:
ピクショナリーと「ディクショナリー」(※)のいいとこ取りみたいなやつですかね。
※「たほいや」の元になった,辞書を用いて遊ぶテーブルゲーム
南治氏:
ええ,相手に出題するのも面白いんです。まず相手が決まって,お題を3択で選ぶんですけど,「こいつだったらこのお題を分かってくれるかな」とか「これはやめとこうかな」とかがある一方,「これだと面白いネタが描けるな」というのもあって。
4Gamer:
固有名詞がお題の場合,相手がそれを知っているかどうかも関係しますね。
南治氏:
ええ。でも「Saturn」というお題が出たことがあったんですよ。普通は土星を描くじゃないですか。でも,それでセガサターンを描いてみたり(笑)。伝わればなんでもアリなので。
黒田氏:
相手がちゃんと答えたかどうかは返ってくるんですか?
南治氏:
4Gamer:
なるほど。
南治氏:
Draw Somethingはいいですよ。ちゃんと日本語版でも出てほしいですね。今は英語だけなんで,辞書を引きながら頑張ってますけど。
伊藤氏:
iPad専用のアプリなんですか?
南治氏:
iPhoneやAndroidでもできるんですけど,ちょっと描きづらいですね。
伊藤氏:
分かりました(笑)。たしかに,iPhoneの画面だとちょっと厳しいかな。(自分のiPhoneを操作して)あった,「Draw Something Free」。
黒田氏:
下に文字が出るというのは,その中に正解の綴りが全部入っているわけですか? さっきの「Jupiter」だったら7文字かな? そのほかに余計な文字が入って,それがバラバラになって。
南治氏:
ええ,バラバラになっています。順番も含めて考えなきゃいけない。
黒田氏:
なるほど。理にかなっていますね。
南治氏:
非常に面白いですね。こういう風にまとめてきたのか,ナイスだなと。
4Gamer:
お話を聞いているだけで,やってみたくなります。
南治氏:
これで思ったのは,今はゲームにいろんな要素が考えられるな,ということと,コンシューマゲームからの流れでばかり考えていると頭が固くなっちゃうので,もっと自由に発想していかなければいかんなあと。
4Gamer:
たしかに,ゲームを専門で作っている人には浮かびづらいアイデアかもしれないですね。黒田さんはいかがですか。
黒田氏:
そうだなあ……最近はちょっと考えることが多くてですね,何か新しいものの発掘は,あまりしていないんです。
4Gamer:
考えることですか?
黒田氏:
やっぱり,今回のような企画をいただいたりするでしょ。すると,今の話とは逆ですけど,「昔,こんなのがあったなあ」とかそういうのを思い出すんですよ。
伊藤氏:
温故知新。
黒田氏:
そんな偉そうなものでもない。どうやってパクろうか,とか。
4Gamer:
昔のものだから誰も覚えてないとか。
黒田氏:
まあ,そういうことは考えるんだけど,実はソーシャルゲームはあまりやってないですね。どっちかっていうとスタンドアロンのほうが私は好きですから,そういう意味では,ちょっと変人なんだな(笑)。
進化の止まったジャンルに,もう一度光を
南治氏:
実は,「どこでもいっしょ」なんて,昔あった「人工無脳」(※)ともいえなくもなくて。あれもいい感じに進化が止まったので,「あれをもう一度使ったら面白いんじゃね?」と考えたというのも多少はあったりしますよ。
※人間が打ち込んだテキストに対して,データベースを元に返答するプログラム
黒田氏:
僕ね,「どこでもいっしょ」の話を伊藤さんから聞いていて,「人工無脳だな」と思ったんです。結局,リアクションのパターンとか,システムとしての人工無脳には限界が来ていたんだけど,やっぱりキャラクターが動いたりすると,またそこに別の楽しさが出てくるんですね。
4Gamer:
当時無理だった技術が,今は使えますよね。
南治氏:
例えば今だとクラウドが使えますから,かなり面白い人工無脳とかもできると思うんですよ。
黒田氏:
ほかの誰かが入れた言葉が返ってくるとかね。
4Gamer:
それこそ,さっき話題に出たiPhoneのSiriも,人工無脳の最新型ですね。
伊藤氏:
でも,「どこでもいっしょ」は,あの「トロ」というキャラクターを据えたのが秀逸ですよね。ネコでものをよく知らない,という設定がハマってて。だから,こっちが何かを言って,トンチンカンな答えが返ってきても許せる(笑)。
南治氏:
結局,頭がいいという設定になっていると,バカなことは言えないので。いろいろ教えたくなったりとか,変なことを言っても大丈夫,っていう風にしたところはあります。要するに「どうごまかすか」なんですね。
伊藤氏:
つまり,「ごまかし方がめちゃくちゃうまかったな」ってことですね(笑)。あと,当時ポケットステーションでしりとりをやらせるというのも凄いと思いました。
南治氏:
企画の初期段階から「言葉を教える」という要素が企画書にちゃんとあって,しりとりとかも考えていたんです。やってみると,思った以上に面白かったですね。PlayStationの時代にしりとりというのも古いんですけど。
伊藤氏:
自分がやるんじゃなくて,ポケステの中にいるトロ達にしりとりをさせなきゃいけないから面白いわけで,必死で「り」で終わる言葉を覚えさせたりして。
4Gamer:
当時,3D技術がどうとかっていう方向がある一方で,トロという形で特異さを出してましたよね。
伊藤氏:
ハードのスペックが上がっているのに,単純で誰もが覚えられるキャラクターを出すというところがうまいですね。未だにあの白いネコはどこかで見かけるので,トロを発明したことだけでもゲーム史上に残りますね。
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