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スクウェア・エニックスの橋本善久氏がプロジェクトマネジメントの手法を紹介。「Agile do IT!」で行われたセッションレポート
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イベントのタイトルにも用いられている「Agile」(アジャイル)とは,「敏捷な」「活発な」といった意味の英単語で,転じて,より効率よく迅速にソフトウェアを開発するための手法の総称として用いられているものだ。
そんなイベントの中から,本稿ではスクウェア・エニックスの橋本善久氏によるセッション「ゲーム開発プロジェクトマネジメント事例紹介〜不確実性を乗りこなせ〜」のレポートをお届けしよう。
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橋本氏は,AAAクラスのゲームタイトルを開発するため,より良いゲームエンジンの制作とプロジェクトマネジメントに注力しており,年々高度化・複雑化を重ねているゲーム開発の現場においては,地に足の着いたプロジェクトマネジメント方法論の構築が急務だという。今回実施されたセッションでは,橋本氏が実際にスクウェア・エニックスで行っているプロジェクトマネジメントの考え方と手法が紹介されていった。
セッションに登壇した橋本氏はまず,「プロジェクトの初期に立てた計画はどれほどの誤差を生むのでしょうか?」と聴衆に問いかける。プロジェクトは,細々としたエラーが往々にして発生するものであるため,そうしたエラーが積み重なることを考慮して誤差を試算してみると,なんと「当初の計画比で約10倍」という驚くべき誤差が出てきてしまうこともあると橋本氏は言う。
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そういった誤差の数字と解決策の例を元に橋本氏は,「プロジェクトの正確な予想は不可能」だと断言する。そのうえで,「プロジェクトとは不確実なものであるという前提があるからこそ,用意周到な事前対策と積極的な事後対策を実践することで,プロジェクトを制御することが可能になる」という。
ここでの事前対策とは,計画規模自体を小さくして確実性を高めたり,あるいは,いわゆる「トカゲのしっぽ」を増やすことで有事の際に切り捨てられるようにしたりするプロジェクト設計である。
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具体的なプロジェクトマネジメントとしては,「調査する」「戦略を立てる」「設計する」「計画する」「スプリント」といった手順が重要だと橋本氏は語る。
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「計画する」プロセスでは,例えば,あるタスクを“4日で終わらせる”とするとした場合,完了の1点のみを考えた「1点見積もり」と,途中経過も考慮に入れた「2点見積もり」とを比較し,「2点見積もり」のメリットが語られた。「2点見積もり」では,「1点見積もり」よりもタスクへのモチベーションが高いまま維持できるとのことだ。ほかにも,プロジェクト日数を決める場合の目安として,「準備」「実装」「仕上げ」といった3つのプロセスをそれぞれ同じ長さで仮定する「1:1:1の法則」を紹介している。
「スプリント」とは,2週間もしくは4週間のような短い期間を単位としてプロジェクトを管理する方法(ないし,反復期間)を指す。「タスク管理ボード」や「朝会」などを導入し,プロジェクトの進行度合いを班内で把握できるようにしたり,プロジェクト終了後に「振り返り会」を実施したりすることでメンバーのモチベーションを上げるメリットがあるという。
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橋本氏は,アジャイルに対してそうした誤解が起こる理由を,「建物を建てる」という例を用いて紹介した。1人でも作れる「犬小屋」と,建築に多くの人数が必要となる「超高層ビル」という対照的な建物を挙げ,「これらに同じ方法論は通用しない」という。超高層ビルを無計画で建てようとする人はいないが,ソフトウェア開発の現場ではそうしたことが往々にして起こると橋本氏。ソフトウェア開発では,規模や問題が見えにくいため,問題が表面化してどうしようもなくなるまで“とりあえず作る”ことができてしまうことが理由とのことだ。
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しかし,いわゆる「ウォーターフォール型」開発モデルの場合は防火しか行われず,また,間違ったアジャイルの場合は消火しか行わなれない。そのため,橋本氏は,ウォーターフォールとアジャイル,それぞれの持ち味を活かすことが重要だと強調する。
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橋本氏は最後に「プロジェクトマネジメントをうまく行うコツは,そのやり方をなぜ行うのかを常に深く考察し,心理力学や情報の流れを徹底的に意識したうえで,論理的に仕組みを組み上げながら改善し続けること」と語る。「思考停止しない」ことこそがプロジェクトマネジメントをうまく行う最大のポイントであると述べ,講演を締めくくった。
なお,今回のイベントは定員150名が満員御礼となるほどの人気ぶりで,ソフトウェア開発者の間でアジャイルの注目度の高さがうかがえるものだった。現場における実践的な話が中心ではあったが,ソフトウェア開発に直接は携わっていない人にとっても,学べる部分の大きいセッションだったと言えそうだ。
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