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[CEDEC 2023]大切なのは,作品の魂を忘れないこと。フランチャイズ化成功の秘訣が語られたセッションをレポート
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印刷2023/08/25 18:49

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[CEDEC 2023]大切なのは,作品の魂を忘れないこと。フランチャイズ化成功の秘訣が語られたセッションをレポート

 2023年8月23日から25日まで開催中のCEDEC 2023で,Genvid EntertainmentのChief Creative OfficerであるStephan Bugaj(ステファン・ブガイ)氏によるセッション「Region Unlock: Bridging East & West Through Transmedia/リージョンからの開放:東洋と西洋の架け橋となるトランスメディア」が行われた。

 ゲームのIPをどうやってゲーム以外のメディアに展開するか,また,ゲーム以外のIPをどうゲームに持ってくるべきかが,地域性の問題も絡めつつ解説されたセッションの模様をレポートしよう。

Genvid Entertainment Chief Creative Officer ステファン・ブガイ氏。DJ2 EntertainmentやTelltale Games,Pixarといったエンターテイメント系企業での豊富な経験を持つ
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 Genvid Entertainmentは,Massively Interactive Live Events(MILEs)という新しいジャンルにチャレンジしている企業だ。MILEsは,ストリーミング配信番組の視聴者が,ほぼ同時にコンテンツに介入し,ストーリーの展開に影響を与えるイベントのことだ。現在はイベント用のタイトルとして,「The Walking Dead: Last Mile」などがリリースされており,今後も「SILENT HILL: Ascension」「ボーダーランズ・エコービジョン・ライブ」といったゲームIPのタイトルが控えている。

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 MILEsの目標は,「グローバルなオーディエンスに向けて提供し,東西の架け橋になること」だという。そしてブガイ氏は,世界にいる何十億人もの人々にコンテンツを届けるには,フランチャイズ化が重要だと語った。

 ブガイ氏が考えるフランチャイズとは,コア体験に基づいて構築された,さらなる体験のセットだという。フランチャイズ化には2つの方法がある。元となる作品と同じメディアフォーマットでの続編か,違うメディアへの進出かだが,ブガイ氏はいずれにしても,定期的リリースを続け,フランチャイズをアクティブにしておくことが重要だと語った。
 そして,違うメディアや地域へ進出するときは,その先にいる専門家と組むことが重要だとも付け加えた。

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 強いフランチャイズには,“柱”になるコア体験がある。ブガイ氏は,フランチャイズ化を進めるうえで,違うメディアや地域に進出する際にも,柱を壊すようなことをしてはいけないと語った。あくまでその作品本来の魅力を押し出し,何か変化を加える際にも,多くの人が納得できる自然な理由付けをするべきとのことだ。

 では,その柱になるのは,どんなものだろうか。ブガイ氏は,ジャンル,設定,核となる争い,テーマ,トーンといったものを挙げ,それらを作品の中心となるキャラクターが体現すると説明した。
 フランチャイズ化を進める中で,そういった柱を個別に拡張していくのは問題ないという。しかし,すべてに変化を加えてしまうと,すべてをなくしてしまう危険性が高くなるそうだ。

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 さらにブガイ氏は,「オーディエンスは本物を求めている」と訴えた。たとえば日本を舞台にした作品に,意味もなくアメリカ人のキャラクターが登場することは求めていないし,その逆もしかり。フランチャイズが拡大する中で,舞台やキャラクターが広がるのはいいとしても,そこに正当な理由がなければ,受け入れられないということだ。

 ここで話はフランチャイズのスタート地点,ローカルでの展開に移った。
 最初からグローバル化を見据えた作品づくりも不可能ではないが,まずは制作者自身がよく知っている人たちに向け,よく知っているメディアでリリースし,グローバル化にも耐えられる基盤を作ることが大事になる。

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 そしていよいよグローバル展開となるわけだが,ブガイ氏は前述のように,ローカライズにあたっては,展開先となる地域と,そこにいるオーディエンスをよく知るパートナーと組むことが重要だと改めて説明した。オリジナル作品と違うメディアでリリースする場合も同様だ。

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 ブガイ氏がここまで念を押すのは,ゲームやコミックといったコンテンツがグローバル化しているからだ。トレンドが世界共通になりつつあるので,ある地域のあるタイミングを捉えれば,それが一気に成長する可能性もある。もちろんすべてのコンテンツにグローバルな需要があるわけではないが,それはやってみなければ分からない。

 グローバル展開にあたっては,自分たちの作品のどの部分が世界に通用するのかを把握し,そこを基礎に必要がある。そのうえで,新しい設定やキャラクターを取り入れたりといったことを行うわけだ。
 新しい場所でファンを作るためには,そこに合わせたローカライズを行う必要もあるが,そこでも柱を崩してはいけない。

 元の作品と異なるメディアでの展開(トランスメディア)に成功すると,その作品の「ユニバース」を作れる。こちらも,一気にファンを増やすチャンスだ。
 ただ,ここで注意したいのは,メディアによって,ターゲットとなるオーディエンスの性格が異なることだ。一般的に,テレビやハリウッド映画といったメディアの場合,そのオーディエンスの数は大きいが,気まぐれな傾向がある。逆にインディーのゲームや映画,アナログゲームなどには,少数だが熱狂的なファンがいる。
 これはどちらがいいという話ではなく,それぞれにフランチャイズ化のメリットがあり,そうやってユニバースを広げていくのが楽しいとブガイ氏は語った。

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 トランスメディアにあたっては,リリースするメディアの強みに合わせたコンテンツにする必要がある。それはストーリーであっても例外ではなく,ブガイ氏は「同じストーリーを違うメディアで蒸し返すのは勧めない」と語った。そのメディアに合ったストーリー展開があるはずだ,というわけだ。
 もちろん,そこでも柱は大切で,急激なシフトではなく,従来の世界観に沿った展開が望ましい。

トランスメディアの成功例と失敗例も示された。失敗パターンとしては,映画のストーリーをそのままゲームに持ってきた結果,ゲームプレイの自由度が下がってしまった……といったものがあるという
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 ストーリーが重要になる理由は,ゲームプレイやインタラクティブ体験の満足感を別次元のものに引き上げられるからだという。シンプルなストーリーやキャラクターであっても,ゲームやインタラクティブメディアのメカニックに独自の文脈を与え,プレイヤーの感情を動かすことができ,トランスメディア成功のカギになるとブガイ氏は語った。

 続いては,東西の地域による違いの話に。
 とは言っても,例えば日本とアメリカだと,最近は意外なほど嗜好は似通ってきていて,映画の人気ジャンルを見ても,同じものが複数ある。

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 ゲームとアニメになると,その傾向はさらに強まる。ブガイ氏自身は「AKIRA」「超時空要塞マクロス」の世代だそうだが,お子さんは「HUNTER×HUNTER」「僕のヒーローアカデミア」などを好んでいるとのこと。
 このジャンルにおいては,それぞれで生まれたヒット作が,もう一方の国でも同じようにヒットしている。つまりフランチャイズの可能性が非常に高いということだ。

 そして,実写作品でも,これまでハリウッド映画が強かったアメリカで,外国語作品を受け入れる傾向が強まっている。そのきっかけとなったのがストリーミングサービスだ。

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 似たようなことが,ゲームのデジタル配信でも言える。特にSteamで日本のタイトルをプレイする欧米のゲーマーが増えたことで,JRPGやビジュアルノベルといったジャンルの人気が高まっているという。

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 ブガイ氏は「テーマやトーン,アイデアといったものは普遍的な言語であり,グローバルな魅力を持っている」として,グローバルマーケットの可能性はより広がっていくだろうと予測した。

 フランチャイズ化の成功例として,「The Walking Dead」の歩みも紹介された。この中には,ブガイ氏がかかわった作品もある。

 「The Walking Dead」はもともとコミックとして始まり,20年以上の歴史を持っている。しかもその間,絶えず何らかの作品がリリースされる「アクティブ」なフランチャイズとして展開されてきた。

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 ブガイ氏の解説によると,「The Walking Dead」は,まずコミックで熱心なファンをつかみ,その人気がテレビプロデューサーの知るところとなり,テレビシリーズでの展開が決まった。「ショーシャンクの空に」で知られるFrank Darabont氏が監督を務めるなど,強力なパートナーと組めたこともあって大成功を収め,ファンを一気に増やした。

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 次はゲーム化だが,最初のタイトルは,複数のエピソードに分けてリリースされるアドベンチャーゲームだった。これは大成功したテレビでファンになった人たちをゲームに呼び込むため,「The Walking Dead」の柱の中でもストーリーを重視した結果だという。

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 そのアドベンチャーゲームが成功を収め,ゲームのファンもついたところで,違うジャンルのタイトルに取りかかった。これらの開発にあたっては,Activisionなどの大手と組み,8年間で6タイトルをリリースしている。

 続いて展開されたのはアナログゲームだ。数としては小さくなるが,アナログゲームには熱心なファンがいるので,そういった人たちを獲得するためのリリースとなる。
 また,前述のように,フランチャイズは常にアクティブにしておく必要があるため,その意味でもアナログゲームのリリースには意味があったという。フランチャイズの規模が大きくなり,個々のコンテンツも大型になると,どうしてもリリース間隔が空いてしまうが,そこを埋める役割もあったということだ。

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 そして冒頭でも紹介したように,Genvid EntertainmentはMILEsという新しいジャンルで「The Walking Dead: Last Mile」をリリースしている。柱はしっかりと守りつつ,参加者がほぼ同時にストーリーへ介入するという新しい体験を盛り込んだ作品だ。

 Genvid Entertainmentが同作の開発にあたって考えたのは,より多くのオーディエンスを迎え入れるため,プレイのハードルを低くすることだった,それがスマホでもプレイできるFacebook上でのリリースにつながっている。
 その甲斐あって,これまであまりなじみがなかったインドでも成功を収めており,これで「The Walking Dead」を知った人がコミックを読むといった動きも起こっているという。ブガイ氏は,さまざまなオーディエンスを取り込むことで,フランチャイズの可能性も高まっていくと語った。

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 セッションの後半では,Genvid EntertainmentのMILEsによるフランチャイズ手法も紹介された。
 
 まずはIP探しだが,MILEsで活用できそうな柱があり,しかも熱心に意見を寄せてくれるようなファンがいる作品が対象になる。そして,それまでよりも若い層を取り込めたり,まだ進出していない地域でのリリースを手助けできたりしそうなものを探すとのことだ。

 開発にあたっては,「本物」であることを重視する。新しいジャンルの作品を作るにしても柱を重視し,もとからある作品世界に違和感なく取り入れられるものを目指すとのこと。ゲームデザインも,参入障壁を低くし,より多くの人がプレイできるものにする。
 MILEsの説明で「参加者がほぼ同時にストーリーへ介入する」と書いたのは,選択を考える時間が24時間与えられているからなのだが,これによって,時差に関係なく世界中の人が楽しめるわけだ。

 ブガイ氏は最後にセッションの内容を振り返ったが,そこで印象的だったのは「最初のファンを魅了した作品のハート,魂を忘れないこと」という言葉だった。セッションでは「柱」という言葉が何度も使われたが,大切なのは作品本来の魅力ということなのだろう。

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