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デンマークのゲームデベロッパから見る,産業連携のメリット。そして,禁断の果実「リモートワーク」がもたらす変化とは
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印刷2020/07/08 13:00

業界動向

デンマークのゲームデベロッパから見る,産業連携のメリット。そして,禁断の果実「リモートワーク」がもたらす変化とは

 ヴィボー市のゲーム系企業について紹介した前回記事からだいぶ日が空いてしまったが,記事を書くきっかけとなった一昨年,そして昨年のデンマーク滞在では,アールボー市やオーフス市といった,ほかの地方都市の企業もいくつか訪問した。

 当初の予定では各地域や会社の特徴,そして開発中のゲームについて紹介するだけのつもりであったが,急激な状況の変化があり,現状としてお伝えすべきことが増えた。言うまでもなく新型コロナウィルスに関わることだが,デンマークのゲーム産業も例外なくその脅威にさらされ,日本よりも厳しい外出規制のために全面的なリモートワークへの移行など対応を迫られている。

 そこで私が気になったのは,外出規制やリモートワークによって地域に根ざしたコミュニティの質がどのように変化するかというところであった。このことについて,最近追加取材をしたところ,各社からとても興味深い意見を聞くことができたので,その情報を加えてデンマーク地方都市のゲーム産業の今を,ゲーム開発者である私の目線からお届けしたい。

※本記事を制作するうえでの海外取材は,コロナウィルス関連の追加取材を除き,すべて2019年以前に実施したものとなる


オーフス市のゲーム産業


オーフス市の街並みは,首都のコペンハーゲンと比べるとより開放的な印象を受け,芸術家向けの街と言える
画像(001)デンマークのゲームデベロッパから見る,産業連携のメリット。そして,禁断の果実「リモートワーク」がもたらす変化とは

 オーフス市は,前回紹介したヴィボー市と同じユラン半島側の都市で,首都コペンハーゲンに次ぐデンマーク第2の大都市という位置付けである。美術館や博物館が多く,2017年には欧州の文化首都にも指定されたことで,近年は観光客も増えている。

 また,ヴィボーと共通する特徴としては,オーフス大学を中心に若年層の人口が多く,それが街の活気や「アーティストフレンドリー」な空気を作っていると言える。
 しかしそのような環境にも関わらず,オーフス市はゲーム開発会社が少ない。代表的な会社としては,世界中で大ヒットし,デンマークを代表するスマートフォンゲームとなった「Subway Surfers」を開発したKILOO(2000年創業)があるが,「オーフスにはKILOOと弊社しかない」と語るのは,KILOOと共にスマートフォン用ゲーム開発の道を歩んできたFunday Factoryの創業者Anders Reicht Rohde氏である。

 Funday Factoryは2018年の時点で40人の従業員がいたのだが,社員の多くは前回紹介した「The Animation Workshop」(以下,TAW)から雇用しているという。実はオーフス市とヴィボー市は電車で1時間という近距離にあるのだが,TAWがヴィボー市にあるために,この中央ユラン地域においてゲームやアニメーションの人材は,ほとんどヴィボーに流れてしまう。そのため,オーフスにおける人材不足が発生しているわけだ。

 そんな中で40人の従業員を抱えるFunday Factoryは,デンマーク全土においても比較的大規模なゲーム開発会社と言える。また,創業からの7年間で退職者が2人しかいないというのだから驚きだ。
 人材獲得と長期雇用の秘訣についてRohde氏は,「会社は一つの家族であり,ワークライフバランスを重視している。クランチ(マイルストーン前の残業の常態化)はないし,わざわざオーフスに来てこの会社で働きたいと思ってもらえるような環境作りや企業文化の醸成に努めている」とし,「従業員が長期間いてくれればそれだけ会社にゲーム開発のノウハウが蓄積されるから」と語ってくれた。

 そのようなフレンドリーでオープンな社内の環境作りの一例として「コーヒーを取りに席を立ったとき,同僚と立ち話できる」ことを挙げていたが,新型コロナウィルスの影響によってリモートワークになった今,どのようにコミュニケーションの促進しているのかと聞いたところ,毎週金曜日の夜に「デジタルフライデーバー」というものを開催しているそうだ。

 デジタルフライデーバーでは,従業員全員が飲み物を片手にビデオチャットに集合し,仕事とは関係ない話をするらしい。リモートワークであってもお互いを仲間として意識できること,何気ない会話から偶然のアイデアが生まれること。Rohde氏の話や,私がオフィス訪問時に見た光景からは,ただ人数を集めるだけでなく,社会的な関係性の中で創造性を発揮しようとする意識が感じられた。また,そもそも他社との協業が多く,チャットツールの利用やリモートでのやりとりに慣れていたとのことで,業務全般において大きな支障はなかったらしい。

Funday Factoryの創業者,Anders Reicht Rohde氏。会社の拡大に意欲的な一方で「家族的経営」を大事にする
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 さて,そのFunday Factoryが最近リリースしたのが,スマートフォン用バトルロイヤルゲーム「Bullet League」公式サイト)である。もともと前述のKILOOといった会社との協業や,LEGOのようなIPを使ったゲームの下請け開発が多かったが故に,自社IPを作るのが課題だったというが,Rohde氏によると「数年前に弊社が開発した子ども向けゲームのユーザーの年齢が上がったことを踏まえ,同じユーザー層に向けてよりアクション性とやり込み要素の強いゲームをリリースしたいと思った」と,その経緯を振り返った。
 デンマークでは12歳以上のユーザーは主にコンソールゲームで遊ぶが,その理由はスマートフォンにおいて「ミッドコア」層に向けたゲームが不足しているからで,Funday FactoryはそこにオリジナルのIPを投入しているのだという。

 すでに日本のAppStoreGooglePlayからもダウンロードできる「Bullet League」。私も早速プレイしてみたが,流行りのバトルロイヤルゲームをうまく二次元のゲームプレイに落とし込み,「カジュアルにやり込める」ゲームだと感じた。「継続プレイによるキャラクターの強化,プレイヤー自身のスキル,その場の運」のバランスが絶妙で,リリース前にテストプレイと改善を積み重ねたことがうかがえる。このゲーム一つでFunday Factoryの開発力の高さが分かるだろう。


 まだ日本語ローカライズはされていないが,日本を含むアジア市場の収益性の高さにはRohde氏も興味津々なようで,「日本のゲームは,シンプルなゲームプレイとメタシステムやマネタイゼーションの組み合わせが強力。そこから学んでいきたい」と評価していた。
 これまでの取材記事を読んだ人ならば,デンマークのゲーム産業について,日本のいわゆる「ガチャ」ゲームの開発現場とは対照的な印象を抱いた人が多いと思う。私もそのように認識しており,Funday Factoryのようにスマホゲーム市場で大きな成功や事業拡大を狙っている企業は珍しいと言える。

 Rohde氏もそれを自認しているようで,「デンマークのゲーム産業は伝統的に自分がプレイしたいゲームを作るゲームデザイナーが多いが,我々は常に自分たち以外の人のためにゲームを作っている」と,インディーズゲームとの差別化を図っているようだった。

 この「Bullet League」は,デンマークのベンチャーキャピタルからの出資を得て開発されているほか,Funday Factoryという会社自体も昨年よりデンマークを代表するモバイルゲームパブリッシャであるSYBO Gamesからの出資を受けて資本業務提携を行っている。ちなみに,日本ではあまり知られていないが,SYBO Gamesは世界的に大ヒットしたスマートフォン用ゲーム「Subway Surfers」の開発会社である。

 このような成長戦略はともすれば,マネタイズの最適化のみを追求する日本のITベンチャーの姿に重なって見えてしまうものだが,「Bullet League」を見る限り,デンマークらしいアートのオリジナリティと品質,インディーズスピリットがそこには感じられる。
 また,取材時には社内のゲームデザイナーが集まり私を囲んで逆取材のように質問を寄せるなど,ゲームデザインへの拘り,ゲーム開発への情熱が確かに感じられらことは特筆したい。オリジナリティと商業性を両立させたデンマーク産ゲームの成功例となるか,Funday Factoryと「Bullet League」の今後に注目である。

Funday Factoryの情熱あるゲームデザイナーたち。筆者が作ったゲームについて細かい質問を寄せてくれた
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産学連携の成功例となるオールボー市のゲーム産業


 オーフス市とは対照的に,ゲーム開発会社が多いのがユラン半島の北に位置する,デンマーク第4の都市オールボー市である。私が滞在していたヴィボーからバスで1時間の距離にあるこの都市は,港町特有の活気がデンマークの中でも異彩を放つ街である。ストリップバーが立ち並ぶ「夜の街」もあるこの都市を私が最初に訪れたときの第一印象は,失礼ながら「いかがわしい」だった。だが,実際はオールボー大学の工学部を中心に強固な産学連携基盤を持つヨーロッパ有数のハイテク産業都市である。今回の取材で訪問した企業もすべてがオールボー大学の卒業生によるものだ。

オールボーの市内。海へと続くこの道が観光地特有の開放的な雰囲気を感じさせる一方で,この裏の通りには飲み屋が密集し,また少し歩けば大学のキャンパスがあるなど,狭い中に多彩な表情を持つ街である
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大学発のインディーズデベロッパーTunnel Vision Games


 Tunnel Vision Games(公式サイト)は,今年1月に「Portal」を思わせる一人称視点のアクションパズルゲーム「Lightmatter」Steamリンク)をリリースしたデベロッパだ。会社の設立は2016年であり,「Lightmatter」はリリース第1弾タイトルとなるが,開発のスタートは創設メンバーがオールボー大学に在学中の2013年に遡るという。
 大学のメディア学科の課題として,前身となる「See You On The Other Side」というタイトルのプロトタイプを作り,動画をSNSでシェアしたところ注目を集め,ついにはヨーロッパを代表するインディーズゲームイベントであるCasual Connectにおいて「Most Innovative Game」を受賞するまでに至った。

Tunnel Vision GamesのCEO,Philip H. Nymann氏(左)とプロデューサーのGustav Dahl氏(右)。Nymann氏が手にするのは,Casual Connectでの受賞トロフィーである
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 学生作品がこの賞を受賞するのは珍しく,このときに「ゲーム開発を仕事にする資格があると思った」と同社CEOのPhilip H. Nymann氏は語る。その時点で大学卒業までまだ2年半あったので,卒業後にすぐ起業できるように大学のサポートを受けながら資金調達に向けて動き出したが,実際に資金調達に成功したのは3年半後の2017年であったという。

 このことについて,Nymann氏は非常に長い時間がかかってしまったと振り返るが,逆に言うと在学中に動き出して正解だったとも言えるであろう。また,開発の開始から数年以上経ってインディーズゲームの市場が変化したことについては,「インディーズゲームの氾濫によってSteamのキュレーションが機能しなくなり,パブリッシャもリリースの本数を絞るようになったが,逆に,1つ1つのゲームについては既存のインディーズゲームより予算を増やす傾向にあり,我々もクオリティを追求できるようになった」と,ポジティブに受け止めているようであった。

 確かに「Lightmatter」をプレイすると,パズルがゲームプレイとして成り立っていること当然として,背景アートや物語体験のクオリティについては,元ネタとなった「Portal」以上に力が入っているとすら感じる。

Tunnel Vision Gamesの社内。日本のゲーム会社と比べると随分広々としているが,これを「狭いオフィス」と紹介されるのはデンマークで何社か訪問するうちに慣れて来た
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 開発資金についてはパブリッシャやメインの投資ファンド以外にもいくつかのところから援助を受けているそうだが,このような資金調達の成功については,オールボー大学の起業支援インキュベーターがゲームに特化したプログラムを開始したことの恩恵が大きかったという。
 要するに大学のスタッフが学生と投資家をつないでくれるのである。このように大学が学生の起業を支援するのは欧米社会の特徴と言える。日本にもゲーム開発に関連する学科を備える大学はいくつかあるが,基本的には大手ゲーム会社への就職をゴールとしている。このような大学の産業への向き合い方の違いが,日本と海外のインディーズゲームシーンの土壌の圧倒的な差となって現れていると私は感じた。

 また,大学が支援することのメリットとしてはもう一つ,卒業生や在学生のつながりが強くなることが挙げられる。Nymann氏によると「オールボー市内のゲーム開発者は皆友達」らしい。また,大学卒業後も人材が定着する理由として,コペンハーゲンと比べて圧倒的に安い家賃に加えて,「ゲーム開発は悩みが多いから,それ以外の悩みを減らしたい。慣れない環境に引っ越すよりも慣れ親しんだ環境で集中する方が良いから」と語っていた。

 最後に日本のゲームコミュニティについての印象を聞くと,「パズルを解く体験というのはユニバーサル言語だし,日本はユニークなものを評価してくれるところなので,我々のゲームも受け入れられると思う」と日本市場進出への意欲を語っていた。

 「Lightmatter」はすでに日本語ローカライズ済みであり,Steamのレビューを見る限りは日本のユーザーからの評価は高いようだ。「Portal」のようなゲームが好きな人は,ぜひともこの「Lightmatter」をプレイしてみると良いだろう。


 と,ここまで順風満帆に見えたTunnel Vision Gamesではあるが,まさにこの原稿を入稿するタイミングで驚くべきニュースが舞い込んだ。なんと,同社が突然の解散を発表英文サイト)したのである。

 「この決定は新型コロナウィルスとは関係ない」という前置きから始まる公式発表を読む限り,「Lightmatter」開発における苦労に言及しつつも,同作をリリースしたことで創業当初の目標を達成できたことをポジティブに捉えており,各メンバーの更なるキャリアアップを目的とした発展的解散と受け取れた。

 私もすぐにプロデューサーのDahl氏に連絡を取ったのだが,Tunnel Vision Gamesとして本稿に紹介されることは,変わらず歓迎してくれた。「Lightmatter」については会社がなくなってもプロデューサーとして関わり続けるということであり,「BitSummit Gaiden」への出展も予定通り行われた。

 Dhal氏を始め元スタッフは次の仕事を探し始めているが,それも幾分楽観的に捉えているという。何はともあれ学生起業からのゲームの完成とリリースという結果を見れば,産学連携プロジェクトとして十分な成功例と思える。元Tunnel Vision Gamesメンバーの今後の活躍に期待しよう。


日本のゲームを愛するGaldra Studios


 次に紹介するのは,「オールボーで最も若いゲーム開発スタジオ」を自称するGaldra Studiosである。閑静な住宅街のアパートの一室を利用したアットホームなスタジオで,私を迎えてくれたのは,同社CEOでゲームのプログラミングを担当するDaniel S. Christensen氏とアート全般,そしてストーリーを担当するMette Jakobsen氏である。
 同社が開発するのは日本のゲームに影響を受けたというストーリーベースのビジュアルノベル「ARCADIA FALLEN」公式サイト)である。幻想的な街を舞台に,錬金術師の主人公が仲間と共にパズルによって事件を解決していくという内容で,私も取材時に2人が見守る中プレイさせてもらった。英語版にも関わらず話に入りやすく,つい時間を忘れてプレイを続けてしまうほどであった。日本のビジュアルノベルについてはかなり研究しているのだろう。


 私の印象では,Galdra Studiosは今回取材したデンマークの会社の中では最も素直に「自分たちの作りたいもの」を追求している会社に見えたのだが,やはり気になるのはそれで経営が成り立つのかという点である。
 それについてChristensen氏は,「2年前の創設当初は確かに資金がなかったのでゲーム以外のIT系の仕事を請け負ったりもしていたが,今はパブリッシャから開発予算をもらえたのでフルタイムで「ARCADIA FALLEN」の開発に専念できている」とポジティブな回答が返ってきた。

 インディーズゲームに出資するパブリッシャの存在はデンマークの環境の最大のメリットであると分かってはいたが,私の視点からはChristensen氏とJakobsen氏に加えてこの日不在だったサウンド担当のJesper Green氏の3人で開発作業が完結している点が,リスクを低下させてるとも感じた。
 というのも,実は私自身が以前にインディーズゲーム開発に失敗した経験があり,そのときの最大のリスクは外注コストであったからだ。外部の人間にインディーズゲーム特有の設計思想を共有したり,納期の相談に応じつつスキルある人材の手を借りることで,費用がかかるだけでなく開発期間も大きく伸びてしまったのである。

 Galdra Studiosもその点を考慮して当初考えてた大規模なゲームの開発をやめて,3人で確実に作れるビジュアルノベルを選んだらしい。また,創業当初にゲーム以外のIT系の仕事を請け負ったという点も,オールボーのゲーム会社らしいと言える。
 実はChristensen氏を始めとするこの会社の創業メンバーは,先に紹介したTunnel Vision Gamesと同じオールボー大学メディア学科の卒業生であり,在学時にはTunnel Vision GamesのCEO,Nymann氏のアドバイスを受けられたという。

 Christensen氏はヴィボー市の環境と比較して,「オールボーのゲーム開発志望者は最初からプログラミングに強い」と話す。オールボー大学でのゲーム関連教育の中心にプログラミングがあり,卒業すればとりあえずはIT系の仕事に就けるし,いざ学友とゲーム会社を起業しようと思ったときに,プログラマーを募集する必要がない。
 これも先ほど述べた「創業メンバーだけで仕事を完結させて,外注のコストやリスクをなくす」ということに直結する。Tunnel Vision Gamesと同じく大学での教育が起業に結びついた例と言えるが,このように大学教育が就職ではなく起業を重視するのは,ヴィボー市と同じく「若年層の定着」という問題意識の表れだろう。

Mette Jakobsen氏(左)とDaniel S. Christensen氏(右)。日本のRPGが大好きという2人。筆者が「ファイナルファンタジー」シリーズの複数作品に参加していたこともあり,通常の取材よりもかなり長い時間話をした
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 さて,「ARCADIA FALLEN」についてだが,2019年秋にはSNSマーケティングを実施して大きな手応えを感じたという。そして,2020年夏には英語版の音声収録のためのKickstarterキャンペーンを始めるという。何でも「ペルソナ5」や「ファイアーエムブレム 風花雪月」といった日本製ゲームの英語版に出演した声優を起用し,英語圏にいる日本製ゲームのファンに広くアピールする計画らしい。

 「新型コロナウィルスで誰もが健康と仕事に不安を抱える状況の中,金銭的なサポートを募集すべきではない」という理由で,Kickstarterの開始は予定より延期となったが,その間に新しいプレイアブルデモを準備するなど,リリースに向けた計画は着実に進行中とのことである。
 また,もちろん日本語版もリリースしたいとのことで,出展を予定していた東京ゲームショウは中止になったものの,日本でのローカライズやマーケティングを成功させるために日本の企業との協業も視野に入れて動いているという。

 そのときは,日本の有名な声優の出演も実現するのかもしれない。そういう意味でも日本のビジュアルノベルのファンにとって注目すべきタイトルとなる可能性はあるだろう。日本から遠く離れたデンマークの,さらにその首都から遠く離れた地方都市の片隅で,日本のゲームに対する情熱を聞かされたのは,私にとっても感慨深い体験であったことを最後に付け加えておく。


リモートワークという「禁断の果実」がもたらす変化


 ヴィボー,オーフス,オールボーと3都市を取材して,人口580万人のデンマークの中にも都市によって価値観の多様性があることを確認できた。例えば前回の記事で述べたように,ヴィボー市が緩やかな横のつながりのメリットを活かす一方で,オールボー市には大学での起業支援や卒業生による指導など,強固な縦のつながりによるサポートがある。
 また,現在はゲーム会社の少ないオーフス市も,VRやARに目を移せば博物館や美術館における活用は始まっており,ゲーム系人材の受け皿としての余地は十分にあると言える。

 対して,日本ではゲームに限らず知識産業や創造産業のほぼすべてを東京か大阪でリードして,そのほかの都市はただ東京,大阪の価値判断基準に合った人材を送るという都市間の主従関係が出来上がってしまっている。
 これについて,Galdra StudiosのChristensen氏とJakobsen氏の2人は,「デンマークが地域の多様性を維持するために最も大事なことは,広範囲に教育機関を建てることであると思う。東京ほどではないにせよ,コペンハーゲンにも人材の吸引力がある。それに対して地方の教育機関が抵抗の急先鋒となっている。コペンハーゲンに行ってしまった人のほとんどが地元に帰ってこない一方で,地元の大学を卒業できた人のほとんどは地元に残ることを望む」と述べる。

 高度な教育を受けた人材のネットワークがあり,起業支援さえあるならわざわざその地を離れる必要はない。私も2年間に4回の訪問を経てデンマークという小国がどれほど各地域の「教育」「コミュニティ」を大事にしているかを実感した。しかしここに来てのコロナショックである。各社業務においてどのような影響があったかは前述した通りであるが,私がそれ以上に気になったのが,人と人との出会いで成り立つゲーム開発コミュニティが外出規制やリモートワークの常態化によってどのような変化を遂げるのかという点であった。

 Funday FactoryのRohde氏が「リモートワークがこれほどまでにうまく行くことに驚いている」と話すように,この業界においてリモートワークというのは一度導入したら後戻りできない「禁断の果実」と言える。その旨味を知ってしまった今,例えば,オールボー大学の卒業生がリモートワークを前提にコペンハーゲンの会社に就職するようなことが続くと,オールボーとコペンハーゲンの間に主従関係が生まれないだろうか。それはオールボーの独自性を弱めないだろうか。この点について話を聞くと,各社それぞれ興味深い意見を答えてくれた。

 Tunnel Vision GamesのDahl氏は,そもそもの話として「これ以前からデンマークのゲーム産業は都市を越えて密接につながっていた。デンマーク産ゲームの表彰イベントや,世界で最も大きなゲームジャムの一つとされるNordic Game Jamなどの参加を通して,デンマークのゲーム開発者は連携を強める。今年度はどちらもオンライン開催だったが盛況に終わった」と述べる。

 前述した通り同社は解散を決めたが,元従業員のその後の進路について楽観視していたのもそのようなネットワークの強さを知っているからだろうか。各都市の産業クラスターがコミュニティの独自性を保ちながら都市間のネットワークの形成によって国全体として発展しているというのだ。よってリモートワークが推進されても地方の産業クラスタは独自性を保ち続けるという話である。

 また,地元の人間がコペンハーゲンの企業に就職してしまうデメリットよりも,全土から人材を募集できるメリットの方が大きいとする意見もあった。「わざわざオーフスに移住してもらえるような環境づくり」を重視していたというFunday FactoryのRohde氏も,コロナショックを契機に居住地に関係なく広く人材募集する方針に変更し,すでにコペンハーゲンやフィンランドのヘルシンキ在住のスタッフがリモートで参加しているという。
 「これがデンマークの地域的多様性を変えてしまうか現時点では判断が難しいが,概ね良い方向に向かっている。コペンハーゲン以外の地域の会社が平等に優秀な人材を雇用するチャンスを得る」と変化をポジティブに捉えていた。

 Galdra StudiosのChristensen氏とJakobsen氏は,「オールボーの人材がリモートワークによってコペンハーゲンの会社に就職してしまったとしても,移住しない限りはむしろ地元のコミュニティに新たな経験や知見を還元してくれる存在となる。地元文化の影響を受けた我々自身が確固たるクリエイティブビジョンを維持すれば,そこにほかの地域の価値観が加わることはむしろ多様性を与えゲームをよりよいものにしてくれるはずだ」とポジティブな未来を確信しているようであった。

 実際のところ人材の流動性やネットワークの発達がもたらす産業構造の変化はさまざまなファクターが相互作用する複雑なシステムであり,将来の予測は難しい。現状デンマークの地方都市の中小規模の開発会社がみんなポジティブに将来と向き合う姿を届けることで,「ウィズコロナ」の状況をどう生き抜くか悩んでいる日本の業界関係者や,業界を目指す学生にとって少しでも参考になったのならば幸いである。

 私は今後もデンマークの業界関係者とは引き続き連絡を取り合い,状況の変化を注視するつもりである。そのほか,これまでにまだ登場していない企業も訪問しており,また機会があれば記事としてまとめてお伝えしたい。

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